門井慶喜のレビュー一覧

  • 天才までの距離 美術探偵・神永美有

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    シリーズ第二弾。
    美学や文学や政治学は、それ自体が知性と好奇心を刺激する。そこに敷居の高さが伴いやすいのは、素養を問うことの排他性ゆえだろう。
    高踏的な臭みを消し、魅力の核心を伝える語り手がいれば、それは娯楽小説の素材としても輝き得る。
    そんな語り手が門井慶喜氏。

    本書に良い一節があったので、引いてみる。
    「およそ私たちの人生には、たった一語ですっかり思いのたけを表すなんて胸のすく機会はめったにないけれど、語彙の豊かな人のそれにはやや多く訪れる。」
    そうありたいものですな。

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    2020年12月22日
  • 若桜鉄道うぐいす駅

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    ネタバレ

    鳥取県に実在する第3セクター鉄道、若桜鉄道を舞台としたローカル線(または沿線地域)再生の物語…を想像して読んでみましたが、全然違っていました。これ、実在の鉄道を舞台にする必要はあったかなあ。若桜鉄道を積極的にPRしている訳でもないし、実際の沿線風景に触れる訳でもない。若桜とライトって現実にも関わりありましたっけ?

    そういう馴れ初めというか、執筆の経緯は読者に知らせて頂きたかったです。解説はおろか、あとがきも無いってちょっとどうなんでしょう(単行本にはあるのでしょうか)。

    で、肝心の内容ですが、大くくりすれば主人公の成長物語なのでしょう。しかし、焦点がローカル線にあるのか、近代建築にあるのか

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    2020年12月07日
  • 若桜鉄道うぐいす駅

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    鳥取県の三セク、若桜鉄道うぐいす駅の駅舎取り壊し計画をめぐり、村長と住民グループとが激しく衝突する。

    主人公涼太は、ここに巻き込まれてしまう。
    村長の孫にして、住民グループリーダーの重次郎からは学問上の孫弟子にあたるからだ。

    うぐいす駅の駅舎は本当にF・L・ライトの設計なのか。
    そうでないなら、真の設計者は誰なのか。
    私大の史学科の院生である主人公が謎解きをする。
    これがこの本の一番のサスペンスかと思うと、実はそうでもない。

    現役のまま頓死した村長、芹山剛造の後任の村長選が告示される。
    鶯村でのデモ中に発作を起こして死んだ守る会の久世みち子。
    その息子、静男が村長選に出馬する。
    涼太は恋

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    2020年12月06日
  • 決戦!新選組

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    幕末ものや新撰組を描いた小説は度々読んでしまうもののひとつ。 どの本も、新撰組に対する見方や人物の性格・背景の描写が異なり、真実は定かになるものではないけれど、それゆえにどれも想像力を掻き立てられてまた他の本を探したくなる。 このアンソロジーは沖田総司、近藤勇、藤堂平助、永倉新八、斎藤一、土方歳三それぞれの視点から描かれている。 ひとつの目的に向かって、でも思いは各々の胸の中に…というのは、読んでいて歯痒くもあり美しくもあり。 そしてどうしてもNHK大河の新選組!のキャストを思い浮かべてしまうワタシ…。

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    2020年11月16日
  • 東京帝大叡古教授

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    連続殺人事件に遭遇した東大教授宇野辺叡古が、事件を推理し、犯人を明かすまでを描いた直木賞ノミネート作。
    時は、日露戦争前後の物情騒然たる近代日本。
    架空の人間と実在の人物とを見事に融合させた歴史ミステリー。
    事件の容疑者に夏目漱石が疑われたり、当時の著名人が次々と出てくる。
    徳富蘇峰、原敬、桂太郎、嘉納治五郎、野口英世、森鴎外、西園寺公望等々、錚々たるメンバーが。
    語り手は、阿蘇藤太なる人物。
    そして最後に、この人物の本名が明かされると、近代日本史に興味ある読者は、アッと思うこと間違いない。

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    2020年09月20日
  • 東京帝大叡古教授

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    奇想天外に見えて実は緻密な構造のもとに描かれた歴史ミステリー。それほど劇的な結末とも思えず、格別な面白さも見いだせず、直木賞を逃したのも詮方なしといったところ。ただ他の作品を読んでみたくはなった、そんなきっかけをくれた作品。

