畠中恵のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレしゃばけシリーズ第2弾。「ぬしさまへ」「栄吉の菓子」「空のビードロ」「四布の布団」「仁吉の思い人」「虹を見し事」6作収録の短編集。
雰囲気の妙。
2作目にして、しゃばけの雰囲気が確立されている。前作同様、小粋な江戸の町並みを背景に、事件解決に乗り出す一太郎と妖たちというスタイル。その繰り返しだとちょっと飽きてくるかもなあ、という時を見計らったように続く新技の連撃。「空のビードロ」で腹違いの兄・松之助の視点を織り交ぜたり、「仁吉の思い人」で仁吉の過去話をぶっ込んでくる。「虹を見し事」は、一太郎が妖絡みの事件に巻き込まれるのだが、スパイスがぴりりと効いていて、風味が違う。飽きさせない創意工夫に脱帽。
本当に良い人しか出てこん(笑)
松之助が深掘られるのだが、これがまた実直で良い人なのだ。大店の妾腹の子として生まれ、一太郎の誕生と共に奉公に出される苦労人なのであるが、全然曲がっていない。一太郎や長崎屋を恨むこと無くまっすぐに生きているのだ。
「空のビードロ」で、不幸にも焼け出されて長崎屋に奉公することになるのだが、奉公人として実弟にちゃんと仕えちゃう。一太郎が気安く接する中、主人と使用人の垣根を越えずにきちんと奉公している。人徳がありすぎて、頭が混乱する。
どうにも一気読みしてしまう。
先が長いと分かっているのもあり、大切に噛み締めるような読書にはならない。漫画を読むような勢いで、ぱらぱらとライトに読み進めてしまえる。小難しい感想や解釈は湧かない。シンプルに面白い。たぶん、この先の巻を読み進めても良い意味で、これ以上の感想は出てこない気がする。重い読書の中の息抜きとしてこれからも定期的に挟んでいきたいシリーズだ。 -
Posted by ブクログ
【短評】
「第13回日本ファンタジーノベル大賞」に輝いた畠中恵による時代小説。
江戸に大店を構える廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の跡取り息子・一太郎は、「妖」に縁がある。どういう訳か、病弱な彼の周囲には妖が集い、手代の佐助と仁吉をはじめ、あれこれと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。そんななか、江戸の町を「薬種屋殺し」が横行し始めーーという物語。
長大なシリーズであることは承知していたが、左もありなん、屋台骨である第一作は流石に面白かった。良質な落語を効いているような軽妙さで以て、江戸の町を活き活きと描写しており、町人になった気分で読書に浸ることが出来た。文章が非常に達者かつ流麗であり、時代掛かった大仰な言い回しに辟易しがちな時代小説にあって、内容が自然に頭に入ってきたのは凄いと思う。時に聞き慣れない言葉や習俗が現れるが、それらを調べながら読み進めるのはインタレスティングな面白さがあった。江戸を垣間見た気分だ。
妖は少しずれているーーという言い回しが時々現れるが、一太郎の在り方もまた令和の我々からすると少しずれているのが興味深い。死生観が明確に違うと思う。
右も左も善良な人たちばかりなので、厭な気持ちになることが無かった。
さりとて起伏に乏しいかと言えばそうではなく「ミステリィ」としても良く作り込まれており、全体を通じて興味関心が持続する。このあたりも上手いなと思った。
【気に入った点】
●見てきたかのような江戸の描写。馴染みの無い固有名詞や地名が唐突に出てくるのだが、そこに無駄な注釈などを付さずに、当時のリアルな会話を徹底しているのが良い。当時の空気感を感じることが出来たような気分になる。また、そうした「?」をちょっと調べてみると、作品世界の解像度が拡がり、面白みが増す。個人的には「米、喰い過ぎじゃね」と思って調べたりした。
●謎解き物としても一級品。当然に妖絡みではあるので本格的ではないが、奇妙な状況と明瞭な回答がセットであるからして、あれこれ考えるのが愉しかった。世界観的に事件が奇怪過ぎても穏やかな空気感を壊す気がするので、良い塩梅だったと思う。
【気になった点】
●妖。特に一太郎に近い妖たちの「特異性」に関する描写が薄いように思った。家鳴の様な異形は分かりやすいが、犬神や白沢が何が出来るものたちなのか、どういう能力をもったものたちなのか、本作からでは今ひとつ読み切れなかった。
時代小説は余り嗜まないが、かなり好きなテイストだった。
江戸の空気を胸いっぱいに吸いたくなった時、次作に取り組むのも良いだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ江戸有数の廻船問屋の一人息子・一太郎は、病弱で外出もままならない。
ある日、彼は両親や店の者たちの目を盗んで出掛けた夜に人殺しを目撃してしまう。幼い頃から一太郎の周囲には妖怪が集まる。身の回りの世話をしてくれる手代の二人も、実は犬神と白沢という妖怪である。町を騒がす殺人事件を妖怪たちと共に解決する。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。
言わずと知れた名作である。
古い作品であるにも関わらず、昨年ノイタミナでアニメ化も果たした人気作。ずっとタイトルは知っていたが、手に取ったことはなかった。さすが息の長い作品というだけあり、安定感抜群。折に触れて時代小説は読んできたが、いつも瑞々しいタイムスリップをくれるので、結構好きなジャンルだ。本作は、政治や武家のしがらみではなくど真ん中の町人の日常を描いている。当時の息遣いが感じられる生き生きとした江戸。とても良かった。
本筋の事件とは別にちゃんと見せ場がある。
事件を綺麗に着地させるのはもちろん、物語後半では一太郎の生い立ちにも迫る。シリーズ物として愛されるにはこういう骨組みが重要である。ここから長ーーーーく続く事を見据えたしっかりとした設定。丁寧でよく練られた人物基盤。骨太で良かった。
シリーズの一作目ってこんな感じだよな。満点にするほどの爆発力があったかといえば疑問なのだが、「しゃばけってこういう感じで進めていきますよ」という正しいしゃばけシリーズの楽しみ方ガイドとしておもしろく読んだ。しゃばけのスタンダードをここに置いて、これからどれほど面白くしてくれるのかなという期待値も込めて満点をつけた。
一人称がちょっとだけ気になった。
別に意味は追えるのだが、主語が「一太郎」「若だんな」と一定しない。どちらも地の文に同じくらい出てくる。何か意味があるのかも…と伏線を警戒したのだが、そんなこともなかった。正直、統一してもらった方が読み易い。