金子浩のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ2018年に物故したジャック・ケッチャムの短篇集3冊(未訳)から、翻訳者の金子浩氏が19篇をセレクトした日本オリジナルの傑作選。暴力や死、オフビートなお馴染みの作品世界はもちろんのこと、超自然的要素や幻想味に満ちたものなど、この作家の違った顔も堪能することができる。
大雪の続いた2月の夜、父子の住む家のドアをノックした少女は口が利けなかった……という表題作は、ケッチャムの代表的長編『オフシーズン』とその続編『襲撃者の夜』との間に起きたエピソード―ということで、何れかを読んだ人間ならばその後の展開も凡その察しは付くだろう。
その他、不治の病に罹った女流作家が死後も自作を生かすために行なったある凄まじい依頼(「作品」)、レズビアンのカップルがキャンプ中に男につきまとわれる。実際の事件を題材にした掌編「オリヴィア-独白」、コールガールと客の男との会話が意外な展開を見せる「聞いてくれ」、レストランで起きたある事件の数十分前からの人間模様を描写した「二番エリア」、妻との関係悪化を零す男の話を聴くセラピストは、患者の夢の話に不安を覚える(「八方ふさがり」)、西部開拓時代、その日の馬車襲撃に失敗した強盗団は火を囲み"ツキのない奴"について語り合う(「運のつき」)、老教授が語る暴君のような父親と、母の死の謎(「暴虐」)、SF同好会の定例会に講演で招かれたホラー作家の受難(「三十人の集い」)、骨肉腫を患った妻と夫、そして猫との最後の日々(「永遠に」)、ハリケーンが去った後、蛇恐怖症の女性の庭に現れた大蛇(「蛇」)など、暴力や不条理、唐突な死、そして苛酷な状況に抗おうとする人間―特に女性―の姿を描写するのは、他のケッチャム作品でも馴染み深い。
その一方で、見知らぬ男性のプレゼントの箱の中を覗いたことで息子に、そして家族に起こる悪夢(「箱」)と、ある事件から子供を避けていた女性が、初めてハロウィンで子供たちを迎えようとする「行方知れず」のブラム・ストーカー賞短編賞受賞の2作をはじめ、事故死した男が自堕落な生活を続ける妻を幽霊となって叱咤するが、男が戻って来た本当の理由とは(「帰還」)、話題のホラー映画が映画館でもビデオでもどうしても観ることができない男の運命(「未見」)、年を取らなくなった女性が恋人に語った数奇な人生(「歳月」)、ゾンビが跋扈する世界、男は妻の死後も妻が寝ていた病院の同じベッドを見舞い続ける(「見舞い」)など、既刊の長編では殆んどない超自然的要素や幻想に満ちたもの、"奇妙な味"と呼べる作品もあって、代表作の印象が強烈なケッチャムという作家のイメージが心地よく裏切られる。とはいえ、唐突に登場する暴力や死、そこに併存する静謐さや物悲しさは紛うことなきケッチャムの作品世界ではあるのだが。
400㌻強で19篇収録ということで作品はどれも短め(4㌻の掌編と言える作品もある)で、既刊で長編(中編集も出ていたが)に読み慣れた人からは「物足りない」「ケッチャムはやはり長編がいい」とのレビューも見かけるが、個人的には―あの悪名高い代表作2編の凶悪な印象で二の足を踏んでいる―ケッチャム未経験の読者には、最初に手に取るには格好の1冊なんじゃないかと思うし、「以前に他の作品は読んだけどケッチャムは苦手」という人でも、この傑作選はそれなりに愉しめるのではないかと思えるのだが。
特に掉尾を飾る、プレスリーのゴスペルソングからイメージを得たという「炎の舞」の幻想的な静謐さは、ケッチャムの従来作品からのイメージを確実に上書きするのではないだろうか。
これが刊行されたの機に、現在絶版気味になっているケッチャムの過去作品が再版される流れになったら、より嬉しい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日系アメリカ人の方が書いているからか、日本人名や地名が多く出てきたし、一貫して家族との別れと向き合う物語だった。
章ごとに語る人物が変わっていき、脇役だった人の数年後の視点になってたり、後々にリンクしてさっきのあのキャラがこんな所に出てきた!って楽しめる。
1つ1つの章が短いし、疫病が流行った世界での対策がどんどん進んでいく過程も面白いし読みやすい。
特に笑いの街と豚息子は悲しくて仕方なかった。
最後の章で、ある装飾品を持っている人が度々変わるなと思ってたけどそういう事か!と納得
読み終わってから何度か読み返してしまった。
カバーはめちゃくちゃカッコイイし、タイトルもマッチしててジャケ買いしたけど大当たり!
