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ナポレオンの大軍は、ロシアの大地を潰走してゆく。全編を通してトルストイは、歴史を作るものは一人の英雄ではなく、幾百万の民衆の生活にほかならないという歴史観を明らかにしてゆく。また、アレクサンドル一世から一従卒まで、全登場人物559人のすべてを、個性ゆたかに生き生きと描き出すことによって構成される本書は、世界文学の最高峰とよぶにふさわしいであろう。
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Posted by ブクログ
「戦争と平和」を読み、「戦争」と「平和」と「人間」の関係性について考えずにはいられなかった。 平和の中で育った人間が戦争を生み出すのではない。反対に、戦争を生き抜いた人間が平和を築き上げるのでもない。 「戦争」と「平和」が混在するこの世界においては、いかなる人間も双方に影響を及ぼすことはないのだ...続きを読むと思う。 戦争が起こるのには原因があり、平和がもたらされるのにも原因がある。それぞれの原因を、我々は人間に求めるのではなく、「歴史」に求めるべきなのだと感じた。歴史の中において人間という存在は、ナポレオンやアレクサンドル皇帝であっても、ひとつの歯車に過ぎない。 戦時にはより多くの殺戮を行なった者が称賛され、平時には戦争を防ごうと努める者が評価される。 結局のところ我々は、「歴史」というあまりに大きな波の中において、右往左往するしかないのである。
ピエールが、「モスクワの伯爵」の伯爵を思い出させた前半。 小説と括れない。 私はトルストイが好きだ。
難しくて全4巻読み切るのに日数はかかったけど、内容の濃い、面白い作品だった。読んで良かった、この時期(混沌としたコロナ禍の時代、かつ個人的にも悩み多い時期)に読めたことにも意味があるかと。 第4巻について言えば、『エピローグ』は良くも悪くも意表を突く展開だったな、と。特に最後の方は難しすぎて読むの...続きを読むがしんどかったけど、著者の主張をできる限り受け止めたつもり。 登場人物が多い(しかも主人公レベルが複数人いる)中で、ある時はナターシャに共感し、ある時はマリアに自分を重ね、でも結局自分に一番近いのはピエールかなぁ…なんて思ったり。アンドレイも通ずるところ大アリだなぁ…。
戦争をバックに恋愛物語と簡単にとらえるにはトルストイの歴史観、哲学観がぎっちりとあってその重圧に圧倒されてしまった。 恋愛の方はナターシャとマリヤがしあわせになってちょっと拍子抜けだけれども、めでたしめでたし。若いころ読んだらきっと感激していい気持ちになったと思う。 その若者達のはつらつ...続きを読むした苦しみ、悩み、生命の躍動、高揚を挿しはさんで、地に流れる歴史のとらえかたの叙述に目を見張らされた。 「歴史が動いていくのは一人の英雄傑物の意思ではなく、おおぜいのひとびとの総意である」というような、少々辟易の感もあったが(文章が饒舌で)なるほどと思った。 それにしても権力や地位を得るために権謀術策、懊悩辛苦、滑稽喜劇を演じる様までいきいきと、トルストイの描写はさすが。ナポレオン皇帝やアレクサンドル皇帝という実人物も登場させて総勢500人余の登場人物、怒涛の名作ではあった。 そうか、歴史が動いていくのはある一人の指導的人物の命令ではなく、それを受け取る人々の命令通りにやるか、やらないか、付け加えるか、勝手にやるかの総合した意思なのか。 そりゃそうだ。特に戦争状態、緊急状態の時と場合によって、状況変化もあろうし、個人の利権を優先する気持ちの変化もあるだろう。 ひるがえっておおげさだけれども、日本のこの下降している状態も歴史的に観られればいい、渦中で右往左往しているからどうなるかさっぱりわからないんだと思う。
コロナで混乱する現実社会からの逃避?的に読み始めて、 頭の中でパラレルワールドのように展開。 あらためて感じる人間観の鋭さ。 上が命じたとおりに人は動きはしない。 民衆の動く方向に、司令官が合わせていく。 欠点のない人間もいないし、 欠点だけの人間もない。 若いうちに読んで起きたい気もするけど ...続きを読む40歳を越えて分かることもある。 60歳くらいで再読したら。また発見がありそう。
ロシア帝国の華やかな社交界における様々な人間模様、人間関係、ひとりひとりの感情の微細な変化をこと細かく描かれているトルストイのその文才には感嘆した。 なによりも、国家とはまさしく幻想の共同体にすぎないことを思い知らされた。一個体としての人間の集合体で支えられている組織は、時としては皇帝の一声でダイ...続きを読むアモンドよりも強固になることもあれば、逆に泡のように脆くなることさえある。国家は結局は人間によって支えられている。 個人的にはアンドレイ・ボルコンスキイの心情の変化は興味深かった。
