エマニュエル・トッドのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
西洋の敗北で有名である「エマニュエル・トッド」による最新訳本(2026.9現在)です、これで8冊目となりますが、記録を見ていたら、今から4年以上前の2022年に、現在の状況(ウクライナ、イラン)を踏まえて「第三次世界大戦」状態になっていると看破しているのは、すごい洞察力だと改めて感じました。
国際連合は、第二次世界大戦の連合国が造った枠組みであり、同盟国が反乱することを抑える仕組みなので、ロシアやアメリカが絡んでいる紛争には全く効果がないのも仕方がないということも徐々に理解できてきました。この本の大事な部分を肝に銘じてこれからのニュースを理解する必要がありますね。
以下は気になったポイントです。
・21世紀において 米国の戦争のスタイルは 技術的には飛躍的に洗練されたが戦争の概念は「非対称性」という植民地主義時代の球体 以前のものに回帰した、軍事力の圧倒的優位という「非対称性」の中で 植民地主義的侵略者側の人的被害は極めてわずかな数に抑えられる一方で、 侵略される側の人的被害は膨大な数に達している。 しかしこの植民地主義的な妄想への回帰 がイランに対する米国の大惨敗を決定づけた。米国が地上戦 なしに空爆 だけで勝利を目指す 中でイランがホルムズ海峡を封鎖し 湾岸 ショックを弾道ミサイルの協議の下に置いた結果、 ウクライナ 戦争ですでに枯渇しつつあった米軍の兵器 在庫は中東でさらに浪費され 米軍は鬱じゃない状況に追い詰められた(p4)
・ロシア イラン 中国は米国を がんじがらめにするために今や「連合」を組んでいる、帝国として公開課程にある米国は現在進行している世界大戦で勝利することはできないが完全に撤退することもできない、 なぜなら撤退は「敗北」を意味するからだ、 その敗北はアメリカ国民の贅沢な 消費生活を維持するために世界に経済的に規制し世界から 富を搾取してきた「アメリカ帝国 システムの終焉」を意味することになる (p5)
・自然人はドイツでは死滅した それゆえに この国は ナチズムを生み出した、一方日本には自然な人間、 人間らしい人間が今も生き生きと 存在している、 だからこそ日本人は戦争を拒否できると信じる (p13)
・こんにちは 我々が西洋に見いだすものは全く別のものである、以前は西洋のリベラルな価値観= 工業生産、 繁栄、 自由、 男女や 米国における黒人と白人の平等、であったが 偽装や価値観を誰も語ることがなくなったのが今日の西洋である、 まず 深刻な現実を直視する必要がある、 それは「 国内産業の空洞化」「 生活水準の低下」「 自由の後退」である(p28)
・ウクライナ 戦争の直前 ロシアとベルラッシュの GDP の合計は西側諸国のわずか3.3%であったが、 西側諸国が ウクライナに十分な量の兵器を供給できなかったのに対し 3.3%の方が多くの兵器を供給できた。 つまり この戦争は西洋の 生産性 不足という現実を露呈させた、 同時に 我々が習慣として用いている GDP という数値がもはや物を製造する真の生産力を示してないことも 露わにした(p31)
・生産力の衰退は何に起因するのか、 それは 米国・ 英国・ フランスといった西洋の主要国における エンジニア養成の能力の欠如に由来している、人口 が米国の半分以下のロシアの方が 米国よりも多くのエンジニアを輩出している、 これがウクライナ 戦争でロシアが米国に勝利した最大の要因である、 いまだ エンジニア 陽性 能力を維持している日本とドイツはむしろ ロシアに近い状況にある(p32)
・西洋の抽出をなしてきた 米国と英国の力強さの源は、 プロテスタンティズムという宗教が持つ「教育の力」であったが このプロテスタンティズム(= 読み書きを重視し 大衆の識字化に貢献)の消滅 が米国における教育の崩壊をもたらした(p33)
・ロシア軍が ウクライナに侵入したのは事実であるが、 歴史的な現実を見れば ウクライナを取り込んでロシアの国境にまで至る「 NATO の東方拡大」 ウクライナ人 自身によるウクライナのドンパス地方のロシア系住民に対する武力攻撃、こそが ウクライナ 戦争の真の原因である、 この戦争は基本的に防衛戦争である、という ロシア人の理解は完全に正しい認識である 、筆者に言わせれば ウクライナに武器を提供して戦争を誘発した米国と欧州 こそが 侵略者であるというのが 客観的な事実である (p37)
