あらすじ
米国と欧州は自滅した。 日本が強いられる「選択」は?
ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ政権とともに崩壊する。
戦争は“世界のリアル”を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも五年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」……
「いま何が起きているのか」、この一冊でわかる!
・ウクライナの敗北はすでに明らかだ
・戦争を命の安い国に肩代わりさせた米国
・ウクライナは「代理母出産」の楽園
・米国は戦争継続でウクライナを犠牲に
・米情報機関は敵国より同盟国を監視
・NATO目的は同盟国の「保護」より「支配」
・北欧ではフェミニズムが好戦主義に
・独ロと日ロの接近こそ米国の悪夢
・ロシアは米国に対して軍事的優位に立っている
・モノではなくドルだけを生産する米国
・対ロ制裁でドル覇権が揺いでいる
・米国に真のエリートはもういない
・米国に保護を頼る国は領土の20%を失う
・日独の直系社会のリーダーは不幸だ
・日米同盟のためにLGBT法を制定した日本
・NATOは崩壊に向かう 日米同盟は?
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
難解ではあったが大変面白かった。
あくまで人類学的・家族構造を軸に分析していて、「そういう見方もあるのか!」という驚きをたくさん感じた。
一方、「それってたまたまというか、こじつけじゃね?」「本当にそうなのか?」などなど、違和感を感じる部分も多々あった。
「無意識に思い込んでる前提」を覆すのがトッドの醍醐味であり、賛否両論は分かれるであろうが、読んでみる価値は充分にあると思う。
文字が小さい上に400ページを超えるので、積読になってしまう可能性大。
Posted by ブクログ
難しそうだけど読破するぞ!と意気込んだけど頓挫。
後日、ニュースを見ると西洋は敗北してるなぁと思うことが多いので(大逆転したら良いなと思うけど)、この本に書かれていることは合ってたはず。(完読できなかった私が悪い!)
Posted by ブクログ
西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか
著:エマニュエル・トッド
訳:大野 舞
出版社:文藝春秋
読み終わって、まず、感じたことは、日本とは、いまだ、GHQの支配下にあるという錯覚だ。
意図しない戦争に協力させられ、そのために、米軍が国内に長期駐留している。
だが、それは、ドイツも同じだ。
東の体制が崩壊した後も、日独伊は、いまだ、友好同盟国ではなく、米国の支配下にある植民地であるという幻想だ。
本書のいう西洋とは、米国とその同盟国をいう。
狭義の西洋は、米英仏、市民革命を経験した国々。これがコアだ。
そして、本書の西洋である、広義の西洋は、米英仏日独伊、米軍事同盟である
露は、ウクライナがNATO化するのを容認しないと警告していたにもかかわらず、米は、NATO化を促した。
首都モスクワから、600Kmたらずにあるウクライナは、軍事的緩衝地帯であり、黒海への航路の確保を含め地政学的要所にあたる。このため、中立は許容しても、NATO化は容認できなかった。
トッド氏は、驚愕したのは、こうした背景にもかかわらず、ウクライナ戦が始まったことだ。そしてそれは、露と米の代理戦争であることだ。
傲慢で身勝手な西洋は、BRICS からは、距離を置かれ、反ロシア連合は破綻した。
自らが優秀で文化的に高いとかんがえているのは、もはや、西洋のみであり、世界は嫌悪しているのだ。
本書では、西洋以外の地域を、「その他の地域」といっている。BRICSはその中心である。
露を経済封鎖で短期的に戦争を収拾しようとした西洋は、BRICSには賛同を貰えず、露のエネルギ資源は西欧市場とば別の市場を確保した。一方、露の天然ガスに依存していた西欧は、供給源を断たれて、米国の経済的支配をつよくうけるようになった。
露としては、祖国を守るための重要な戦争であるに対し、米は、他国の戦争であり、その利益はわずかなものであった。しかし、戦争が長期化するにつれ、米への経済への影響がでてきた。ウクライナは米にとって負担となっているのである。
トッド氏は、こうした要件から、ウクライナ戦は、露の勝利に終わると予測する。これが「西洋の敗北」である
さらに、トッド氏は、彼我を分析する
米露の比較 安定している露に対し、疲弊している米の対立の構図が浮かび上がっていく
新生児の死亡率、技術教育 などのパラメタは露が高く、農産物や、工業品の生産についても自給率は低い米の産業は、外部から依存した状況に陥っている。
さらに、かつて多様性を認めていた米は、いまや、ポピュリズムと、エリート主義におかされ、異なる考えを容認できないほどに、寛容性を失っている。このことが、他国の紛争に関与し間接支配しようとする、覇権主義を生み出している
また、プロタンティズムは、これまで、教育と経済の発展を促してきたが、民主主義の変容とともに失われてきた。西洋は同時に、三派によってなされてきた、脱キリスト教の最後の洗礼を受けている。
プロタンティズムは、「人間は平等でない」との弊害を内包しており、米では、白人と黒人+インディアンなどの差別を容認してきた
ウクライナについても、辛辣な分析は続く。
破綻国家であり多元国家であり、もともと国家として必要とした中流階級の存在はなかった。
そして、ウクライナで民主主義が機能することはなかったと断言している。
東部、南部:親露、ロシア語圏、中核は、露へ移転していってしまっている。「アノミー的ウクライナ」
中央部:キーウを中心とした、「無秩序なウクライナ」
西部:農民のウクライナ、カトリック、核家族でナショナリズムの中心地
