門井慶喜のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
日本に約3000基ある灯台の役割や多様な価値について知ってもらおうという趣旨で進められている「海と灯台プロジェクト」。主体は一般社団法人・海洋文化創造フォーラムで共催が日本財団と海上保安庁である。そのプロジェクトの一環として企画されたのが、灯台が果たしてきた地域固有の役割や機能、存在価値を物語化して知らしめようという取り組み。本書はそれに基づき19基の灯台を6人の著名な作家が分担して現地取材し、紀行文集として取りまとめたもの。
灯台の建築技術や歴史、地域との関わりについて様々な観点から語られ、読み進めるうちに少しずつ灯台への関心が高まってくる。
しかし、門外漢の私には歴史作家や描写力のある作家の語りには少々、退屈で疲労感を覚えたというのが正直なところ。むしろ、ファンタジー作家で自信もミスチョイスでないかと思ったという阿部智里氏の大衆性をベースにした書きぶりに親近感を覚え、ほっとした。
それはともかく、灯台に関して基礎的で大事なことだと思った点を幾つか挙げておく。
①江戸幕府に対し、西洋各国は航路を照らす灯台の必要性を主張、条約を協定させ、8つの灯台を建設させた。その第1号として、明治2年に初点灯したのが観音埼灯台
②灯台は、西洋人の航路に配慮して、太平洋、東シナ海、瀬戸内海、日本海の順で建てられた
③徳川末期にイギリスから来日し約7年半で26基の灯台を建てたリチャード・ヘンリー・ブラントンは日本の「灯台の父」と呼ばれた
④灯台の灯りはフレネルレンズという大きなレンズからプリズム状の光を投げかけ約30~50キロメートル先まで届く
⑤海路を守る灯台は軍事的な価値もあったため、太平洋戦争では、攻撃目標にされた
⑥GPSなど航海技術が発達した今日、灯台は航路標識としての役割を終えつつあり、文化財や観光資源としての面がクローズアップされている
これら以外にも、トピックネタとして面白いと思った点を挙げておく。
①島根県の出雲日御碕灯台は、駐車場完備、お土産屋、食堂もあり、灯台内部は一般公開され、観光スポットになっている
②高知県室戸岬灯台のレンズの直径は2.6メートルで光達距離約49キロの第一等フレネルレンズ
③三重県安乗埼灯台は全国でも珍しい四角形の灯台。映画「喜びも悲しみも幾歳月」の舞台にもなった
④点灯してから1分以内に生じるエメラルドグリーンに光る瞬間を見たいという灯台ファンが多い
⑤富山県の生地鼻灯台は灯塔を白黒2色に塗られているので、パンダ灯台の愛称で呼ばれている -
Posted by ブクログ
学校で無理やり読まされた作家は大体嫌いになるので、宮沢賢治もその1人でした。
童話を読んでもひたれない。詩は説教くさい。何より、自分の周りにいた「賢治好き」の人達が苦手でした。なんか皆んな“良い人“っぽかったんですよ。
その後、好きな作品も見つけましたが、僕の中の賢治像は、「軽度の発達障害で、重度のシスコンで、大人になっても親の金でレコードを買い漁る放蕩息子」と言う散々なものでした。賢治の父・政次郎を主人公に据えた本作ではたして何かがかわるのだろうかと、、
どうしても上記のような視点で読んでしまうので『父』政次郎よりも賢治の言動に注目してしまいます。歴史小説の常として、どこまでが史実でどこからが創作か分かりませんが、賢治像にあまり変化はありませんでした。
ただ、トシの最期の言葉を奪った行為には戦慄しました。作品が良くても人間としては最悪ですね。賢治君とは友達になれそうにありません。
政次郎は随分印象が変わりました。現代においては十分に封建的ですが、当時においては随分進歩的で柔軟な父親だったようです。本人も「これが、明治の父親だじゃい」と快哉を叫んでます。
