誉田哲也のレビュー一覧
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警視庁公安部の佐島は、大学時代の友人・稲澤の取調べに駆り出される。容疑は部下の女性・矢代の殺害で、稲澤は「矢代は中国のスパイだったのではないか」と言い出す。この一言から、物語は思わぬ方向へ動き出す。
本作の面白さは、巧妙な偽装にある。1話ごとに視点人物が替わり、そのたびに事実が揺らぐ。誰が誰を欺いているのか、どこまでが芝居なのかが最後まで定まらない。読者は佐島とともに「いつからハメられていたのか」と疑い続けることになる。
背後にあるのは、国家という巨大な監視網だ。個人の感情など簡単に呑み込まれてしまう世界で、人は嘘を重ねて生きていく。だからこそ、その嘘の底に残る本当の愛が胸に迫る、ミステリとしての驚きと切なさを両立させた一作。 -
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とある訳ありシェアハウスとそこに暮らす住人たちの人生やり直しの物語です。
メインの主人公はサラリーマン『だった』貴生。たった一回の酔い潰れた末の覚せい剤使用で逮捕され、仕事も友人も失くした上に、留置所から釈放された一週間後に火事で家からも焼け出される。保護司を通じて紹介された不動産屋の仲介で入居することになった住まいは、一見カフェのような佇まいの建物。一階部分はそのままカフェ兼居酒屋、二階部分が住居のシェアハウスとなっている『プラージュ』だった。バス・トイレ・洗面所などは共用、共用部分の掃除は当番制、希望者にはオーナーによって食事が提供され、住居の各部屋にはドアがない。そんな風変わりなシェアハウスに住む住人達は誰もがそれぞれ『訳あり』だった。
初めて読む作者の方のお話でした。
冒頭部分から中盤くらいまではゆっくりと状況の把握と地固めをしていくようなじっくりとした展開、中盤にとあることから「あれ?」と思うようになり、これはもしかして、と気付く辺りから物語は急速に動き出して最終盤に向けては怒涛の疾駆。読み終わって一気に駆け抜けた後の放心状態のような気分を味わいました。面白かったです。
オムニバス形式なのかとも思いましたが、少し雰囲気が違うようにも感じました。三人称かつ一元視点で各章で語り手がどんどん変わっていくことによって、住人のそれぞれが抱く過去や想いがダイレクトに描かれ、住人たちの解像度がどんどん上がっていきます。そして、彼らのことを知る度に、どんどん彼ら一人一人が魅力的に見えてきて、彼らそのものに惹かれていく。ラストに向かっては怒涛の一言でした。
罪状、前科、執行猶予や、釈放…社会のルールに則って生きている上ではあまり意識しないそれらは、もしかしたら今歩いている地面の表裏で、ある時突然反転してしまう世界があるのかもしれないと、この物語を読んで感じました。そして、反転した世界は、反転する前の世界と明らかに変わってしまう。世間の人々からの目も、人間関係も、社会関係も、全て。誰しもある日突然陥るかもしれないその状況に、こんな場所があったらいい。そう思わせてくれる『プラージュ』のあたたかさが、とても心に沁みました。
そして、主要人物とは別に時折登場する人物たちもまた魅力的です。器の大きな人間は格好いい、そんなことを感じさせてくれる一冊でもありました。人は過ちを犯す生き物だ、と言ったのは誰だったか…その過ちを認め、見つめ、やり直したいと心から思う人を受け止めることのできる格好いい大人に、私もなりたいものです。
大人になっても人は人間として成長することができる、そんなことを感じさせる、人と人との繋がりを愛しく思うことのできる一冊でした。 -
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昨年は米価が高騰しました。
原因は、猛暑による精米の供給減に加え、インバウンドなどによる需要の急増や、災害リスクを背景とした買いだめなどが重なったためのようですが、減反政策も無関係とは言えないと思います。
米は安価なものだと勝手に思い込んでいましたが、この作品を読み、思っていた以上に農業に従事されている方々が努力されていることを知り、改めて敬意を表します。
今年は、新米の流通や高値を受けた農家の生産意欲向上などにより品薄感が解消され、需要が一巡したことで市場も落ち着き、米価は安定しています。しかし、昨年のことを忘れてはいけないと感じました。
宮城県沖地震を思い起こさせるような悲惨な場面もあり、私自身も会社の応援で2か月弱、現地に赴いた経験を思い出しました。
