梨木香歩のレビュー一覧

  • f 植物園の巣穴

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    久々に再読。梨木さんのたくさんの作品の中でも「家守綺譚」系統の植物と不思議が絡むお話。
    最初は話の流れも途切れがちで次々に荒唐無稽な展開が続くと思われる中で、徐々に歯に空いた穴、木のうろ、白木蓮を失った後の穴…植物園職員である主人公の心に空いた穴の中をのぞきこみ、失われたものを自ら発見し、よどんでしまった「川」を流れるようにする、という芯が分かるようになる。
    「ここは、過去と現在がみんないっしょくたに詰まっているのだ」理屈の通じない世界で、これが自分の心の問題であることをやがて主人公は悟るのだ。
    人生で抱え込んできた淀みに対して、はっきりした問題を現実的に解決するとかではなく、ただあの時の気持

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    2022年07月30日
  • ほんとうのリーダーのみつけかた 増補版

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    「君たちはどう生きるか」という問いへの筆者なりの一つの答え。

    これまで何も考えず、同調圧力に従い生きてきた気がする。
    尊敬できるリーダーを探し求め、やっぱりちょっと違うなぁ、とがっかりしたり。
    思ってもないことを言って、自己嫌悪に陥ったりすることもたくさんある。
    「自分の中の、埋もれているリーダーを掘り起こす」作業をしたことがなかった。

    自分的基準や批判精神を持って、自分にいいかっこしながら生きていく。劣位にある自分も受け止めていく。そうして、「自分という群れ」のリーダーとしての振る舞いを学び、世界への愛と祝福の想いを抱きながら進んで行けたら。引っかかったことに勇気を持って声をあげることも

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    2022年07月24日
  • りかさん(新潮文庫)

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    中学の頃に読んだ西の魔女が大好きで、12.3年ほど経った今、自然を感じられる本を読みたい気分になり、西の魔女を思い出して梨木さんの本を手に取った。

    本書は、自然を感じる要素は多くなかったが、祖母と孫、りかさんを中心とした人形たちが織りなす純粋で不思議なファンタジーな世界観に魅了されなた。

    これまで読んだ梨木さんの本に出てくるおばあちゃんは自然で、まっすぐで、強くて、聡明で、しなかやで、自分もこんな年の取り方をしたいと思わされる。

    みなさん集合して住んだらどんな感じになるんだろうか、、

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    2022年07月24日
  • f 植物園の巣穴

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    設定が大正時代あたりだということに気づいてからはすうと物語に入って行けた。徐々に明らかになる事実が心に響く。

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    2022年06月30日
  • ほんとうのリーダーのみつけかた 増補版

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    この2年以上、国民はリーダーの不在に流されてきた。本書の単行本が出たのは2020年7月。コロナ感染が急拡大して、国民が半ばパニックに陥っていた頃だ。その少し前の4月に政権が2枚の布マスクを全国民に配布していた時期で、新刊の棚に本書が並んでいるのを見た私は、ああ梨木さんも国に物申すのかなと思い、きちんと目を通していなかった。

    今回、それが文庫版となって刊行された。ツカが出なかったのか、厚めの紙に、ゆったりとした組み方で、さらに書き下ろしが1章加えられている。それでも100ページほどの薄い本だが、内容は濃い。

    読み終えた第一印象は、“あれ、思っていたのと違う”だった。私は梨木さんが、頼りない国

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    2022年06月18日
  • 春になったら莓を摘みに(新潮文庫)

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    「分かり合えないを受け入れる」

    最後に伝えてきたこのメッセージは、中々すぐに上手く飲み込めないほど重く、難しく、そして大切なメッセージでした。

    色々な人と繋がることをある種強制される現代の中で、「違うもの」と沢山出会います。でも、私は否定されたくないから、そういった「違うもの」を敵として戦ってしまいたくなります。

    ウェスト夫人のように「違うもの」にすら愛をおくれる人になることができるのでしょうか。そもそもなりたいのでしょうか。

    正義をぶつけ合うこの時代に多くの人と悩みたいです。

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    2022年06月08日
  • 海うそ

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    渋い。深く味わいのある作品。
    昭和初期に私が訪れた遅島は、もともとユタやノロに似た「モノミミ」のような民間信仰のある修験道の島で、寺なども多くあったが、廃仏毀釈の流れの中でモノミミはいなくなり、寺は破壊し尽くされる。その中で還俗させられた善照が「海うそ」=蜃気楼を見た場所で、私もまた海うそを見る。それと50年後に島が再開発され、元の姿を留めなくなった中で、同じ場所で海うそを見ることで、失われたものを嘆くだけの悲しみではなく、万物が移り変わってもそれはそういうものであって、あるものはある、みたいな悟りとしての海うそ、というのを感じた。
    許嫁に自死され、両親を相次いで亡くした私が島で感じた色即是空

