梨木香歩のレビュー一覧
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ネタバレ久々に再読。梨木さんのたくさんの作品の中でも「家守綺譚」系統の植物と不思議が絡むお話。
最初は話の流れも途切れがちで次々に荒唐無稽な展開が続くと思われる中で、徐々に歯に空いた穴、木のうろ、白木蓮を失った後の穴…植物園職員である主人公の心に空いた穴の中をのぞきこみ、失われたものを自ら発見し、よどんでしまった「川」を流れるようにする、という芯が分かるようになる。
「ここは、過去と現在がみんないっしょくたに詰まっているのだ」理屈の通じない世界で、これが自分の心の問題であることをやがて主人公は悟るのだ。
人生で抱え込んできた淀みに対して、はっきりした問題を現実的に解決するとかではなく、ただあの時の気持 -
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ネタバレ「君たちはどう生きるか」という問いへの筆者なりの一つの答え。
これまで何も考えず、同調圧力に従い生きてきた気がする。
尊敬できるリーダーを探し求め、やっぱりちょっと違うなぁ、とがっかりしたり。
思ってもないことを言って、自己嫌悪に陥ったりすることもたくさんある。
「自分の中の、埋もれているリーダーを掘り起こす」作業をしたことがなかった。
自分的基準や批判精神を持って、自分にいいかっこしながら生きていく。劣位にある自分も受け止めていく。そうして、「自分という群れ」のリーダーとしての振る舞いを学び、世界への愛と祝福の想いを抱きながら進んで行けたら。引っかかったことに勇気を持って声をあげることも -
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この2年以上、国民はリーダーの不在に流されてきた。本書の単行本が出たのは2020年7月。コロナ感染が急拡大して、国民が半ばパニックに陥っていた頃だ。その少し前の4月に政権が2枚の布マスクを全国民に配布していた時期で、新刊の棚に本書が並んでいるのを見た私は、ああ梨木さんも国に物申すのかなと思い、きちんと目を通していなかった。
今回、それが文庫版となって刊行された。ツカが出なかったのか、厚めの紙に、ゆったりとした組み方で、さらに書き下ろしが1章加えられている。それでも100ページほどの薄い本だが、内容は濃い。
読み終えた第一印象は、“あれ、思っていたのと違う”だった。私は梨木さんが、頼りない国 -
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ネタバレ渋い。深く味わいのある作品。
昭和初期に私が訪れた遅島は、もともとユタやノロに似た「モノミミ」のような民間信仰のある修験道の島で、寺なども多くあったが、廃仏毀釈の流れの中でモノミミはいなくなり、寺は破壊し尽くされる。その中で還俗させられた善照が「海うそ」=蜃気楼を見た場所で、私もまた海うそを見る。それと50年後に島が再開発され、元の姿を留めなくなった中で、同じ場所で海うそを見ることで、失われたものを嘆くだけの悲しみではなく、万物が移り変わってもそれはそういうものであって、あるものはある、みたいな悟りとしての海うそ、というのを感じた。
許嫁に自死され、両親を相次いで亡くした私が島で感じた色即是空 -
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ネタバレ地名に関する葉篇集
掌編ではなく~の理由が梨木さんらしくて好き
論文のように堅くなくてあくまでこうかな?そうだったらおもしろい、というスタンスなのが読みやすい。
実際にその土地に訪れたからこそわかる空気感が伝わる。行ってみたくなる。
子音+yuuの音
古代、使われていた言葉の発音は、今の日本語のようにかっちりしたものではなく、もっと風の吹く音のような、小鳥のさえずりのようなものだったのではないかと思うと、そういう言葉が飛び交う日常を想像して楽しい。
叱る声さえ、鳥の声のように流れていく、そういう日常。会議や怒号になると、大風が吹いているような感じなのだろうか。 -
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中盤から終盤までは、物語の根源風景がなかなか見えず、
少々読みあぐねたが、
文章自体はグングンと飛翔していくので、とにかく追いかけた。
終盤に「ぬか床」や「沼地」についてやっとこ入り込み、
「解き放たれてあれ」という名言に光を感じながら、
森を歩き、抜けていけた。
最終的に、自分の中でこの物語の世界観が心に定着したので安心した。
生命に問いかけ、根源を悟り、孤独と他者を知り、また始まっていく。
解説の一文
「個を超えた反復であり、同時にその場にしか生まれえないオリジナルでもある。」
のように生命の二律背反を感じつつ、時にそれを飛び越えていく物語だった。
にしても、このような物語を成立さ -
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旅に出られない日々に、こんな一冊もいい。
筆者が旅した土地とその名まえに引き寄せられた思いを書き綴ったエッセイだ。
旧街道の宿場、岬、島、峠。
国境、湖川の側の地名。沖縄やアイヌ語由来の地名。
心がざわつく地名なんていうくくりもある。
土地を訪ね、人々の暮らしを垣間見、時に歴史をさかのぼって調べる。
そんな営みを繰り返すエッセイだ。
取り上げられる土地は、知っている場所もあるし、全く知らないところもある。
なのに、この本を読んでいると、なぜか懐かしい気持ちになってくる。
私の生まれて3歳までを過ごした家も、旧街道の小さな宿場町であったせいだろうか?
谷戸と迫、そして熊。
いずれも地形に -
Posted by ブクログ
いい本を読んだなあ…と思った。
著者とその周りの人々の交流とかその景色が、外国の小説を読んでいるようで、エッセイという感じがしなかった。
その一方で、人が何かを考えている時、こういう風にするすると思考って流れていくよなあ…と思えるような、頭の中を覗いたような文章だった。
「理解はできないが受け容れる」ことって、理想ではあるけど体現するのは難しいことだと漠然と思っていた。
けどウェスト夫人のような人がいると知れて、人との交流は新しい価値観をもたらすものだと思ったし、人との交流をもっと広げていきたいと思った。
外国の風景も魅力的だった。この本自体が、英国の田園風景を想像させるような雰囲気を持