・プロテスタントでは 現世には何の魅力もないとされてきたため に 宗教のゼロ 状態を見出したが、カトリックは宗教としてそれほど厳格ではなく より寛容で人間味のある宗教で「この世界は美しい」という考え方を受け入れる 宗教である、従って カトリックでは偶像は拒絶されず 芸術的な 傑作 に満ち溢れている (p42)
・トランプは2つの不可能性に直面している、 すでに敗北している戦争を続けられないが 自らの敗北を認められない。 さらなる 対ロシア制裁を口にする一方で ロシアよりの和平安の受諾を ウクライナに 強要する という 一見不可解なトランプの言動はここから理解できる 、トランプ 政権が ウクライナ 戦争から少しずつ 撤退している様が見て取れる、 しかし 米国の敗北であるという事実は 隠しながら、そうしている。 敗北の責任をゼレンスキー 大統領とウクライナ 国民に押し付けたのは そのためである、 十分な資金と武器を ウクライナに供与しなかったとして責任を欧州諸国に押し付けているのも同様である(p55)
・ アメリカは中国に対する経済面で敗北した、 関税 攻撃で中国に圧力をかけようとしたが レアアースの対米輸出規制で反撃されると トランプ大統領は即座に中国に譲歩した、イランへの攻撃はロシアと中国の大国に敗北したという現実をごまかすための目くらましであった(p108)
・イランはイスラム 聖職者の国ではなく エンジニアの国である、 だからこそ 彼らは大量の弾道ミサイル や ドローンを製造できた。無人機 「シャヘド」 は、ウクライナ 戦争に革命をもたらしたイランの発明品であり、 ドローンはすでに「現代戦における決定的な要素」になっている(p122)
・現在の米国エリート層は「パワー」「プロフィット」「プレジャー」 という 3つの P を最大化するために生きている、 この3つを最大化できる人間こそ 一番優れた人間だと思い込んでいる(p137)
・ゴルバチョフ とえりチンによる15年間の大失政によって崩壊してしまった ロシアを再生するために不可欠なのは、 政治 経済 軍事ではなく「子供の教育」 プーチン の凄さがある、彼は教育が疎かになると 国家は滅ぶと信じている(p147)
・ ウクライナ 戦争とイラン戦争、 この2つの戦争は別個の戦争ではなく 第三次世界大戦の「南部戦線= イラン 戦争」と「北部戦線= ウクライナ 戦争」 という 同じ戦争の2つの戦線と捉えるべきである、4年前に概念として用いた「 第3次世界大戦」 がより具体的な姿を現してきた(p165)
・トランプ大統領やバンス 副大統領がイスラエルのネタニヤフ首相や 閣僚を激しく避難しているが、 これは「この敗北は我々を この戦争に巻き込んだ イスラエルのせいだ」という責任転換である(p166)
・現在 北部戦線でウクライナが軍事施設や石油関連施設など ロシア 領内のかなり奥にまで攻撃対象を拡大できているのは、米国が提供する軍事情報のおかげである、 南部戦線で米軍とイスラエルに対するイランのドローンやミサイルによる攻撃化 効果的だったのは、 ロシアが提供する軍事情報のおかげである。 これはウクライナ 戦争の初期段階でロシアがイランから提供されたドローンに大いに助けられたことも関係している、米国のミサイル 備蓄を総合させるという点で イランとロシアは共同戦線を張っている、さらに 北部戦線で米国と戦う ロシアを経済面で支えているのは中国で南部戦線で米国と戦う イランを経済面で支えているのも 中国である(p168)
・米国とイスラエルの高価な ミサイルがすぐに枯渇したのに対し安価な 弾道ミサイルとドローンを大量に 温存し 持久戦を辞さない イランの構えが 和平交渉で強気な姿勢につながっている (p170)
・リビアの政権は カダフィーの死によって崩壊イラクの政権もサダムフセインの軍事的敗北によって崩壊した、 しかし いずれも アラブ諸国の特徴として 脆弱な政治システムしか有していなかった、 しかし ペルシア系で シーア派のイランはこれとは根本的に異なる 社会である、 仮に ハメネイ氏が暗殺されてもイランの国家体制が崩壊することなどはありえない、 分厚い エリート層と彼らが共有する 愛国心が国家としての イランを支えている(p171)