元来、露は、東部、南部を制圧して、戦争を終わらせようとしていたが、ウクライナの反撃により長期化をよぎなくされている
中央部と西部のウクライナの主要部分を特長づけているのは、「ロシア嫌い」である。露はそのことをみあやまっていた。
他、東欧諸国に関する分析などが、続く。
目次
日本の読者へ 日本と「西洋」
序 章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国―亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧―フェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質―寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
第12章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか―一九九〇年‐二〇二二年
追 記 米国のニヒリズム―ガザという証拠
日本語版へのあとがき 和平は可能でも戦争がすぐには終わらない理由
ISBN:9784163919096
判型:4-6
ページ数:416ページ
定価:2600円(本体)
2024年11月10日第1刷発行
2025年03月20日第8刷発行
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争を軸に、西洋諸国の世界における影響力の低下や、アメリカエリート層やワシントン政治家のモラルの低下、その要因を西洋の繁栄や社会秩序を支える柱となっていたプロテスタンティズムの衰退を中心に説明する。社会を支えていた価値観の崩落により、西洋諸国はニヒリズムに陥ってしまい、そのことが著しい道徳観の欠如をもたらした。
また、ソ連崩壊後、ロシアは完全に世界の覇権を目指すような国家ではなくなり、アメリカをはじめ西洋諸国はロシアの存在を完全に侮っていた。しかし、ロシアはプーチンによる国家の建て直しと安定感が達成されており、その認識の欠如が西洋諸国がウクライナ戦争を読み違える大きな要因となる。
家族の構造がそれぞれの国家や地域の社会や歴史の特徴を築き上げる大きな要因になるというトッド氏の持論をもと、個人主義・自由主義に基づく民主主義は単に西洋諸国、特にアメリカやイギリスの絶対核家族という家族構造に適合する価値観であるに過ぎないのに、西洋はそれを全世界に適応されるべき近代の普遍的な価値観であるという傲慢な考えのもと自分たちの価値観を世界に押し付けようとしたが、西洋以外の地域や国々はもはや西洋諸国が思っておるほど西洋を支持しておらず、世界における西洋諸国の影響力が低下していることは明らかなのである。ウクライナ戦争においてアメリカを中心に西洋諸国が打ち出したロシアへの経済制裁を西洋以外の多くの国や地域が支持しなかったのはその表れである。
ウクライナ戦争をロシアの一方的な領土侵略と見るのではなく、東欧諸国のNATO加盟に危機感を持つロシアにとって国境を接するウクライナがNATOに加盟することは死活問題であり、またロシアの国力と人口では広大な自国領の安定に力を集中するのが限界であり、この戦争以後ロシアが領土野心をさらに西へ拡大することなど全く現実的でない事実はウクライナ戦争はロシアの領土的野心の戦争では無く、あくまでも自衛のための戦争であるということをヨーロッパは見誤っているとトッド氏のは主張する。これは一般的に考えられているウクライナ戦争への評価とは大きく違っていが、今後、この戦争がどのように局面を迎えて、結末を迎えるのか、予断の許さない状況であろう。
Posted by ブクログ
トッドが本書で冷徹に描き出すのは、西側諸国(アメリカ、ヨーロッパ)が不可逆的な衰退期に入ったという衝撃的な診断である。特にウクライナ戦争を、「集団的西側」の優位性が崩壊に向かうプロセスとして分析する。
トッドの論点の核心は、西側の敗北が軍事や経済の表面的な問題ではなく、精神的・人口学的な深層構造に起因するということだ。西側の精神的基盤であったカトリックの終焉(出生率の低下と識字率の向上による)が、普遍的なイデオロギーとしての求心力を失わせた。そして、低い出生率は、長期的な国力の衰退を不可避にする最大の要因であると指摘する。
西側が経済制裁によって崩壊すると踏んでいたロシアは、予想外の強靭さを示し、非西洋圏の多くの国は西側の価値観に同調しない。これは、アメリカが掲げる民主主義や普遍的価値観の終焉を意味する。トッドは、アメリカ国内の深刻な階級格差や社会の分断が、その普遍的モデルとしての信頼性を決定的に損なったと断ずる。
本書は、ウクライナ戦争という局地的な出来事を、「西側 vs 非西側」の価値観が衝突する世界秩序の転換期として捉える。歴史人口学者としてのマクロな視点から、宗教、家族構造といった根本的な要素が、いかに国際政治や地政学に影響を与えているかを理解できる、必読の書である。
Posted by ブクログ
3年前に「第三次世界大戦はもう始まっている」を読んだ時は、「この人、何言ってるんだろう」って感じだったけど、今改めて見ると、結構腑に落ちるね。ウクライナの州別棄権投票とか、人口1000人当たりの乳幼児の死亡率とか、エンジニアの数が圧倒的に米国がロシアより少ないとか、今まで誰も注目してない数値が興味深い。アメリカの実質GDPが見せがけの数値でしかないのも驚きだ。特に米国の一人当たりGDPは偽物で、ドルを生産する為になっていると言うのは、その数値は所与とばっかり思って来たので、目からウロコでしたね。
Posted by ブクログ
