あらすじ
米国と欧州は自滅した。 日本が強いられる「選択」は?
ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ政権とともに崩壊する。
戦争は“世界のリアル”を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも五年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」……
「いま何が起きているのか」、この一冊でわかる!
・ウクライナの敗北はすでに明らかだ
・戦争を命の安い国に肩代わりさせた米国
・ウクライナは「代理母出産」の楽園
・米国は戦争継続でウクライナを犠牲に
・米情報機関は敵国より同盟国を監視
・NATO目的は同盟国の「保護」より「支配」
・北欧ではフェミニズムが好戦主義に
・独ロと日ロの接近こそ米国の悪夢
・ロシアは米国に対して軍事的優位に立っている
・モノではなくドルだけを生産する米国
・対ロ制裁でドル覇権が揺いでいる
・米国に真のエリートはもういない
・米国に保護を頼る国は領土の20%を失う
・日独の直系社会のリーダーは不幸だ
・日米同盟のためにLGBT法を制定した日本
・NATOは崩壊に向かう 日米同盟は?
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Posted by ブクログ
トッドが本書で冷徹に描き出すのは、西側諸国(アメリカ、ヨーロッパ)が不可逆的な衰退期に入ったという衝撃的な診断である。特にウクライナ戦争を、「集団的西側」の優位性が崩壊に向かうプロセスとして分析する。
トッドの論点の核心は、西側の敗北が軍事や経済の表面的な問題ではなく、精神的・人口学的な深層構造に起因するということだ。西側の精神的基盤であったカトリックの終焉(出生率の低下と識字率の向上による)が、普遍的なイデオロギーとしての求心力を失わせた。そして、低い出生率は、長期的な国力の衰退を不可避にする最大の要因であると指摘する。
西側が経済制裁によって崩壊すると踏んでいたロシアは、予想外の強靭さを示し、非西洋圏の多くの国は西側の価値観に同調しない。これは、アメリカが掲げる民主主義や普遍的価値観の終焉を意味する。トッドは、アメリカ国内の深刻な階級格差や社会の分断が、その普遍的モデルとしての信頼性を決定的に損なったと断ずる。
本書は、ウクライナ戦争という局地的な出来事を、「西側 vs 非西側」の価値観が衝突する世界秩序の転換期として捉える。歴史人口学者としてのマクロな視点から、宗教、家族構造といった根本的な要素が、いかに国際政治や地政学に影響を与えているかを理解できる、必読の書である。
Posted by ブクログ
3年前に「第三次世界大戦はもう始まっている」を読んだ時は、「この人、何言ってるんだろう」って感じだったけど、今改めて見ると、結構腑に落ちるね。ウクライナの州別棄権投票とか、人口1000人当たりの乳幼児の死亡率とか、エンジニアの数が圧倒的に米国がロシアより少ないとか、今まで誰も注目してない数値が興味深い。アメリカの実質GDPが見せがけの数値でしかないのも驚きだ。特に米国の一人当たりGDPは偽物で、ドルを生産する為になっていると言うのは、その数値は所与とばっかり思って来たので、目からウロコでしたね。
Posted by ブクログ
この本は、自分がこれまで持っていた価値観をかなり大きくゆさぶってくれる本でした。自分は、この本を読むような人の多くとおそらく共通して、日本でエリート層に属しているとおそらく言えることと思います。一方で世界情勢についてはこのような本を読んだことはなく、新聞に書いてある物の見方を受け入れてきました。すなわち、次のような考え方です。ウクライナはその全土に対して権利があり、その全土をロシアに対して守り切るのが望ましい決着である。米国を中心とした「グローバル化」の進行は受け入れるべき望ましいことであり、また必然として世界を覆っていくだろう。彼らの文化の一つである同性愛やトランスジェンダーの容認についても遅かれ早かれ世界に広まる必然である。その一方で、トランプ政権の行動や世界で起きているポピュリズムの流れには困惑し、なぜそのようなことが起きているのか、彼らが選挙で勝つのか不思議に思っていました。そのような考え方が、非常に偏った(アメリカのエリートを中心とした)ものの見方である、というのが、本書の主張を信じるならば、明らかになりました。著者の考え方もおそらく偏っていることとは思われますので、そのまま全てを信じるのがよいこととも限らないでしょうが、そういったものの見方もあるという目を開いてくれたので、これからは相対化して考えていきたいと思います。