長い、とにかく長い。 別に登場人物のかけあいや心理描写は長くてくどくて結構なのですが エピローグの二部の所が死ぬほど長く感じました。っていうかくどい・・・ 回りくどい説明口調で更に読みにくい。トルストイ自身の考えを述べているのでしょうけど、殆ど頭に入りませんでした。 要約すると10ページくらいでまと...続きを読むまるのでは? 読後感がそこで全てそぎ落とされた感じです・・・ちょっと切ない。 それでもこの作品はすごかった。最初から最後も良い意味でも悪い意味でも。 今は同じ作者のアンナカレーニナを読んでいますが、そっちの方が断然読みやすいです。私自身が歴史にあまり興味が無いというのもありますが・・・ こんなに登場人物が多い小説もそうそうないと思います。とにかく名前と関係を覚えるのに苦労しました。
最後の最後まで、完璧。 トルストイの中でもっとも感銘を受けた作品となった。 こんな作品に出会える事が、あと何回あるだろう? そう思って寂しくなるほど。 でもエピローグは読む必要がないと思う。
「戦争と平和」を読み終え、なぜこれだけの字数をトルストイは必要としたのか分かるような気がした。歴史を作るのは人であり、人の暮らし、会話や感情の表出こそ重要だと。他の歴史小説を読んでいても、多くの場合、書かれている人物の心の内、心の襞に入って語られることは少ない。ボロジノの会戦やモスクワ炎上を主にナポ...続きを読むレオンのロシア遠征が詳細に語られる中で、パラレルに進捗する五つのロシア貴族の浮沈は迫力満点であったし、その人物の動きと物語の展開は秀逸であった。ピエールとナターシャ、ニコライとマリアに収斂する愛の物語の起結に深い感動を覚えた。
もしも、自分が出版社の編集者で、レフ・トルストイさんが、「戦争と平和」を持ち込んできたら。 読んだ上できっと、ひとつだけダメだしをすると思うんです。 「大変面白いんですが、全体に時折、あなたの歴史観、歴史考察の部分がありますね。特に、第四巻に多いです。この部分は、思い切って全部カットしましょう。...続きを読むそれでも全く物語としての面白さは損なわれません」 で、もし抵抗されたら。 「では、少なくとも、第四巻のラスト、物語が終わってから文庫版で80ページもある論文みたいな部分だけでも、全カットしましょう」 と強く訴えると思います。 「どうしてもこだわるのなら、それは別の本として出しませんか?あるいは、小説としては含まず、巻末に、あとがきとして入れましょう」 # 読み終えての第一印象は、ほんと、ラストの論文部分が蛇足でした...(笑)。 それに尽きます。 第1巻から、時折、そういうトルストイさんの地の文というか、論考めいた部分はあったんです。 ただ、そんなに長くなかったし、はじめはその主張に「へえ~」という発見もあったから、許せました。 しかし、第4巻に入ると、それが徐々に長く苦しくなってくる。 それに、内容的には、同じようなことがループします。 「歴史学者の考えるような、理路整然とした物語は実際の歴史ではない」 「一人の権力者の意思が末端まで支配した、とデジタルに考えるのは安易だ」 「歴史というのはもっと無数の人の細かい意志や偶然が左右している」 みたいなことが延々と語られるのです。 正直に言って「またか」とも思ってきてしまうし、歴史の要因という考え方については、確かに一理あるし、小説家的な感性だなあ、と思います。 けれど、どこかもやっとした、スッキリしない、批判に終始する気持ち悪さがありますし、マルクス学のような歴史の見方とか、経済や産業と言った、ある種の必然の要因はスッパリ触れられていないのも、なんだか消化不良...。 # と、まずはチョット貶めてしまいましたが。 全四巻通して、もう、素晴らしい面白い小説でした。 ムツカシイ主題やテーマや歴史とは何かみたいなことは、実はどうでも良いんです(笑)。 それは、小説として面白かった上に、トッピングみたいなものですから。 (そういうムツカシイ思考が、小説としての面白さを支えている、とも言えるのですが、それは結果論。だって、何が支えていようと、面白くなかったらそれまでですからね。読む側としては) つまりは、1805年に恐らく15歳~25歳くらいだった男女数人の、およそ20年に渡る物語。 恋愛があって(なんだかんだ言っても、恋愛、という要素が無かったら、この小説は骨抜きになります)。 両想い、片思い、横恋慕、すれ違い、心変わり、一目ぼれ、強烈な出会い、裏切り、後悔、結婚、不信、エトセトラエトセトラ... これだけでも、およそ現今のあらゆる恋愛物語を数百倍上回る、えげつなさと格調を見せつけます。 そこに、親子の葛藤、兄弟の確執、金の執着、出世の欲望、世間体のこだわり。 さらに、ナポレオンやアレクサンドル1世という人物を配した英雄歴史小説の醍醐味があり。 