・筆者がウクライナ 戦争の当初から「 西洋が敗北し ロシアが勝利する」 ロシアが勝利すると ロシアが勝利すると確信できたのは、人口が 米国の半分以下のロシアの方が 米国より多くのエンジニアを輩出しているという事実からである、 戦争が長引くほど必要になるのは高価な 最新鋭の兵器よりも大量の安価でシンプルな兵器である、 こうした兵器をどれだけ多く 製造できるかという生産力の戦いになる (p175)
・現在の GDP は 実際の生産力を測る指標としてのリアリティーを失っている、今日の米国の膨大な GDP には「 平均寿命の伸びに貢献していないのに高額すぎる 医療費」「 訴訟大国の法外な弁護士費用」「 世界一の収容人数を誇る 刑務所」といった 決して生産的とは言えない サービス部門の GDP がたっぷり含まれている、今日真の生産力を示すものは GDP ではなく「 エンジニアの数」(p175)
・非西洋圏で植民地化を免れた国はごくわずかで、日本・タイ・イランのみである(p177)
・中国において 少子化が進んでいるが 人口減少による優秀な労働力の不足は、化学工学系の高等教育の履修者の継続的な増加、 AI やロボットによる労働力の代替によって しばらくの間を補われる、 高い技能を持つ 労働力が本格的に減少し始める時期は「2080年頃」である、逆に言えば 中国には2080年まで 米国と対決するための時間がたっぷり 与えられている (p193)
・ 明らか なのは、 ウクライナ・ いらん 戦争がある時点で「西洋の敗北」幕を閉じるということである、 これは西洋と敵対する 陣営が勝利を収め、 16世紀以来続いてきた 西洋による 世界支配がついに終焉を迎えるということである。 真の平和は「米国の派遣システムの完全な 崩壊」の後にしか訪れないであろう(p195)
・日本は政治的・軍事的な意味において未だに米国の従属 状態にあるが、 米国のシステムから完全に独立した「 言語」「文化」を有しているが故に「強力な文化的自律性」を併せ持っている、 このことが 政治的な 従属と背中合わせの「 知的自立の潜在的可能性」(p215)
2026年9月27日読破
2026年9月28日作成 -
Posted by ブクログ
刺激的な本。
自分用のメモを兼ねて、感想が長くなった。
ソ連崩壊、アラブの春、英国のEU離脱などの予測を的中させてきたトッド氏(この本の中でもアメリカのベネズエラ攻撃を予測していた!)。2024年の彼の著書『西洋の敗北』は世界27ヵ国語に翻訳され読まれているが、この『西洋の敗北』という言葉を知るだけで、最近のニュースの聞こえ方が変わってくる。
アメリカやドイツが勢いを失い内向きになっていることを、プロテスタンティズムの崩壊と重ねる考え方も衝撃的だ。
トッド氏の発言のいくつかを、下段にコピペしておく。
とはいえ、トッド氏が考える、崩壊していくアメリカから日本が独立する方法としての「核武装」については、私個人的には心理的抵抗が強い。
もうひとつ、オードリー・タン氏のAIに関する発言も刺激的だった。
氏は、シンギュラリティ(垂直離陸)は危険であり、これにプルラリティという概念を対置する。
『プルラリティーは水平的な理解を求めます。つまり、AIやソーシャルメディアなどが、本来なら決して合意しない人々の間の理解と関係性の健全性を育むために活用されるべきだと考えるのです。』
氏が関係したデジタルツール「vTaiwan」では、自身の考えをそこで共有する時、『ソーシャルメディアの反社会的な領域では、他人の投稿の皮肉や毒舌コメント付きで再投稿する、といった行為が見られますが、vTaiwanではありません。』『人々は非常に速く学びます。意見の対立する者同士の間で広範な合意を得る提案をすることだけが、「橋渡しボーナス」を獲得できる手段だと。』つまり、異なる意見を互いに尊重するような書き込みにしか、いわゆる「いいね!」のようなボーナスが付かないようなプログラム(教育されたAI)だということだ。そしてそれを、単にコミュニケーションツールとしてでは無く、政府の意思決定プロセスに組み込んだ。日本では考えられない、ホンモノのデジタル活用だ。