終末ものが好きならおすすめ
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Posted by ブクログ
ネタバレ初めて目にした時から読みたかった作品。
1巻の時点で、
「機械での人格のエミュレート」、「蘇り」、「自己の複製(コピー)」、「外宇宙探査」、「宇宙空間での戦闘」、「(人類以下のレベルの)知的地球外生命体」、「(人類以上のレベルの)(おそらく敵性の)知的地球外生命体」、とアイディアを出し尽くしたんじゃないかというくらいの盛りだくさんの内容で、最初から最後までダレることなく面白い。
主人公のボブには共感する部分が多く、どんな状態でも前向きで楽しんでいる様子や常に頭を使っている点は自分も同じだろうと思って、イライラすることなく読んでいられた。
明るく前向きとは言っても、目が見えない(カメラがオフライン)場面では「多くの楽しいことが出来なくなる」と落胆しており、ただ底抜けに明るいだけではない(でも絶望したりはしない)点も共感するところであった。
オーストラリアの探査機のAI人格が感覚を遮断されて狂いそうになっている点や、ボブ達は仮想空間で肉体と感覚を再構築したためにまともでいられたと振り返っているところに、元人間が人間としての記憶を残したまま機械の中で生きることの難しさを表現している。
同じく、AI - 人間間の感覚の差異として問題となりそうな人格のコピーについては、「かなり似ているけれども異なる人格になる」という上手い解決法を示している。全く同じ人物が増えていく(= 同じ方向と意思を持って勢力を拡大していく)ことを予想していた自分としては、これは以外で面白い発想だった。
本質的な部分では多くのボブ達が理解し合えるだけの相似性を持ちながら、相性の違い(イヤなやつも生まれてくる)も同時にあるのは面白い。ボブ達がコピーを作ることに余り熱心で無いことも人間くささを感じさせるとともにキャラクターの増加を抑える効果を与えている。 -
Posted by ブクログ
500ページ越えの長編なのに、読む手が止まらないくらい面白かった。タイミングがいいのか悪いのか、コロナウイルスの蔓延と重なったせいで余計に身に迫るような恐ろしさを感じるけど、だからこそ今このコロナ渦の時に読むべきだとも思う。現実のウイルスよりも人間が意図的に作ったバイオ兵器の方が容赦の無い結果を生み出していたので、コロナが本当に茶番や陰謀などの誰かの計画だったら、現実も人類滅亡するのかもしれない…と考えると、なかなかにゾッとする。
後半というか終盤はもうエピデミック云々よりもロボットと人間の繋がりというか、母と子供の絆みたいな方向に行き、それはそれで面白かった。少子化がどうの毒親がどうのと言われることが多くなりつつあるけれど、やはり子供にとって一番の味方は親であって欲しいし、前の世代が行ってきた様々なことを未来へ繋げるために次の世代を大事にしていくべきなんだな、とも感じた。 -
Posted by ブクログ
本作の特徴を箇条書きにすると以下の通りだと思う。
・SF
・ミステリ
・火星
ストーリーを一言でいうと、生きているうちに刑の見込みがない囚人を即席でトレーニングし、火星に送り込んで、NASAの正式な探査チームが到着する前に、恒久的な火星基地を建設させる。
こういうものです。
そして、これをNASAから請け負っている企業があって、その企業が所有している幾つかの刑務所から囚人を選び出しているのです。
これっておそらく、欧米では旧来、囚人を訓練して軍人とし、戦争に送り出すという習慣があるから発想されるのかな。日本ではないですよね。
