トルストイのレビュー一覧
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第3部第3編と第4部第1~2編を収録。ナポレオンのモスクワ占領から放棄までの多様な人間ドラマが描かれる。
迫るナポレオン軍、逃げるモスクワの人々。脱出間際の騒動のなか、ロストフ家がとる決断が感動を呼ぶ。
負傷したアンドレイが到達する「魂の本質としての愛」――すべてを愛するということは、すなわち神をそのすべての現れにおいて愛することだ――最近のスピリチュアル風に言えば「無条件の愛」ともいえる境地。ここからのナターシャとの再会劇は魂が震えるほど感動した。小説で泣くというのはめったにないことなのだが……。
ニコライとの出会いによって覚醒するマリヤの女性的な魅力。みにくいアヒルの子が美しい白鳥になるかのような変貌ぶりが素晴らしい。これまで苦労に苦労を重ねてきた彼女の、内面・精神世界が表に現れる瞬間でもある。
いっぽうモスクワに残ったピエールもフランス軍との関わりの中で大きく変貌していく。どん底の囚われの生活の中で初めて心の安らぎをえた彼の姿には、余計なものがすべて削ぎ落とされたような清々しさを感じる。しかし軍が退却を始めると大混乱が生じ、ピエールの人柄ゆえにそれまで仲良くしていたフランスの兵士たちが、突如人間らしさを失ってしまう。ここでの「自分と同じ人間を殺すことを無理やり人に強いる力」=この不思議な、無慈悲で破壊的な力という表現は、戦争の恐ろしさをよく表していて心に重くのしかかるものがある。そんななかでピエールもまた、アンドレイとは別の観点から自らの内にある不滅の魂に目覚めていく。
モスクワではフランス軍の規律違反から略奪行為で収拾がつかなくなり、退却までの大混乱が描かれるなか、人物たちの変化が読者へも波及するような深いドラマが展開され、これまでで最も読み応えのある巻だった。 -
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第3部第1~2編を収録。ついにモスクワに迫るナポレオン軍――ロシアの一大危難に立ち向かう人々を描く。
軍務に復帰したアンドレイは、悲しみと憎しみのためか、例の「空」のことも自由を満喫した生活のことも忘れていく。多言語が入り交じる軍務会議のなかで、「戦争の科学」など存在しないという結論に達するのは作者の信念でもあるのだろうか。いっぽうで父との軋轢が重なるマリヤは、それでも許しと信仰を兄に主張する。言動がひどい父親も決して悪人というわけではなく、この家族は本当にせつない。
黙示録の獣の数字とナポレオンの関係は知らなかった。ピエールがそれを自分に当てはめるのはさすがにこじつけすぎて笑ってしまう。その妙な使命感から危険をかえりみず戦場を見学しに行くという奇行は、本人は真剣なのだが、どこかユーモラスに思える。
肉体と精神の危機を乗り越えたナターシャは、幼さが消えて魅力的な女性として成長したと思う。心の流れが鮮明に描かれてきたせいだろうか、これが文章で伝わってくるのがすごい。
人間が自発的だと思ってする行動はすべて必然的な歴史の道具であるというトルストイの運命論と、ボロジノ会戦におけるナポレオンの様子は、そのヒーローとしての幻影を打ち砕くものだ。そして迫るフランス軍と逃げていく住民の混乱と喧騒の描写は、日常から最初の砲撃、焼かれていく町の姿など、リアルで恐ろしい。そんななかで、儚げなロマンスがいくつか発生するのが見どころ。
終盤、負傷したアンドレイが愛と許しに目覚めるシーンが圧巻。オードリー・ヘップバーン主演の同名アメリカ映画を観たことがあるが、こうした部分はどうしても映像では伝わらないので、興味のある人はぜひ原作小説を読んでほしい。 -