ところで本書は私にはだいぶ読みにくいものでした。まずレトリックが効きすぎていて、言い方がまわりくどいです。また、歴史的な事件や投票結果・アンケート結果などの根拠は示しているとはいえ、国民感情を、一人の人間の感情のように語って世界情勢を説明するというアプローチはどのくらい妥当なのかよくわかりませんでした。ニヒリズムという本書のひとつの鍵になる概念は「世界の現実を否定し、戦争へと向かうような精神状態」と定義されていますが、現実を否定しているか・戦争へと向かっているかどうかは観測者の主観であるので、西洋のエリートがニヒリズムを持っている、という言説は著者の決めつけにすぎないように感じました。もうちょっと丁寧に説明してくれたらいいのにな、というのが正直なところです。
次のようなポイントは非常によく理解できました。米国は、エリート層が金を稼ぎ続けることができる金融の仕組みを作ってしまったために、他国の労働力を使えばよくて、エンジニアリングや製品の生産を自国でする必要がなくなって、国が空洞化している。それでエリート層は大衆と乖離し、大衆を代表することを拒んですらいる。その結果なのか、世界認識が大きくずれていて、西欧が世界の中心であり、多くの国が彼らを中心としてついてくるものと誤解している(彼らを中心とした「グローバル化」のビジョン)。それに対して、不利益を被っている西欧の大衆がついてこなくなっているのが今のポピュリズムの台頭である。西欧の民主主義で政治家は選挙に勝たなければならないので、そういったポピュリズムに迎合する必要があり、そこに労力を割かれる。そのため中露に比べて政治家の外交的な能力が劣ることになる。西欧はもはや、彼らを結びつける中心的な価値観が失われている。アトム化した個人の寄せ集めにすぎない。政治家も一貫した行動をとることができず外交政策も支離滅裂になっている。先のような西欧のグローバル化のビジョンに対して、実際にはその陣営に与する国は少ないということが、このウクライナ戦争とその経済制裁で明らかになった。今や米国はごく親しい日韓のような同盟国への依存性を高めていて、そのグループは世界で見れば小さい。今後、ウクライナ戦争はロシアが勝つことになると本書は予想するが、そうしてもロシアにはそれ以上の侵略を進める意図も余裕もない。そうした場合、NATOが無意味であるということが露呈し、結果として解体され、ドイツとロシアが接近するというのが本書の予言である。その時には西欧を中心とするのではなくて、本当に多様な国がそれぞれの文化をそのままに持ちながら、力を伸ばすという、別の形でのグローバル化が実現するのかもしれない。
Posted by ブクログ
ロシアのウクライナ進攻が始まって随分経つ。ヨーロッパもアメリカも内的崩壊が進んでいる。
そのような中で、女性総理率いる日本はどのように舵を切っていくべきなのか。深く考えさせられた。
似たような主題の本が多い中で、信頼できる内容だと感じた。
Posted by ブクログ
西洋で蔓延る閉塞感,そこで台頭するポピュリスト.なぜ西洋はロシアに勝てないのか?世界は西洋社会を目標にして来たはずだったのでは?
結論から言うと,もうどうしようもない.トランプの登場は必然である.日本も後を追うように坂を転げ落ちていっている.
Posted by ブクログ
実家に帰ると、よく「お兄ちゃん」と飯を食いに行きます。
血はつながっていないけれど、小さい頃からいろいろとお世話いただいた人です。
ちょっとアウトローなところがありますが、気のよい人です。
少し前の話になりますが、お兄ちゃんはウクライナ戦争に触れて・・・
「プーチンの○○○○が・・・」
「あいつはほんとに××だな」
と、まぁプーチンのことを口を極めて罵ります。
テレビのニュースを観てればそうなるのも無理はありません。
わたしもどっちかというとそっち側です。
このトッドさんの本には、ざっくり言うとこんなことが書かれています。
・おかしいのはロシアではなく、西側のほうだ
・西側はすでに内部崩壊を始めている(宗教ゼロ状態、ニヒリズムに陥っている)
・ロシアのような考えを持つ国が世界の多数派であり、西側はむしろ異端だ
乱暴なまとめ方で怒られそうですが、おおよそこういうことであってこれまでの「常識」とは真逆です。
著者のエマニュエル・トッドは、各国に固有の家族システムが社会の深層を形づくっているという仮説のもと、統計データを使って世界の動きを読み解きます。