大変失礼ですが(と言うかこの感想、失礼な事しか書いていませんが)、明治時代の花巻にも新時代は訪れていて、そこの小金持ちの進歩的な家庭から作家宮沢賢治が生まれたんだなぁといろいろ腑に落ちました。 -
Posted by ブクログ
東京初、すなわち日本初、東洋初の地下鉄が完成するまでの実話
創設者である早川徳次さんが主人公で、「前例のない大きなことを成し遂げたい」という気持ちから、イギリスで見た地下鉄を日本にも持ち込むと言うことを決めて、その事業の立ち上げから完成までの壮絶な物語が描かれていました
地中に鉄道を走らせると言うことに対して、前列が無いので、懐疑的な意見が大勢を占める中、技術的、事業的に成立する見込みがあることを、泥臭く、コツコツエビデンスを積み上げていく姿は壮絶でした
加えて、地下鉄敷設の工事に携わった面々にもスポットを当て、工事総監督を担った竹五郎さんはじめ、5人の監督、監督同士の意見のぶつかり合い、工事を進めるうえで立ちはだかる様々な困難、新しい技術を導入しながら、工夫しながら、なんとか完成させる姿も壮絶でした
現在の銀座線、浅草から渋谷までの路線が完成するまでの紆余曲折がまとめられていて、面白かったです
次回、乗車する機会があれば、色々思いを馳せながら端から端までじっくり乗ってみたいなと思いました -
Posted by ブクログ
日本銀行、東京駅を建築した辰野金吾さんの一代記
留学先から戻った場面から始まり、夢や理想を語り実現に向けて進んでいく。
欲しいと思った仕事のためには師匠を否定することも厭わない豪快で単純な金吾。
晩年、弟子から否定され若かった頃に自分が師匠にしたことを思い出し、老いた自分に嫌気がさしながらも新しいことを生理的レベルで受け入れられないことで喪失感を覚えるあたりは切なかった。
時代が時代なだけに、色々なものが西洋式に変わっていく過渡期に取り残されていくような感覚は社会人なら誰でも経験することだけど、仕方のないこと。
物語の中の言葉を借りれば
人間は、真摯に仕事する限り、誰でも過渡期の人である。
そして、盟友の曽禰達三さんや弟子たちの存在が終始、光り、辰野金吾さんの人柄がよく分かるようだった。
建築業界に興味はなく、タイトルで購入したけれど
建物を知っているだけにその建築過程を覗き見ることが出来たような作品だった。 -
Posted by ブクログ
[1]優秀な旅行企画マンだった敬典は現在ヤヌシ(専業主夫)として中学生の娘つばめ、大企業の子会社で重要なポストに就いている妻の陽子を支えているが難しい年頃の娘との関係はデリケート。
[2]家族とは《人はみな、死ぬ瞬間まで中ぶらりんだ》《だから親が子の心を忖度するのも、子が親の心を意識するのも、要するに中ぶらりんが中ぶらりんに対してる》《そのことに耐えねばならない。おたがいに》p.318
[3]ミステリとしては敬典が持ち前の知識と発想力で謎を解くあっさり軽やかな日常の謎系で読みやすい。いくらかウンチクも得られます。読んで謎を解ける読者はほとんどいないのでは? それこそ敬典並でないと。この『人形の部屋』の方が古い作品やったと思いますが、北村薫さんの『中野のお父さん』シリーズに似たテイストです。あっちは基本文学系の謎なのでわりと浮世離れしてますので、こっちの方がより家庭の中の謎という感じです。
■簡単な単語集
【浅香佳美/あさか・よしみ】敬典の知人。女性。
【朝美/あさみ】伊村朝美。現在は若山朝美。西どなりの奥さんの知人のようだが、敬典の学生時代の後輩(ただし朝美さんは同じ大学のドイツ文学専攻を卒業した後一年会会社勤めをし、桜井先生とマックス・ヴェーバーの両方に惹かれ再度入学したので年齢は上)。
【アレゴリー】合理的思考とは相容れない。神聖視すべき何物かがあってそれによって規定されている共通認識が必要。西洋のカトリック的道徳とか日本の貴族文化とか。花ことばもアレゴリーの一種だったが合理的思考社会ではほぼ意味をなさない。
