トルストイのレビュー一覧
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最初はサロンでのやり取りが延々と続く。人物造形に特徴は出ているが、物語に動きが少なく、退屈に感じる。遺産を受け取ることになるピエールの存在がちょっと面白い。
第二編に至って、集団が軍隊に移ると俄然、物語は動き出す。激しい戦闘シーンが続くわけではないが、戦争の位置付けをめぐって、様々な視点が交錯するのが興味深い。兵士であるアンドレイと外交官であるビリービンのやり取りなど。
最後のニコライの高揚感、負傷、惨めさ。アンドレイ侯爵のやりきれなさ。戦い抜いた、また、人間性を失わなかったトゥーシン大尉(砲兵隊長)の姿にしみじみしたものを感じた。
戦争の諸相を今回だけでも、思う存分描いていた。 -
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ネタバレ善をなそうという、素朴な信仰の大切さを訴えて終わる。理性の限界を悟った上で。人間くささは否定せずに。アンナの物語であり、リョービンの物語であった。その2人で対立されているのは、エゴイズムの解釈だろう。つまり、エゴに振り回されるか、エゴに誠実に向き合い続けるか。リョービんが絶大な人気や好感を誇るわけではないのがミソだ。
アンナの自殺の場面。そこに至るまでの焦り、怒りが延々と綴られ、自殺しか帰結がない描きだ。ヴロンスキーの時もそうだったが、死なないだけの浅さがそこにはあった。
ヴロンスキーが戦争に赴いてしまうのも、それが讃えられるのも、悲しかった。彼は後半、人格の深化が見られたような気がしたから。ここで展開される戦争論も読み応えがあった。
途中に出てくる、狂信的でオカルトな宗教とリョービンの疑いの末に肯定される素朴な宗教の対比も面白い。
最後に解説を読んでハッとしたのが、タイトル。アンナだけでなく、カレーニナという「夫」の苗字まで付けられていたこと。当時の結婚制度を含めた社会の中のアンナの物語とも読める。 -
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リョーヴィンとキティの偶然の再開。彼女がこちらを見つけた時の一瞬の輝いた目を見てもう一度確信する。自分には彼女しかないと。このシーンがとてつもなく好きだった。
リョーヴィンを軸とした田舎の描写、恋愛描写は、ナボコフをはじめとした一定数の読者から不評とのことで、確かに一理あると思った。アンナを取り巻く環境に比べ、リョーヴィンの恋愛は生ぬるい。確かにアンナとカレーニン、そしてヴロンスキーらのそれぞれの心情描写、何に悩んでいるかを考える方が有意義なように見える。
カレーニンはアンナの不倫を離婚などという、かえって妻が得するような形で罰するのではなく、別の形で、しかも世間に知られることなく罰したいと考えていたが、我慢できなくなる。
しかしアンナが死にそうになった際、いっそアンナが死んでくれれば良いとさえ願ったものの、いざ妻の姿を見ると、自分がアンナを心から憎むことができないと悟り、そんなことを願った自分を悔いてアンナとその不倫相手ヴロンスキーをも許す。
ここのシーンがあまりにも深い。議論の余地を多分に残している。実際、この時のカレーニンにヴロンスキーは驚き、どう対応して良いかわからなくなってしまい、銃で自殺未遂するほど追い込まれている。
世間体で離婚したくないという単純なものではなく、「離婚してしまえば妻が本当の意味で破滅してしまう」ということを懸念して離婚できずにいたのがカレーニン。リョーヴィンではなく、カレーニンこそ第二の主人公に相応しいように思えてきた。
アンナとヴロンスキーがいくら逃避行しようとも、この後も誰も幸せにならない未来が見える。 -
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ネタバレここでもトルストイの筆は冴えている。
巻末の読書ガイドも素晴らしい。今回は読み方。マインドマップと象徴性に注目していて、こういうのを知ると長編の名作を読むのがやめられなくなる。
以下、メモ。ネタバレあり。
・キティ(カーチャ)のニコライの看病。理屈としての死と女性から見た死の違い
・ドリーの妊娠、出産、子育ての苦悩。P390。転じてアンナの生き方への評価のまなざし。
・快活なアンナ。人生の大事な部分に関して、眼を細めてしまう。これは小○今日子や他の不倫した女性にもあてはまる印象だ。あくまで印象だが。
・公爵令嬢ワルワーラの都合のいい、アンナ評。社会的に不健全でも、うわっつらだけ合わせることは、今の時代も結構あるが、それを活写したかのようだ。P463
・ドリーとアンナの距離の突然の認識。P509 -