その分析があまりに的確なことから、預言者のように呼ばれることもあります。
彼の分析は「ロシア寄り」と見られることもあるようです。
でも、そもそも私たちが普段見ている報道が本当に中立なのか、それもわかりません。
私たちは自分たちが信じる側とは逆側の人の分析にも目を向ける必要があると思います。
お兄ちゃんには「こういう考え方もあるみたいだよ」と話してみましたが、なかなかうまくゆきません。
Posted by ブクログ
現在の日本における風潮であるリベラルの没落、外国人嫌い、ポピュリズム政党の台頭は広義の西洋諸国に共通の現象である。
その根っこにあるのは、宗教のゾンビ化から無し状態である。それを表す現象はLGBTや同性婚。その変化により国民国家を結びつけていた集合的意識が解体され、結びつきが希薄になり、人々の不安感が増大している結果である。経済的な側面から言えば、富裕層と貧困層への2極化。
それに真っ向から異を唱えたのがロシア。ウクライナ侵攻以降のグローバルサウスのロシアへの共感は西洋の欺瞞への反発の表れ。それに気付いていないのが、西洋国家のエリート層。
もはや西洋には、世界を支配する軍事力経済力宗教がない。西洋の敗北である。
今日本に必要なのは、排外主義でも戦前回帰でもない。西洋社会が普遍的正義としてきた民主主義、人権、平等を疑いそれに変わる物語が必要。
Posted by ブクログ
このような、「現実をちゃんと見ろ」系でちゃんとした本は参考になる。
アメリカは国として行き詰っており、モノを作ることができない。(ウクライナ戦に武器を十分に供与できない)アメリカはまさに今(2025年7月)、貿易不均衡の是正を求めて関税をかけようとしているが、不均衡の解消といってもそもそもアメリカで製造されているモノはどんどん少なくなっている。著者は、「アメリカの最大の輸出商品はドルそのもの」とする。
アメリカやヨーロッパ諸国では乳幼児死亡率や男性の平均寿命などに悪化の兆しがしっかりと現れている。いろいろな指標をアメリカとロシアで比べると国家としての底力はロシアの方が、ある。
なのでウクライナ戦では、ロシアが不利、と言われながらなかなか負けないのはそれが理由。それをわれわれは正しく見ようとしない。
プロテスタンティズムが実質的に消滅しつつある西洋。世界は西洋の敗北を目にしている、とする。
西洋のノンフィクションや分析書にありがちな冗長な表現が各所にあるが、それに目をつぶってもよいくらいの水準の高い一書。
Posted by ブクログ
オーディブルだったので、基本的にはながら聞き。しかし内容量が多いので文字では挫折していたかも。
2024年11月発行で作家はフランスの人類学者。人口統計と家族累計型から、人類のあり様を思考している。
ロシア×ウクライナ戦争は、当初はロシアの戦車はボロだとか西側はウクライナの味方だとかでやたらと勢いが良かったが、なかなか収まらない。そもそもこの戦争は避けられなかったのか。妥協点は見いだせなかったのだろうか。ロシアにしろウクライナにしろ戦争を始めた人たちに命の危険はなくて、市井の人々、特に子供たちが犠牲になっている。自分が聞いていた情報がどこか違っていた…というより事象はそんなに単純ではないということがわかった。
トッドさんいわく日本は「直系家族型」で、子供のうち1人が親元に残り、親は子に対して権威的で、兄弟は不平等。子どもの教育に熱心で、女性の地位は比較的高い。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義。そうね~。その通り。世間が狭い私は、世の中はそんなものだろうと思っていたが、隣接する2国は違ってた。中国、ロシアは「外婚制共同体家族型」で、息子はすべて親元に残り、大家族をつくる。親は子に対して権威的で兄弟は平等。中国やロシアはこの型で共産主義と親和性が高い。というか、そのまんまじゃない。
トッドさんの思考は多岐にわたり、なかなか追いついけてないけど、世界情勢は単純に考えないほうがいいと思った。「直系家族型」日本人の私はすぐに親分の言いなりで楽をしたがるが、多面的に情報を入れて自分で考えるようにしよう。
Posted by ブクログ
乳幼児の死亡率や殺人の数などで、社会の安定を図るのはわかるのだが、宗教に重きを置くのにそこには客観的な数値が示されていない。説明するには紙数が足りないせいかもしれないが、何らかの根拠がないと、キリスト教的な素養がない身には、理解しにくい。
また、中国に関する分析がほとんどない点も物足りない。ロシアが戦争を継続するための重要なキーだと思うのだが。