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    2020年08月14日
  • 屋根をかける人

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    冒頭、主人公が地方の学校に英語教師として赴任するところは、ちょっと『坊っちゃん』みたいだ! と思った。事業でバンバン成功を収めていく壮年期を描く中盤部分は、やや退屈。だが、日米開戦からの展開はドラマチックで、引き込まれた。アメリカ出身の主人公が抱く天皇制に対する違和感には、個人的に共感できる部分があった。門井慶喜さんが本書のテーマとして取り組んでくれたことで、私自身のモヤモヤした思いも解消された気がする。

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    2020年07月24日
  • 決戦!新選組

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    ネタバレ

    戦国時代の小説は好きだが、幕末はそれ程は興味が無かった。
    正直、思想が色々とあってどれが正しいのかが分からない。
    時代が大きく変わるのであるから仕方ないとは思うが、この時代に死ななくてもいい若者を多く失ったのが何とも惜しい。

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    2020年07月02日
  • マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代

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    19世紀に生まれた小説の一ジャンル「ミステリ」。なぜこの時期にミステリが生まれ、一大ジャンルとなったのか。名作ミステリ、絵画や建築、中世から近代へと移行した当時の時代背景などをもとに考察する。まえがきで、「本書を読むことで結末の推測がやや容易になるかもしれない」として、「時の娘」「緋色の研究」「ノーザンガー・アビー」「薔薇の名前」の4つが挙げられている。私は「緋色の研究」を除いて未読だけど、犯人が分かってしまうようなネタバレはなかった。むしろ「薔薇の名前」はすごく読みたくなった。「荒野のホームズ」「わたしの名は赤」も面白そうだ。ミステリ好きなので楽しめた。

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    2020年04月02日
  • 家康、江戸を建てる

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    江戸を作った男たちの物語であります。
    一面の荒野であった、関東において、まず利根川を東遷し(治水)、通貨(貨幣)を造り、流通させ(経済活動を活発化)、生活用水を安定的に確保し(利水と衛生状態の確保等)、更には、今も残る長大な石垣群や巨大な天守閣等を抱えた`お城`作りという様々なプロジェクト`X`が、同時に競うように行われた時代の物語であります。家康は、乱世の英雄(海内一の弓取り)であり、稀代の陰謀家であり(狸親父と呼ばれ)、かつ良質の行政官であったかも、と思わせる一冊であります。

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    2019年11月10日
  • パラドックス実践 雄弁学園の教師たち

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    ネタバレ

    嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、もっと分かりやすく書けなかったかなあ。というか、弁論術をより効果的に小説の題材として扱うことだって出来たはずなのに。学園モノは嫌いじゃないから、それだけで期待が高まる部分はあったのだけど、高等部部長が冒頭否定していた「詭弁」そのものだと思う。実例実証なしの、教養が抜け落ちた論理お化けを、詭弁と称せず何と呼ぶのだろう?それは、全てが机上の空論であって、頭でっかちの子どもの育成であって、あまりに空疎。ということで、設定そのものにも、そもそも難があったってことだな。むしろ、詐欺集団を育てるための育成スクールみたいな無茶苦茶な設定だったら、よかったのかな。

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    2019年09月23日
  • ゆけ、おりょう

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    坂本龍馬の妻を通して描かれる幕末の名場面。龍馬との出会い、寺田屋事件、薩摩へのハネムーン、等々で描かれる「おりょう」の真の姿、そのご龍馬亡きあとの彼女の意外な人生とは?