この本は、自分がこれまで持っていた価値観をかなり大きくゆさぶってくれる本でした。自分は、この本を読むような人の多くとおそらく共通して、日本でエリート層に属しているとおそらく言えることと思います。一方で世界情勢についてはこのような本を読んだことはなく、新聞に書いてある物の見方を受け入れてきました。すなわち、次のような考え方です。ウクライナはその全土に対して権利があり、その全土をロシアに対して守り切るのが望ましい決着である。米国を中心とした「グローバル化」の進行は受け入れるべき望ましいことであり、また必然として世界を覆っていくだろう。彼らの文化の一つである同性愛やトランスジェンダーの容認についても遅かれ早かれ世界に広まる必然である。その一方で、トランプ政権の行動や世界で起きているポピュリズムの流れには困惑し、なぜそのようなことが起きているのか、彼らが選挙で勝つのか不思議に思っていました。そのような考え方が、非常に偏った(アメリカのエリートを中心とした)ものの見方である、というのが、本書の主張を信じるならば、明らかになりました。著者の考え方もおそらく偏っていることとは思われますので、そのまま全てを信じるのがよいこととも限らないでしょうが、そういったものの見方もあるという目を開いてくれたので、これからは相対化して考えていきたいと思います。
ところで本書は私にはだいぶ読みにくいものでした。まずレトリックが効きすぎていて、言い方がまわりくどいです。また、歴史的な事件や投票結果・アンケート結果などの根拠は示しているとはいえ、国民感情を、一人の人間の感情のように語って世界情勢を説明するというアプローチはどのくらい妥当なのかよくわかりませんでした。ニヒリズムという本書のひとつの鍵になる概念は「世界の現実を否定し、戦争へと向かうような精神状態」と定義されていますが、現実を否定しているか・戦争へと向かっているかどうかは観測者の主観であるので、西洋のエリートがニヒリズムを持っている、という言説は著者の決めつけにすぎないように感じました。もうちょっと丁寧に説明してくれたらいいのにな、というのが正直なところです。
次のようなポイントは非常によく理解できました。米国は、エリート層が金を稼ぎ続けることができる金融の仕組みを作ってしまったために、他国の労働力を使えばよくて、エンジニアリングや製品の生産を自国でする必要がなくなって、国が空洞化している。それでエリート層は大衆と乖離し、大衆を代表することを拒んですらいる。その結果なのか、世界認識が大きくずれていて、西欧が世界の中心であり、多くの国が彼らを中心としてついてくるものと誤解している(彼らを中心とした「グローバル化」のビジョン)。それに対して、不利益を被っている西欧の大衆がついてこなくなっているのが今のポピュリズムの台頭である。西欧の民主主義で政治家は選挙に勝たなければならないので、そういったポピュリズムに迎合する必要があり、そこに労力を割かれる。そのため中露に比べて政治家の外交的な能力が劣ることになる。西欧はもはや、彼らを結びつける中心的な価値観が失われている。アトム化した個人の寄せ集めにすぎない。政治家も一貫した行動をとることができず外交政策も支離滅裂になっている。先のような西欧のグローバル化のビジョンに対して、実際にはその陣営に与する国は少ないということが、このウクライナ戦争とその経済制裁で明らかになった。今や米国はごく親しい日韓のような同盟国への依存性を高めていて、そのグループは世界で見れば小さい。今後、ウクライナ戦争はロシアが勝つことになると本書は予想するが、そうしてもロシアにはそれ以上の侵略を進める意図も余裕もない。そうした場合、NATOが無意味であるということが露呈し、結果として解体され、ドイツとロシアが接近するというのが本書の予言である。その時には西欧を中心とするのではなくて、本当に多様な国がそれぞれの文化をそのままに持ちながら、力を伸ばすという、別の形でのグローバル化が実現するのかもしれない。
Posted by ブクログ
ロシアのウクライナ進攻が始まって随分経つ。ヨーロッパもアメリカも内的崩壊が進んでいる。
そのような中で、女性総理率いる日本はどのように舵を切っていくべきなのか。深く考えさせられた。
似たような主題の本が多い中で、信頼できる内容だと感じた。
Posted by ブクログ
西洋で蔓延る閉塞感,そこで台頭するポピュリスト.なぜ西洋はロシアに勝てないのか?世界は西洋社会を目標にして来たはずだったのでは?
結論から言うと,もうどうしようもない.トランプの登場は必然である.日本も後を追うように坂を転げ落ちていっている.
Posted by ブクログ
実家に帰ると、よく「お兄ちゃん」と飯を食いに行きます。
血はつながっていないけれど、小さい頃からいろいろとお世話いただいた人です。
ちょっとアウトローなところがありますが、気のよい人です。
少し前の話になりますが、お兄ちゃんはウクライナ戦争に触れて・・・
「プーチンの○○○○が・・・」
「あいつはほんとに××だな」
と、まぁプーチンのことを口を極めて罵ります。
テレビのニュースを観てればそうなるのも無理はありません。
わたしもどっちかというとそっち側です。
このトッドさんの本には、ざっくり言うとこんなことが書かれています。
・おかしいのはロシアではなく、西側のほうだ
・西側はすでに内部崩壊を始めている(宗教ゼロ状態、ニヒリズムに陥っている)
・ロシアのような考えを持つ国が世界の多数派であり、西側はむしろ異端だ
乱暴なまとめ方で怒られそうですが、おおよそこういうことであってこれまでの「常識」とは真逆です。
著者のエマニュエル・トッドは、各国に固有の家族システムが社会の深層を形づくっているという仮説のもと、統計データを使って世界の動きを読み解きます。
その分析があまりに的確なことから、預言者のように呼ばれることもあります。
彼の分析は「ロシア寄り」と見られることもあるようです。
でも、そもそも私たちが普段見ている報道が本当に中立なのか、それもわかりません。
私たちは自分たちが信じる側とは逆側の人の分析にも目を向ける必要があると思います。
お兄ちゃんには「こういう考え方もあるみたいだよ」と話してみましたが、なかなかうまくゆきません。
Posted by ブクログ