そうは言っても、今までにない切り口は斬新で、常識にもとらわれない。こんな見方があったのかと思える部分は多々あった。
Posted by ブクログ
あまりに馴染みのない学問すぎて、読み始めて1ヶ月半くらいかかった。。
解読は大変、というか半分も理解できたのかすら怪しいところですが、ロシアによるウクライナ侵攻の"リアル"を自分なりに感じ取れたという意味では読んでよかった一冊でした。
この戦争は今後どうなっていくのでしょう。表面的なニュースに惑わされず、こんな分析ができるようになれたら世界の見方は大きく変わるんだろうな
Posted by ブクログ
日々の報道は、基本的に欧米視点のものが多い中で、
・ロシアがどういう歴史的経緯と発想のもと動いているのか
・私の中で、アメリカとヨーロッパは一緒には考えられないという認識はあるものの、同じEU内であったとしてもヨーロッパ各国それぞれ考え方や状況、ロシアに対する気持ちなどがこれほど異なるのかということ(イギリスは今はEU内ではないけれど、含めて)
・教科書的には何となく分かってはいたものの、プロテスタンティシズムが近代世界の形成にどいいう役割を果たしてきたのか、またそれが抜け落ちた時にどういう結果につながるのか。
・ガザの戦争とウクライナの戦争との関係性についても、日本の報道を見ていたらそれぞれでしかないが、確かにこういうふうにつながるのか。
などなど、色々と示唆に富む内容だった。
ただ、宗教0状態が招く事態については、典型的日本人である私自身とって、そこが欧米のキリスト教圏の人々にとっては大きな問題となることは想像するが、実感は伴いにくい。
LGBTQの問題についても、同性愛とトランスジェンダーに対する問題の重みをそこまで区別して考えたことがなかったので、キリスト教圏の人から見るとそういう発想になるのだなと新鮮な気持ちだった。
トッド氏自身が、プロテスタンティズムの中にいる人(ゼロかどうかは置いておいて)だからこそより感じることなのだろうと思う部分もあった。
Posted by ブクログ
西洋の敗北とは、権威主義国家など他世界に対する敗北ではなく、民主主義国家自体が内部崩壊していくこと示し、すでに西洋は民主主義でも国民国家ですらも無くなってしまっているとの激しい主張。宗教ゼロの状態がエスタブリッシュメントのモラルや道徳を無くし、そこからさらに進んで現実を否定して暴力的な衝動を持つニヒリズムの傾向を見出す。ちなみに生物学的に染色体で雄雌は決まるのだからトランスジェンダーを認めることはニヒリズム的ということになるらしい。アメリカのパワーバランスによって安全保障を成り立たせている国は非常に多いはずであって、筆者が言うように本当にアメリカ自体が経済的にも軍事的にも衰退しているとすれば、日本にとっても死活問題となる。本書の中心はウクライナ戦争にあるが、ウクライナ自体すでに崩壊した国(代理母が産業になるなど恐ろしい現実を知らされた)とされ、ロシア系住民の排斥から、クリミア含め南部地域を保護するロシアの立場に理解を示す論調となる(黒海へのアクセスなど軍事的な意図は当然ながら) この場合、ナチスがドイツ系住民を保護する名目でズデーテン地方に武力侵攻したことへの正当性も認めねばなるまい。主権を尊重するロシアも自己矛盾を抱えているわけで、当然ウクライナを主権国家とはみなしておらず、アメリカに従属する日本もEUも主権国家とはいえない→が無限に広げられることになる。 そもそも安定した先進的な社会には都市間ネットワークを繋げる教育の行き届いた中流階級の充実が必要で、ウクライナではそれを担っていたロシア系住民などがすでに離脱した状況で、国力を上げることは不可能との指摘。これはもっともなことで、世界帝国スペインが没落していった理由もここにある(カトリックに固執しすぎてユダヤ/イスラムの重要な人材を喪失した) そしてロシアへの経済制裁にはロシアの富豪個人の資産も含まれ、これは一部の富豪が国を牛耳る中進国・途上国すべての多くの国に西洋への不信を抱かせることになる。そしてソ連崩壊で地獄の有様だったロシアを安定させ成長させたプーチンは今でも国民に支持されている。そもそも、より深層にある重要なポイントは、アメリカが最も嫌がるのはロシアとドイツの接近だとここでは想定されている。そのためアメリカとその前哨国家ノルウェーがノルド・ストリーム破壊を工作し、ドイツをロシアと引き離すためにウクライナ戦争が仕掛けられた、という大局的なシナリオである。
