中村融のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
本書収録の「陸の甲鉄艦」が強烈。戦車が登場する10年以上前に書かれた話で、ウェルズの先見性を評価するときに話題になる短編。
しかし本短編は先見性以上に文明人とされる西洋文明の驕り、陳腐さを激烈に批判しているところに価値がある。
敵方の最新兵器として登場する戦車(機械)に対して、当初は「人間対機械」と敵方を戦車に操られた人間として批判する書き振りであったジャーナリストの主人公が、味方の屈強な兵士が戦車を田舎者が扱う鉄器と見下したところで、「人間対鉄器」とかえた。西洋文明を代表する味方の発言から知性の死滅を感じ、敵方を人間としてとらえ西洋文明人を人間から鉄器にすり替えるウェルズのブラックユーモア。傑作。
-
Posted by ブクログ
「2001年宇宙の旅」は自分にとっては映画というジャンルを超えたマスターピースであります。同時にトラウマにもなっています。まず幼児の頃、自分の住む地方の小都市の映画館で初公開時の看板に衝撃を受けたいう記憶があります。しかし親に見たい、と言えない雰囲気も感じました。初めて見たのは大学生の時。冒頭からあまりに集中して疲れたのかスターゲートのシーンで眠ってしまって情けなくなりました。社会人になってみた時にスペースシャトルの尾翼にPANAMの文字を発見し大興奮。それからはDVDを停止しながらAT&Tとか実存企業のロゴを見つけてはこの映画が公開時の1968年と2001年を地続きで設計されていることに新たな凄みを感じていました。2016年にサンフランシスコの現代ユダヤ博物館でやっていたキューブリック展の入り口まで行ってフライトの関係で入場しなかったこともいまだに後悔しています。そんな思い入れの中で速水健郎の「機械ぎらい」を読んでいて本書の存在を知り、速攻入手し貪り読みました。アポロが月面到着する前に、CGが映像に使われる前に、こんな映画が作れたことにはキューブリックの仕事のやり方への固執とこのプロジェクトに魅入られたスペシャリスト(クラークも含む)の全員の煩悶が混じり合って業の総体として結晶したからこそ、ということがよくわかります。視覚効果ブライアン・ロスタスへのキューブリックの言葉で『「ブライアン、君自身ができるとわかっていないものをつくってほしいんだ。最初からできるとわかっているものは必要ない。しかしできるかどうかわかっていなくて、なにか新しいものを発見できたら、それこそがわれわれが必要としているものなんだ」それがこの映画の製作全般を統べる基本方針だった。』凄まじい。本作が扉を開けた映画の流れ、例えば今年の映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」も大好きでしたが…「2001年宇宙の旅」は大好き、で済まされない厳かな創造物、例えばミケランジェロの「最後の審判」やピカソの「ゲルニカ」のような存在にますます思えてきました。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ一巻を読んでからずいぶんと時間が経ってしまった。
心持ちとしては、カルピスは好きでも原液ではよう飲めん。味噌汁は好きでも味噌のままではそうそう食えん。そんな感じ。続けて読んだら胸焼けする。
すべてがここにある。そう思えるほどに濃い。
若き日に愛した菊地秀行や栗本薫の、原点の一つであろうことは間違いあるまい。この二人の作家の文体に同一の祖型を感じることがある。それはハワード、正確にはその翻訳で間違いないと思える。
『鋼鉄の悪魔』
廃墟から復活した城邑は、ドラゴンランスの暗黒の女王の神殿を思い出させる。べレムが復活させちゃったやつ。
この城邑は暗緑色だという。このイメージはWoWのフェル色を思い出させる。緑は魔や地獄を象徴する色ってことなんかね? ベレムの胸に埋め込まれた宝石も緑柱石だし。
どことなく『ダイナソア』を思い出させる雰囲気もある。
『黒い予言者』
ヤスミナという名も含めて多方面に影響を与えたのではないかと思わせる。
1980〜90年代、水晶を攻撃させるゲームが目白押しだった印象がある。水晶を全部破壊するとボスに攻撃可能になるとか、先へ行けるようになるとか。元ネタはこの作品なのかもしれない。
p.182 魔術理論のようなものが短く記されている。原点にして、というやつか?
