門井慶喜のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読む前は「札幌」という都市の誕生を市政史的に淡々と語っていく感じを想定していた。
しかし、その予想は覆された。
北海道開拓使がおかれた明治初頭から始まり、開拓使の首席判官に任命され、現在の碁盤の目状の都市計画の基盤を構築した元佐賀藩士・島義勇、クラーク博士が去った後の札幌農学校二期生として入学した内村鑑三、アイヌの女性でありながらイギリス人の聖公会宣教師ジョン・バチェラーによって受洗し、ジョンや後に出会う金田一京助が作成するアイヌ語辞書の制作に協力したバチラー・八重子、父親から札幌に購入した巨大な農地を引き継ぎ、慣れないながらも農場経営も行うが、後に農地経営を小作人に譲渡する農地開放を日本政府の施策に先立って実施した作家の有島武郎、蛇行しているが故に気候の変化により周囲に繰り返し水害を及ぼした石狩川の治水の計画を立案して、実行した岡崎文吉。
そう言った札幌という都市の創世に関わった人たち、一方でそれは「和人」によって失われて行くアイヌの土地、北海道の歴史を時代小説的に語る作品。
歴史ノンフィクションというのではなく、Based On True Story 的なフィクション。
その読書前とのギャップが新鮮でどんどん引き込まれて読めた。 -
Posted by ブクログ
【349冊目】私の故郷を描いたこの作品に、わずかな文字数で感想を書き切れるわけがないのです。札幌は、はぐれ者や敗者の集まる土地であり、彼らが再起と希望を賭けた土地であり、あるいは、思うに任せない人生への思いをしがらみから離れて整理する土地だった、ということがよく分かります。
島義勇は内地(注:北海道の人が「北海道以外の日本」を指すときに使う言葉)ではあまり知られていない人物かもしれませんが、プロの札幌市民であれば市役所にその像があることで、札幌誕生に何がしかの貢献をしたことをほのかに知っているでしょう。内村鑑三や有村武郎は全国区の有名人ですが、バチラー八重子はいまや道民にしか馴染みのない名前かもしれません(道民ですら、どこかで耳にしたことがある程度でしょう。)。
ただ、岡崎文吉は…これは知りませんでした!しばしば石狩平野を水浸しにして開拓の積み上げを無に帰してきた石狩川の治水をした責任者であったそう。札幌の発展に重大な貢献をした方にもかかわらず知らなかった自分を恥じたい(なお、筆者も他の4章の主人公に比べて岡崎の名が知られていないことは認めています。)。
全編を通して描かれるテーマは、厳しい自然環境や冷徹な社会・人間関係の中で生きていくこと。
生きていくことは、悩み、苦しみ、良き友人や家族を得てその声を聞き、やっぱり最後には自分で決めるしかないってこと。
自分の内なる声が正しいとは限らなくて、時に妥協し、時に誤りを認めて、時に周りに流されても良い。最後にそういうことを全部自分で引き受けること。それが人生なんだろうなぁと考えてしまいました。
札幌は新しい街、よそ者ばかりで出来た土地だからこそ、そういう煩悶を抱えた人々をまるっと受け入れる懐の深さみたいなものを感じます。
「札幌誕生」というタイトルもまた、本書をとても魅力的なものとしています。日本にはいくつもの都市が存在します。しかし、その都市が誕生する過程をつぶさに描けるのはいくつあるでしょうか?
私の印象では、17世紀に徳川家康が都市改良を行った江戸、そして札幌ぐらいではないかと思うのです。京都や大阪、名古屋も都市としては有名ですが、それらは歴史が古すぎて「誕生」のプロセスを詳細にストーリー仕立てにすることは難しそうです。
そう考えると、今や人口200万人を誇る巨大都市がまさに生まれた瞬間をとらえることができる、札幌というのはとても貴重な存在なんだと思います。
郷愁や慕情にかられ、溢れ出る思いがうまく言葉にできませんが、この本は少しだけ不器用ながらも頑張る人たちの本です。大泉洋のような器用人は、北海道にはほとんどいません!笑
少し傷付いた人や何かに負けそうな人、絶対両立しないものの間で選択を迫られている人、そして、それでも頑張りたい人にはぜひオススメの本です! -
Posted by ブクログ
うーん!
宮沢賢治、思ってた人物像と違いすぎて。
質屋という人間の思惑と金が密接に関わる家の長男として生まれた賢治。家業を嫌うくせにその金で裕福に暮らしていることを自覚できない夢見がちで頑固な彼を苦悩しつつ支えた『父親でありすぎる』、宮沢政次郎の話。
『家長はこうあるべき』『土地の有力者としてこう思われる行動はすべきではない』という正解を求められる時代の価値観の中で、それを時に覆しながら『明治の新しい父親の在り方』を切り開いていく政次郎はまっすぐで凄い人だったのだなと思ったけれど、とにかく賢治がボンボンのお坊ちゃんすぎて、読んでるこっちまで呆れて頭を抱えてしまう(笑)
妹のトシの晩年の祖父に宛てた手紙、本当に良かったので何故本人に読んで聞かせてやらなかったんだろうとか、小説としても弟・清六の描写が極端に少なくて残念に思うところはあったけれど、賢治の物語には家族の存在と生き様が詰まっていたのだなと知れてよかった。トシが生きて教師を続けられていたなら、もしかしたら賢治より有名になっていたのかもなと思ったり…
清六は兄・賢治について綴った文集を出しているとも聞いたので、そちらも読んでみたいなと思いました。 -
Posted by ブクログ
菊池寛(本名はひろし、筆名はかん)
肩書きは小説家・劇作家・ジャーナリスト
そして実業家。
文藝春秋社の創業者。
この時代の文壇は世界が狭くて、
大抵の名前は登場するから見ごたえがあって面白い。
直木三十五は賞の名前になっている以上の知識がなかったので、
今回会えてよかった。
それにしても文藝春秋社というものを見ると、
菊池寛が手を引いたタイミングが社としての役割を終えたタイミングだったように思えてならない。
規模が大きくなるにつれて個人から法人へと性格を変える必要があるのが企業だと思うのだけれど、
現在の文藝春秋社は個人の熱量を個人の顔を見せないまま暴走させる装置になってしまっている気がする。
それがアジアのジャーナリズムらしいといえば、それはそう。
直木賞・芥川賞の功績は大きいけれど。