平均寿命や新生児の死亡率、犯罪発生率を統計で見るとロシアの安定が確かに見えてくる。戦争を限定的にし、動員を極力少なくするためロシアは最小限の軍隊編成とした。今は北朝鮮から兵士を買っている由々しき状態だ。戦争の当事者となってさすがに平均寿命などもこれから減ってしまうのか。確かにミンスク合意以来ロシアが準備してきたこととアメリカに同調しない国が多くあって経済制裁は効果を発揮できていない。ガザも含めていつまで非道な戦闘を続けていくのか。
ところで家族形態をベースに社会や国家のあり方を提示する手法は非常に刺激的で面白いが、地政学の基本となる地理的要素も含めないと全て説明するのは難しく思われる。そもそも宗教ゼロの状態に近づくから出生率が下がるというのはおかしい、「産めよ増やせよ」を実践しようとする人は古今東西いないだろう。宗教ゼロの状態、とくにプロテスタンティズムの終了が学力と道徳を低下させ、今アメリカの中枢部は多様化されていて賞賛されるべきどころかむしろブロッブ化されていて国としての方向性が無い状態だという。WASP統治時代がとくに優れていたとは思わないが(統治者が道徳的に優れていた時代などあるのか?五賢帝とか?)高学歴者はみな高所得が期待できる金融や弁護士に頭脳移転し、軍事産業を支えるエンジニアや工業が疎かにされているのはアメリカもイギリスも共通している。まさにドルしか生産していない(実質何も作っていない)虚構の国になりつつある。そしてアメリカは同盟国を守らないことが明らかになりつつある中で、台湾有事や韓国・日本はどうなってしまうのか…
Posted by ブクログ
フランスの歴史学者であり人類学者であるエマニュエル・トッド氏によるウクライナ侵攻の地政学分析書。15ヶ国以上で翻訳されているベストセラーにも関わらず、英語圏では未出版という曰く付きの書籍。奇しくも2025年8月16日の米トランプ大統領と露プーチン大統領の会談の日に読む。予測の正確性と的確さに驚かされる。
ウクライナ侵攻とは単なるロシアによる侵略戦争ではなく、ロシアの一貫した政治的態度に対する脆弱化した西洋の敗北であると著者は主張する。西洋側にいるとロシア₌絶対悪かつ不利な立場の報道を日々受け取るが、実態はロシアは国家として安定しており、NATOに対する脅威から2014年のクリミア半島併合問題が起こり、その間にウクライナは実質的な国家崩壊(代理母出産の25%が同地など)が進行し、7年のときを経て2021年に満を持してロシアは侵攻したことが分かる。そして盤石かつ一貫したロシアに対し、方針がぶれ続け一枚岩とはなれないEUと米国が駆逐できようはずもなく。著者はそれらを「西洋の敗北」と称し、「プロテスタンティズム・ゼロ状態」による衰弱化と説く。我々はついつい「西洋の論理」で物事を見てしまうが、中国やインド、中東、トルコが必ずしもロシアを拒否しない、裏を返すと西洋に賛同しない理由が読めてくる。
ウクライナのオレンジ革命とマイダン革命を通じた、新ロシアと非ロシアの変遷と、ロシア自身の危機感。自己否定と自己浸食を続けた結果のウクライナが、侵攻という存亡の危機に際してアクターとして世界の舞台に登場することになろうとは何とも皮肉なことである。武力による国境変更は決して許されるべきではないが、米大統領(トランプーバイデン-トランプ)とEU各国首長の悪手の数々を見ると、「元の鞘に収まる」にはかなり分が悪いと感じる。
分析書としては第9章の計算の粗さや、GDPは疑うのにほか統計は検証なく採用したり、フランス人特有のエスプリの効いた(あるいは回りくどい)表現が多かったりと、色々と問題は感じるものの、ロシア・ウクライナ問題とそれに伴う西洋の没落と非西洋の台頭が理解できる一冊だ。
Posted by ブクログ
現代の世界情勢が、とても分かりやすく解説されていて、感動です。
ロシアによるウクライナ侵攻をベースにした世界情勢です。
ヨーロッパは根が深いですね。
ただ、翻訳のレベル低く、誤字脱字も散見され、そこだけが残念です。
Posted by ブクログ
序章だけでも示唆に富む。トランプ再選前の書だが、世界の情勢に遅れをとっている私には、特にウクライナ戦争の始まりと背景、各国の対応の解説について大変理解しやすく、しかも面白く読めた。帯にあるアメリカと欧州が自滅した、の意味が知りたい方は必読。
Posted by ブクログ
作者は、ウクライナの敗北、プーチンの勝利を予想している。感情論を横に置けば、頷けなくもない。
敗北の起因は、西洋の「プロテスタンティズム・ゼロ」状態による道徳的、社会的に崩壊にあるとする。特に、アメリカの衰退は不可逆的性を確実なものになったとしている。
そのことは、トランプを大統領に選出したアメリカの不可解さを説明しているように感じた。