好人物ばかりが登場するため、安心して読める作品であるはずですが、自然災害、農業政策、エネルギー政策など、さまざまなことを考えさせられる作品でした。 -
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姫川玲子と姫川班を描く全7編の短編集。
「それが嫌なら無人島」女子大生殺害事件を追う玲子を阻む別件捜査。
「六法全書」自殺した男の床下から見つかった身元不明の女性。
「正しいストーカー殺人」ストーカーを殺したと自首した女性に隠された事情。
「赤い靴」殺人を自供する女性と、食い違う遺体の状況。
「青い腕」「赤い靴」と同じ事件を別の視点から描く連作。
「根腐れ」覚醒剤所持で自首した人気モデルを玲子が取り調べる。
「それって読唇術?」姫川班の面々と、シリーズのこれからを予感させる一編。
短編ながら事件はどれもしっかり面白かった。中でも「赤い靴」「青い腕」は、同じ事件を日野と姫川、それぞれの視点から描くのが面白い。同じものを見ていても、人によってこれほど見え方や受け取り方が違うのか。二人の視点を続けて読むことで、以前から感じていた微妙な噛み合わなさにも妙に納得してしまった。やっぱり少しズレている。でも、そのズレが面白い。「小説を書くこと」が事件に絡んでくる展開も印象に残った。
『根腐れ』では玲子の感情が爆発。「やっぱりこれがないと物足りない」と思う自分がいる。鋭い筋読みだけでなく、理不尽なものを前に感情を抑えきれなくなる姿も、今では姫川玲子に欠かせない魅力になっている。
そして『それって読唇術?』では、別シリーズの魚住久江が今後関わってきそうな気配も。魚住久江シリーズはこれから読むつもりなので、そちらへの興味と、姫川玲子シリーズの次巻以降への期待が一緒に膨らんだ。
『シンメトリー』『感染遊戯』『インデックス』と読んできたが、長編では拾いきれない人物や関係性に触れ、シリーズの世界を広げながら次の物語へとつないでいく。今回も、姫川玲子シリーズにおける“短編集の役割”を存分に堪能した。 -
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調べたらおよそ6年振りの『姫川 玲子』シリーズ8弾でした❗️
6年もの間読まなかった理由は、著者である誉田 哲也さんの、Xでの数々の投稿が余り共感出来なくて、少し距離をおこうと思ったからです
そして今回久し振りに本シリーズを手に取ったのは、単純に『姫川 玲子』というキャラクターが好きだからでした。また、先月文庫化された『マリスアングル』を読んでみたいという衝動に駆られたからにほかありません❗️
さて、本書の感想ですが、姫川 玲子やガンテツが少しチャラくなっているように感じたのは気のせいでしょうか⁉️
個人的には、『北朝鮮拉致問題』というとてもデリケートな問題を正面から描いた、シリーズの異色作だと思っています❗️
もしも貴方の大切な誰かが、国家が絡むような事件に巻き込まれたなら、貴方はどのように対処するでしょうか⁉️読後は非常に居た堪れない気持ちになった作品でした -
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ネタバレやっぱり警察小説 好きだわぁ!
久しぶりの誉田哲也。またさらに久しぶりの“苺”シリーズ。
単行本の刊行時、姫川玲子と魚住久江の共演・・・と話題になってたのはまだ記憶に新しい。とはいえ
“おおっ魚住久江との共演?”と自分も興奮したかといえば、そうでもない。「ドルチェ」も「ドンナビアンカ」も文庫化されてすぐに読んだし、ちゃんと面白く読み終えたのだけれども、今内容を問われたら思い出せないかな・・・という程度だから。
そう考えると、“苺”のシリーズはほとんど全てだいたいどんな話だったかの説明はできそう。姫川玲子というキャラクターに自分がどれだけ魅せられているかということね、と1人でニンマリ。
さて、今回も前作同様、事件については特に語らずともいいかなと。魚住と組むことにより、ずっと抱えてきた暗い過去に少しの光が射してきた・・・姫川玲子の物語が少し前進したというのを堪能させてもらったということで、
★4つ、9ポイント。
2026.09.22.新。
※恋の予感は匂わされてきたとはいえ、のっけから
武見を指して
「初めて寝た後・・」との描写に、ちょっぴり寂しさを覚えつつ。でも、しっかり“ちょっぴり恋しちゃってるかも感”な描かれ方に安心 -
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ネタバレノーマンズランド
姫川シリーズ
今作事件そのものというよりはこの作品世界に蔓延る裏の部分を明かされた様なストーリーだ。
