冲方丁のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ怖いというよりどんどん取り返しのつかない状況に落ちていくのをただ見てるしかない焦燥感が強い。松永の父の過去の因縁が何なのかをもう少し明かして欲しかった。
悪神に使役され、特に理由も考えずに指令に従う主人公の姿は、細分化された仕事をその社会的影響を考えず盲目的にこなす現代人を象徴しているように思える。
また松永は操られていたとはいえ14人の人間を殺し、原と荒木が生贄となることも黙っていたのに幸せな生活を続けている。ホームレスの犠牲をある種仕方のないこととして処理しているのだ。
誰かの犠牲の上にピカピカの建物が建つという構造や再開発により居場所を奪われるホームレスなど社会批判的な面も多い。実際作中で触れられているオリンピックでも、会場の建設のために立ち退きを迫られた人々がいる。都市という空間や自分が立っている場所は今の状態で突然現れたわけではない。どんな場所にも積み重ねられた時間があり、生活がある。特に東京という常に開発が行われ、人間の熱気がたちこめているような土地ではその総量は自然多くなる。渋谷などの町は確かに活気にあふれているが、その行き過ぎたエネルギーのなかには今作のように得体の知れない物が混ざり込んでいるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ原案は笠原和夫さん。同名映画のノベライズ作品。
戊辰戦争の最中、奥羽越列藩同盟に加入していた新発田藩の新政府軍への寝返りの史実をもとに描かれている。
主人公は駕籠屋の政。妻・おさだを娶り幸福を享受していた彼だが、ある事件がきっかけで侍殺しの咎を負ってしまう。
そして彼が殺した侍達の身代わりに、同牢の咎人達と共に、助命を賭けて五頭山にある廃砦で新政府軍の進行を食い止める役に当たる。
だが助命の約束は囮で、藩の最終目標は新政府軍への寝返りなので、役が終われば恭順の証として首を斬られる事が決定付けられているというのが何とも理不尽で遣る瀬ない。
特に政は一貫して妻を想い戦地に立ち続けるので、どうにか帰してやってくれと思わずにいられなかった。
物語のラスト、戦火は止まず人は死に続けるが、おさだが砲撃を花火と勘違いする程、今後の2人にとって遠い世界の話であって欲しい。 -
Posted by ブクログ
天地明察からの流れで手に取る。
上巻の後半から下巻中盤あたりまでがとても面白かった。障子の成長していく過程と、自立した生き方に感銘を受けた。自分で人生を切り開き、不幸にならないように頭を使って生きることの大切さを学んだ。
流されるままに、疎外されて恨みを持って死んだ詮子との対比が鮮やかだった。
文句や恨みばかりで被害者意識を募らせてもどうしようもない。どうすれば自分の人生を守れるか、周りの人と共に幸せになれるか、必死で考えて実行する障子の生き様に深く感動した。
それから、普段通り過ぎている京都の様々な場所が、平安時代から繋がっていることを実感できるのも楽しかった。例えば、京都市動物園の北側に広がる、閑静で美しいが何なのかよく分からなかった場所が、実は白河院だったことなど、歴史を身近に感じられたのが良かった。知識として知っているのと、物語の中で生き生きと語られるのとでは、ぜんぜん違った印象になる。
障子が長生きだったため、最後の方はだらだら読みになってしまったが、あの時代に80超えて生きるのは、精神と頭脳だけでなく身体も優れていたのだろうと感心した。
道長の死に様は怖かった。
あと、当時は糖尿病で亡くなる人が多くて、水飲み病と呼ばれていたらしい。
-
Posted by ブクログ
「天地明察」という単語の意味がよく判らないままに読み始めただけに序盤で「明察」の意味が説明される下りによって、本作そのものがどのような方向性へ進もうとしているかを推察できる作りになっているのは感嘆してしまったな
他にもこの上巻の終盤で現れる展開・心情描写の前フリとなる要素が序盤・中盤に散りばめられていたりと、伏線と表現するには大袈裟かもしれないけれど、読み進めれば読み進む程に作品に織り込まれた輝かしい星星が目に入る作りになっていると感じられたね
特に主人公の春海の人物造形が面白い
碁打ちの家に生まれ将軍にも拝謁できる立場なのに熱中するのは算術ばかり。いわば身近な人には理解できない趣味に没頭するタイプか
そのような在り方だからか同業の道策には彼の熱中は理解されず、むしろ少し立場の異なる安藤や村瀬が良い話し相手になってしまうと
