エマニュエル・トッドのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ遅ればせながら読み始め…前作を上梓してフランス国内では批判の対象となった著者。前作の前書きでは「読売と日経の記者が心のよりどころになったこともあった」と明かしていたが、今作では「あの本を出したことで今、自由に物が言える立ち位置になった」と話す。
前回よりだいぶ読みやすくなって、持論の人口学的な話もわかりやすかった。
トッドいわく、イギリス人のいないヨーロッパ、それはもはや民主主義の地ではない。1930年代の大陸ヨーロッパはポルトガルのサラザール、スペインのフランコ、ムッソリーニ、ヒトラー、チェコスロバキア以外はいたるところに独裁者がいた。
フランス、アメリカ、イギリスは自由を強制されている。絶対核家族のアングロサクソン世界の平均的個人は権威主義を許されていない。
「自由」が強迫観念になっていない日本のような権威主義的社会のほうがトッドの「家族構造が政治的行動を決定する」という決定論を受け入れやすい。日本で最初の講演を終えたら「トッドさんは長男ですか、次男ですか?」と聞かれた。スキャンダル視されることなく受け入れられた。「人間の自由には限界がある」ことを認識できるという意味で日本のほうが実質的に自由なのかもしれない。そういう能力を今日の西洋人は失っている。自由が強迫観念になり、ゆがんだ人間観を持っている。リベラルと言われる社会が実はさほどリベラルでなく、先進国のナルシズムともかかわる問題。「シャルリとは誰か?」のテーマでもある。
日本は出生率を上げるには、女性により自由な地位を認めるためには、不完全さや無秩序も受け入れるべき、子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきではないか。
歴史学者、社会学者から見れば、ISは西洋が生み出したもの。ジハード戦士の大半は西洋から現地入りした者。アルジェリア人は「なんでヨーロッパ人は、あなた方のクソみたいなものをこっちへ送ってくるのか」イスラム社会から生まれたとはみなしていない。
グローバリズムへの漠然とした不満がイスラムヘイトにつながっている。社会と国際関係の安定を望む民衆は過剰なまでのグローバリズムの進展に小休止を呼び掛ける権利をもっている。経済格差の拡大はスケープゴートを求めてイスラム恐怖症という妄想のカテゴリーを生み出している。 -
Posted by ブクログ
フランス人の歴史人類学者による、ユーロ圏の政治・経済学的な現状について述べた本。あまり聞いたことのない内容であったが、これが事実なのかもと感じた。通貨ユーロによってドイツが1強状態となり、巧みな政治・外交と歴史伝統を引き継ぐ民族性とで欧州を席巻することを恐れている。中国はドイツとともに台頭を図る仲間となりつつあり、対抗勢力として鍵を握るのはロシアとアメリカだと言う。日本としては今後、ロシアとの連携が重要となると思料。
「台頭してきた正真正銘の強国、それはロシアである前にドイツだ。ドイツが台頭してきたプロセスは驚異的だ。東西再統一の頃の経済的困難を克服し、そしてここ5年間でヨーロッパ大陸のコントロール権を握った」p27
「ドイツが持つ組織力と経済的規律のとてつもない質の高さを、そしてそれにも劣らないくらいとてつもない政治的非合理性のポテンシャルがドイツには潜んでいることを、我々は認めなければならない」p28
「ドイツはロシアに取って代わって東ヨーロッパを支配する国になったのであり、そのことから力を得るのに成功した」p41
「新しいドイツシステムは基本的に労働人口の吸収によって成り立つ。最初の段階で使われたのは、ポーランド、チェコ、ハンガリー等の労働人口だった。ドイツはコストの安い彼らの労働力を用いて自らの産業システムを再編した」p50
「今日、二つの大きな先進的産業世界の存在を確認することになる。一方にアメリカ、他方に新たなドイツ帝国である。ロシアは第二次的な問題でしかない」p63
「今日、政治的不平等はアメリカシステムの中でよりも、ドイツシステムの中での方が明らかに大きい。ギリシア人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。一方、アメリカの黒人やラテン系市民は、大統領選挙および連邦議会選挙で投票できる。ヨーロッパ議会は見せかけだ。アメリカ連邦議会はそんなことはない」p67