現在の日本における風潮であるリベラルの没落、外国人嫌い、ポピュリズム政党の台頭は広義の西洋諸国に共通の現象である。
その根っこにあるのは、宗教のゾンビ化から無し状態である。それを表す現象はLGBTや同性婚。その変化により国民国家を結びつけていた集合的意識が解体され、結びつきが希薄になり、人々の不安感が増大している結果である。経済的な側面から言えば、富裕層と貧困層への2極化。
それに真っ向から異を唱えたのがロシア。ウクライナ侵攻以降のグローバルサウスのロシアへの共感は西洋の欺瞞への反発の表れ。それに気付いていないのが、西洋国家のエリート層。
もはや西洋には、世界を支配する軍事力経済力宗教がない。西洋の敗北である。
今日本に必要なのは、排外主義でも戦前回帰でもない。西洋社会が普遍的正義としてきた民主主義、人権、平等を疑いそれに変わる物語が必要。
Posted by ブクログ
フランスの歴史人口学者、家族人類学者である著者が世界情勢を考察する世界各国で発売されている一冊。
歴史人口学、家族人類学という分野は初めて触れますので、このような考え方で見ると、世界はこう見えるのか、という個人的には衝撃的な内容だったと感じました。それだけに、各国の歴史、家族観、宗教観に加え、民族扮装や革命など大小の出来事を把握していないとなかなか理解できず、難解な印象を受けました。たまたまですが、同著者による『西洋の敗北と日本の選択』を同時進行で読みましたので、こちらを先に読んでからのほうが理解が進むと感じました。
本書は、ウクライナ戦争から考察を始めています。そのなかで、乳児死亡率、自殺率などが減少し、エンジニア人口の拡大などのデータから、現在のロシアは想像以上に安定化していること、ウクライナは歴史的に地域の意識差が大きいことなどから、ロシアの勝利を断言しています。それ以外にもヨーロッパ各国の状況などを考察し、アメリカを含めた西洋の影響力の低下の状況など、マスコミが語るものとは違う世界を見た気がしました。
現在のイランの状況を見るにつけ、著者が指摘した内容が真実味を帯びてきます。さまざまな視点を持つことの重要性を改めて感じました。
<目次>
序章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国ー亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧ーフェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質ー寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
終章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったかー一九九〇年ー二〇二二年
追記 米国のニヒリズムーガザという証拠
Posted by ブクログ
西洋は長らく世界の中心であり続けた。民主主義と市場経済は普遍の価値とされ、その影響は地球の隅々に及んだ。だがエマニュエル・トッドは、その基盤が静かに揺らいでいると指摘する。家族構造の変化、人口動態の歪み、価値観の分断――内側からの劣化である。一方でロシアや中国は異なる論理で存在感を強める。もはや西洋の時代は自明ではない。世界が多極化へと進むなか、日本もまた、どの価値に立ち、いかに自らを位置づけるのかが問われている。
Posted by ブクログ
日本やドイツなどの直系家族構造、中国やロシアなどの共同体家族構造、そしてイギリス、アメリカ、フランスなどの核家族構造。家族の構造で分類ができるとするのはちょっと理解しにくい。でも、アメリカやロシアの分析の観点には目に鱗だった。ウクライナ紛争でロシアがさほど非難されないのはなんでだろうと思ってきたが、今までの政権と比べてプーチンはロシア社会を向上させてきたのだな。ウクライナにしても正義の観点ではなく、実際的な政治の観点から敗北は時間の問題だと述べている。欧米の支援だけで生き延びているからと。
Posted by ブクログ
著者は2026年1月現在の西洋の「常識」を疑い、否定し、ロシアの優位性を絶対の答えとしている。
ロシアのウクライナ侵攻は、NATO拡大を阻止すると言い続けてきたロシアの反撃であり、ウクライナは1990年からアメリカが育ててきた親米国家であり、ロシア系住民を追い出していっていたのだ。
アメリカやヨーロッパでは、産業が空洞化し、法律サービスや金融などのフィジカルな価値を生み出さない活動によりGDPが膨らんでいるだけで、トッドはこれを国力の衰退と見る。さらに、プロテスタンティズムが死に絶えて勤勉や規律という社会の土台となる価値観の共有がなくなったこと、数学・科学分野での教育レベルの低下が起こっていることから、こうした衰退は「不可逆的」であると主張する。
これによって、西洋が敗北していくことは必須であり、その終わりの始まりがウクライナ侵攻だったのだと著者は言う。
さらに、西洋は世界中が自分達の価値観を共有していてロシアを包囲していると信じ込んでいるが、実際には世界の多数派である非西洋諸国は、西洋のリベラルな思考についていっていないし、そうした鼻持ちならない西洋の価値観への反撃者としてロシアを支持しているという現状把握により、実力だけでなく影響力の点でも西洋が敗北しつつあると主張する。
著者は、ロシア贔屓で、西洋嫌いなのだろう。
著者の言うことにはもちろん一理あるのだろう。しかし、本書は中立とは言い難い。明確な根拠を示さずに、ロシアにとって都合がよく、西洋にとって都合が悪いことのみを偏って取り上げている箇所が多数あったようにも感じた。
しかし、新たな視点を与えてくれた非常に意義深い書籍であったのは間違いない。星4つ。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争の驚き
1.ヨーロッパで戦争が起きた
2.アメリカ対ロシア 中国ではなく
3.ウクライナの抵抗
4.ロシアの経済的抵抗力