印象に強く残ったのは、パレスチナ問題に対する西洋の対応が、「その他の世界」を親ロシアにしたと述べている点だ。数年前には違和感を感じたであろうが、今のトランプを選択するか?ということから、あり得ることであろう。
グローバリズムを全面的に肯定はしないが、右翼化、ナショナリズムが強まる傾向にある世の中への懸念を裏付ける本書の内容は、興味深かった。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争勃発時、西側諸国はロシアに対し、経済制裁によって瞬く間に屈服するという幻想を抱いていた。しかし、その目論見は大きく外れる。
ロシアはクリミア侵攻以降の経済制裁を教訓に、国内産業構造を強靭化し、西側から独立して存立しうる体制を築き上げていたからだ。
米国の「滑稽さ」とロシアの強靭さ
一方、ウクライナ戦争における西側のリーダーを自負しながら、物資の製造・供給すら満足に行えないアメリカの現状は、著書の中で「滑稽」と厳しく批判されている。経済的な実力差にとどまらず、乳幼児死亡率などの社会指標においてもロシアが優位であるという指摘は、西側社会が抱える問題の根深さ、およびそれを自覚できない不遜ぶりを浮き彫りにする。
『プロ倫』が示す西洋衰退の原因
こうした状況の原因として著書が挙げるのは、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(プロ倫)』に通じる視点だ。かつてプロテスタントの倫理に基づき資本主義化の波に乗り、世界の覇権を握った西洋。その価値観の衰退こそが、現在の機能不全を引き起こしている、と筆者は指摘する。
現在の西洋諸国・世界情勢の不安定さは、その不遜ぶりに寄与していることが明確であり、再び国家として立ち上がるにはまずこの事実を見つめることが第一だろう。
右傾化が進む日本も例外ではない。アメリカの状態へ行き着く前に、国民全体で我が身を振り返る機会があることを祈る。
Posted by ブクログ
多くのマスコミの論調(主にアメリカのリベラルなマスコミに通じる)とは異なる著者独自の視点(家族構造からみた国家観や欧米の宗教観)及びフランス人から見たヨーロッパ、ロシア、アメリカの見識から本書はマンネリな読者(もちろん私も)の思考に刺激を与える。
ロシアのウクライナに対する侵略が単なる領土拡大ではなく安全保障の観点から追い込まれたという親ロシア的な見方には、安全保障という概念が結果として領土拡大ないし利権の確保になったことは歴史が証明しているのでは?また、法の支配や国際法に関してスルーしているのは気になるところ。
ただプロテスタンティズムの衰弱が信用経済にどっぷりつかってアメリカの工業力の低下を生み生産力も低下している現実はその通りだと思うし、我が国もその傾向にあるのでは?と危機感を覚えた。
その文脈では著者が日本人に対して日本のアメリカ一辺倒ないし西洋中心主義から多極的な世界への対応を求められている示唆は多くの日本人が感じ、考えていることではないかと思うが、グローバル化を推進してきたこととどう整合させていくか課題は大きく難しい。
またプロテスタンティズムが教育と経済に影響を与えた反面、人の不平等を肯定する面があり、自由主義と結合した中で支配層(ごく少数)と被支配層(大多数)に分離階層化していき、その中で更に人種差別や排外主義を生むメカニズムは興味深い。
著者の見識の独自さと該博さに難渋することも多いが、多くの示唆に富む刺激的なテキストとして評価したい。
Posted by ブクログ
プロテスタントの規律を失った英米欧州各国をプロテスタントゼロとして、西洋は一部のゼロ化したエリートたちが政治を牛耳る寡頭制国家になっている。一方、アメリカは製造業が空洞化して、世界を実質的にまとめることは出来なくなってきておりせいぜい韓国、日本、台湾をつなぎとめるだけであり、欧州まで手が回らないが、それでもイスラエルやウクライナへのテコ入れをすることで無理があらわになってきている。
西洋の多様性の強要は、宗教ゼロではない他の国々の共感を得ることが出来なくなってきている。
Posted by ブクログ
個別の議論は理解できても論点が多く、それらが相互連関しており、全く日本人の通説的なところと違う視点から切り込んでくるので、全体として非常に難解で一度の読書で消化できる内容ではない。
基本的にはアメリカを中心とする(日本も含む)西欧社会が終わりに向かっているということで、一番の要素を宗教→プロテスタンティズム→金と権力だけの宗教ゼロ状態という西欧の流れが自己利益だけのエリートと民衆の分断を招いているという指摘。これは、日本社会も含めてモヤっと思っていることを言い当てたのかもしれない。そして、そうした利益社会は即物的な戦争に走りやすいと。
