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Posted by ブクログ
『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった大長編で有名なロシアの文豪トルストイだが、もしかすると晩年に書かれた本作こそが彼の最高傑作ではないかと疑いたくなるほどの名作である。
短い作品である。文庫本にして100ページにも満たない。四冊にまたがる『戦争と平和』等の大長編と比較して、見劣りしないと言ったら嘘になるだろう。だがその中身は、トルストイの全キャリアが凝縮されているかのように濃くそして重い。
とはいえ何かドラマチックな事件が起こるわけでもない。主人公イワン・イリイチという一介の役人が死ぬだけの話である。死ぬだけ? なるほど死は、三人称の死は日常茶飯事に過ぎない。しかし一人称の死は? 主人公を三人称にとどめたまま一人称の死を描くトルストイの手腕は秀逸である。
冒頭はイワン・イリイチの葬式から始まる。訃報を聞いた友人たちはみな一様に驚いたような振りをする。驚くわけがない。人が死ぬのは当たり前である。友人たちはみな一様に悲しいような振りをする。悲しいわけがない。死んだのは他人であって自分ではない。喜びの方がむしろ大きい。ハイデッガーの『存在と時間』で明らかにされる頽落が、これほど見事に描かれている場面はほかにない。
死の直前イワン・イリイチの病に関し、医者がさまざまな議論をする。イワン本人は何を言われているのか全く分からない。自分の生死という存在にかかわる問題と、身体の疾患という事物にかかわる問題が同列に扱われていることの矛盾。哲学における死と医学における死の絶対的な断絶は永遠に解決不可能であろう。
最後のシーン、死におけるイワン・イリイチの幸福感は、しかし読者を慰めることはない。そんなものがフィクションに過ぎないことくらい読者には分かっている。しかし私の死はフィクションではない。本書によってそれに気づかされてしまった読者は眠れぬ夜に悩まされることになる。他人に薦めるのもはばかられるほどの恐るべき傑作である。
Posted by ブクログ
ここにはトルストイの幾つものメッセージが込められています。まず自分が他人にした事はいずれ形を変えて自分にも返って来るという事。
凡人が陥り勝ちな自分の欲望を最優先に追い続ける生き方をするといつか後悔する時がくるということ。人間はどんな状況でも生きている限り他人の為に出来ることがあるということ。死にたくないという本来の生存への執着ですら持つ事が本当ではないということ。自分の生活が法にかなって作法に外れてさえいなければ正しいわけではない。
イワンはそれに気付くために病気になって苦しむ必要があったのだと思う。ただ生きるのではなくどう生きるかが大事なんだと思いました。
素晴らしいです。何度も読み返してさらに深く気付いたらまた追記します。
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