5.ヨーロッパの主題的な意思の崩壊 =フランスとドイツ
6.イギリス 反ロシア派の台頭
7.ノルウェーとデンマークのNATO加盟
8.アメリカの軍事物資供給不能 GDPと物資不足は関連がない
9.西洋の思想的孤立 ロシアへの支持
10.西洋の敗北 自己破壊 ロシア死活問題・アメリカの利益小 →ロシアが勝つ
主権はアメリカ、中国、ロシアのみ 共通の文化と中流階級による経済的自立
プーチン政権 生活の安定化 経済的自立
10万人当たり 殺人率4.7人(6分の1) 自殺率10.7人(4分の1)へ改善
1000人あたり乳児死亡率4.4人(アメリカ5.4人)
食料自給自足 農産物、武器、原発 輸出
出国の自由 反ユダヤ主義の不在 エンジニアの率はアメリカを超える
低出生率1.5 1.46億人
ウクライナ
代理母出産ビジネス世界の25%
ロシア寄りの都市の多い東/南部 ロシア嫌い
農村で中流階級の少ないナショナリズムの西部と無秩序な軍事主義の中央部
西洋の危機
プロテスタンティズム=教育と経済の発展・不平等(白人至上) 集団意識
→ 宗教ゼロ=国家ゼロ 状態へ
EU NATOの背後にアメリカ 同盟国の監視と支配インターネットは全てを記録する
ドイツ 軍事をアメリカに頼り エネルギーでロシア密接に 機械社会
1999~2001 ロシアのチェチェン制圧、統一ドイツ貿易黒字化
2004 東欧諸国NATO入り EUへも
イギリス 好戦主義 孤立への恐れ 白人のプロテスタントの国が官僚の有色人種化
高等教育は白人よりも黒人、アジア系 医師新登録は他国出身半数
新自由主義=民営化 倫理の欠如 アメリカにつながりある超富裕層が支配
北欧のNATO加入
デンマークとデンマークから独立したノルウェー アメリカの支配への統合
スウェーデン 2017年 徴兵制復活 自国のために戦う 帰属したい要求がNATOに
アメリカ 離島 自国のために戦ったことがない 外交政策は内部の退行から
空虚さ 金 権力 ニヒリズム 乳児死亡率上昇 GDPは空虚 教育成果低下
能力主義の放棄 リベラル寡頭制
産業基盤欠如 真の実力?西欧州を下回る? GDPの大半は対人サービス
エンジニアリング専攻は7.2% 高収入の法学 金融 経済学へ
貿易赤字拡大 労働者輸入 財よりも貨幣を生産するほうが簡単
合理的な予測が不可能な国に
その他の世界=非西洋 と西洋の対立 ロシア周囲には多数の非敵対国 中国 インド
Posted by ブクログ
「西洋の敗北」フランスの統計、人類学者の著者が、西洋とその他の世界で今何が起こっているかを解き明かす。
まず、前提としてトッドは人類学と地政学、統計の視点を組み合わせて現在の世界を読み解いている。
「敗北」は単純な戦争での勝ち負けを示すものではないことに留意。
2022年から始まった、ロシアのウクライナ侵攻からすでに4年。西側のあらゆる経済制裁もロシアを止められず、モスクワでは未だほぼ以前とかわらない生活レベルが保てている。なぜか。
西洋は、すでに宗教ゼロ状態に陥っており、個人主義の台頭とともに倫理観ゼロ社会とも言える状態となっている。富の集中による中流階級の崩壊とともに経済の空洞化も進み、みせかけのGDPに絡め取られている。
反面、ロシアは比較的安定した社会を維持できている。個人主義の行き過ぎた「西洋」以外の家族集団主義の残るその他の国が、イデオロギーの近いロシアを支えている。
日本についても、西洋の一員でありながら、宗教ゼロ状態ではない、宗教と慣習が溶け込んだ特殊な形態と解説。
世界は西洋だけではない!自国と周辺のみの視点だと、なかなか見えてこないが、言われてみれば当然か。
Posted by ブクログ
1. 西洋の「敗北」の定義とウクライナ戦争
・ウクライナ戦争は単なる局地紛争ではなく、「西洋対ロシア」のグローバルな宗教・文化戦争へと変質した。
・当初、西洋側は経済制裁でロシアが崩壊すると予測したが、実際にはロシア経済は耐え抜き、逆に西洋側の兵器生産能力の不足(脱工業化の弊害)が露呈した。
・この軍事・経済的なミスマッチこそが、物理的な意味での「西洋の敗北」の始まりであると指摘する。
2. 米国の衰退:虚業化と「ニヒリズム」
・米国の衰退の根本原因は、かつての繁栄を支えたプロテスタントの倫理の消滅にある。
・宗教的バックボーンを失った米国は、教育水準の低下(特に理数系)と乳児死亡率の上昇という、先進国としては異例の社会崩壊の兆候を見せている。
・経済面では「実利」を生まない金融や法務などの虚業が肥大化し、自国で砲弾すら十分に生産できない「実体なき大国」と化した。
・共通の価値観を失ったエリート層は、自己破壊的な「ニヒリズム」に陥っており、これが予測不能な外交政策を招いている。
3. ロシアの安定:予期せぬレジリエンス
・プーチン政権下のロシアは、西洋の予想に反して社会的な安定を取り戻した。
・少子高齢化は進んでいるものの、自殺率の低下や乳児死亡率の改善が見られ、社会の基礎体力が回復している。
・ロシアは「自国を維持できればよい」という守備的なリアリズムに基づいて行動しており、西洋が主張するような「欧州全土への侵攻」という野望は、人口動態的に見て不可能であると分析する。
4. 世界の「グローバル・サウス」の動向
・西洋が「民主主義対専制主義」という二項対立を掲げる中、世界の多く(グローバル・サウス)はロシアを「安定した保守的勢力」と見なし、西洋の道徳的押し付けに反発している。
・特に、LGBTQ+の権利拡大などを「絶対的な価値」として輸出する西洋に対し、伝統的な家族観を持つ諸国はロシアに親近感を抱くという、文化的な分断が加速している。
5. 日本への提言と警告
・日本は現在、衰退する米国に過度に依存(追従)している危うい状態にある。
・英国が欧州連合から離脱したように、日本もまた「米国の没落」という泥舟から距離を置き、自律的な外交を模索すべきである。
・地政学的には、敵対するロシアや中国との関係を、米国抜きでいかに安定させるかが死活的に重要となる。
