梨木香歩のレビュー一覧
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1999年初版から20年、再読。
何回読んでも、大好きな世界。
ようことおばあちゃんが感じとる世界がとても好き。こんな世界を描ける梨木香歩さん、凄いです。
りかさんを通して人形たちのざわめき、想いをたくさん聴いた。
人形はそれぞれの想いを抱えて、そこにいる。
アメリカから親善大使として贈られてきたアビゲイルも、いっぱいの愛を蓄えられて、その愛を届けるために来たのに…。その悲しみを引き受けて守り続けている汐汲み人形も憐れ。
人は業が深いから人形を必要とした、と同時に人形を慈しむ気持ちも持ち合わせている。
人形の使命は人間の感情の濁りを吸い取ることだという。
「濁り」この言葉は、ようことおばあち -
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日々の生活の中で梨木さんの胸に去来する強い感情、そして歴史や政治、社会問題に関する深い教養に裏付けされた思索が、エッセイの形で書かれていた。受験勉強などを通じて、目的に対して最小の労力でそれに辿り着く最短距離ばかり追い求めてきた私にとって、このような、自分を芯に添えて、ぐるりのことと交流しながら深く思考するということはとても新鮮だった。受験勉強で習ったことも、ただの知識に留まらず、思索の幅を広げる道具に出来たらいいなと思った。純粋に考えることの楽しさを感じた物語だった。
『共感する、というのは、大事なことだ。が、それはあくまで「自分」の域を出ない。自分の側に相手の体験を受け止められる経験の -
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うこぎご飯はまじで美味しい。
うこぎは天ぷらも美味い。
私もコペルくん程ではないにしても、相手の気持ちを読んだり、色々考えるすぎる人間なので、言葉にできない生きにくさを子供の時から感じてた。
だから、自分に子どもが生まれた時、我が子にはこういう繊細な子になってほしくない、もっとイージーに生きてってほしいと思っていた。
でも、この本読んでその考え方は変わった。
世の中がこれからどうなるか分からない中で、考える力を持たないことはすごくか弱いことだ。
この本読んで、命が大切にされる世の中になってほしい、そうしなきゃ、という気持ちに行き着きました。 -
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言いたいことは沢山あるけど、まず最初に感嘆したのは人物描写の豊かさ。ちょっとした会話の間や視線の動かし方、とりとめもな(いように描かれてるけどきちんと読者に効果的に伝わるようおそらく計算されている)く展開し連鎖する人間的思考、それら全てが事細かく表現されているけれど全くくどく感じない、絶妙なバランスによって登場人物たち(会話や回想にしか登場しない母親たちでさえ)に"生身"を与えている。
だからこそこの本の主題が"生きる"。なんでもない「普通の」男子中学生の一日(この分厚さで一日!)を何気なく描いているだけなのに、彼に(そして彼らに)舞い込んでくる&quo -
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ネタバレ私達をぐるりと取り囲む異世界。
ぐるりの内側へ籠りがちな私に、もっとぐるりの外側へ開いていけよ、と梨木さんから温かくも厳しい言葉をもらった。
ぐるりの内側と外側は言語や風習、文化等といった差異があり、その違いに混乱し時に大小様々な争いも否めない。
ぐるりの内側に籠り隠れることはとても楽ちん。
けれどそこに安住していてはいけない。
一歩一歩確実に自分の足で歩いていく。
「自らの内側にしっかりと根を張ること。中心から境界へ。境界から中心へ。ぐるりから汲み上げた世界の分子を、中心でゆっくりと滋養に加工してゆく」
梨木さんの常に五感を研ぎ澄ませじっくり丁寧に物事を見極める姿勢は相変わらず。
以前読 -
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ベストセラー小説「西の魔女が死んだ」で有名な梨木香歩の作品。
梨木香歩の作品は、「西の魔女が死んだ」くらいしか読んだことがなかったので、作風の違いにすごく驚いた。
同時に作者の作家のとしての力量が卓越していることを思い知らされた。
久しぶりに自分の好みに合った美しく心に残る小説に出合ったと素直に喜べた作品。