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第2部第3~5編を収録。舞台は戦場から貴族社会へと移り、青年たちの恋愛と結婚についての騒動が描かれる。
人生の新たな局面に取り組むアンドレイとピエールだったが、虚飾に満ちた社会にぶち当たり、それぞれに行き詰まっていく。直接からむ場面は少ないものの、この二人の友情は強いものに育っており、アンドレイが旅立つ際、ピエールのことを「黄金の心の持ち主」と言って評価するのが印象深い。
本巻で最大の見どころはナターシャがとる行動とその顛末。オードリー・ヘップバーンの映画ではナターシャの行動が唐突で意味不明に思えて、彼女が軽率で悪い女にしか見えなかったのだが、原作ではそこに至るまでの状況の経緯や心境の変化が克明に描かれており、彼女の若さやボルコンスキー家の対応の酷さなども考えると、この流れでは仕方ないよなぁとようやく納得した。
ロストフ家の財政危機のなか、ニコライに迫られる「愛していない金持ちの女か、愛している貧乏な女か」という究極の選択がシビア。また、ボリスやアナトールのような、ピエールやアンドレイとは全く異なる価値観や行動原理を持つ人物が幾人も登場し、その豊富な人物群や人間観察の鋭さが、非常に興味深かった。孤独なマリヤさんの信仰心と現実との葛藤も心に残る。
第2部の終盤では悲劇のような重い結末のなかに、思いがけない新しい関係が生まれ、かすかな希望の兆しが感じられた。大彗星を見上げる美しいラストにしばし呆然とする。 -
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第1部第3編と第2部第1~2編を収録。戦場から戻ったアンドレイとニコライ、遺産相続後のピエールの苦悩。
ボルコンスキー家における求婚騒動では、マリヤの下す決断に感動。美人の軽薄さと、不美人の美しい心根。人間、何が幸せなのかと考えさせられる。
いっぽう兄のアンドレイはアウステルリッツの戦いで負傷する際、至高体験のような精神的な啓示を得る。戦争と死を目の当たりするなかで、見上げていたナポレオンを俯瞰するまでに至る心の変化に目を見張った。
陰キャで目的観のない青年ピエールは、転がり込んできた金と権力で美女と結婚はするものの、うまくいかず結局すべてが行き詰まることに。自らの生き方を見出すべく根源的な問いに悶々とする姿は共感する人も多いだろう。やがて新たな世界に身を投じた彼はアンドレイと人生論で激論をかわすことになる。ここのやり取りが、宗教にハマった若者が現実を知っている年上の友人を勧誘しているようにしか見えなくて、ピエールがかなり痛い人に見えてしまった。しかし理想を語る彼の言葉は、安易な博愛精神に見えつつも、「戦場に横たわって見たあの高い永遠の空」という至高体験をアンドレイに思い出させ、内面世界を新たにする転機となる。これには驚いた。「現実を見ろ」で終わりそうなものが、やはりアンドレイにも純粋な精神性が眠っているがゆえに、生き様も状況も全く違うピエールと共鳴を始めたのだろうか。
無意識的にも精神的価値を求めていくアンドレイ、ピエール、ニコライといった青年たちと、権力に取り入ってのし上がっていくボリスや、欲望と実利の追求に邁進するクラーギン公爵家の人々などとの対比が印象深い。正直、もっと難しい小説かと思っていたが、深遠なテーマをはらみつつも、人物への興味がつきず面白い。先は長いが、楽しんで読み進められそうだ。 -