Posted by ブクログ
2025年92冊目。満足度★★★★☆
アメリカを中心とした西側諸国の没落と、ロシアの世界における相対的に高いプレゼンスの理由が、よく理解できた
Posted by ブクログ
乳幼児の死亡率や殺人の数などで、社会の安定を図るのはわかるのだが、宗教に重きを置くのにそこには客観的な数値が示されていない。説明するには紙数が足りないせいかもしれないが、何らかの根拠がないと、キリスト教的な素養がない身には、理解しにくい。
また、中国に関する分析がほとんどない点も物足りない。ロシアが戦争を継続するための重要なキーだと思うのだが。
そうは言っても、今までにない切り口は斬新で、常識にもとらわれない。こんな見方があったのかと思える部分は多々あった。
Posted by ブクログ
あまりに馴染みのない学問すぎて、読み始めて1ヶ月半くらいかかった。。
解読は大変、というか半分も理解できたのかすら怪しいところですが、ロシアによるウクライナ侵攻の"リアル"を自分なりに感じ取れたという意味では読んでよかった一冊でした。
この戦争は今後どうなっていくのでしょう。表面的なニュースに惑わされず、こんな分析ができるようになれたら世界の見方は大きく変わるんだろうな
Posted by ブクログ
日々の報道は、基本的に欧米視点のものが多い中で、
・ロシアがどういう歴史的経緯と発想のもと動いているのか
・私の中で、アメリカとヨーロッパは一緒には考えられないという認識はあるものの、同じEU内であったとしてもヨーロッパ各国それぞれ考え方や状況、ロシアに対する気持ちなどがこれほど異なるのかということ(イギリスは今はEU内ではないけれど、含めて)
・教科書的には何となく分かってはいたものの、プロテスタンティシズムが近代世界の形成にどいいう役割を果たしてきたのか、またそれが抜け落ちた時にどういう結果につながるのか。
・ガザの戦争とウクライナの戦争との関係性についても、日本の報道を見ていたらそれぞれでしかないが、確かにこういうふうにつながるのか。
などなど、色々と示唆に富む内容だった。
ただ、宗教0状態が招く事態については、典型的日本人である私自身とって、そこが欧米のキリスト教圏の人々にとっては大きな問題となることは想像するが、実感は伴いにくい。
LGBTQの問題についても、同性愛とトランスジェンダーに対する問題の重みをそこまで区別して考えたことがなかったので、キリスト教圏の人から見るとそういう発想になるのだなと新鮮な気持ちだった。
トッド氏自身が、プロテスタンティズムの中にいる人(ゼロかどうかは置いておいて)だからこそより感じることなのだろうと思う部分もあった。
Posted by ブクログ
西洋の敗北とは、権威主義国家など他世界に対する敗北ではなく、民主主義国家自体が内部崩壊していくこと示し、すでに西洋は民主主義でも国民国家ですらも無くなってしまっているとの激しい主張。宗教ゼロの状態がエスタブリッシュメントのモラルや道徳を無くし、そこからさらに進んで現実を否定して暴力的な衝動を持つニヒリズムの傾向を見出す。ちなみに生物学的に染色体で雄雌は決まるのだからトランスジェンダーを認めることはニヒリズム的ということになるらしい。アメリカのパワーバランスによって安全保障を成り立たせている国は非常に多いはずであって、筆者が言うように本当にアメリカ自体が経済的にも軍事的にも衰退しているとすれば、日本にとっても死活問題となる。本書の中心はウクライナ戦争にあるが、ウクライナ自体すでに崩壊した国(代理母が産業になるなど恐ろしい現実を知らされた)とされ、ロシア系住民の排斥から、クリミア含め南部地域を保護するロシアの立場に理解を示す論調となる(黒海へのアクセスなど軍事的な意図は当然ながら) この場合、ナチスがドイツ系住民を保護する名目でズデーテン地方に武力侵攻したことへの正当性も認めねばなるまい。主権を尊重するロシアも自己矛盾を抱えているわけで、当然ウクライナを主権国家とはみなしておらず、アメリカに従属する日本もEUも主権国家とはいえない→が無限に広げられることになる。 そもそも安定した先進的な社会には都市間ネットワークを繋げる教育の行き届いた中流階級の充実が必要で、ウクライナではそれを担っていたロシア系住民などがすでに離脱した状況で、国力を上げることは不可能との指摘。これはもっともなことで、世界帝国スペインが没落していった理由もここにある(カトリックに固執しすぎてユダヤ/イスラムの重要な人材を喪失した) そしてロシアへの経済制裁にはロシアの富豪個人の資産も含まれ、これは一部の富豪が国を牛耳る中進国・途上国すべての多くの国に西洋への不信を抱かせることになる。そしてソ連崩壊で地獄の有様だったロシアを安定させ成長させたプーチンは今でも国民に支持されている。そもそも、より深層にある重要なポイントは、アメリカが最も嫌がるのはロシアとドイツの接近だとここでは想定されている。そのためアメリカとその前哨国家ノルウェーがノルド・ストリーム破壊を工作し、ドイツをロシアと引き離すためにウクライナ戦争が仕掛けられた、という大局的なシナリオである。
平均寿命や新生児の死亡率、犯罪発生率を統計で見るとロシアの安定が確かに見えてくる。戦争を限定的にし、動員を極力少なくするためロシアは最小限の軍隊編成とした。今は北朝鮮から兵士を買っている由々しき状態だ。戦争の当事者となってさすがに平均寿命などもこれから減ってしまうのか。確かにミンスク合意以来ロシアが準備してきたこととアメリカに同調しない国が多くあって経済制裁は効果を発揮できていない。ガザも含めていつまで非道な戦闘を続けていくのか。
