アメリカ人が日本に来たとか、実業家が何かを成し遂げたとか、一般化できるような話ではなかった。
この、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏でしか成し得なかったこと、彼にしか駆け抜けられなかった人生というものを存分に感じることができた。
まず、ヴォーリズ氏は、若くして非常に弁が立ち、向上心、野心に溢れた男
...続きを読むで、この時点で、成功者としての素質を持っているのだった。
ヴォーリズ氏であれば、どの時代でも、どの国でも、成功することができただろう。
20代半ばで日本の近江八幡に来て、英語教師として教鞭をとったのをはじめとして、キリスト教の布教活動、建築活動、そして、メンソレータムの販売と、壮年期まで休むことなくビジネスに邁進し続ける。
賢く(ずる賢いかもしれない)、精力的なヴォーリズ氏は、さまざまな事業を成功させながらも、その人生には紆余曲折があった。
仲間の死、妻との出会い、そして第二次世界大戦…。それぞれの転機で、物語は盛り上がる。その転機も多彩で、それぞれ異なった感動を読者に与えてくれる。
還暦を迎え、老年期のヴォーリズ氏は、精力的な活動から離れ、時代の観測者として、ゆっくりと、終わりに向かって進んでいく。
衰えゆくヴォーリズ氏と反面、妻の満喜子さんは精力的な活動を続ける。ヴォーリズ氏あってこの妻と言えるだろう。似た雰囲気を感じる。
戦争が終わり、ヴォーリズ氏の命のともしびも消えていく。
その描写はあっさりとして、この物語自体も、突然の幕引きというか、カラッとした乾燥感だけを残して終わる。
まさに、外観や装飾より機能性を重視したヴォーリズ氏の建築のように、無駄を省いた最期の描写だったのだろうか、と感じた。
全体を通して、ヴォーリズ氏のエネルギッシュさに勇気づけられた。また、戦時中の雰囲気をリアルに知れる歴史小説としての側面も感じた。そして、ヴォーリズ氏と満喜子さんとの深い愛情。この2人が出会って本当に良かったと思う。
ヴォーリズ氏の人生は、破天荒すぎて真似できないなぁと思いつつ。布教、建築、輸入販売と、多くの面でまさにエヴァンジェリストとして活躍した人物に尊敬の念を抱いた。
ヴォーリズ氏とは離れるが、同じく近江八幡を礎とし、本小説にも登場する、菓子処のたねやとクラブハリエに興味を持った。食べてみようと思う。近江八幡の雰囲気を感じられるかもしれない。