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19世紀初頭、ナポレオン率いるフランス軍との戦争を背景に、国難に立ち向かうロシアの人々を描く長編小説。
全6巻ある本訳の第1巻は、社交界を舞台に5つの家族の人物紹介が行われる第1編と、ロシア軍とフランス軍との交戦が描かれる第2編を収録。
第1編では、社交界を描いた小説ではありがちだが、とにかく登場人物の数が多くて把握するのが大変。本作では500人以上の人物が登場すると事前に聞いていたので、最初からメモを取って読んでいくと、混乱することなく楽しめた。個性的なキャラクターと興味をひく人間関係、そして井戸端会議的な会話がリアルで面白い。群像劇的でもあるが、未だ将来を決められない青年ピエールくんの棚ぼたラッキーに、なろう小説的な主人公補正を感じる。
第2編では、総司令官の副官アンドレイ公爵と見習士官ニコライを中心に、行軍と戦場における策謀が描かれる。迫りくるナポレオンの強大な軍隊が恐ろしく、退却するロシア軍とその時間稼ぎのために足止めに行くバグラチオン隊の克明な描写は緊張感にあふれている。そのなかでここでも多様な人物が登場し、その人間模様が興味を引く。「栄光を求めて戦争に参加したけど思ってたんと違う」という二人の運命は如何に。第1編では家族というミクロの世界で幸福と不幸を味わっていた彼らが、戦争というマクロの世界でどう変わっていくのか、今後も目が離せない。
お硬いタイトルで敬遠しがちな大長編である本作、意外にも大河ドラマ的で読みやすかった。地図も載っていて歴史的背景に詳しくなくても問題なし。しかしこのご時世でロシアの人々に共感できないという意見もあるようで、そんなことはないと思うがまずは論争を避けて物語に没頭したい。 -
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クロイツェルソナタとは、ベートーベン作曲のバイオリンソナタ第9番イ長調作品47のこと。私は聞いたことがなかったが、動画を検索して聞いてみると、バイオリン1台とピアノ1台が互いに調和しながら進行していく優雅な曲だった。そう、まるで仲睦まじい男女が目配せながら言葉を交わし合うかのように。
ところで収録2作品のうち「クロイツェル~」のほうは文庫本で173ページ。だが、ある男が列車に乗り合わせた初対面の男性に対し、性欲はすべてに勝るという主張を自分の半生を織り交ぜて語る文体は、サスペンスの要素濃い内容とあいまって、長さを感じさせない。
内容を見ると、ある男の妻の前に若くて気障なバイオリニストが現れ、妻もピアノでその男と合奏するのが楽しみになっていく。一方で性欲の絶対的存在感を信じる夫は、妻と男との間に音楽の結びつき以上の“何か”を感じるようになり、2人に対する嫉妬が徐々に高まっていく…という話。
ある日、夫は長期出張しなければならなくなったので、妻と男とに自分が不在の間は絶対に会うなと念押ししたものの、不穏なものを感じて予定を切り上げ帰宅する。列車が遅れて深夜に家に着いた夫が目にしたものは、夜遅くにもかかわらず仲良さげに演奏する2人だった――
ここで私は、この場面が妻の不貞を夫が証拠としてつかんだ瞬間という一般的評価(と思われる)とは少し違った読後感をもった。
私にも妻がいるし、女性を聖人化するつもりはまったくないのだけれど、妻と男の2人は、夫が不在の深夜という時間であっても、本当に性的関係を最終目的に逢引していたのだろうか?例えば、夫の想像に反し、実は2人は月が美しい夜だったので純粋に演奏を楽しみたかったのだとは考えられないだろうか?
