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一官吏が不治の病にかかって肉体的にも精神的にも恐ろしい苦痛をなめ、死の恐怖と孤独にさいなまれながら諦観に達するまでを描く。題材には何の変哲もないが、トルストイの透徹した観察と生きて鼓動するような感覚描写は、非凡な英雄偉人の生涯にもまして、この一凡人の小さな生活にずしりとした存在感をあたえている。
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Posted by ブクログ
解剖で忙しかったから読むのに時間かかった。 死の受け入れ方昔から興味があるから、この本は面白かった。死にリアリティがない学生時代だからこそ楽しめた気がする
ひとりの男の生涯と死に至るまでが、100ページという短い中に重厚に描かれている。死とは身近なものである、という事実を突きつけられる。赤の他人の何気ない小さな事故から、死が近づいてくる心理描写がとても生々しく、死は他人事ではないことを痛感する。途中で視点が変わるのも無駄がない。
無意味で穢らわしい人生への総括。誰もが必ず向き合うことになる「自分だけの死」についての簡潔なリポート。腹痛や頭痛など誰でも身近な痛みで体感し得る「痛みに耐える時間は長く、救われた時間は短く感じる現象」とその間に冷えた頭の中で痛みと闘うことを強いられている自分以外の人や物への憎悪、過去の己との対峙、後...続きを読む悔と自己憐憫、否定と肯定。主人公の痛みに終わりはなく、戸口から僅かに差し込む外の光に眼球を痛めながら圧縮された絶望を少しずつ舌先で舐めるような話。
この作品は読んでいてとにかく苦しくなる作品です。心理描写の鬼、トルストイによるイワン・イリッチの苦しみの描写は恐るべきものがあります。 幸せだと思っていた人生があっという間にがらがらと崩れていく悲惨な現実に「平凡な男」イワン・イリッチは何を思うのか。その葛藤や苦しみをトルストイ流の圧倒的な芸術描写...続きを読むで展開していきます。 そして、私はこの作品を読んでいて、「あること」を連想せずにはいられませんでした。 それがチェーホフの存在です。チェーホフの『退屈な話』という中編がこの作品と酷似しているのです。
死へ望むしかない状況で、生とは何かを考え、自分の答えを出していく。その姿勢、それに対する周囲の姿勢が描写される。取り巻く環境は様々ある中で、一人で考えていくのだ。自分として「これから何を考えるのだろうか」と考えるきっかけとなる本。
クリスマス本読み2冊目。トルストイの後期の作品で、重い。死ってこういう風に訪れて、死を直前にした人間の心の様がありありと描かれている。死を迎えるハイステータスの男の生き方と、典型的?なロシアの農民(百姓と表現されているのだな)の素朴な生き方が所々で交錯し、トルストイの晩年の生き方が反映されているのだ...続きを読む。
限りなくえげつないです。ですが、今も昔も病気はあるので、現代でもまったく当てはまる物語だと思います。医療人・将来の医療人の方には是非とも読んでいただきたい作品です。
古典だが現代人に通じる。地位や見栄や表面的な人付き合いは結局、死ぬときには何も意味がないのだとつくづく感じた。自分も人生の折り返し地点にいるが、これからの人生は仕事や用事に忙殺されるのではなく、少しでも自分のため、自分が大切に思うことのために時間を使って死ぬ時に 満足できるような日々を過ごしたい。
『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった大長編で有名なロシアの文豪トルストイだが、もしかすると晩年に書かれた本作こそが彼の最高傑作ではないかと疑いたくなるほどの名作である。 短い作品である。文庫本にして100ページにも満たない。四冊にまたがる『戦争と平和』等の大長編と比較して、見劣りしないと...続きを読む言ったら嘘になるだろう。だがその中身は、トルストイの全キャリアが凝縮されているかのように濃くそして重い。 とはいえ何かドラマチックな事件が起こるわけでもない。主人公イワン・イリイチという一介の役人が死ぬだけの話である。死ぬだけ? なるほど死は、三人称の死は日常茶飯事に過ぎない。しかし一人称の死は? 主人公を三人称にとどめたまま一人称の死を描くトルストイの手腕は秀逸である。 冒頭はイワン・イリイチの葬式から始まる。訃報を聞いた友人たちはみな一様に驚いたような振りをする。驚くわけがない。人が死ぬのは当たり前である。友人たちはみな一様に悲しいような振りをする。悲しいわけがない。死んだのは他人であって自分ではない。喜びの方がむしろ大きい。ハイデッガーの『存在と時間』で明らかにされる頽落が、これほど見事に描かれている場面はほかにない。 死の直前イワン・イリイチの病に関し、医者がさまざまな議論をする。イワン本人は何を言われているのか全く分からない。自分の生死という存在にかかわる問題と、身体の疾患という事物にかかわる問題が同列に扱われていることの矛盾。哲学における死と医学における死の絶対的な断絶は永遠に解決不可能であろう。 最後のシーン、死におけるイワン・イリイチの幸福感は、しかし読者を慰めることはない。そんなものがフィクションに過ぎないことくらい読者には分かっている。しかし私の死はフィクションではない。本書によってそれに気づかされてしまった読者は眠れぬ夜に悩まされることになる。他人に薦めるのもはばかられるほどの恐るべき傑作である。
生きることの意味を考えさせられる書だ。 人は生きるうえで指針というものがなければ、生きることはできない。 だがしかし、その指針というものが知らずのうちに多くの人がもつ指針を自分ももってしまっているということが、 人生においてはどれだけ辛辣なことか。 ある一人の人間の死にゆく姿でみることができる。
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イワン・イリッチの死
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トルストイ
米川正夫
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