つまり、AIが良いか悪いかではなく、AIをどう活かすか、結局は人間の問題なのだ。
『ソーシャルメディアで目にするように、「For
You」フィードはユーザーの依存行動やタッ
チスクリーン操作に忠実です。つまりエンゲージメント(反応)数を最大化していますが、それはおそらく操作によるものです。
そして人々が互いに数怒すると、水平的な連携は崩壊します。垂直的な忠誠心だけが残る一方で、社会という頼の基盤はオゾン層のように、個人に忠実なAIによって消耗されていくのです。
つまり最大の課題は、功利主義哲学のように数値を最大化するのではなく、コミュニティ内のメンバー同士の関係性を健全に保つようAIエージェントを訓練することです。』
そして、そんなタン氏自身はSNSをどう活用しているかというと、『面白いことに、私のスマホ画面は白黒表示にしているので中毒になりません。ソーシャルメディアで動画などを見ても、すべて灰色で色がありません。つまり現実の周囲の方が画面より鮮明なのです。
もう一つは「ソーシャルフォーカス」というブラウザ拡張機能をインストールしていることです。これはメインフィード、つまり(AIのおすすめである)「For You (あなた向け)」フィードを削除します。私の好みを分析して中毒状態に陥らせる寄生的なAIですが、完全に排除しています。
ソーシャルメディアに投稿する際、返言を確認したり、ハッシュタグを追跡したり、プロフイールを閲覧したりしますが、常に意図的な行動です。「For You」フィードの寄生的なAIによって、意図せずコンテンツを消費することは絶対にありません。
実際、研究によれば、「For You」フィードと再投稿ボタンの組み合わせは、過激な声に拡声器を与えることで必然的に人々の分断を招きます。つまり「For You」フィードを排除することで、分断された極端な立場ではなく、市民的な中道に立ち返れるのです。』
【以下、トッド氏発言の抜粋】
日本はヨーロッパのいくつかの国々と似たような軌跡をたどっています。しかし、実際のところ、日本の西洋との出会いというのは、言うならばかなり暴力的で危険なものでした。つまり、西洋、主に米国ですが、まず脅威、あるいは挑戦として日本に現れたのです。大枠で言うなら、西洋の植民地にされるかもしれないという脅威です。
これが、明治維新の最大の意味です。つまり、西洋を模倣すべきモデル、追いつき、追い越すべきモデルにして、自らも西洋的になりながら、自分自身でもあり続ける。これが日本の歴史でした。そして明治以来、それは大成功をおさめ、日本は世界で最も近代的な国の一つになったのです。
しかし今、私が考えるのは、自分がお手本としてきた国々、つまり西洋の国々が崩壊したときに、日本のような国では何が起きるのだろうということです。近代化という理念や概念をもたらした西洋が、いうならば衰退と危機の局面に入っているのです。
たとえばトランプ大統領についてです。彼はまもなく来日しますが、みんな彼のことを非常に重要な人物だと考えています。強大な力を持っているし、大きな脅威でもある。歴史の中できわめて行動的な登場人物だと見られている。たしかに、目立つ登場人物です。しかし彼は自分の思い通りにならない歴史(物語)の登場人物なのです。彼は物語を動かす主人公ではありません。
まず、彼は敗戦国の大統領として来日するのです。
現在の状況で逆説的なのは、国際関係の中で、より狂っていないのは最も権威主義的な国々だということです。困ったことに、私の属する世界、つまり西洋のリベラルな世界がちょっとおかしくなって、かなり信頼できなくなっているのです。
ここでは細かい議論に入りませんが、頭のおかしな億万長者でいっぱいになった米国は内戦にも入りかねません。トランプは戦争か内戦かの選択でためらうことになるかもしれないと思うくらいです。とにかく米国は地球上で最も大きな不安定ゾーンになったのです。
ここでイスラエルを支持するということについて、大事なことを指摘しておきたいと思います。今日、イスラエルに反対する姿勢を表明すると反ユダヤ主義者と指弾されます。イスラエルの政策への反対はユダヤ人差別だというわけです。で、イスラエルの政策への批判は反ユダヤ主義の証拠とみなされて、それを唱える人たちはアメリカでもドイツでも追及されることになる。(略)