当初から関わり続けているガンテツがどういう行動規範で生きているのか、かれの生きている世界は何処か。そういった部分の発端を見る事が出来た作品だ。新しい登場人物達も登場し、シリーズの枠が一つ広がった様な印象を受ける。
今作では短時間ではあるが旧姫川班のメンバーがそれぞれ登場し、物語に花を添える。
菊田は言わずもがな、湯田は日下の配慮で玲子とペアを組む機会があり、葉山は相変わらずガンテツへの興味ももちながら立ち回りをしている。石倉は鑑識の方に行っているが、捜査の過程で再会している。勿論、国奥や井岡などいつものメンバーも登場する。
日下がより魅力的になった様に思う。玲子はまだ彼に苦手意識を持っているが徐々に打ち解けていきそうだ。
物語の根幹は20年まえの少女失踪事件に端を発し、現代に起きた女子大生殺人事件から容疑者と思われる男が別の事件で勾留されているという場面から始まる。
物語が進みにつれて、20年前の事件の真相が明らかにされつつ、その中で当時の当事者達がどの様な苦悩や葛藤を抱えて生きているのかがみえてくる。ネタバレになってしまうが、北朝鮮の拉致被害という国家的な問題を目の当たりに、それに立ち向かう人々の苦悩が描かれる。長期的な未解決事件の被害者家族について、苦悩は計り知れないし、工作員を拷問し、真実を手繰り寄せたとしてもだから何ができるでもないというやるせなさは残酷である。
また、一人の青年の愛情というかある意味呪縛の様な使命感も切なく、今作は誰も救われないという悲しい作品である。
初美の両親には真実を伝えられないのか、真実がわかる事で彼らも一つ区切りがつくのではないかと思う。
最後、玲子と武見の関係がこれからも続きそうだが、やはり玲子の周りには少し変わった連中が集まってくる様だ(笑)武見もだいぶ尖った人物であり、今後も登場が楽しみだ。 -
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重厚な誉田哲也が好きだったけど、ライトな誉田哲也もいい!
そう思わせてくれる納得の作品だった。
モデルやちょい役の女優でも活躍中の主人公・梨紅。
でも、本人が一番やりたい音楽の面ではスランプに陥っていた。
そんな時に目にした動画のギタリストに衝撃を受け、6、7年行方の分からない彼を探す梨紅。
SNSの些細な情報から彼が山形にいることを突き止めたが、彼もまたスランプに陥り、世間から逃げていた…
梨紅の音楽が好きな気持ちがとても伝わって来るのが、心地いい。
最初は梨紅の存在を鬱陶しく思っていた春樹が、梨紅の押し付けずに、次第に春樹が音楽と向き合えるようになるまで待ち続けてくれる気持ちに感謝しているのも、よく伝わる。
こういう話によくいる悪役も誰もおらず、ただただ優しい気持ちで読める。
ギターは弾けないから、専門用語は分からないけど、二人の音楽が出来上がっていく様子は、頭の中で音を奏でるよう。
少し前にちょうど酒田に行って、美味しいワンタン麺をいただいたのも、縁を感じる一冊だった。 -
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世田谷・祖師谷で起きた母子三人惨殺事件を追う姫川班。捜査が難航するなか、28年前の未解決一家殺害事件との共通点が浮かび上がる。過去と現在、二つの凄惨な事件をつなぐものとは――。
冒頭の独白からすでに漂う不穏な空気。その先に描かれる犯行は、これまで読んできた姫川玲子シリーズの中でも、ダントツと言っていいほど胸糞が悪かった。
これだけ凄惨な事件でありながら、捜査パートは意外なほど地味で、姫川班は地道に情報を積み重ねていく。その分、新しい姫川班のメンバー一人ひとりの人物像や、少しずつ形作られていく関係性が丁寧に描かれているのが印象的だった。
一方で、合間に差し込まれる犯人の独白は、重なるごとにその異常さを増していく。最初は不気味だった存在が、次第に得体の知れない怪物のように感じられてくる。その不穏さを抱えたまま進む物語が、終盤、それまでの鬱憤を晴らすかのようにクライマックスへ向けて一気に加速していく。
そして、玲子だからこそ気づけたであろう違和感。けれど、気づいたからといって、すべてに間に合うわけではない。そのやるせなさまで積み重なった先に放たれる玲子の魂の叫びが、強く心に響いた。激しく、それでいて切ない。
派手さよりも地道な捜査を丁寧に描いてきたからこそ、終盤の緊迫感と玲子の感情がより鮮烈に浮かび上がる。衝撃の結末まで、一気に読まされた。
そして解説を読んで、本作が誉田哲也さんの別作品とのクロスオーバーになっていることを知った。中でも強烈な印象を残した“ある人物”が気になって仕方がない。その人物が登場する作品も、ぜひ読んでみたい。