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    2022年05月22日
  • 炉辺の風おと

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    梨木香歩さんの自然特に植物や鳥によせる気持ちが伝わって来る。その他日常の細々した出来事への気づきや、特に父上の看取りへのあれこれにはしみじみ考えさせられた。
    自分に対峙するものへの曇りなき眼差しということを強く感じる文章だった。

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    2022年05月18日
  • 裏庭(新潮文庫)

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    ファンタジー/ミステリー。ある洋館に別世界への入り口があり、主人公の照美が「テルミィ」として旅をし、戻ってくるまでが書かれる。個人的には欠けたものを継ぎなおす話と受け取った。

    現在と別世界の話が並行して進み、交差しながら展開していく。登場人物も多く、関係も複雑で、さらには別世界の人物が実は○○だったなどの展開もあり、個人的には理解する難度が高めだった。

    現在の文章は分かり易く、別世界はファンタジー感のある抽象的な文章。それぞれでフォントまで違うなど、作品、本としての仕掛けもあまり見ないもので印象に残った。

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    2022年05月07日
  • エストニア紀行―森の苔・庭の木漏れ日・海の葦―(新潮文庫)

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    旅行記はあまり自分にむいてないんだよね
    でも感じたこととか、自然の描写とか、梨木さんの豊かな知識とか造詣の深さ、感受性が伝わってきて穏やかだった。

    誰もいない森の小道を、一人で歩く充実感は何に喩えたらいいのだろう。
    ここ数日楽しく充実していたけれど、あまりに多くの人々に会っていたので、自分という生体がこういう時間を必要としているのだとしみじみ思う。

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    2022年04月19日
  • エンジェル エンジェル エンジェル(新潮文庫)

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    孫の「こうこ」に古き思い出の公子さんを投影していたのだろうか。「こうちゃん」と呼びたかったことや翆川先生と山本さんの姉妹の関係が羨ましたかったこと。エンゼルさま(エンゼルフィシュ)が少女時代の後悔を抱くさわこへ僅かな時間をくれたのだと思う。
    止められない嫉妬心・攻撃的な態度で人を傷付けてしまった過去。そういう黒い気持ちってずっと忘れられないものだよね。
    それを、どうにもできなかったエンゼルだってかわいそうだよと、他ならぬ「こうちゃん」に許された。
    きっと安心して旅立だっていけたのだろうな

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    2022年04月17日
  • 春になったら莓を摘みに(新潮文庫)

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    できること、できないこと。
    ものすごくがんばればなんとかなるかもしれないこと。初めからやらないほうがいいかもしれないこと。やりたいことをやっているように見えて、本当にやりたいことから逃げているのかもしれないこと。
    けれど、できないとどこかでそう思っていても、諦めてはならないこともある。

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    2022年04月14日
  • 鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布(新潮文庫)

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    地名に関する葉篇集
    掌編ではなく~の理由が梨木さんらしくて好き

    論文のように堅くなくてあくまでこうかな?そうだったらおもしろい、というスタンスなのが読みやすい。
    実際にその土地に訪れたからこそわかる空気感が伝わる。行ってみたくなる。

    子音+yuuの音
    古代、使われていた言葉の発音は、今の日本語のようにかっちりしたものではなく、もっと風の吹く音のような、小鳥のさえずりのようなものだったのではないかと思うと、そういう言葉が飛び交う日常を想像して楽しい。
    叱る声さえ、鳥の声のように流れていく、そういう日常。会議や怒号になると、大風が吹いているような感じなのだろうか。

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    2022年04月13日
  • からくりからくさ(新潮文庫)

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    「りかさん」を先に読んでいたので
    すんなりと物語の世界に入れた。
    大人になった蓉子は染織の世界へ。
    祖母の家での同居人は機を織り、
    織物の研究をし、針灸の勉強とそれぞれ。
    庭の植物や穏やかな暮らしのなかに
    人の思いや現実があり、
    人形や織物が過去を物語る。
    3人の合作の最後の様子は圧倒され
    一瞬の芸術というのもあるのだなと
    思った。