人により好みが分かれる作品だと思うが、この小説の醸し出すノスタルジーと詩情あふれる美しさは格別である。
読み終わった後、本当に心地よい余韻に浸ることができた。
戦前、人文地理学を研究していた主人公がフィールドワークの為訪れた南九州の遅島での体験を綴ったもの。
舞台となる島は、作者の創 -
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数々の自然に対する造詣が深い梨木香歩のエストニア紀行文。エストニアがどこにある国なのか先ず確認する作業は厭うまでもなく、ページを開くと直ぐに地図が現れます。北欧のバルト海に面したロシアと隣合わせた位置でした。その旅の紹介は行きの飛行機内での様子から始まります。副題に「森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」とあり、林の向こうに大きな虹が架かる写真がこの本の表紙。その国の歴史を知らなければ、旅はただ通り過ぎるものだけになってしまうけど、案内人のお話や人柄の紹介もあり臨場感溢れる展開。市街地から郊外へ向かううちに段々と梨木さんの興味ある植物や、渡り鳥や小動物が登場します。森の中に住む蛭で治療するおじいさんの
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ネタバレ人がいかに簡単に周囲に流されるか、ということ。
この物語の中に、流れに流されたくなくて一人になることを選んだ三人が出てくる。
戦時中徴兵されることを肯じなかった人。
命の授業という名目で自分のかわいがっていた鶏を絞めて食べることを強制された少年。
心ならずもAVに出ることになってしまった少女。
もう一度、書く。人はいかに簡単に周りの圧力に抗しきれなくなるものなのか。その結果を受け止められなくなったとき、いったん群れから離れて一人で生きることを選んだ。
一緒に命の授業を受けていて、ペットを殺されることになる友達の気持ちに気づけなかったコペルが述懐する。「何かがおかしい」って「違和感」を覚える力、 -
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ネタバレクレア・キップス著、梨木香歩訳「ある小さなスズメの記録」、2015.1(文庫)発行です。口絵・イラストは酒井駒子さん、解説小川洋子さんです。感動の書でした。第二次大戦下のイギリス、老ピアニストが出会った生まれたばかりの傷ついた小雀。愛情深く育てられた雀のクレランスとキップス夫人が共に暮らした12年間の記録。1940.7.1~1952.8.23、11歳を過ぎてからは老衰と闘いながら、最期は夫人の手の平の中で穏やかな死を迎えたいとしいスズメの物語です。
人間との意思の疎通、哺乳類は勿論ですが、鳥類もかなりの疎通ができるのですね。昆虫、魚類、両生類、爬虫類は難しそうですが、共に暮らしていると愛情 -
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ネタバレ先日読んだ本『金曜日の本屋さん』の中で、梨木さんの文章が「文字に色がついているみたい」とありこのエッセイ集を読んだ。
ほんとその通り!
何気ない日常のあれこれについて、梨木さん目線で描かれてあり、五感を大いに刺激された。
野に咲く貝母やスミレを「彼女」と親しみを込めて呼んだり、カラスとも意志疎通したりと自然や生き物に対して丁寧に接する姿勢が伺われた。
中でも「シロクマはハワイで生きる必要はない」「百パーセント、ここにいる」は心に突き刺さり涙が出た。
私にとって刺激されたり感心したりしながら、進むべき道を指し示す「羅針盤」となった。 -
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シンプルな紺地のカバーが、文学的な雰囲気の短編集。
しんとした気持ちで読みたい。
短篇集とはいえ、表題作の『丹生都比売』(におつひめ)は独立して一冊で出版されたことのある長さであり、あとがきによれば、これは核になるお話で、他の作品もここから同じ蔓が伸びていった…ということだ。
対象年齢も主人公の年齢もまちまちの、「ジャンル分けできない一冊」になった、というが、確かに同じ種から伸びている蔓のように感じられる。
登場人物も、人なのかどうなのかよく分からない物もあり、しかし読んでいて、目に見える形が人であれ植物であれ鳥であれ、それは些細なことのようにも思えてくる。
草壁皇子に関する、吉野裕子