ところで家族形態をベースに社会や国家のあり方を提示する手法は非常に刺激的で面白いが、地政学の基本となる地理的要素も含めないと全て説明するのは難しく思われる。そもそも宗教ゼロの状態に近づくから出生率が下がるというのはおかしい、「産めよ増やせよ」を実践しようとする人は古今東西いないだろう。宗教ゼロの状態、とくにプロテスタンティズムの終了が学力と道徳を低下させ、今アメリカの中枢部は多様化されていて賞賛されるべきどころかむしろブロッブ化されていて国としての方向性が無い状態だという。WASP統治時代がとくに優れていたとは思わないが(統治者が道徳的に優れていた時代などあるのか?五賢帝とか?)高学歴者はみな高所得が期待できる金融や弁護士に頭脳移転し、軍事産業を支えるエンジニアや工業が疎かにされているのはアメリカもイギリスも共通している。まさにドルしか生産していない(実質何も作っていない)虚構の国になりつつある。そしてアメリカは同盟国を守らないことが明らかになりつつある中で、台湾有事や韓国・日本はどうなってしまうのか…
Posted by ブクログ
フランスの歴史学者であり人類学者であるエマニュエル・トッド氏によるウクライナ侵攻の地政学分析書。15ヶ国以上で翻訳されているベストセラーにも関わらず、英語圏では未出版という曰く付きの書籍。奇しくも2025年8月16日の米トランプ大統領と露プーチン大統領の会談の日に読む。予測の正確性と的確さに驚かされる。
ウクライナ侵攻とは単なるロシアによる侵略戦争ではなく、ロシアの一貫した政治的態度に対する脆弱化した西洋の敗北であると著者は主張する。西洋側にいるとロシア₌絶対悪かつ不利な立場の報道を日々受け取るが、実態はロシアは国家として安定しており、NATOに対する脅威から2014年のクリミア半島併合問題が起こり、その間にウクライナは実質的な国家崩壊(代理母出産の25%が同地など)が進行し、7年のときを経て2021年に満を持してロシアは侵攻したことが分かる。そして盤石かつ一貫したロシアに対し、方針がぶれ続け一枚岩とはなれないEUと米国が駆逐できようはずもなく。著者はそれらを「西洋の敗北」と称し、「プロテスタンティズム・ゼロ状態」による衰弱化と説く。我々はついつい「西洋の論理」で物事を見てしまうが、中国やインド、中東、トルコが必ずしもロシアを拒否しない、裏を返すと西洋に賛同しない理由が読めてくる。
ウクライナのオレンジ革命とマイダン革命を通じた、新ロシアと非ロシアの変遷と、ロシア自身の危機感。自己否定と自己浸食を続けた結果のウクライナが、侵攻という存亡の危機に際してアクターとして世界の舞台に登場することになろうとは何とも皮肉なことである。武力による国境変更は決して許されるべきではないが、米大統領(トランプーバイデン-トランプ)とEU各国首長の悪手の数々を見ると、「元の鞘に収まる」にはかなり分が悪いと感じる。
分析書としては第9章の計算の粗さや、GDPは疑うのにほか統計は検証なく採用したり、フランス人特有のエスプリの効いた(あるいは回りくどい)表現が多かったりと、色々と問題は感じるものの、ロシア・ウクライナ問題とそれに伴う西洋の没落と非西洋の台頭が理解できる一冊だ。
Posted by ブクログ
現代の世界情勢が、とても分かりやすく解説されていて、感動です。
ロシアによるウクライナ侵攻をベースにした世界情勢です。
ヨーロッパは根が深いですね。
ただ、翻訳のレベル低く、誤字脱字も散見され、そこだけが残念です。
Posted by ブクログ
序章だけでも示唆に富む。トランプ再選前の書だが、世界の情勢に遅れをとっている私には、特にウクライナ戦争の始まりと背景、各国の対応の解説について大変理解しやすく、しかも面白く読めた。帯にあるアメリカと欧州が自滅した、の意味が知りたい方は必読。
Posted by ブクログ
当たり前で当然と思っていたことが、これほど違うことを思い知らされるのは久しぶりだ。
毎日、新聞を読みニュースやネットで人一倍世の中の動向を知ろうとしていたはずであった。
にもかかわらず、こんな思いもよらない真反対の見方を示され同感し納得してしまう自分に驚く。
ウクライナ戦争は5年くらいでロシア勝利で終わる。ロシアはドイツと関係を深め安定度を増す。
アメリカは新自由主義のグローバリズムによる金融偏重で産業基盤がますます悪化する。格差が拡大しリベラル寡頭制(エリート主義)で世界の一極支配も完全に終わり多元化した世界で混乱の元になる。
フランスやイギリスなどの西洋社会はNATOやEU・ユーロが限界に達し経済的にも行き詰まる。
欧米はプロテスタンティズムの無化で個人・国家のアトム化が進み自由民主主義の危機になる。
改めて新自由主義の犯罪性を痛感する。
筆者エマニュエル・ドットは「歴史人口学」「家族人類学」の大家であり、満を持した鋭い洞察である。
都合のよい引用も目につくが、多様なデータを駆使した深い思考は視点も新鮮で読者を惹きつける。
西側メディアに汚染された思い込み(心地良い常識)が駄目出しされる衝撃の連続で知的緊張が強いられる。
先ず、ロシア社会の1990年から2022年にかけてのダイナミズムであり、これは思いもよらなかった。
ソ連社会主義が行き詰まり破綻した時の印象が強烈でそれをその後のロシア評価に引きずっていた。
絶望的な混乱期の後、プーチンは権威主義的な国家に国民を再結集させ、2003年にオルガリヒも屈服させて市場経済を立ち直した。
「道徳統計」の数字で、殺人率はプーチンが政権についた時点から2020年で6分の1、自殺率は4分の1に減少、乳幼児死亡率は1000人当たり4.4人でアメリカの5.4人を下回るまでになっていた。
生活水準の向上に加えて失業率が非常に低く戦略的経済分野が復活を遂げた。原油や天然ガスはもとより、食料の自給自足も達成し世界で主要な農産物の輸出国になった。2013年から‘20年にかけて農産物加工品の輸出は3倍になり輸入は半減した。世界第二位の武器輸出国であり、一位の原発輸出国だ。
インターネット環境も、国家主義的でありながらもリベラルで柔軟、規制はヨーロッパと中国の中間でローカルレベルでGAFAの真の競争相手が存在する唯一の国である。