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    2022年04月11日
  • 沼地のある森を抜けて(新潮文庫)

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    中盤から終盤までは、物語の根源風景がなかなか見えず、
    少々読みあぐねたが、
    文章自体はグングンと飛翔していくので、とにかく追いかけた。

    終盤に「ぬか床」や「沼地」についてやっとこ入り込み、
    「解き放たれてあれ」という名言に光を感じながら、
    森を歩き、抜けていけた。

    最終的に、自分の中でこの物語の世界観が心に定着したので安心した。

    生命に問いかけ、根源を悟り、孤独と他者を知り、また始まっていく。
    解説の一文
    「個を超えた反復であり、同時にその場にしか生まれえないオリジナルでもある。」
    のように生命の二律背反を感じつつ、時にそれを飛び越えていく物語だった。

    にしても、このような物語を成立さ

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    2022年04月09日
  • エンジェル エンジェル エンジェル(新潮文庫)

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    「さわちゃん、もし、このモーター音がうるさかったら、水槽、私の部屋にもっていくけれど……」
    私は、ゆっくりと、言葉を切りながら言った。ばあちゃんはちらりと私を見遣ると、やはりゆっくりと、
    「でも、そうしたら、私、コウちゃんとこうしてお話し出来なくなるかもしれない。私、消えてしまうかもしれない」
    と、視線をそらしながら言った。

    「……コウちゃん、神様もそう呟くことがおありだろうか」
    「え?」
    「神様が、そう言ってくれたら、どんなにいいだろう」
    「え?」
    「私が、悪かったねえって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまってって」

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    2022年04月01日
  • 鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布(新潮文庫)

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    旅に出られない日々に、こんな一冊もいい。

    筆者が旅した土地とその名まえに引き寄せられた思いを書き綴ったエッセイだ。
    旧街道の宿場、岬、島、峠。
    国境、湖川の側の地名。沖縄やアイヌ語由来の地名。
    心がざわつく地名なんていうくくりもある。

    土地を訪ね、人々の暮らしを垣間見、時に歴史をさかのぼって調べる。
    そんな営みを繰り返すエッセイだ。

    取り上げられる土地は、知っている場所もあるし、全く知らないところもある。
    なのに、この本を読んでいると、なぜか懐かしい気持ちになってくる。
    私の生まれて3歳までを過ごした家も、旧街道の小さな宿場町であったせいだろうか?

    谷戸と迫、そして熊。
    いずれも地形に

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    2022年03月31日
  • 春になったら莓を摘みに(新潮文庫)

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    いい本を読んだなあ…と思った。

    著者とその周りの人々の交流とかその景色が、外国の小説を読んでいるようで、エッセイという感じがしなかった。
    その一方で、人が何かを考えている時、こういう風にするすると思考って流れていくよなあ…と思えるような、頭の中を覗いたような文章だった。

    「理解はできないが受け容れる」ことって、理想ではあるけど体現するのは難しいことだと漠然と思っていた。
    けどウェスト夫人のような人がいると知れて、人との交流は新しい価値観をもたらすものだと思ったし、人との交流をもっと広げていきたいと思った。

    外国の風景も魅力的だった。この本自体が、英国の田園風景を想像させるような雰囲気を持

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    2022年03月31日
  • 鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布(新潮文庫)

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    再読。気がつかないうちに失われていく地名。それに対して無知であり、関心を持たない自分。その事実と大切さに気づかせてくれる本だった。これ以上失うことがないように祈ることしかできないけれど。

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    2022年03月14日
  • りかさん(新潮文庫)

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    「りかさん」
    誕生日におばあちゃんがくれたのが、欲しかったりかちゃん人形ではなく、市松人形の「りかさん」だったことから始まる。雛人形、賀茂人形、這子、紙雛、ビスクドール、色々な人形の思いや持ち主の思いををりかさんから教えられる。戦争中の日米親善大使としての人形の悲劇を改めて思い知ることもできた。

    「ミケルの庭」
    赤ん坊の命を預かるということは、覚悟をもってやらなければと思った。ミケルの眼にまた景色が広がったときは心からよかったと思った。

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    2022年03月07日