「ユーロのせいでスペイン、フランス、イタリアその他のEU諸国は平価切下げを構造的に妨げられ、ユーロ圏はドイツからの輸出だけが一方的に伸びる空間となりました。こうしてユーロ創設以来、ドイツとそのパートナーの国々との間の貿易不均衡が顕著化してきたのです」p151
「ヨーロッパ各国の政府は、景気浮揚が中国とその他の新興国の経済ばかりを浮揚させるということを遂に理解しました」p188
「自由貿易は諸国民間の穏やかな商取引であるかのように語られますが、実際にはすべての国に対する経済戦争の布告なのです。自由貿易はあのジャングル状態、今ヨーロッパを破壊しつつある力関係を生み出します。そして、国々をそれぞれの経済状況によって格付けをする階級秩序に行き着いてしまいます」p218 -
Posted by ブクログ
ネタバレグローバル化が進む中BrexitをやTrumpなどのナショナリズムの風潮の強まりに悲しむと同時に学ばなければならないと思い購入。就活がやっと終わったので読破。自分が後で見直せる様にいくつか気になった点をピックアップして書きます。
【中東地域・ISIS】
・現在ISISが台頭している理由
近代化におけるプロセスとして暴力的行為、過激派の台頭は付き物。特に中東地域は個人の自由度が低い事もあり民主化への推移における弊害は大きい。
・近代化の定義
識字率向上(特に女性) → 出生率低下
これによって女性に対しても平等に教育の機会を設けられる事で民主主義の肝となる参政権獲得に繋がる。
・現在先進国と対立している理由
文明的な違いではなく近代化移行前の時間軸のズレ。宗教的な対立に思われがちだが同じ事がアフリカにも起こると著者は予測。
【アメリカ】
・個人主義的思考の欠陥
アングロサクソン的個人主義思考は平等の思考には繋がらない。彼等が平等だと感じていたのは黒人を周縁として追いやり、白人の中での平等を作り出しから。
黒人奴隷解放から始まり2009年には黒人初オバマ大統領が出てきた事から彼等の平等は不安定になった。
・経済破綻とトランプ出現
人種差別について言及するトランプだがそこはネックではない。真のネックは自由貿易、TPPなどによる経済破綻だ。(リーマンショックが原因と勘違いされがちだが)
個人的には人種差別は彼が大統領になる為のマーケティングに過ぎないのかと思った。無駄にそういうセンシティブな話題に言及する事でアメリカ国内に及ぼす影響を考えてほしいものだ、、
・軍事志向的政策
アメリカ経済が弱くなってきた事からアメリカはイラク戦争などから分かる様に軍事力で存在感を出す他なくなった。侵攻国の規模が彼等の国力を図る指標になるという言葉は印象的だった。
【ヨーロッパ】
・ヨーロッパ内での差
同じ言語を話さず、その上で違う文化を持つ為欧州という言葉がイデオロギーとなってしまった。内部では嫌い合うような現状もありEU解体の流れに向かうと予言。
また、ドイツにはヨーロッパを牽引する力や資質はない。
・2005年までにユーロはなくなるという予言
→Brexit, Frexit未遂などから近しい傾向は伺える。
【日本】
・核武装の是非
アメリカと中国が北朝鮮への影響力を持つ中、日本は唯一の被爆国という立ち位置から武力を持っていない。
トッドによると日本も核武装する事で均衡を保つべきとか。
・アメリカとの関係
アメリカとの同盟関係はアジアにも味方がいない日本の視点から見ると一国依存となってしまっている為、"選択肢"としての同盟関係とは言えない。
【国際社会の方向性】
・欧州、米国、極東で経済圏を形成。国家単位でなくこの地域単位で保護主義的政策を取るべき。
→日中韓はその様な経済連携を探る機関を設立すべし。
・民主主義
国を牽引するエリート層が自国の中間層にも目を向け、グローバリゼーションという幻想から一度離れる事で節度ある民主主義が実現可能。これは世界に目を向ける事を止めるのではなく、各国々のエリート層がもっと自国に目を向けるべきなのだとという意味で解釈した。
【各国の文明について】
・"グローバリゼーション"という夢
