エマニュエル・トッドのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
日々の報道は、基本的に欧米視点のものが多い中で、
・ロシアがどういう歴史的経緯と発想のもと動いているのか
・私の中で、アメリカとヨーロッパは一緒には考えられないという認識はあるものの、同じEU内であったとしてもヨーロッパ各国それぞれ考え方や状況、ロシアに対する気持ちなどがこれほど異なるのかということ(イギリスは今はEU内ではないけれど、含めて)
・教科書的には何となく分かってはいたものの、プロテスタンティシズムが近代世界の形成にどいいう役割を果たしてきたのか、またそれが抜け落ちた時にどういう結果につながるのか。
・ガザの戦争とウクライナの戦争との関係性についても、日本の報道を見ていたらそれぞれでしかないが、確かにこういうふうにつながるのか。
などなど、色々と示唆に富む内容だった。
ただ、宗教0状態が招く事態については、典型的日本人である私自身とって、そこが欧米のキリスト教圏の人々にとっては大きな問題となることは想像するが、実感は伴いにくい。
LGBTQの問題についても、同性愛とトランスジェンダーに対する問題の重みをそこまで区別して考えたことがなかったので、キリスト教圏の人から見るとそういう発想になるのだなと新鮮な気持ちだった。
トッド氏自身が、プロテスタンティズムの中にいる人(ゼロかどうかは置いておいて)だからこそより感じることなのだろうと思う部分もあった。 -
Posted by ブクログ
人類史を家族構成から読み解き、民主主義の本質に焦点を当てる。
著者によれば、現在先進国に見られる核家族の形態は原始的なものであるという。原始の人類は核家族を単位として生活していたが、それが直系家族、内婚性共同家族、外婚性共同家族などに分岐し、それぞれ独自の政治的経済的様態を生じるようになった。核家族の形態を持っている先進国においてはある意味原始の形態に収斂した結果という。
そして核家族の形態の国々(個人の自由という概念が生まれやすい)が民主主義を発展させ、資本主義に基づく豊かな生活を謳歌しているわけだが、著者はこの民主主義に警鐘を鳴らしている。
特に核家族形態を突き詰めた英米などは、資本主義に基づくグローバル化を推し進めた結果、体勢に順応した高学歴エリートとそこからこぼれ落ちたグループの分断が深まり、トランプの登場やイギリスのブレグジットなどを引き起こしたと分析している。
本書を読んでいて、いくつか疑問が浮かぶ。なぜ家族構成が分岐した後、ロシアや中国などの共同体家族は核家族に収斂しないのか?核家族に収斂するのが例外的な事象なのだろうか?今後も家族構成のあり方が多様に展開するのだとするとすると、今後我々は「どこに行くのか」?
これらについて、著者は確定的な言辞を避けているようにも思うが、もとより安易な予測はできないだろう。東西冷戦終結の頃フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」のように、リベラルな民主主義や自由経済が勝利を収めたような論調の時代感からすると、今日はあまりに混沌としていて先を見通すことができないとあらためて感じる。 -
Posted by ブクログ
この本は、トッドの大作『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』を読むための入門本と冒頭で紹介されているけど、それ以上の面白さ。
前述の大作の面白いところをギュッと紹介してくれるだけでなく、現代社会の抱える様々な課題や疑問を家族制度の観点で説明するところにフムフムと読み入ってしまう。
ところどころに見える刺激的なフレーズがまた良い。
意図的に極解した切り取り
■日本やドイツは長男を頭とする直系家族社会。英米の核家族社会とは根本から異なる。
■日本は長男が家を継ぎ、老いた親の面倒を見て家が社会福祉を担った。英米は成長した子は親元を離れ、老いた親の面倒は社会税制が担った。
■日本が硬直化しやすく、英米が変化への対応が速いのは家族制の違いにルーツがありそう。
■大学はいまや人々をランク付けする不平等製造マシン
■宗教は死につつあるが死に果てていないゾンビ
■米国の地政学的基本スタンスとは「我々は正しいし負けない。大西洋と太平洋があるから侵略などされない」
■英米の正義とは絶対正義ではなく金にモノをいわせた訴訟による。米で裁判に負けたら広い国土のどこかに行けばいい。
■米の国土は広いのだから、地道な農地改良や資源節約などそもそも馴染まない。米国な旺盛な個人消費とは、長年培われた浪費主義だ。
-
Posted by ブクログ
オーディブルで
エマニュエル・トッドの著作は以前いくつか聴いたことがあるのだが、これは「我々がどこから来て、今どこにいるのか?」の邦訳の出版後に、それを読み解き、さらにはその後の特にウクライナとロシアの情勢を受けての世界の現状をどう考えるかについて、トッド氏と、片山杜秀、佐藤優両氏の対談、トッド氏についての片山、佐藤両氏の対談、フィガロ紙のトッド氏に対するインタビューなどなどを載せている。基本、対談やインタビューがベースのものなので、わかりやすいものになっている。
「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」もオーディブルに入っているので、聴こうと思っていたが、こちらはちょっと気合を入れないと難しいかな?