トルストイの履歴に照らし、意識的にも無意識にも性欲に支配される男と女が必然的に陥らざるをえない悲劇が描かれたと読むのは簡単。だが、大阪弁でゲスく言うと「愛だの芸術だのって言いながら、結局はアレしかないんかい!」みたいな結末を文豪があえて書いたとは思えない。
だから私は「クロイツェル~」を、性欲の絶対性とそれに結局負けてしまう人間の悲劇を描きながら、性欲に芸術的欲求が打ち勝つ可能性も微量に含ませていたのでは、と考えるのである。
でもそんな読み方では三島由紀夫なんて読めないし。私が浅いだけなのだろうか。 -
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難しくて全4巻読み切るのに日数はかかったけど、内容の濃い、面白い作品だった。読んで良かった、この時期(混沌としたコロナ禍の時代、かつ個人的にも悩み多い時期)に読めたことにも意味があるかと。
第4巻について言えば、『エピローグ』は良くも悪くも意表を突く展開だったな、と。特に最後の方は難しすぎて読むのがしんどかったけど、著者の主張をできる限り受け止めたつもり。
登場人物が多い(しかも主人公レベルが複数人いる)中で、ある時はナターシャに共感し、ある時はマリアに自分を重ね、でも結局自分に一番近いのはピエールかなぁ…なんて思ったり。アンドレイも通ずるところ大アリだなぁ…。 -
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戦争はクライマックスを迎え、ナポレオンがモスクワを占領してから退却していく様子を描いている。さまざまな関係者がさまざまな思惑を持って行動している様子が面白い。立場の違うそれぞれの人物を詳細に描いている筆力はすごい。
「リンゴが熟すまでは木からもいではいけない。熟せばリンゴはひとりでに落ちるのに、未熟なうちにもぐと、果実も木も傷めてしまい、おまけに自分も酸っぱい思いをすることになる」p521
「(人は期待にそぐわぬ情報は無視してしまう)だからクトゥーゾフは、自分が望む情報であればあるほど、それをあえて信じまいと自制していた。この問題に彼は自己の精神力のすべてを注いでいた」p524 -
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華やかな上流社交会で繰り広げられる、人々の付き合いの中での人間関係や登場人物の気持ちの変化が面白く、絶妙な物語展開に引き込まれた。
「自分にはかかわりのない事柄については、冷静なる観察者であるべきなのだ」p68
「私は自分がこの相手より上だと意識しているので、そのせいで相手よりはるかに劣った振る舞いをしてしまう。こちらが無礼な言動をしても相手は寛大に聞き流しているのに、こちらは逆にますます相手を見下すという始末だ」p72
「(狩猟犬)私なんかの出る幕かね! あんたがたの犬ときたら、犬一頭の値が村ひとつというような、何千ルーブリもする奴ばかりじゃないか」p239
「敵の砲火を浴び、何もできない状況の時に、兵士たちは懸命になって自分の仕事を探そうとする。何かで気を紛らわしていた方が危険をやり過ごしやすいからだというのだ。ピエールには、すべての人間がこの兵士たちと同じ方法で人生をやり過ごそうとしているように思えるのだった」p328 -
Posted by ブクログ
第1巻よりはだいぶ読みやすいと感じられた。そして、一層面白いと感じた。
登場人物の個性がかなり際立っていると感じられた。
とは言え、同じ人物でも、ある時には人生に絶望していたかと思えば、ある時には人生にまばゆいばかりの光を見出したり。この第2巻では、メインキャストのナターシャもアンドレイもピエールも、その両方を経験している(…と記憶している、ロストフもだったか?)。
それがとても「人間臭さ」を感じさせるし、自分にとって身近に感じてしまう。ずっと昔のロシアと21世紀の自分が、近くに感じられる。
あと、描写も相変わらず素晴らしい。特に、ロストフが狩りに出かけた時の描写がいいと思った。 -
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さすがです。
自分の読みたい中心人物は丁寧に、あとはとばす位にしました。
考察がしっかりしていて、さすがです。
ハムレットは「死ねば夢を見るだろう」と言ったが
死後新しく目を覚ますといった考えは思い及ばなかった。
キリスト教的なのか。
ピエールに関しては、伸るか反るかで、決闘や、暗殺計画、
フリーメーソン、銃殺まで出てくるとは思わなかった。
農業経営の改革については手腕の良しあしが比較できる。
ピエールは表面的だ。
夫婦は論理ではなく、それを飛び越えてわかりあっているとか
おおお!って思った。
最後、戦争論が延々とあったがとばしたので
いつかしっかり読み直せるかな?