その上で、戦争、戦場のリアルな混乱や恐怖、躁状態の生々しい小説体験。 そして、恐ろしい数の脇役たちが皆、ぎらぎらと人間臭い...。 # 第四巻を読み終えて。 主要登場人物が、ピエール、アンドレイ、ニコライ(以上男性)、ナターシャ、マリア(以上女性)。 まあ、だいたい5人います。 なんだかんだ、最終的にはその5人に感情移入して読ませるんです。 そして、5人とも、あわや死ぬのではないか。死ななくても、みじめな不幸のどん底に落ちるのではないか。と、いう危機をいっぱい迎えます。 なんだけど、最終的にトルストイさんは、1人だけ戦争で死んでしまうのですが、残りの4人には、なんとかハッピーエンドを準備してくれていました。 (死んでしまう1人も、なんていうか、精神的に最悪の状態は避けての死、になります) (まあ、ハッピーエンドといっても、フィクションとは言え彼ら彼女らの人生は終わっていないし、ロシアの歴史と同じようにまだまだ色んな幸福と不幸があざなえる縄のようにこれからも続くだろう、というレベルではありますが) そこンところ、凄く読み手としてはほっとしました。あーよかったって(笑)。 やっぱり、長々と人物に感情移入して読んできて、いくら歴史というもの、戦争というものが残酷で無情だったとしても、 「それはそれとして、頼むからこの人たちを不幸にしないでえええ」 惚れ込みながら読んできたわけですからねえ。 そこらへん、トルストイ、分かっているなあ(笑) あるいは、当時の編集者が、 「この論文部分、どうしても残したいの?...アンドレイも殺したいの?...ぢゃ、アンドレイ以外は、一応ハッピーエンドにしましょうよ」 と、ダメだししたのかも知れませんが...。 ###### 以下、個人的な備忘メモ。ネタばれ、あらすじ。 ###### ●アンドレイは、ナポレオン軍との戦闘で重傷。虫の息だけど、富豪の荷馬車に拾われて逃げていく。 ●その富豪は、偶然ながら、ナターシャの一家だった。ナターシャというのは、かつてのアンドレイの許嫁。いろいろあって婚約解消していた。 ●アンドレイとナターシャは再会。死を意識して心境が変わっていたアンドレイは、素直に彼女を許します。彼女も謝ります。ふたりは再び、愛し合う感じになります。だけど、アンドレイは、幼い一人息子を残して死んでしまいます。 (この息子は前妻との子。前妻はお産で死んでしまっています) ●ナポレオン軍が占拠したモスクワ。ピエールは、ナポレオンを暗殺しようとモスクワに残ります。でも、火事場から人助けをしたことから、フランス軍に逮捕されます。 ●捕虜として、つらい日々を送るピエール。 ●やがて、ナポレオン軍は寒い冬の中、総崩れ、フランスに向けて無秩序に撤退します。襲いかかるロシア軍。何万人と死んでいきます。雪の中の死の行軍。ピエールも死にかけますが、たまたまロシア軍に助けられます。助けたロシアの武官は、第2巻あたりでピエールと因縁があったドーロホフ。 ●ちなみにその戦闘で、第1巻ではまだお子ちゃまだった、ニコライの弟が、あっけなく戦死。 ●生還したピエールは、多少たくましくなります。そして、ナターシャと再会。アンドレイのことがありつつも、「僕はあの人と結婚しなければならない」。 ●ニコライは、モスクワ撤退の混乱の中で、危なかった令嬢を助けます。それが偶然、アンドレイの妹、マリア。ふたりは電撃的に一目ぼれ。 ●ニコライの父が死んで、一家は貴族だったけど経済的に破産。青ざめるニコライ。 ~~~~~そして、一気に10年以上の月日が流れ~~~~~~ ●ピエールとナターシャは幸せに結婚。子供もいっぱい生まれて、順調。 ●ニコライとマリアも色々あったけど結婚。子供も生まれている。そして、ニコライの家族は破産したけれど、マリアの財産をニコライが堅実に運営して大黒字。かつての自分の領地まで買い戻せるくらい。 ●そして、アンドレイの忘れ形見の一人息子も、その四人に囲まれて、健やかに育っているよ。 と、いう、ハッピーエンド。 ただ、その中でも帝政末期のロシアの混沌とした諸問題があって、ひとりひとり信条は違う。 まだまだ、いろんなことがあるんだろうな、という余韻。 # いやあ、本当に面白かったなあ、という素直な後味。 そして、10代20代に読んでも、この面白さは分からなかっただろうなあ、と思います。 また、60代くらいに再読してみたい作品。 その時は、岩波書店版で読んでみようかな...。 (「アンナ・カレーニナ」よりも、面白かった...。 あれはあれで、アンナと、もう一人の男性と、二つの世界の話が並行して語られる小説でした。 僕の読んだ時の印象としては、 「アンナの話だけにしておけば、大傑作だったのに」 でした。)
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