次は「西洋の敗北」から聞こうかな?
-
Posted by ブクログ
識字率の上昇、義務教育の普及が民主主義の基礎を作ったということも事実ながら、高等教育の普及による教育格差が社会の分断を生み出し、民主主義を破壊するというパラドクシカルな現実を告発するエマニュエル・トッドの明敏さ。
人類は歴史上初めて、先進国の教育において、女性が高等教育を受ける比率が男性のそれを超えるという時代を迎える、とトッドは指摘する。
現在私たちがいかなる意味で歴史上大きな転換点に立っているかを明晰に教えてくれる著者に感謝。
トッドの深い人間知を垣間見せるフレーズを引用しておく。
ある人が「支配階級はただお金を稼ぎたいのだろう」と言ったのに対して、トッドはそうではないと答える。ありふれた庶民は生活のために働き、生き延びるという、ある意味シンプルな幸福がある生活をしている。
「私は人間とは生きるようにできているのではなく、生き延びるようにできているのだと思っています。つまり、精神的な問題は、お金がありすぎてその使い道に困っているような人々に表れるのです。だからこそ、二十世紀の重要な理想や思想の全てが崩壊した現代社会というのは、非常に気がかりな状態にあるのです。」 -
Posted by ブクログ
本書において、著者エマニュエル・トッドは、人口学者の立場から日本の少子高齢化の問題を指摘している。彼の主張によれば、日本における人口減少は将来的に大きな課題であるという。コロナ禍の最中に出版された本書では、「自粛生活が全世代の平均寿命にもたらす影響」に焦点を当て、高齢者の健康を守るために、若者と現役世代の生活が犠牲にされたことが語られている。ここで、トッドは高齢者の死亡率以上に「出生率」の重要性を強調する。
日本の家族構造は、イギリスやアメリカの「絶対核家族」(親の遺言で相続者を指定)やフランスの「平等主義核家族」(平等に分割相続)とは異なり、直系家族(長子相続)を基盤としており、結果として老人尊重の状況を生んでいる。ドイツもまた、直系家族の形態をとっている。現在、日本において家族がすべてを担うという考え方は困難であり、子育てや老人介護などを家族だけで賄うことはできなくなっているとトッドは述べている。こうした家族への過剰な重視は、非婚化や少子化を助長しているため、家族を救うためには公的扶助が必要であると主張する。日本の少子化は、「直系家族の病」とも言えるとトッドはいう。
日本の強みは、直系家族が重視する「世代間継承」「技術・資本の蓄積」「教育水準の高さ」「勤勉さ」「社会的規律」にある。しかし、その完璧さは長所である一方で、短所にもなり得る。今日の日本は、まさにそのようなジレンマに直面している。
さらに、仲間同士で摩擦を起こさない快適さから、移民を受け入れない排外的な社会となっている日本において、出生率を向上させるためには移民の受け入れも必要であるとトッドは指摘する。不完全さや無秩序を受け入れることが今求められている。
また、フリードリヒ・リストの言葉を引用し、すべてを「交換価値」で捉えると『豚を飼育する人々』は生産的であるが、『子供を育てる人々』は非生産的であると述べられている。高齢者を敬うのは良きモラルであるが、「社会としての活力」は「次世代の子供を産み育てる力」にこそ現れるというトッドの見解は、重要な視点である。彼は、日本で少子化問題が話題になったのは30年前であり、その後、日本政府の実際の対策はほとんど講じられていないと指摘する。
日本人は自己を特別な存在と見なし、外国人とは異なる存在と考える差異主義的傾向があり、これが分離や隔離を促進する一因となっている。しかし、日本は外部からの人々を包摂し、同化する能力も有している。日本の社会は古来から舶来物を吸収し、環境の変化に適応してきた。この適応能力こそが日本文化の真髄であり、そのためには外国人を受け入れ、日本文化に同化させることが必要であるとトッドは論じている。
日本の天皇家は直系家族とは異なり、男子長子相続の原則が適用されている。近世の日本においては、婿養子が一般的であったが、天皇家は一貫して婿養子をとらない形を維持してきた。直系家族は鎌倉時代から始まり、江戸時代に広がり、明治政府により「長男相続」が法制化された。家名の存続が血脈の継承よりも重視されてきたのが日本の家族制度である。
ドイツの法体系においてはイトコ婚が認められない一方で、日本では戦後においてイトコ婚の割合が高かった。日本では、第2次大戦直後で、イトコ婚は7.2%あった。戦後の首相で、35人いるが、岸信介、佐藤栄作、菅直人の3人がイトコ婚。イスラムでは、30%がイトコ婚。ドイツでは、イトコ婚を厳しく排除している。このことは、日本の家族システムが社会の閉鎖性や二世政治家の背景となっている要因とも考えられる。タレントの不倫騒動が起こるのも、直系家族の価値観が大きく影響する。