【泉田啓輔/いずみだ・けいすけ】敬典が奈良で筆と墨を購入したのを見て話しかけてきた若者。
【解釈】《複数の解釈を採らないということは、むしろ暗号解読帳としての利点とも称し得る。》p.161。学術的に、広汎な情報をきっちり載せてしまうと用途によっては何も書いていないのと同じ結果になることがあるなあ。
【家族史】《世界史の年表におけるもっとも重宝なインデックスが西暦なら、家族史の年表のそれは子供の学年だろう。》p.259
【川辺里美/かわべ・さとみ】→里美
【柵原紘平/さくはら・こうへい】溝口が壊したジュモーのビスクドールの持ち主。かなり横柄だ。
【桜井義秀/さくらい・よしひで】敬典の大学時代の先生。経済学部。
【里美】川辺里美。敬典の姉。両親の仕事が忙しくつばめがほったらかしになりかけた頃毎週のように金沢から出てきて面倒を見てくれた。
【敬典/たかのり】八駒敬典。現在は専業主夫(というのは本人が嫌がるのでヤヌシ)。金沢出身。元は小さな旅行会社の腕利き企画マンだった。コト消費系の企画を多く立てていたようだ。社内で最も豊富な知識を持っていた。もともと知識欲が非常に旺盛だった。「歩く百科事典」だとか「電源のいらない検索サイト」とか呼ばれていたらしい。浅香さんいわく《人にはどう努めても見えないものが、どうしてあなたの目にだけは見えるのか。》p.84。チコちゃん風に言えば「つまんねーヤツ」っことになりそうな人物。
【タクマ】つばめの口からときどき出てくる単語。男か? と敬典さんは気が気でない。
【詫間昴/たくま・こう】つばめの口からでてくるタクマと同一人部下は不明。サッカー部副部長。
【つばめ】敬典の娘。物語開始時に十三歳中学一年生。ちょっと気が強い。スタイルがいいらしい。バスケットボール部に入った。
【天気予報】新興住宅地でのご近所付き合いには天気予報を見ていることが大切なんだとか。
【西どなりの奥さん】春が嫌い。花がイヤなんだとか。
【花ことば】花束に託して発せられる。
【万国旗】日本独自の風習らしい。開国後の世界に追いつけ感覚の発露かもね?
【ビスマルク氏】敬典が銀座で万年筆を購入するシーンを見て話しかけてきた紳士がそう名乗った。それに対して敬典は「山頭火」を名乗った。ビスマルク氏は最後にはタレイラン氏になった。
【フランス人形】フランス製ではない。舶来人形を真似して日本で作ったもの。
【ブルマ】ちょっと前の時代でしょうか。つばめの学校では体育はブルマらしい。体育教師のカトーくんは目から涎をだらだら垂らしながら見つめているらしい。そういえばぼくが子どもの頃は「ブルーマー」と長音符ありで呼ばれてました。それが正しかったんやとは。
【勾玉まくら】陽子発案の商品でいろいろ工夫されている。売れるようになって陽子は帰る時間がどんどん遅くなった。《それは他人の安眠のために眠れない夜を過ごす日々にほかならなかった。》p.265。八千円以上で枕としては高額だが、今となってはこれくらいの価格の枕はそう珍しくないかも。
【溝口賢/みぞぐち・ただし】敬典の会社時代の先輩。預かりものだったのに落っことして壊したジュモーのビスクドールをなんとかしてくれ持ち込んできた。会社にも持ち主にも連絡していない無責任。挙句の果てに壊したのは敬典だと言った。
【八駒敬典/やこま・たかのり】→敬典
【八駒家】敬典と妻と娘のつばめの三人家族のようだ。埼玉県荒川北岸に家がある。
【安井樹峯/やすい・じゅほう】現在日本で最も著名な書道家と言える。
【ヤヌシ】家主。敬典はそれなりのポリシーをもって現在の立場をこう称する。浅香さんは専業主夫とどう違うのか疑問に思っている。
【陽子】敬典の妻、つばめの母。敬典の四歳下。旧姓大塚。大手寝具メーカーの子会社、「勾玉枕」を売る会社のおえらいさん。