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嫉妬のため妻を殺した男の告白を通して、惨劇の理由を迫真の筆に描き、性問題に対する社会の堕落を痛烈に批判した『クロイツェル・ソナタ』、実在の事件に自身の過去の苦い経験を交えて懺悔の気持をこめて書いた『悪魔』。性的欲望こそ人間生活のさまざまな悪や不幸、悲劇の源であるとして、性に関するきわめてストイックな考えと絶対的な純潔の理想とを披瀝した中編2作。
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Posted by ブクログ
この作品は嫉妬に狂った夫が不倫疑惑の妻を殺してしまうという筋書きなのですが、これがとにかくやりきれない小説なんです・・・ この悲劇的な作品は、いかにして生まれてきたのか それには、実はトルストイ自身の家庭崩壊や理想と現実との乖離が大いに関係していたのでありました。
教育の現場において「政治」「宗教」「性」はどれもいまだにタブーだ。中でも「性」は語りにくい。古文の授業で、恋愛の場面を十代の人に詳しく説明するのはやはり憚られる。しかし、芸術や文学において、それは、避けて通れないどころか、むしろ主題とも言うべきものだ。そしてそれが人間にとって普遍的根元的である以上、...続きを読む「性」を抑圧し封印していてはかえって危ない。「性」を自分の中でどのように位置づけるか、常に誰もが問われている。◆トルストイは、十九世紀から二〇世紀はじめを生きたロシアの作家。代表作は、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』など。キリスト教的な人間愛と道徳的自己完成を説いた大作家として知られる。若いころの放蕩を経て、「世界三大悪妻」の一人ソフィアとの間に多くの子供を残し、人生の終盤は、自殺願望を抱えつつ創作したが、一時は作家生活を捨て、最後には列車で移動途中の小さな駅でひっそりと亡くなった。◆『クロイツェル・ソナタ』は、実は、ベートーヴェン作曲のヴァイオリン・ソナタ第九番の通称。彼の全十曲のソナタ中でも最も激しい曲。主人公の妻が音楽家との演奏を楽しむこの曲の第一楽章は、「魂を苛立たせ」「自分自身を、自分の真の状態を忘れさせ、自分のではない何か別の状態へと運び去ってくれる」ものとして語られる。そして、それは妻の浮気心を高め、主人公を激しい嫉妬へと駆りたてる。妻に貞節を求めるあまり、主人公は、悲劇的な結末へと突き進んで行く。実際の事件を下敷きにした『悪魔』も、同じく性と倫理の葛藤を描く作品。◆語りにくいからこそ読むべきテーマに、この作品を通じて向き合ってみてほしい。(K) 紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2014年2月号掲載
クロイツェルソナタとは、ベートーベン作曲のバイオリンソナタ第9番イ長調作品47のこと。私は聞いたことがなかったが、動画を検索して聞いてみると、バイオリン1台とピアノ1台が互いに調和しながら進行していく優雅な曲だった。そう、まるで仲睦まじい男女が目配せながら言葉を交わし合うかのように。 ところで収録...続きを読む2作品のうち「クロイツェル~」のほうは文庫本で173ページ。だが、ある男が列車に乗り合わせた初対面の男性に対し、性欲はすべてに勝るという主張を自分の半生を織り交ぜて語る文体は、サスペンスの要素濃い内容とあいまって、長さを感じさせない。 内容を見ると、ある男の妻の前に若くて気障なバイオリニストが現れ、妻もピアノでその男と合奏するのが楽しみになっていく。一方で性欲の絶対的存在感を信じる夫は、妻と男との間に音楽の結びつき以上の“何か”を感じるようになり、2人に対する嫉妬が徐々に高まっていく…という話。 ある日、夫は長期出張しなければならなくなったので、妻と男とに自分が不在の間は絶対に会うなと念押ししたものの、不穏なものを感じて予定を切り上げ帰宅する。列車が遅れて深夜に家に着いた夫が目にしたものは、夜遅くにもかかわらず仲良さげに演奏する2人だった―― ここで私は、この場面が妻の不貞を夫が証拠としてつかんだ瞬間という一般的評価(と思われる)とは少し違った読後感をもった。 私にも妻がいるし、女性を聖人化するつもりはまったくないのだけれど、妻と男の2人は、夫が不在の深夜という時間であっても、本当に性的関係を最終目的に逢引していたのだろうか?例えば、夫の想像に反し、実は2人は月が美しい夜だったので純粋に演奏を楽しみたかったのだとは考えられないだろうか? トルストイの履歴に照らし、意識的にも無意識にも性欲に支配される男と女が必然的に陥らざるをえない悲劇が描かれたと読むのは簡単。だが、大阪弁でゲスく言うと「愛だの芸術だのって言いながら、結局はアレしかないんかい!」みたいな結末を文豪があえて書いたとは思えない。 だから私は「クロイツェル~」を、性欲の絶対性とそれに結局負けてしまう人間の悲劇を描きながら、性欲に芸術的欲求が打ち勝つ可能性も微量に含ませていたのでは、と考えるのである。 でもそんな読み方では三島由紀夫なんて読めないし。私が浅いだけなのだろうか。