結論から言うと文明が一つにまとまるということは家族的視点からも経済的視点からも不可能との事。思想としては魅力的と言及するも、極限まで近づいていく事はあるが一つになる事はないと断言。
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本の内容に関係なく個人的な意見を。
やはり政治的な要因や経済的要因も大きいがこの本は人類学者の視点から書かれていることもあり、文化の差等の描写に非常に惹かれた。
個人主義的で自由度が高いアングロサクソン文化。
その中でもイギリス人になる事を周縁部分に位置する移民にも社会的に強いる為テロが多発するイギリス。フランス人として平等に扱う事で政治的革命に対して寛容なフランス。
上下関係を重んじ、集団主義の日本ドイツなど文化によって政治に影響を及ぼすことは間違いないのだなあと改めて実感した。
個人的には身を置くには個人主義的文化の方が好きなので日本との違いを学問的な観点から再確認できて良かったと思う。自分は将来海外移住も考えているので参考にしたいと思った。
彼の著書の一つである経済幻想において各国の自由度について詳しくランキング付けしているとの事なのでそちらにも目を通そうと思う。
また、各国の周縁部分の人々には共通点があるという彼の言葉はかなりしっくりきた。東北を訪れた際に会った夫婦からトッドはフランスの地方の老夫婦を思い出したとか。寧ろ各国の文化を反映しているのはエリート層という言葉も頷ける点はあった。
各国で"成功"を掴むには勿論現地の風習に従う必要があり、それは都市や高等教育以上を経験した層に反映されやすいというのは覚えておこうと思った。
2017/6/19 -
Posted by ブクログ
『つまり、フランスの指導層は、ユーロを壊すくらいならフランス社会の一部を壊したほうがましだと考えたのです』―『日本の読者へ』
冬の朝、寒い駅のホームで電車を待っている時、背中に当たる陽を感じて温もりを思う。地平線から登ったばかりの弱々しい太陽でもこれだけの力があるのだなと感心すると同時に、何か知恵の在り処の本質のようなものに触れたような気にもなる。太陽の運行、雲の動き、未来を予測すること。それは、予測できぬ人々から見れば神の如き力にも見える。神は天変地異を司るが、その振る舞いは気まぐれにも見える。その気まぐれさのパターンを理解する力を持つことは人々を従わせる力となることは容易に想像出来る。それは何も未開の人々の間で起こることを描写して言っているのではない。現代でも日々起こっていることも含めてそう思うのだ。例えば、朝の天気予報で今日は雨が振りそうだとお告げがあれば多くの人は傘を持って出掛けるだろう。その背後にどのようなデータがあり、その時系列的変化から未来が予想されていたかを理解できなくても、シャーマンの言葉対するようにその予測する力について人々は盲信的だ。
知識として理解していることとが、ただ単にAであればBであるというような暗記式の論理であるなら、それは知恵とは呼ばれまい。繰り返される出来事の共通項を探り当て、いま起きている事象の帰結を予想する。その時々の権力者の意向や世の中の空気といった文脈に囚われることなく予測をする。それを知恵と呼ぶのだと思う。
エマニュエル・トッドはその意味において真の知恵者だと思う。彼が参照するものはデータであり手垢の付いた誰かの意見ではない。日々業界で起こっていることを伝える夥しいニュースや評論を読んでいると、そのほとんどが噂話のような一過性の真実に過ぎないことを思い知らされるが、データに基づいて先を見通す言説に触れることは稀だ。しかしデータという奴は実は扱い辛い。誤差もあるし複数の要素が畳み込まれていることも普通だ。そこから何が一番変化を司るものなのかを見極め、見えない将来を可視化する。それを面白がれる人でありたいと思いつつ、現代の混沌とした様相にお手上げな気分になることも事実。トッドの切り口の鋭利なことと、時間を経ても錆びつかない確かな刃の行方に、只々感心する他ない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ現在の行き過ぎた(と個人的には思っている)グローバリズム、自由主義経済については懸念を感じている。という意味では自分は保守なんだと思う。一方で、本書にも書かれている通り、本来反対すべきグローバリズムを今の保守派が進めているのは、やっぱり謎。