そのうち、イスラエルの政策に反対するユダヤ人が反ユダヤ主義者として指弾される、という不条理にまで行き着くでしょう。私は、これを反ユダヤ主義2・0と呼びます。そう考えれば、欧州で反ユダヤ主義者だったはずの右派や右翼の多くの政治家たちが今、イスラエル国家を支持する理由がわかります。(略)
反ユダヤ主義はまず何よりも、ユダヤ人を物理的に抹殺してしまおうとする恐るべき試みとして姿を現します。ホロコーストです。これに対し、イスラエルへの支持は、ユダヤ人を道徳的に抹殺する試みです。
最後に一言だけ。アメリカによる日本の征服、1945年の敗戦は日本にとってトラウマになりました。しかし、日本は知るべきです。今、目の前に二度目のトラウマが待ち構えているのです。それはアメリカ、勝者だった国の崩壊です。これによって、日本は自由になることを強制されるのです。 -
Posted by ブクログ
自由は格差が前提とは
自由貿易は格差が信じられている社会で受け入れられる。本書のこの指摘は考えさせられた。抜き書きする。 教育レベルの違いが前段にあり、それが格差を受け入れ、完全な自由貿易政策を受容することをすのだと思います。 自由貿易が格差を広げたというのは、とてもシンプルでわかりや すい。でも、もう少しきちんと説明しなければいけません。 なぜ、上流階級や上位中産階級(アッパーミドル)がそれを受け入れたのかを。それは格差を信じているからです。 (中略) (米)国南部の奴隷オーナーたちは、 自由貿易信奉者だったのです。 自由貿易の「自由」というのは、英国の名誉革命の自由とリンクしているようで聞こえはいいですが、 実は、奴隷制と関係があるのです。 (中略) 一般的に自由貿易というのは、世界の富裕層が一つになって、貧しい人々を安い労働力として使うことです。 日本は今、世界の自由貿易の繋ぎ目になろうとしている。TPP、日欧EPA、RCEPといった大型の経済連携協定を次々と結んだ。世界中の物やサービスを消費する体制を整えた。この素地に、格差を信じる社会ができあがっていたということか。 でも、当たっている事実だと思う。暗澹たる気持ち。 -
Posted by ブクログ
西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか
著:エマニュエル・トッド
訳:大野 舞
出版社:文藝春秋
読み終わって、まず、感じたことは、日本とは、いまだ、GHQの支配下にあるという錯覚だ。
意図しない戦争に協力させられ、そのために、米軍が国内に長期駐留している。
だが、それは、ドイツも同じだ。
東の体制が崩壊した後も、日独伊は、いまだ、友好同盟国ではなく、米国の支配下にある植民地であるという幻想だ。
本書のいう西洋とは、米国とその同盟国をいう。
狭義の西洋は、米英仏、市民革命を経験した国々。これがコアだ。
そして、本書の西洋である、広義の西洋は、米英仏日独伊、米軍事同盟である
露は、ウクライナがNATO化するのを容認しないと警告していたにもかかわらず、米は、NATO化を促した。
首都モスクワから、600Kmたらずにあるウクライナは、軍事的緩衝地帯であり、黒海への航路の確保を含め地政学的要所にあたる。このため、中立は許容しても、NATO化は容認できなかった。
トッド氏は、驚愕したのは、こうした背景にもかかわらず、ウクライナ戦が始まったことだ。そしてそれは、露と米の代理戦争であることだ。
傲慢で身勝手な西洋は、BRICS からは、距離を置かれ、反ロシア連合は破綻した。
自らが優秀で文化的に高いとかんがえているのは、もはや、西洋のみであり、世界は嫌悪しているのだ。
本書では、西洋以外の地域を、「その他の地域」といっている。BRICSはその中心である。
露を経済封鎖で短期的に戦争を収拾しようとした西洋は、BRICSには賛同を貰えず、露のエネルギ資源は西欧市場とば別の市場を確保した。一方、露の天然ガスに依存していた西欧は、供給源を断たれて、米国の経済的支配をつよくうけるようになった。
露としては、祖国を守るための重要な戦争であるに対し、米は、他国の戦争であり、その利益はわずかなものであった。しかし、戦争が長期化するにつれ、米への経済への影響がでてきた。ウクライナは米にとって負担となっているのである。