ロシアは迅速に市場経済を確立し西側市場から自立した。小麦生産2012年3700万tが‘22年8000万tと10年間で倍以上に増えた。アメリカは1980年の6500万tが2022年4700万tまで落ち込む。
2014年のクリミア戦争以来の西側の経済制裁が為替面で工業と農業に保護主義の役割を果たし、ソ連破綻後の産業再編成を促す。更に’22年の制裁は一時的な打撃と代償は強いたが経済をより強靭なものにした。
プーチンはスターリンとはまったく違う。ロシアは
移動の自由と「反ユダヤ主義の完全な不在」の国だ。権威主義ではあるが自由市場経済の国である。
今回の軍事作戦は第二次大戦時の動員・国民負担の状況とはまったく異なる。過去の記憶と西側の連日の「国民使い捨て報道」に認識が麻痺していた。
プーチンは今回の「特別軍事作戦」には当初12万人しか動員していない。
次に二番目、ウクライナという国についてである。
小麦生産とロマンチックな民族衣装の小国が大国ロシアに一方的に暴力で蹂躙されているという認識であったが、これも違っていた。
ウクライナはソビエトシステムからの脱却に失敗し「崩壊しつつある」破綻国家であった。人口は1991年から2021年にかけて5200万人から4100万人に20%減少し、出生率も1.2%(2020年)と低く出国移民が多く、中流階級がロシアに移住してしまった。
オルガリヒと汚職と代理母出産の国であった。営利目的の代理母出産は世界一でシェア25%、その産業特化は社会崩壊の兆候で新自由主義とソビエト主義の統合の産物である。
ウクライナは中流階級が存在せず独自の「国民国家」にはなれず、民主主義が機能したことは一度もなかった。民族言語学的二元性の国だった。
経済の再興が不可能なので、この戦争(アメリカ・イギリス・EUの資金援助で戦っている)こそがウクライナにとっての「生きる意味」になり「生きる手段」になっている。今のウクライナは国家として自殺しつつある。「ロシア嫌い」は実はロシアとの離別を拒み、つながり続けることを望むニヒリズムである。ウクライナが国民国家として存在できず安定を見出せないからこそ終わりのない戦争が続いている。国家予算は税金ではなく西洋からの資金援助に依存しているため、国家として地に足がついておらず空中浮遊状態にある。
三番目には、アメリカを筆頭とする西洋諸国の現状である。日本もこの範疇に入るので、日々知らされるバイアスのかかった情報や知識でとんでもない認識(都合のよい常識)に陥っていたことを痛いほど思い知らされる。今のアメリカトランプ政権の無茶苦茶な政策やイギリスのブレクジット以降、独仏のポピュリズムの跋扈など理解に苦しむ現象の多発で、西側世界で何かが起こっている不気味さは感じていた。
この予感だけは少し当たっていた。
西洋は産業基盤の深刻な弱体化が表面化している。
西洋発展の基盤であったプロテスタンティズムの死によって「西洋の解体」となり「西洋の敗北」の原因となる。自由民主主義の発祥の地であり核心部であったイギリス・アメリカ・フランスにおいてその自由民主主義が危機に陥っている。格差拡大によるエリート主義とポピュリズムの激突による相互不信の病理状態でリベラル寡頭制が鮮明になりそれがロシアの権威主義的民主主義と戦うことになった。
ヨーロッパは自らの利益に反する自己破壊的な戦争に深入りしてしまった。ヨーロッパの産業が脅威にさらされ、ユーロ圏の貿易収支は2021年の1160億€の黒字から2023年には4000億€の赤字となっている。ウクライナへの主要な武器供給源ではない西ヨーロッパが戦争の主要な経済的負担に晒される、それは事故や偶然やアメリカのせいではなくヨーロッパというプロジェクトが死んだ「内部崩壊」が原因だ。EUは複雑すぎて管理不能で修復不可能な機関でありその制度は空回りしている。単一通貨は内部に修復不可能な不均衡をもたらした。
今回は「プーチンの脅威」に対するちょうど良いタイミングでの「自殺の衝動」の表明であった。ヨーロッパはもはやアトム化した個人の単なる巨大な寄せ集めになってしまった。
最後にアメリカのことである。
この国の世界への経済的依存は途方もない大きさであり、そのアメリカ社会自体が瓦解して、ドルを印刷して凌いでいる。
1930年代のドイツと今のアメリカのダイナミズムは「空虚さ」を原動力とした共通のものだ。政治は価値観なしに機能し暴力に向かう動きしかなくなっている。
思想面の危険な「空虚さ」と脅迫観念として残存する「金」と「権力」だけが機能している。
富裕層も貧困層も28%の一律課税で益々格差拡大。
2000年以降、アルコール中毒と自殺とオピオイド中毒で白人男性の死亡率上昇が著しい。平均寿命も先進国で唯一低下。体重過多の人口が41.9%に増加。2020年頃の乳児死亡率は千人当たり5.4人、ロシア4.4人、ドイツ3.1人、日本1.8人。同じくGDPに占める医療費の割合は18.8%、ドイツ12.8%、イギリス11.9%。2019年、刑務所の収監人数は10万人当たり531人、ロシア300人、ドイツ67人、日本34人である。
プラス面は、シリコンバレーの通信・情報技術の進歩と石油は純輸入国ではなくなり、天然ガスはロシアに次ぐ世界第2位の輸出国になったことだ。
反面、モノの製造である工業部分が欠落し産業基盤が崩壊し、貿易赤字は2000年から‘22年にかけて173%(物価指数加味して60%)増えている。
ウクライナが必要としている兵器をアメリカが生産できていない現状である。
政治は、ワシントン的ブロッブ(森の中に存在するネバネバとした単細胞組織、周囲のバクテリアやキノコを摂取しながら繁殖するが脳は持っていない)が外交を担う。アトム化されたアノミー集団、世界一の大国の指導者集団を構成する個人たちが自ら超越するような思想体系には従わなくなり所属しているローカルネットワークに由来する衝動で動いている。
まさに今連日世界を騒がせているトランプ大統領の脈絡のない思いつき政策がそのことを象徴している。
「西洋の敗北」を結論とするエマニュエル・ドットの慧眼が世界の趨勢を見抜いた傑作である。