また、そうした傾向は現物経済よりも、法律家・金融家といった社会に寄生する職業に重きを置かせて工学系に人が行かない(露中はそうではない)。その中で、ドル基軸体制のアメリカはドルを刷って他国に配り、産業移転による空洞化と労働階級の崩壊を招いたが、もはやトランプが騒いでも滅び去った産業は回復しない。ウクライナ戦での弾薬生産がそれを示している。希望はドイツと日本と韓国の工業力。
宗教ゼロの状態で始まったウクライナ戦争はロシアの安定と西欧の敗北に向かう、アメリカの本質は同盟の信頼性の欠如であり、日本、台湾も自ら立たねば守られないとの指摘。
落ち着いてもう一度読んでみたい本。
Posted by ブクログ
なかなか難しかったので半分も理解できていない気がするが、ロシアとウクライナの戦争について、今までにない視点でみることができた。西洋は宗教ゼロに向かうことで崩壊してきているというのも興味深い
Posted by ブクログ
学ぶ必要を感じている地政学についての評価の高い本ということで購入
予想していたものより難解で、知識不足を感じた
ある程度歴史等についても理解を深めた上で読んだ方が学びが大きいと思う
Posted by ブクログ
当たり前で当然と思っていたことが、これほど違うことを思い知らされるのは久しぶりだ。
毎日、新聞を読みニュースやネットで人一倍世の中の動向を知ろうとしていたはずであった。
にもかかわらず、こんな思いもよらない真反対の見方を示され同感し納得してしまう自分に驚く。
ウクライナ戦争は5年くらいでロシア勝利で終わる。ロシアはドイツと関係を深め安定度を増す。
アメリカは新自由主義のグローバリズムによる金融偏重で産業基盤がますます悪化する。格差が拡大しリベラル寡頭制(エリート主義)で世界の一極支配も完全に終わり多元化した世界で混乱の元になる。
フランスやイギリスなどの西洋社会はNATOやEU・ユーロが限界に達し経済的にも行き詰まる。
欧米はプロテスタンティズムの無化で個人・国家のアトム化が進み自由民主主義の危機になる。
改めて新自由主義の犯罪性を痛感する。
筆者エマニュエル・ドットは「歴史人口学」「家族人類学」の大家であり、満を持した鋭い洞察である。
都合のよい引用も目につくが、多様なデータを駆使した深い思考は視点も新鮮で読者を惹きつける。
西側メディアに汚染された思い込み(心地良い常識)が駄目出しされる衝撃の連続で知的緊張が強いられる。
先ず、ロシア社会の1990年から2022年にかけてのダイナミズムであり、これは思いもよらなかった。
ソ連社会主義が行き詰まり破綻した時の印象が強烈でそれをその後のロシア評価に引きずっていた。
絶望的な混乱期の後、プーチンは権威主義的な国家に国民を再結集させ、2003年にオルガリヒも屈服させて市場経済を立ち直した。
「道徳統計」の数字で、殺人率はプーチンが政権についた時点から2020年で6分の1、自殺率は4分の1に減少、乳幼児死亡率は1000人当たり4.4人でアメリカの5.4人を下回るまでになっていた。
生活水準の向上に加えて失業率が非常に低く戦略的経済分野が復活を遂げた。原油や天然ガスはもとより、食料の自給自足も達成し世界で主要な農産物の輸出国になった。2013年から‘20年にかけて農産物加工品の輸出は3倍になり輸入は半減した。世界第二位の武器輸出国であり、一位の原発輸出国だ。
インターネット環境も、国家主義的でありながらもリベラルで柔軟、規制はヨーロッパと中国の中間でローカルレベルでGAFAの真の競争相手が存在する唯一の国である。
ロシアは迅速に市場経済を確立し西側市場から自立した。小麦生産2012年3700万tが‘22年8000万tと10年間で倍以上に増えた。アメリカは1980年の6500万tが2022年4700万tまで落ち込む。
2014年のクリミア戦争以来の西側の経済制裁が為替面で工業と農業に保護主義の役割を果たし、ソ連破綻後の産業再編成を促す。更に’22年の制裁は一時的な打撃と代償は強いたが経済をより強靭なものにした。
プーチンはスターリンとはまったく違う。ロシアは
移動の自由と「反ユダヤ主義の完全な不在」の国だ。権威主義ではあるが自由市場経済の国である。
今回の軍事作戦は第二次大戦時の動員・国民負担の状況とはまったく異なる。過去の記憶と西側の連日の「国民使い捨て報道」に認識が麻痺していた。
プーチンは今回の「特別軍事作戦」には当初12万人しか動員していない。