そうした状況だからこそ、彼が城で求められる本業である碁に飽きを覚えていて、その感覚が本作の主題へと繋がっていく構成は面白い
だとしても碁打ちが幕府の公式事業として天体観測を命じられるなんておかしな話だと思うけれど
でも、そうした要素だってそれだけ天体に関する事業に当たる者の役割が定められておらず、同時に新しい境地への挑戦事業であった事が見て取れるね
天体観測とは別の要素として本作において重きを成して描かれているのが関孝和への設問か
春海にすれば熱中する算術の遙か先に居る偉人。彼に並び立ちたいとも、彼に認められたいとも区別がつかない感情は春海に背伸びをしたかのような設問を出させるね
ここで面白いのは対決相手と言える関が登場しない点、そして一度目の設問が「無術」となってしまう点か
関が登場しないのだから春海は関が何を考えているのか、どのような表情をしているのか知る由がない。それ故に「無術」となってしまった己の設問を見て関が何を感じたのかをただしく測る術がない
これって見方を変えれば、北極出地に通ずる要素かも知れず
作中で指摘されたように瑕疵の無い暦は当時存在しない。つまりは誰も見た事がない。それを正しく見る為には北極出地を繰り返して少しずつ天地の姿を図る必要があるが、そこには建部が起こしたような間違いが生じる可能性だってある
だから間違いを少しでも少なくする為に、何度も間違えたり何度も測ったりするわけだろうし
その行動は春海が関へ2回目の設問を出す為に何度も伊藤や安藤を通して設問の確認をした事にも、そして一度目の設問が「無術」となってしまった事とも同類と言えるのかもしれない
だとすれば、この上巻のラストで「明察」が出た事はこれから測っていく大きな大きな星星の姿をより「明察」にしていく一歩目となるのかもしれないと思えたよ -
Posted by ブクログ
第一印象、表紙がカッコ良かった!
表紙に釣られて良く見ないで手に取り、後からこの本が映画「十一人の賊軍」のノベライズ版だと分かって、ちょっとガッカリ。
でも、凄いなぁと思ったのが、本書の原案が作られたのが、なんと60年前!原案は笠原氏が作成したけど当時の重役達は「映画はスカッとしなきゃ」という意見で、この話は流れてしまい2024年の夏に冲方氏が原案をもとに作成したようです。
この物語は戊辰戦争のまっただ中、新政府軍に寝返った新発田藩の「歴史的裏切り」を史実をもとにしていて、賊軍が砦を守る部分はフィクションです。
うーん、これは映像の方が良かったのでは?
というのも、いまひとつ迫力が伝わって来なかったのと、主人公や登場人物の気持ち、物語に入り込めなかったから。
罪人達、それぞれ個性が強くて面白味のある設定なのに台詞や描写が少ないからかなぁ?
サブタイトルに「命は奪えても、魂は奪わせない」その魂の部分が弱かったように感じたのと物足りなさを感じた。主人公の政に、もう少し活躍してほしかった。
3章と4章の戦闘の場面、人数的には圧倒的不利なのに奇策で新政府軍を翻弄するところスカッとした。ノロって一見役に立たなそうだけどノロの発案のお陰で新政府軍に一泡ふかせてやれたし、爺っつあんも只者ではないと思ってたけど槍の名手でカッコ良かった。
この11人が本当の英雄だよ!罪人といっても皆、何かを守るために罪をおかしてしまったのだし、きっと彼らがいなければ町は戦場になって多くの犠牲者がでていただろう。
それなのに溝口内匠、藩を守るためとはいえ恩を仇で返すのには真底腹が立った。内匠の妻の言葉「あなたが腹を切れば良かったのです!」
に共感!
政や罪人側からの視点から見ると、ただただ理不尽さが残った。
ラストの政と妻のおさだが救いかな!
-
Posted by ブクログ
『光る君へ』の放送中に読むつもりだったのに!
すっかり忘れていまさら(そして久しぶりに)再読。
『枕草子』をもとに清少納言の半生を描いた歴史小説。とはいえ、作者は冲方丁さん。語り口は軽く、読みやすい。
中宮礼讃は『枕草子』そのままだが、藤原道隆一家の栄華とともに没落も描き、そのうえでなぜ『枕草子』は栄華だけなのか、作者なりの答えが小説を通して浮かび上がってくる。
清少納言と藤原行成をシンクロさせた場面には思わず唸る!
それでも、『枕草子』からもう一歩離れて書かれたものが読みたかった。清少納言の眼に藤原道隆一家の没落がどう映ったか?栄華の頂点から底までを定子の傍らで見て、なにを思い、考えたのか?
小説だからこそ、もっと掘り下げてほしかった。