西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか
著:エマニュエル・トッド
訳:大野 舞
出版社:文藝春秋
読み終わって、まず、感じたことは、日本とは、いまだ、GHQの支配下にあるという錯覚だ。
意図しない戦争に協力させられ、そのために、米軍が国内に長期駐留している。
だが、それは、ドイツも同じだ。
東の体制が崩壊した後も、日独伊は、いまだ、友好同盟国ではなく、米国の支配下にある植民地であるという幻想だ。
本書のいう西洋とは、米国とその同盟国をいう。
狭義の西洋は、米英仏、市民革命を経験した国々。これがコアだ。
そして、本書の西洋である、広義の西洋は、米英仏日独伊、米軍事同盟である
露は、ウクライナがNATO化するのを容認しないと警告していたにもかかわらず、米は、NATO化を促した。
首都モスクワから、600Kmたらずにあるウクライナは、軍事的緩衝地帯であり、黒海への航路の確保を含め地政学的要所にあたる。このため、中立は許容しても、NATO化は容認できなかった。
トッド氏は、驚愕したのは、こうした背景にもかかわらず、ウクライナ戦が始まったことだ。そしてそれは、露と米の代理戦争であることだ。
傲慢で身勝手な西洋は、BRICS からは、距離を置かれ、反ロシア連合は破綻した。
自らが優秀で文化的に高いとかんがえているのは、もはや、西洋のみであり、世界は嫌悪しているのだ。
本書では、西洋以外の地域を、「その他の地域」といっている。BRICSはその中心である。
露を経済封鎖で短期的に戦争を収拾しようとした西洋は、BRICSには賛同を貰えず、露のエネルギ資源は西欧市場とば別の市場を確保した。一方、露の天然ガスに依存していた西欧は、供給源を断たれて、米国の経済的支配をつよくうけるようになった。
露としては、祖国を守るための重要な戦争であるに対し、米は、他国の戦争であり、その利益はわずかなものであった。しかし、戦争が長期化するにつれ、米への経済への影響がでてきた。ウクライナは米にとって負担となっているのである。
トッド氏は、こうした要件から、ウクライナ戦は、露の勝利に終わると予測する。これが「西洋の敗北」である
さらに、トッド氏は、彼我を分析する
米露の比較 安定している露に対し、疲弊している米の対立の構図が浮かび上がっていく
新生児の死亡率、技術教育 などのパラメタは露が高く、農産物や、工業品の生産についても自給率は低い米の産業は、外部から依存した状況に陥っている。
さらに、かつて多様性を認めていた米は、いまや、ポピュリズムと、エリート主義におかされ、異なる考えを容認できないほどに、寛容性を失っている。このことが、他国の紛争に関与し間接支配しようとする、覇権主義を生み出している
また、プロタンティズムは、これまで、教育と経済の発展を促してきたが、民主主義の変容とともに失われてきた。西洋は同時に、三派によってなされてきた、脱キリスト教の最後の洗礼を受けている。
プロタンティズムは、「人間は平等でない」との弊害を内包しており、米では、白人と黒人+インディアンなどの差別を容認してきた
ウクライナについても、辛辣な分析は続く。
破綻国家であり多元国家であり、もともと国家として必要とした中流階級の存在はなかった。
そして、ウクライナで民主主義が機能することはなかったと断言している。
東部、南部:親露、ロシア語圏、中核は、露へ移転していってしまっている。「アノミー的ウクライナ」
中央部:キーウを中心とした、「無秩序なウクライナ」
西部:農民のウクライナ、カトリック、核家族でナショナリズムの中心地
元来、露は、東部、南部を制圧して、戦争を終わらせようとしていたが、ウクライナの反撃により長期化をよぎなくされている
中央部と西部のウクライナの主要部分を特長づけているのは、「ロシア嫌い」である。露はそのことをみあやまっていた。
他、東欧諸国に関する分析などが、続く。
目次
日本の読者へ 日本と「西洋」
序 章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国―亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧―フェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質―寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
第12章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか―一九九〇年‐二〇二二年
追 記 米国のニヒリズム―ガザという証拠
日本語版へのあとがき 和平は可能でも戦争がすぐには終わらない理由
ISBN:9784163919096
判型:4-6
ページ数:416ページ
定価:2600円(本体)
2024年11月10日第1刷発行
2025年03月20日第8刷発行