トッド氏は、こうした要件から、ウクライナ戦は、露の勝利に終わると予測する。これが「西洋の敗北」である
さらに、トッド氏は、彼我を分析する
米露の比較 安定している露に対し、疲弊している米の対立の構図が浮かび上がっていく
新生児の死亡率、技術教育 などのパラメタは露が高く、農産物や、工業品の生産についても自給率は低い米の産業は、外部から依存した状況に陥っている。
さらに、かつて多様性を認めていた米は、いまや、ポピュリズムと、エリート主義におかされ、異なる考えを容認できないほどに、寛容性を失っている。このことが、他国の紛争に関与し間接支配しようとする、覇権主義を生み出している
また、プロタンティズムは、これまで、教育と経済の発展を促してきたが、民主主義の変容とともに失われてきた。西洋は同時に、三派によってなされてきた、脱キリスト教の最後の洗礼を受けている。
プロタンティズムは、「人間は平等でない」との弊害を内包しており、米では、白人と黒人+インディアンなどの差別を容認してきた
ウクライナについても、辛辣な分析は続く。
破綻国家であり多元国家であり、もともと国家として必要とした中流階級の存在はなかった。
そして、ウクライナで民主主義が機能することはなかったと断言している。
東部、南部:親露、ロシア語圏、中核は、露へ移転していってしまっている。「アノミー的ウクライナ」
中央部:キーウを中心とした、「無秩序なウクライナ」
西部:農民のウクライナ、カトリック、核家族でナショナリズムの中心地
元来、露は、東部、南部を制圧して、戦争を終わらせようとしていたが、ウクライナの反撃により長期化をよぎなくされている
中央部と西部のウクライナの主要部分を特長づけているのは、「ロシア嫌い」である。露はそのことをみあやまっていた。
他、東欧諸国に関する分析などが、続く。
目次
日本の読者へ 日本と「西洋」
序 章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国―亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧―フェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質―寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
第12章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか―一九九〇年‐二〇二二年
追 記 米国のニヒリズム―ガザという証拠
日本語版へのあとがき 和平は可能でも戦争がすぐには終わらない理由
ISBN:9784163919096
判型:4-6
ページ数:416ページ
定価:2600円(本体)
2024年11月10日第1刷発行
2025年03月20日第8刷発行 -
Posted by ブクログ
知人の昨年のベスト本1位と聞き、今年1冊目はこの本に決めた。なるほど、日頃見聞きするニュースの報道とは全く違った角度から世界を見せてくれる劇薬だった。
ウクライナ戦争や中東情勢といった時事的なトピックもさることながら、トッド氏の提唱する家族人類学・人口歴史学というアプローチ自体が非常に興味深い。
家族形態に着目した人類学の巨人レヴィ=ストロースと、トッド氏が遠い親戚に当たるというのもかなりアツかった。インタビュー本1冊で終わるのも勿体無いし、そのうちトッド氏の著作はきちんと読んでみたい。
そして、これはトッド氏の意図を超えた解釈かもしれないが、読み進めるうちに僕の中に湧いてきたのが、普段は当たり前に信じている民主主義こそが正義というドグマへの疑念だ。
民主主義的でないロシアや中国、イランといった国々でも人々は幸福に暮らしているし、西洋の民主主義国は現在、深刻な危機に瀕している。
こと、トッド氏曰く「直系家族」の国である日本においては、果たして民主主義は本当に最適な政治形態なのだろうか。もしかすると、権威主義のもとで、公権力に対してはなあなあに接しつつ、市民生活の次元で幸せを追求することの方が「本音と建前」の国民性に合っているのではないか。
ほんの思いつきに過ぎないが、考えがいのあるテーマだと思う。しばらく、じっくりと温めてみたい。 -