しかし囚人、しかも死刑囚とか途方もない懲役刑(これも日本ではないけど、アメリカでは刑罰を累計して100年以上の懲役を科されている囚人がいるわけです)を科されている囚人から、減刑などと引き替えに志願させるとい形を取るわけで、ここが大切。
どんなにその後の扱いがひどくても、「本人が志願したのだ」と言い抜けられるのです。
人権問題にうるさい欧米でもこれは有力な言い訳になりますね。
そう。扱いがとてもひどい。何しろ普通は何年も訓練するだろうところ、「半年で」訓練を終えるんです。
当然、訓練が足りているとはいえない。
囚人は普通の宇宙飛行士と違い、冷凍睡眠で、貨物として宇宙船に積み込まれ、華やかに送り出される事がありませんし、氏名も公開されない、というかそういう囚人がいるという事さえ公開されません。名誉とは無縁です。
そして、火星で必要となる資材はぎりぎりのものしか送り込まれていない。
そう。破損していたり故障していたりしても、予備がないんです。
これはどうよ。火星ですよ。まだ何もなくて一から建設しなきゃいけない。なのに、予備も余裕もないのです。
人員もぎりぎりで、互いの技能をカバーできる人員は一名しかいない。
たとえば、主人公は建設作業の監督なのですが、同時に運転手のサブとなる事を命じられます。
資源はまず、「食糧と水、空気も足りなくなる」というところから判明します。
ちょっとー? と思うでしょう。
そして電源補助となるべきソーラーパネルの半分くらいが破損して到着している事がわかります。
さあ来た。
食糧、水、空気に加えて電源。
なんでも電気で動く(バギーだって電気自動車)である事を考えますと、これって生き延びられない可能性が限りなく高くなっていますね。
なんとか電力をやりくりし、基地の建物を完成して空気製造器を動かして与圧し、水生成装置で水を作って水耕栽培の農園を起動しなければ食べるものもない。
はい。サバイバルものが好きな方にはまことに好適です。
そしてこの過酷な環境のなか、ひとり、またひとりと仲間が死んでいくのです。
過酷な環境なんだから、誰かが命を落としても仕方がないよね。最初は誰でもそう思うでしょうが……。
次第に、その死亡状況が怪しいという事に主人公は気付きます。
いったい誰が仲間を殺しているのか。
実は主人公、仲間をスパイして背中を守ってくれれば、一緒に地球へ連れ帰ってやる。
監視役の、唯一の非囚人である社員の男からそう持ちかけられていました。
だから、厭でも犯人を見つけるべく動かないといけないのですね~。
囚人たちは、「囚人」というラベリングで十把一絡げにされているけれど、主人公が建設作業に詳しいように、あるいはプロの運転手であり、あるいは医者であり、あるいは天才的なハッカーであり、というように、それぞれが得がたい専門知識を持った人です。
しかし囚人である。
それも、重罪を犯して非常に長期の刑を言い渡されている。
だから、会社側は、使い捨てて全然OK! というスタンスなのです。
だからこそ訓練期間は短く、資源もぎりぎりのものしか届いていない、という事もわかってきます。
さあ。いったい火星基地はどうなるのか?
面白くないわけがありませんね。
各章の冒頭には、会社の社員同士の会話や、プロジェクトの責任者が担当取締役と思われる人物に報告しているシーンなどが、「××××ファイルの書き起こし」という注意書きつきで添付されています。
ここに、物語の謎を解く鍵が記されているのですが、それはパズルのピースのように、年月日もシーンもばらばらになっています。
本作はSF文庫に入ってますが、ミステリ文庫の方でもなんら問題がないと思う。
SFもミステリも好き、という人にはこたえられませんよ。