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    2019年09月18日
  • 小説あります

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    人は何故、小説を読むのか。
    一見、哲学的にも見える素朴な疑問。
    これを追い求めて行く物語。
    結論としては、孤独に耐える練習だそうです、つまり人付き合いのためだと。
    これだけだと、疑問符が浮くかもしれないが、ご興味ある方は本編をご一読ください。

    孤独に耐えるってのは、言い得て妙だな。
    小説。音もなければ映像も無い、あるのはただ文字だけ。読み始めると、物語の中に埋没して行き、完結させるには読み終えなければならない。その間には、多分に想像力が働く。結論を急ぎたくとも、自分一人で読み進め、我慢しなければならない。我慢という意識がなくとも。
    昨今、我慢できない、堪え性のない、待てない、人を思い遣れ

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    2019年07月23日
  • こちら警視庁美術犯罪捜査班

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    新米刑事と抜群の鑑定眼を持つ美貌溢れる女上司のコンビが、狡猾な詐欺ビジネスを続ける美術品販売会社の犯罪を暴く美術ミステリー。
    警察ものであるが、まったくそんな感じはさせないな。しかし、門井慶喜氏の美術ものだと、美術探偵の方が圧倒的に良い。本作は大分、軽め。
    いつもの、湧き出る知識の泉がかなり抑えられてるような。もちろん、らしさは感じられたが、ちょっと物足りなかったな。

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    2019年05月29日
  • 小説あります

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    置手紙を残して行方不明になった作家の遺稿集に、作家自身のサインがある謎を、文学館勤務の主人公が追うミステリーと、「人はなぜ小説を読むのか」という根本問題とが絡み合ったユニークな作品。
    実在する文学賞や、作家や評論家が実名で登場し、どこからが(どこまでが)フィクションなのかと、思い惑いながら読み進んだ。
    書中、主人公と会社経営の弟が、その根本問題について論争を繰り広げる。
    「人は本能的に物語りを欲する。だから小説を読む」
    「小説を読むのは、孤独であることの練習のためだ」etc
    そういった意義付けもある面必要かもしれないが・・・
    しかし、
    本読みにとって、人生に役に立つとか立たないとか(ハウツー本

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    2019年05月05日
  • こちら警視庁美術犯罪捜査班

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    美術品犯罪に対応する警視庁捜査二課の美術犯罪捜査班。
    詐欺ビジネスが疑われる美術品販売会社を相手に、美術知識ゼロの新米刑事と美人女性上司が違法スレスレの悪だくみを暴こうとする。
    両社の対決はどう決着するのか――。

    門井慶喜の美術ミステリ・神永美有シリーズが面白かったのでそれを念頭に読んだのですが…ちょっとガッカリしました。

    美術うんちくはかなり神永シリーズよりも控えめに説明されるので読みやすかったです。
    漫画的なキャラが漫画的に行動し、さらに読み口を軽くしています。

    面白さを感じた点もたくさんありました。
    美術品の価値を決める要素が逆説的に作用してしまうという皮肉的なおかしさ。
    絵を描い

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    2019年03月01日
  • 新選組颯爽録

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    その末路を知っているからこそ新撰組モノはどの物語にも滅びの美学を垣間見られる。逞しくも哀しい人々に魅かれるのだ。

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    2019年02月28日
  • この世にひとつの本

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    直木賞作家門井慶喜さん、大手印刷会社の御曹司が行方不明になった有名書家捜索と工場内での連続する白血病の謎に迫るお手軽ミステリー。本とは印刷物を大量生産し多くの人が読むことが出来るしかし印刷以前は書き写さなければならなかった。一点もの複写物との価値感が面白く読めました。

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    2018年12月27日
  • 若桜鉄道うぐいす駅

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    「家康江戸を建てる」(まだ読んでいない)でこの作者を知り、読んでみようと思った小説。

    芹山涼太という主人公の一人称で物語が進んでいく。

    田舎の駅が取り壊されるという話が出てどんどん進んでいき、最後にはハッピーエンド?で終わる。

    最後に物語の疑問点を回収していってよかった。

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    2018年11月02日
  • 注文の多い美術館 美術探偵・神永美有

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    前作から読むのに間が空いたので、美術品の真贋を甘味苦味として舌で感じるという特異な設定が強烈に印象に残っており、謎解きが面白かった記憶だったけど、期待値が高過ぎたのか今回はあんまりだった。
    前は神永がもっと登場した記憶なのだが、気のせいだろうか。
    美術探偵と冠してる割には何と言うか、謎解きのワクワク感がなく、読み進めにくかった。
    でも、最終章で神永の舌が真贋に目覚めるエピソードがあり、これは面白かった。
    あと、解説が大崎梢なのも個人的には嬉しかった。

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    2018年10月26日