日本では想像できないような婚姻関係がフランスにおいては受け入れられている。マクロン大統領の妻は、家庭を持っていた女教師と教え子。マクロンと出会ったのは、16歳だった。その奥さんは30年連れ添った夫と別れ、24歳年下のマクロンと結婚した。不倫略奪愛、女教師と男子生徒という結婚だった。バッシングがあるものの、大統領として選ばれた。日本の直系家族的価値観が育児と仕事の両立を妨げ、少子化を招いている現状を踏まえ、国家が介入すべきであると強調している。
トッドはまた、トランプを高く評価し、日本がアメリカの核の傘の下にあることは幻想に過ぎないとし、核の保持を提唱している。中国も高齢化と少子化社会に直面しており、成長の見込みがないと警告している。彼の意見は、全く異なる角度からの提言として、日本にとって非常に刺激的で重要なものである。 -
Posted by ブクログ
銃声が響かずとも戦火はすでに広がっている。経済制裁、情報操作、サイバー攻撃――現代の戦争は形を変え目に見えぬ闘いとなった。国家同士の衝突は表面に過ぎず裏で糸を引く存在がある。現代の国際対立の本質を鋭く指摘する。
『帝国以後』ではアメリカの衰退を、『家族システムの起源』では文化と政治の関係を論じた。彼の分析は権力の集中と富の独占を目的とする勢力の存在を浮かび上がらせる。
最も危ういのは私たちが無関心になること。分断を受け入れ疑念を抱かず声を上げなくなった時真の敗北が訪れる。
気づくことから始まる。見えない敵に立ち向かうためにまずは事実を見極め冷静に考える力を取り戻さねばならない。
それにしても日本政府は、日本外交は。
-
Posted by ブクログ
例によって、エマニュエルトッドのアメリカ嫌いが出てる。
・家族構造とイデオロギーは一致する。ロシア人は、トップダウンの指示に従う共同体意識が、共産主義を生んだ。例えば、ロシアは結婚した後も、じーさんばーさんと夫婦が一緒に暮らす。兄弟間で差は生まない。長男優遇しない。
・これにより、スターリンはロシアの農業集団化は苦労しなかったが、ウクライナ中部は苦労した。そして農民皆殺しにした。ソ連時代はウクライナもソ連だからね。
・ソ連はそもそも、ロシア主導の強制的な併合である。ウクライナもバルト三国も軍事力で制圧された。
・現在のロシアは部分的な資本主義。石油ガスは国営。経済は資本主義だが、政治は共産主義である。中国、ベトナム、キューバも同様。
・政治の共産主義下では、政権交代がなく、政府批判もできず、司法も独立してない。つまりは、一党独裁で選挙は存在しない。政府を批判したら投獄される。中国では、TwitterやGoogleは禁止されており、習近平が次の総裁を決める。
・ウクライナは「国家」という伝統がない。言語や宗教が地域によってバラバラである。ロシア侵略前から破綻国家である。
・ウクライナという名前自体、スラブ語で「辺境の地」を表す。他国の支配を受け続けた地域であり、国家として独立した期間が短い。1991年のソ連崩壊で、初めて独立。
・ウクライナには「安価で良質な労働力」があり、西欧諸国はこれを使った。ゆえに人口は12%減少。優秀な若者ほど、ウクライナから出ていく。
・ウクライナ戦争は、家族構造の違いからくるのかもしれない。核家族社会(父権性ゼロ→アメリカ、イギリスなど)、中間ゾーン(ドイツ、日本)、共同体主義的父権性社会(父権性が強い→ロシア、中国)。
・父権性がゼロとは、祖父母と同居せず、父の権力弱く女性の地位が高め、子供は不平等に接する。
・父権性が強いとは、祖父母と同居して、父の言うことが絶対で、女性の地位が低く、子供は平等である。
・ドイツと日本は、アメリカに征服されて、核家族化された。事実、サザエさんなんて、父権性社会の極みな感じだしね。
・ロシアは父権性社会だが、中国に比べても女性の地位は高い。進学率とか。要因はキリスト教。聖母マリアの影響である。キリスト教の中では、女性の地位が高め。
・アメリカのGDPは一部虚構である。例えば、アメリカは裁判が多い。そこで得た弁護士の収入もGDPに入る。一方、日本は裁判が少ない。的なね。モノを生産できる能力が思ったよりアメリカにはない。事実、ウクライナ相手にも貿易赤字になっている。 -
Posted by ブクログ
エマニュエル・トッド氏と池上彰氏の対談本。
ウクライナ戦争について、「ロシアが悪」という画一的な見方に疑問を投げかける。