p.228 怒りの表現で、視界が赤く染まる、目に赤い霧がかかるという。ドラゴンランスで幾度か目にした表現だったが、そういう経験はないし、日本の作品になじみのある表現でもない(海外ファンタジーに影響を受けた作品に稀に見受けられたが)し、毛唐は血圧高いんだなとか思ってた。なにか格言めいた言い回しでもあるのか。
『忍びよる影』
p.294 かつてなく血なまぐさい戦闘描写。コナンシリーズの戦闘時の描写は意外にも簡潔でブラッディというよりは活劇のような印象が強いが、本作はベルセルクの原点かと思わせるほどに濃い。
p.299 コナンは胸毛が濃い。シュワルツェネッガーの印象で体毛は皆無と思っていた。
資料編の草稿作品を読んでいたら、不意に山田章博の『ロードス島戦記』が脳裏をよぎった。アマルリックの印象に、なぜだかベルドが重なった。
『闇の種族』
p.429 「黒い碑」の名が。
コナンという名が初出の作品であるという。剣と魔法というよりは冒険小説といった風合い。
頭を打って前世を見る展開。それ系の原点? 解説によればウェルズによる原始人もの、輪廻転生ものがハワードに先行して流行したようだ。また、ポール・アンダースンに影響されたという。
『野蛮と文明――ハワードのラヴクラフト宛書翰より』
p.468 (現在――1933年――の日本人の満州流入)の動きに関しては、日本国の存続に必要であるから、完全に容認するとあなた(HPL)ご自身が明言されています。
当時のアメリカ人でもこういう認識を持つ人がいたんだな、と。 -
Posted by ブクログ
かのスティーヴン・キングをしてSF界の巨匠レイ・ブラッドベリの最高傑作と言わしめたファンタジーSFの傑作『何かが道をやってくる』です
「新訳」と銘打たれておりますが、むしろ古臭い感じ、しかしこれがいい味を出している
物語はウィルとジムという二人の少年が住む町に夜中にカーニヴァルがやってくるところから始まる
しかしこのカーニヴァルには秘密があり、二人はその秘密を知ることで恐ろしい出来事に巻き込まれていく…というお話し
いや〜面白かった〜
うーん、なんていうか全部が詰まっているお話しでした
生と死、善と悪、恐怖と喜び、愛と憎しみが詰まっている
そしてこの詩的な世界観がほんとに夢のようなんよ
ブラッドベリの文体は流れるようで”SFの叙情詩人”なんて言われるんだけど、ほんとだわ〜って思えました
ガビ~ンってこころに響くのよ
SF好きには必読の書であるよ!
-
Posted by ブクログ
東京創元社のSFアンソロジーの二巻目。二〇一九年十二月刊行。まだコロナ禍やリモートばかりの生活を知る前の作品だけど、「あれ、なんだか今っぽい」と感じられるものもあって、フィクションの奥深さを思った。一巻を読んだときに比べて私のSF受容力も上がったのか、どれもそれぞれ大変楽しめた。
■高島雄哉『配信世界のイデアたち』
昔、かこさとしの『ほしのほん』シリーズを読んで、宇宙には「銀河」というものがたくさんあるということを知ったとき、もしかしたらはるかかなたの銀河のどこかに、私みたいな女の子がいて今同じように宇宙の本を読んでいるかもしれない…という想像をした。そんなことを思い出した。
■石川宗生『モンステリウム』
物語の舞台がいつのどこなのかよくわからないが、町に巨大な怪物が現れ、何もせず立っている。それは異常事態として始まったけど、いつしかそれも日常になる。そしていつか終わるが、日常は続く。私たちの日常力は、意外と強靭だし、意外と滋味深い。
■空木春宵『地獄を縫い取る』
近未来のアメリカ。首筋のスロットにケーブルをつなぐことで他人の感覚や感情をも追体験できる、そんな世界で、二人の女性が、小児性犯罪者摘発のための囮となる少女AI開発プロジェクトに取り組んでいる。一方、室町時代の日本。遊女の閨房で、遊女の体に地獄絵図を縫い取る謎の客人。この二つの場面が交わったときには、火の鳥異形編をちょっと思い出した。これはSFなどという括りを越えて読まれるべき作品では。揺さぶられ度はピカイチ。
■川野芽生『白昼夢通信』
そうか白昼夢か。幻想的に滲む色彩が美しかった。思い浮かぶのはラヴェルの水系ピアノ曲…。
■門田充宏『コーラルとロータス』
ここでパキパキわかりやすい作品になって安堵。アンソロジー楽しい。さて、ここも、うなじのスロットに様々な装置を挿し込める世界。精神的支配や共依存の蟻地獄に巻き込まれた憧れの同僚を、世間では一般に障碍と思われている過剰共感能力を用いて救い出す、心理学系ヒーロー(女性だけど)SF。短さと痛快さと頬の赤らめぶりに、走れメロス味もある。
■松崎有理『痩せたくない人は読まないでください。』
ダークなのにユーモアがあって、リアルなのに虚構めいてて、センス抜群だなあ。前作に比べるとオチがいまいちな気はしたけど、もっと読みたい。
■水見稜『調律師』
小説のかたちをした音楽論みたいなところはあるが、やっぱり生身が一番という感覚。 -
Posted by ブクログ
グレッグ・イーガンの〈直交〉三部作の第二巻『エターナル・フレイム』を読み終わった…。なんという余韻…。これはある宇宙の物理学史であるとともに、性別とは何であるか(何であると考えたらいいか)を問いかけてくるな。すごイーガンの極地だと思うんだけど、これでまだ完結してないのである!
この〈直交〉宇宙における主人公たちである人類は、女は出産時四つの子供に分裂して死ぬという世界なので、宇宙船〈孤絶〉の中においては四つ子になると人口の増加を招くので「飢餓状態にあれば二つ子出産になるかも」という通説に従い節食している。そんな極限ななかで、いろいろすすむ。
人類はまだ、空間と時間が交換可能な宇宙についてほとんど知らず、とはいえ近くを通る反物質「直交物質」の性質を知るために科学に邁進する…。一方で、政治的な事情や世論にものごとが阻まれたり、古臭い慣習によって一悶着おこったり、とエピソードには事欠かない。
果ては「女を飢餓状態に置かなくても二児出産させる方法」を模索していた生物学者の研究は、思わぬ方向へと発展しつづけて……???
とにかくヤバいのでみんな読もうな!