冲方丁のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
シェルの犯罪を裏付けるデータがカジノに保管された4つの100万ドルチップ内にあることを知ったバロット。チップを合法的に手に入れる為、カジノでの勝負に挑む。物語の完結編。
なんだろう、このモヤモヤ感。最終的にバロットが獲得した自身の価値がウフコックの存在に依存しているからか。人は結局、誰かと共に生きることで希望を見出すしかないという語られ尽くした結末に至るのかと。孤独や苦痛は自分ひとりで抱えるほかないのに、希望や愛情は他人の存在に依存するしかないのだろうか。それが種の存続の為の人の本能か。ならば愛されない存在に価値などないのか。彼女自身で完結する彼女の価値を見出してくれることを期待していたので少し残念。
ブラックジャックの勝負シーンの緊迫感は良かった。逃げずに挑む意志を持ち続けようとするバロットの成長が上手く描かれていたし、あれだけの長い勝負を飽かせず読ませる筆力もすごい。
後半のシェルの記憶を紐解く場面はただ悲しかった。シェルは自身と同じ絶望を抱える少女を見つけては殺し綺麗なものに変えることで、過去から自分を救っていた。記憶を封印することで歪みが生じていくシェルと、立ち向かい殻から出たバロットの対比が上手い。
ラストのボイルドとの戦いは、彼自身が定義づけしたボイルドの価値の悲しさを描き、ウフコックへの執着を描くことで、一層寂しさを際立たせていた。彼は彼の存在価値を戦闘に見出していただけなのに、それは否定されるべきことだったんだろうか。彼も救ってあげて欲しかったけれど、彼は共に生きる相手がいないから救えないのかな。
全体を通じてウフコックの存在が偉大すぎる。無償の愛を与えてくれる模範的な親のようであり、寄り添って生きてくれる恋人のようであり。存在の価値を問う物語なのに、彼ありきで価値を見出す結末はどうなんだろう。もちろん彼を濫用することへの危うさや、殻を出て意志を持ち選択することの尊さも描かれてはいたのだけれど。
多くの人はウフコックのような稀有な存在と共にいられないんだろうな。それを手放したのは大きな間違いだったのかな。
*以下引用*
*ルーン・バロットーそれが、あの子の名前さ。誰がつけたんだか知らないけどね。殻の中で死んだ鳥の名前をつけるなんてさ。哀しい名前、切実な名前だよ (p66)
*それでもあのとき自分の心は、殻の中に閉じこもること以外に生きるすべを見つけられなかった。 (p125)
*我々が生きていること自体が偶然なんだ。そんなこと、ちっとも不思議じゃないじゃないか?偶然とは、神が人間に与えた中で、最も本質的なものだ。そして我々は、その偶然の中から、自分の根拠を見つける変な生き物だ。必然というやつを (p135)
*「父親の元には戻りたくないの」女の子が言った。ひどく切迫した声で。深い共感の念がどこからともなく湧き上がった。「お願い、父親の所には戻さないで」いいとも。俺が守ってやる。お前を安全な場所に連れていこう。 (p190)
*女の子の声がする。深い共感の念が湧いた。「あたしを父さんに会わせないで。何でもするから父さんにだけは会わせないで」大丈夫だ。俺が守ってやる。俺は知っている。そのストレスを。 (p194)
*ブルーダイヤ。天使の涙。身につけた人の代わりに泣いてくれる宝石。あなたが指につけてるそれを見せてくれたときに思ったの。これさえあれば涙はいらない。最悪の日もきっと笑って過ごせる。 (p196)
*愛されたいと思った人は沢山いた。でも愛したいと思った人はあなただけ。 (p259)
*敵対する者だけが自分たちの価値を認めるのだし、今が互いに親しく会話をすべき唯一の瞬間なのだと告げるように。相手の命を奪う、この決定的な瞬間だけが。 (p273)
*そばにいることーそれができる相手と共にいることが、この都市に残された最後の希望だった。 (p298) -
Posted by ブクログ
本因坊道策。
彼もまた、己の生き様をカタチに残そうと悩み苦しむ一人です。
碁の世界で道策。算術で関孝和。
春海という人間を構成する一つ一つの要素で、自分と同じように悩み苦しむ人物と出会い、そして彼らの覚悟に打ちのめされながら、前へ前へ進みます。
改暦の儀へと。
戦う相手は暦から、朝廷へ。
丁寧に根気よく向き合っていくことのできた暦という理論。それとちがって、のらりくらりと伏魔殿の様相の朝廷。
理想だけを追い求め、熱意があれば正道と、突き進んできた春海たちに立ちはだかった、過去・前例遵守の公家衆。
徒労と挫折に捕らわれた時に、道策との初手天元を賭けた真剣勝負は、これ以上ないカンフル剤となったはずです。