トルストイが、性に対する持論を展開する中編2つを収める。 クロイツェル・ソナタは、トルストイが音楽に非常に造詣が深かったのだろうなと思わせる箇所が、随所に現れる。妻がヴァイオリニストと関係を持ったと思う場面、すでに音楽を一緒に演奏したことが、主人には決定的だった。 翻訳も素晴らしく、読みやすい。 (...続きを読む2015.5)
ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを聞いてから気になって手にとった。 トルストイの作品の中でも”性”について扱う中編二作品を収録。どちらのタイトルも抗いがたい欲望の引き金を象徴している。 特に『クロイツェル・ソナタ』で行われる、列車の長旅の中で行われる人物たちの対話はとてもおもしろく感じた。 どち...続きを読むらの作品もazuki七さんが常日頃感じているように、愛というものをどんな形にするのか、よくわからなくてイライラしてしまう。人間の動物的欲求を克明に描き出していると共に、そんな中でも清くあれと叫んでいるような感じがそれでもしてしまう。 トルストイ自身も愛というものを探していたのかもしれない。
純潔に夢見てるトルストイらしい真摯さというか真面目さの見えるお話。罪と信仰と性に関して、理想持つ立場から書き綴られています。 こんな風にキリスト教的な精神の葛藤を題材にした小説は多いけれども、仏教や神道では寡聞にしてあまりそういうのを見かけない気がする。
『クロイツェル・ソナタ』の方は光文社文庫で読んだので、こちらは『悪魔』のみの感想をば。 エヴゲーニィという真面目な青年の悲劇。 人間なら誰もが抱くであろう感情に苦悩し敗北してしまった人。 こんなにも苦しんだのに誰一人彼の苦悩を理解しない結末。 もしかしたら、それは現代人にも通用することで、今現代で...続きを読む同じ悩みを持つ人間がいたなら、恐らくその人も誰にも理解されないのではないだろうか…。 エヴゲーニィはあの女性を“悪魔”と言っていたけど、悪魔は常にエヴゲーニィの中に居たんじゃないかな。それは誰の中にも居るだろうものだと思う。 エヴゲーニィとリーザは良い夫婦だと思う。身重のリーザをお姫様抱っこしたシーンが好きです。 表面的な描写しかないけど。 エヴゲーニィが終始かわいそうだった…。 真面目が故に苦しむ人。そして現代ではとても生きていけない人。
裏表紙に書いてある通り、ストイックだった。 もう好きなようにしちゃいなよ。と、言いたくなるほどの苦悩。 トルストイの小説はなんていうか、すごくロマンチックな男が多いというか、女以上に純粋と言うか…でも不誠実。完璧な誠実寄りの不誠実。そこがすごく人間っぽくてたまらないです。
嫉妬の構造という本で紹介されていたので。 展開的には、寝取られ好きな自分としては興奮した。 わたしは性に関してかなりオープンというか貞操を守らない人間だから真逆の考えっておもしろかった。すごい読みやすかったし好き。 他の作品も読みたいなー
トルストイの転換点『人生論』と同年、1889年に『クロイツェル・ソナタ 悪魔』は書かれた小説。しかし、『悪魔』はトルストイの死後1911年に公開される。内容が私小説的色彩が強い作品だったのが理由と言われている。 現代でも『クロイツェル・ソナタ 悪魔』はありそうな話ではある。浮気現場を目撃されて刃傷...続きを読む沙汰になり死人が出たり、元カノと別れられずにズルズルと...最後には家庭が崩壊し誰も幸せにはならないとか。人間のやっていることは昔から変わらないし、たぶんこれからも変わらないのかもしれないね。
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クロイツェル・ソナタ 悪魔
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トルストイ
原卓也
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