言葉の響きで単純に「よいもの」と思い込んでいるわけではないだろうし、必ずしも個人(および企業)が自己の利益のためのみに利用しているだけだもなさそうな。そんな謎に対する1つの考えも述べられています。
個人主義、民主主義の行き過ぎ、識字率、劣化(本書ではエリート・指導層の劣化とあったが、国民全体の劣化ともいえるのではないか?)といったいろんな要素を絡めて考えていく必要があるようで。個人的にもちょっと今後も考えていきたいテーマ。 -
Posted by ブクログ
ウクライナ問題やトランプ現象等、昨今の大国は「グローバル」から「ネイション」へ回帰しつつある。言うなれば「ソフトナショナリズム」とでも言おうか。かりにそこまで大げさじゃなくとも、主権を守るためにEU離脱を決断した英国の姿勢はなんら不思議ではない。むしろ連合という名のドイツ支配圏と化してしまっているEUこそ危うく、国家的アイデンティティの見えない構成国こそ危険であると著者は説く。人口学という視点からソ連崩壊、リーマン・ショック等を予言し的中してきたからこそ、その説得力に鳥肌がたつ。だが一方で、ナショナリズムが善というわけではなく、むしろ暴走の危険をはらむことを忘れてはならない。そして著者がこのタイトルから本当に言いたかったのはおそらく「問題はISではない、フランスなのだ」。他人を侮辱することと報道の自由とを履き違えるフランスはいま、経済危機と宗教の空白を同時に迎えている。これはナチス台頭を許したかつてのドイツとオーバーラップする。そしてアジアでは中国による挑発行為の連続。ふたたび全体主義が台頭する暗黒の時代がやってくるのだろうか?
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Posted by ブクログ
経済音痴の私にとって衝撃的。確かに今の世界は何かがおかしいとはぼんやりと感じていた。本書は、現代の格差の拡大や危機の恒常化の原因がグローバリズムにあり、それが社会を破壊していることを、5人の筆者が座談を通じてわかりやすく説いている。新自由主義(ネオリベラリズム)が制約のない自由として席捲し、隣国同士の経済戦争につながっていることは、EUに見られる。われわれは真の民主主義を守るために、各国がネーションごとにまとまり、独自に規制を定め、グローバリズムから脱却することが必要。しかし世界のエリートの大半はグローバリズムを正しい方向に導く道だと信じているとのこと。…ところで情報のグローバル化は避けられない。経済の脱グローバル化はいかにして達成できるのだろうか?
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Posted by ブクログ
ネタバレグローバリズム、新自由主義を否定的に捉えた一冊。
普段からグローバル至上主義とも言える風潮に浸っているため非常に新鮮な内容であった。
本書を通じて、グローバリズムの弊害を以下のように捉えた。
・格差拡大
国境を越えて経済活動がされるため、資本を持つ大企業が残り中小企業は潰れる。
さらに大企業の中でも資本家と労働者の格差が広がる。
(さらに生産量が増え供給力が上がることでデフレに繋がる)
また、同様に大国が富み、小国は貧しくなる。(搾取される)
本書では、「経済戦争」というワードが使われていたのが印象的。捉えようによっては経済を武器にした帝国主義なのではないか。
・伝統や人間関係の崩壊
ヒトやモノが国境を越えて自由に行き来できるため、人間関係は希薄化し、伝統も無くなっていく。
これは伝統や人間関係を守ろうとする保守の考えとは対局の状況なのだが、なぜか保守主義者は新自由主義を信仰する。
・危機のグローバル化
国境の意味が希薄化しているため、ある国で起こった危機が他国に伝播しやすい。2016年6月に起こったイギリスのEU脱退が記憶に新しい。
ではどうするか。
一部の筆者はケインズのように保護政策をとるべきであり、政府が統制を取り、一定のルールのもと経済活動をするべきだと語る。
ただし、現在の問題として、近年のエリートが劣化し、新自由主義の旗印のもと現状を放置していると結論づける。