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争を軸に、西洋諸国の世界における影響力の低下や、アメリカエリート層やワシントン政治家のモラルの低下、その要因を西洋の繁栄や社会秩序を支える柱となっていたプロテスタンティズムの衰退を中心に説明する。社会を支えていた価値観の崩落により、西洋諸国はニヒリズムに陥ってしまい、そのことが著しい道徳観の欠如をもたらした。
また、ソ連崩壊後、ロシアは完全に世界の覇権を目指すような国家ではなくなり、アメリカをはじめ西洋諸国はロシアの存在を完全に侮っていた。しかし、ロシアはプーチンによる国家の建て直しと安定感が達成されており、その認識の欠如が西洋諸国がウクライナ戦争を読み違える大きな要因となる。
家族の構造がそれぞれの国家や地域の社会や歴史の特徴を築き上げる大きな要因になるというトッド氏の持論をもと、個人主義・自由主義に基づく民主主義は単に西洋諸国、特にアメリカやイギリスの絶対核家族という家族構造に適合する価値観であるに過ぎないのに、西洋はそれを全世界に適応されるべき近代の普遍的な価値観であるという傲慢な考えのもと自分たちの価値観を世界に押し付けようとしたが、西洋以外の地域や国々はもはや西洋諸国が思っておるほど西洋を支持しておらず、世界における西洋諸国の影響力が低下していることは明らかなのである。ウクライナ戦争においてアメリカを中心に西洋諸国が打ち出したロシアへの経済制裁を西洋以外の多くの国や地域が支持しなかったのはその表れである。
ウクライナ戦争をロシアの一方的な領土侵略と見るのではなく、東欧諸国のNATO加盟に危機感を持つロシアにとって国境を接するウクライナがNATOに加盟することは死活問題であり、またロシアの国力と人口では広大な自国領の安定に力を集中するのが限界であり、この戦争以後ロシアが領土野心をさらに西へ拡大することなど全く現実的でない事実はウクライナ戦争はロシアの領土的野心の戦争では無く、あくまでも自衛のための戦争であるということをヨーロッパは見誤っているとトッド氏のは主張する。これは一般的に考えられているウクライナ戦争への評価とは大きく違っていが、今後、この戦争がどのように局面を迎えて、結末を迎えるのか、予断の許さない状況であろう。 -
Posted by ブクログ
普段いかに親米的な情報しか得られていなかを実感した。米英を中心とする西洋の敗北を述べる内容。世界で25ヶ国語に翻訳されていながら、英語版のみ出版されていないという事実から、内容が米英に都合が悪く、また米英の言論空間が閉鎖的になっていることが窺える。現状を破壊する衝動を表すニヒリズムという概念からウクライナ、イスラエルの惨状を語り、いずれにおいてもアメリカが敗北していると述べられる。ニヒリズムの原因は宗教のゼロ状態がもたらす価値観の空白にあるとされている。この点については生活の中で宗教が意識されない日本はどうなのかと個人的に気になった。また、家族構造の観点から社会や経済を説明する視点は初めて触れたため興味深かった。直系家族型という点で日本とドイツは共通しており、製造業が競争力を維持できているのは直系家族型のためであるそう。著者は一貫して勤勉な技術者、労働者を重視しており、物理的な生産能力が戦争の勝敗を分ける。金融で膨らむGDPは時代遅れの指標であり、GDPで劣るロシアがウクライナ戦争を継続出来ているのは生産能力で勝るため。
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Posted by ブクログ
2025/12/28 エマニュエル・トッド 「西洋の敗北と日本の選択」☆
「米国覇権体制の終焉=西洋の敗北」が著者の主張ポイント。
その著書は世界25ヵ国語に翻訳されたが、英語版は出来ていない。
トッド氏は、英語版禁書の事実が本書の真実性と価値を表すと。
1.米国覇権の終焉
(1)米国は財政赤字・貿易赤字[各々Δ1兆ドル/年]のファイナンスが必要。
そのためにドル高を堅持して、ドルへの投資を確保している。その結果、金融業は好況化し、投資家・銀行家・弁護士・会計士の仕事は活況。
他方、実力以上のドル高は、産業へダメージとなり、空洞化をもたらしている。産業人は仕事を失い生活レベルを下げている。これらが社会の分断をもたらし、米国社会を混迷させている。