ウクライナ戦争は、ロシアとアメリカの代理戦争の様相を呈しており、長期化するだろうとの見立てだったが、トランプ政権が誕生したことにより、状況は変わりそうだ(この対談は2023年に行われた模様)。
トランプを見ればわかるように、アメリカはもはや「良いことをしよう」という気がないことを隠そうともしておらず、国力も落ちてきている。そんな中で、日本は今まで通りアメリカにただ追随していて大丈夫なのかという不安を禁じえない。
西側諸国ではあたかも「狂人」のように言われるプーチンだが、世界的に見るとロシアに賛同する国々が多いこと、そこには人類学的な家族構造のありかたなども影響するのではないかとの指摘は新鮮だった。
トッド氏自身はリベラルだが、世界的にはLGBTなど性的少数者には保守的な国々が多い中、セクシャルマイノリティであることをアイデンティティの中核に置きすぎることへのバックラッシュが起きうることを指摘している。
アメリカは、国内は自由主義的だが、自由主義や民主主義を他国に押し付けてきた。一方ロシアは、国内は権威主義的だが、他国の多様性は尊重する姿勢を見せている。そのようなところも、ロシアを支持する国々には魅力に映るのだろう。
プーチンはもちろん悪いのだが、かと言ってアメリカが善かと言うとそうでもなさそう。国どうしのメンツを賭けた争いで、今日もたくさんの人が亡くなっている。しかも争っている国の国土ではない場所で…
アメリカは自国が戦場になったことがないから好戦的なのだという指摘はすごく腑に落ち、そういった視点で、自分も「アメリカフォビア(米国嫌悪)」が沸き起こるのを感じた。 -
Posted by ブクログ
これからの世界について、今起きている戦争、AIの発展、資本主義、民主主義の今後など重要なテーマについて、複数の知識人たちの語りで展望が語られる。
ロシアのウクライナ侵攻を西欧ほどそのほかの国々は嫌っていないとか、戦後ロシアとドイツの接近こそアメリカが嫌っているとか斬新な切り口もあり、人口減少する先進国なので第二次世界大戦ほどの拡大戦争にはならないという見方もあれば、それはわからないという意見もある。
AIによるデータの大企業に寡占される様やソノ、IT企業組織はヒエラルキー型のトップダウンという保守的組織であるという指摘も興味深い。
ただAIはよくできて効率的なWikipediaのようなもので、何かを直接生み出すこともなければ、視覚聴覚に頼りがちな我々が体験したかのように錯覚するが、五感を通した体感とは別のものという指摘は忘れないようにしたい。
リベラルな民主主義とコミュニティの関係が制度とし述べられる中、一方でコミュニティのアソシエイトとしての責任と権限、そしてそれが体感できる規模感、そういった共通倫理や道徳感があってこその民主主義制度が機能するという中島氏の意見はまさに賛同する。
まさに無責任、手触り感のない暮らしは工業社会以降の先進国に多く生み出されている。それは仕事、暮らし、住居などが特定の土地、文化、共同体から切り離されたり、容易に変わらざる得ない現状が生み出したものでもあると思う。
また、コミュニティやアソシエイトの負の側面(同調圧力等)にも目を向けて、出入り可能なフレキシブルさ、レジリエントも必要という結びに賛同しつつ、それを作ってかないとなというところに読後感が着地した一冊。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ3. 創造
p.114 本を出版したときも、どこの国の誰かもわからない人たちからポジティブな批評が届き、それに励まされたりしました。このように誰かによる温かい励ましというのが常にあったからこそ進んでこられたのだと思います。
4. 視点
p.120 社会をよりよく理解するための条件として挙げれるのは、個人的な経歴や出身地などにおいて、その社会の外側に属している部分があると言うことです。いわゆる、「外在性」です。文化的な意味で社会との間に不一致を抱えていたり、外国出身だったり、あるいは宗教などにおいてマイノリティに所属していたり、とにかく一部が社会の外側にいると言うことが重要です。
p.131 過去の書物を読むことで、現在に囚われない一歩ひいた視点を持つことが可能になるわけです。
5. 分析
p.165 アメリカの社会学者C・ライト・ミルズの著作に「社会学的想像力」というものがありますね。ごく単純に言えば、社会学的想像力とは、個人が日常生活で直面するようにな様々な困難を、社会の構造変化といったマクロな文脈で捉えるような視点を持つことです。
6. 出力
p.177 友達に書くことを目的として、どんどん書いていった結果文章を書けるようになった。
p.178 書きながら考えることはない。