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教育の現場において「政治」「宗教」「性」はどれもいまだにタブーだ。中でも「性」は語りにくい。古文の授業で、恋愛の場面を十代の人に詳しく説明するのはやはり憚られる。しかし、芸術や文学において、それは、避けて通れないどころか、むしろ主題とも言うべきものだ。そしてそれが人間にとって普遍的根元的である以上、「性」を抑圧し封印していてはかえって危ない。「性」を自分の中でどのように位置づけるか、常に誰もが問われている。◆トルストイは、十九世紀から二〇世紀はじめを生きたロシアの作家。代表作は、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』など。キリスト教的な人間愛と道徳的自己完成を説いた大作家として知られる。若いころの放蕩を経て、「世界三大悪妻」の一人ソフィアとの間に多くの子供を残し、人生の終盤は、自殺願望を抱えつつ創作したが、一時は作家生活を捨て、最後には列車で移動途中の小さな駅でひっそりと亡くなった。◆『クロイツェル・ソナタ』は、実は、ベートーヴェン作曲のヴァイオリン・ソナタ第九番の通称。彼の全十曲のソナタ中でも最も激しい曲。主人公の妻が音楽家との演奏を楽しむこの曲の第一楽章は、「魂を苛立たせ」「自分自身を、自分の真の状態を忘れさせ、自分のではない何か別の状態へと運び去ってくれる」ものとして語られる。そして、それは妻の浮気心を高め、主人公を激しい嫉妬へと駆りたてる。妻に貞節を求めるあまり、主人公は、悲劇的な結末へと突き進んで行く。実際の事件を下敷きにした『悪魔』も、同じく性と倫理の葛藤を描く作品。◆語りにくいからこそ読むべきテーマに、この作品を通じて向き合ってみてほしい。(K)
紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2014年2月号掲載 -
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ここ(3巻)まで来ないとこの本の良さが理解できなかった。1巻の時にさんざんに酷評したことを反省しているが、あの時点ではこんなに引き込まれることになるとは思っていなかった。この本は単なる小説ではなく、トルストイが考える戦争というものを表現している本だとやっとで理解した。ナポレオン戦争はナポレオンの英雄的な天才性によって勝ち進んだものではなく、戦争の中で一人の人間が担える役割や与える影響はたとえそれが皇帝であろうとも極わずかどころか皆無であり、人間の集団性とその中の個々人の動きの総和によってすべてが左右されるというトルストインの戦争観に全く賛成である。途中に入る訳者の解説も大変的を得ていて、本当に面白い。
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初トルストイ長編
幸せな家族はどれもみな似ているが、
不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。
圧巻の世界観
登場人物がみんな生きている
熱情や妬みに翻弄されていく貴族たち
確かに昔存在していた時間たちが蘇り、
そこに生きていた人間たちの鼓動が感じられる。
本筋だけを追っていけば、
今日目新しい展開は特にないのだが、
一つ一つの挿話によって、
人物像だけでなく、彼らの生活の香りが浮き彫りになっていく。
アンナとリョーヴィン
アンナは恥辱との戦いであり、
リョーヴィンは自己との戦いであった。
地に足をつけて、自分と対話しながらなんとか生きていく。
それって、いつの時代も通用する教訓なんだと思う。
自分が何者で何のためにこの世に生きているのかを知りもせず、また知る可能性さえも持たず、その自らの無知に苦しむあまり自殺さえも恐れながら、同時に自分独自の、はっきりとした人生の道を、しっかりと切り開いていたのであった。 -
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全巻読み終わりましたが、今まで読んだ小説でベストと言える作品でした。
この光文社版は、登場人物が解説されたしおりがついていて、とてもわかりやすかったです。
一方で解説には少し物足りなさを感じました。
歴史的背景が少し頭にあると、面白さが何倍も変わる作品なので、解説で触れてほしかった、と残念に思う点がありました。
一つは、ナポレオンの生い立ちについて。
彼は、コルシカ島という、フランスとイタリアの間の島の、比較的身分の低い家庭に生まれました。
コルシカは彼が生まれる直前までイタリア領だったので、ナポレオンはギリギリフランス人というところで、幼少期は方言などで苦労したようです。
フランス革命で身分制度が崩れたことにより、ナポレオンは実力を以て立身出世、ついに皇帝の地位に上り詰めました。
そのナポレオンが、生まれながらにロマノフの血統であるロシアのアレクサンドル皇帝と決戦するのが今回の物語ですが、二人の「皇帝」の出自の対比が、ナポレオンの心理に影響を与えています。
この点が解説には触れられておらず、分かりづらいのではないかと思います。
物語後半に出てくる、ナポレオンがイタリア人という記述にも注釈がついていなかったので、少し不親切と感じました。
もう一点は、サンクトペテルブルクとモスクワの対比について。
サンクトペテルブルクは、18世紀初頭にピョートル皇帝によって建設された、モスクワよりも新しい街です。
「ヨーロッパへの窓」というコンセプトで、当時文明の先行していたヨーロッパのいくつかの都市を真似て作られました。
街だけでなく、人々の振る舞いやフランス語による会話なども、ヨーロッパにならうことが洗練とされました。
一方、モスクワはロシアの伝統を象徴する都市です。
そのモスクワを目指したナポレオンのロシア戦役は、軍事的及び精神的両方の意味で、ヨーロッパの侵略からロシアを守るという戦いです。
フランス語とロシア語を取り混ぜた社交界の会話から、戦争の展開まで、ヨーロッパ的なサンクトペテルブルクと、ロシア的なモスクワという都市の対比が、より深い理解への鍵となります。
もう少しこれらの背景について解説があれば、トルストイのメッセージが伝わるのに、というところが悔やまれました。
しかし、ストーリーだけ読んでも面白い作品であることは間違いありません。