(2)双子の赤字は米国に長く収入以上の生活をもたらし、国民を怠惰にした。
もはやプロテスタンティズムの倫理精神は存在しない。
まともな産業人がいない中でトランプが「国内産業の復興」を呼びかけても実現は不可能。ex.スマートフォンの製造を中国から米国へ移すことは不可能・・・担い手不在
(3)トッド氏は米国経済と世界覇権は既に破綻していると。
トランプ氏は最後の見届け役。
2.軍産複合体が主導して、軍事産業の強化と資本主義体制の延命
①米国は軍需産業が主導 優位性がある 社会意識の劣化
②欧日亜の防衛予算増額 米国からの兵器購入
③個別の戦争を展開 ウクライナ・ガザ
3.米国覇権体制の最後の勝負は「AI相場の現実化」
現代の米国の生き残り策は「AI社会の実現」
「世界の冨」が米国市場のAI関連相場の引き上げに向かっている
その相場上昇が米国ドルへの投資を支えている
行方は二通り
①AI社会の実現 主導した米国に創業利益、覇権を持続
②AI社会が実現不可能→相場の大崩れ・米国覇権の終わり
それにしても恐ろしい問題提起である。早期に英語訳が出ることを祈りたい。
2025/12/30 追加その2「西洋の敗北と日本の選択」
1.ウクライナ戦争はロシアの勝利とトッド氏の判定
軍事生産力で西側を圧倒 米国などは生産力を持たない
マクロン仏大統領「フランスの武器庫は空っぽだ」
ただしそれならばプーチンの「限定核使用の恫喝」はなぜ?
トッド氏のロシア贔屓はちょっと不思議なくらい過大
2.トランプ関税 狙い判るが、実現性は皆無→悲惨な結末へ
双子の赤字を一気に解決する秘策としては一理ある
ただし「製造業の国内回帰」を実現する基盤は既にない
米国経済は①金融②AIに向けられている 過大な利益期待
したがって最終的には「増税とインフレ」が現実化、悲惨な生活
3.独露ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊
これは両国へのテロ行為 特にドイツが抗議しないのは謎
ドイツは米国の属国性明らかに 120の米軍基地が存在(全NATOの半分)
米国が独露の離反を図った 「メルケル政権の親露政策」修正(ただし退任後)
4.英国公共サービスの劣化 (サッチャー以降の英国)
資本主義経済=民主主義政治体制は社会インフラの適切な供給が出来なくなった 既得権・ポピュリズム
専制体制(中国・ロシア)に劣後する?
→ただし国民の自由の享受という点では圧倒的差があると思う
5.「米国の覇権」が世界中で綻び始めている=これが本質
BRICSの対米離反拡大
サウジアラビア・イランが中国媒介として接近
インドやブラジルもロシア貿易拡大 対露制裁を無視
6.ドル基軸体制の行方
急激な崩壊は世界経済へ打撃
「新たな体制」への移行は着実に ?いかなる体制
米国の死活問題 過剰な生活水準の是正
←膨大な貿易赤字を、タダでファイナンスしてきた「特権」 -
Posted by ブクログ
ネタバレトッドが本書で冷徹に描き出すのは、西側諸国(アメリカ、ヨーロッパ)が不可逆的な衰退期に入ったという衝撃的な診断である。特にウクライナ戦争を、「集団的西側」の優位性が崩壊に向かうプロセスとして分析する。
トッドの論点の核心は、西側の敗北が軍事や経済の表面的な問題ではなく、精神的・人口学的な深層構造に起因するということだ。西側の精神的基盤であったカトリックの終焉(出生率の低下と識字率の向上による)が、普遍的なイデオロギーとしての求心力を失わせた。そして、低い出生率は、長期的な国力の衰退を不可避にする最大の要因であると指摘する。
西側が経済制裁によって崩壊すると踏んでいたロシアは、予想外の強靭さを示し、非西洋圏の多くの国は西側の価値観に同調しない。これは、アメリカが掲げる民主主義や普遍的価値観の終焉を意味する。トッドは、アメリカ国内の深刻な階級格差や社会の分断が、その普遍的モデルとしての信頼性を決定的に損なったと断ずる。
本書は、ウクライナ戦争という局地的な出来事を、「西側 vs 非西側」の価値観が衝突する世界秩序の転換期として捉える。歴史人口学者としてのマクロな視点から、宗教、家族構造といった根本的な要素が、いかに国際政治や地政学に影響を与えているかを理解できる、必読の書である。