次に二番目、ウクライナという国についてである。
小麦生産とロマンチックな民族衣装の小国が大国ロシアに一方的に暴力で蹂躙されているという認識であったが、これも違っていた。
ウクライナはソビエトシステムからの脱却に失敗し「崩壊しつつある」破綻国家であった。人口は1991年から2021年にかけて5200万人から4100万人に20%減少し、出生率も1.2%(2020年)と低く出国移民が多く、中流階級がロシアに移住してしまった。
オルガリヒと汚職と代理母出産の国であった。営利目的の代理母出産は世界一でシェア25%、その産業特化は社会崩壊の兆候で新自由主義とソビエト主義の統合の産物である。
ウクライナは中流階級が存在せず独自の「国民国家」にはなれず、民主主義が機能したことは一度もなかった。民族言語学的二元性の国だった。
経済の再興が不可能なので、この戦争(アメリカ・イギリス・EUの資金援助で戦っている)こそがウクライナにとっての「生きる意味」になり「生きる手段」になっている。今のウクライナは国家として自殺しつつある。「ロシア嫌い」は実はロシアとの離別を拒み、つながり続けることを望むニヒリズムである。ウクライナが国民国家として存在できず安定を見出せないからこそ終わりのない戦争が続いている。国家予算は税金ではなく西洋からの資金援助に依存しているため、国家として地に足がついておらず空中浮遊状態にある。
三番目には、アメリカを筆頭とする西洋諸国の現状である。日本もこの範疇に入るので、日々知らされるバイアスのかかった情報や知識でとんでもない認識(都合のよい常識)に陥っていたことを痛いほど思い知らされる。今のアメリカトランプ政権の無茶苦茶な政策やイギリスのブレクジット以降、独仏のポピュリズムの跋扈など理解に苦しむ現象の多発で、西側世界で何かが起こっている不気味さは感じていた。
この予感だけは少し当たっていた。
西洋は産業基盤の深刻な弱体化が表面化している。
西洋発展の基盤であったプロテスタンティズムの死によって「西洋の解体」となり「西洋の敗北」の原因となる。自由民主主義の発祥の地であり核心部であったイギリス・アメリカ・フランスにおいてその自由民主主義が危機に陥っている。格差拡大によるエリート主義とポピュリズムの激突による相互不信の病理状態でリベラル寡頭制が鮮明になりそれがロシアの権威主義的民主主義と戦うことになった。
ヨーロッパは自らの利益に反する自己破壊的な戦争に深入りしてしまった。ヨーロッパの産業が脅威にさらされ、ユーロ圏の貿易収支は2021年の1160億€の黒字から2023年には4000億€の赤字となっている。ウクライナへの主要な武器供給源ではない西ヨーロッパが戦争の主要な経済的負担に晒される、それは事故や偶然やアメリカのせいではなくヨーロッパというプロジェクトが死んだ「内部崩壊」が原因だ。EUは複雑すぎて管理不能で修復不可能な機関でありその制度は空回りしている。単一通貨は内部に修復不可能な不均衡をもたらした。
今回は「プーチンの脅威」に対するちょうど良いタイミングでの「自殺の衝動」の表明であった。ヨーロッパはもはやアトム化した個人の単なる巨大な寄せ集めになってしまった。
最後にアメリカのことである。
この国の世界への経済的依存は途方もない大きさであり、そのアメリカ社会自体が瓦解して、ドルを印刷して凌いでいる。
1930年代のドイツと今のアメリカのダイナミズムは「空虚さ」を原動力とした共通のものだ。政治は価値観なしに機能し暴力に向かう動きしかなくなっている。
思想面の危険な「空虚さ」と脅迫観念として残存する「金」と「権力」だけが機能している。
富裕層も貧困層も28%の一律課税で益々格差拡大。
2000年以降、アルコール中毒と自殺とオピオイド中毒で白人男性の死亡率上昇が著しい。平均寿命も先進国で唯一低下。体重過多の人口が41.9%に増加。2020年頃の乳児死亡率は千人当たり5.4人、ロシア4.4人、ドイツ3.1人、日本1.8人。同じくGDPに占める医療費の割合は18.8%、ドイツ12.8%、イギリス11.9%。2019年、刑務所の収監人数は10万人当たり531人、ロシア300人、ドイツ67人、日本34人である。
プラス面は、シリコンバレーの通信・情報技術の進歩と石油は純輸入国ではなくなり、天然ガスはロシアに次ぐ世界第2位の輸出国になったことだ。
反面、モノの製造である工業部分が欠落し産業基盤が崩壊し、貿易赤字は2000年から‘22年にかけて173%(物価指数加味して60%)増えている。
ウクライナが必要としている兵器をアメリカが生産できていない現状である。
政治は、ワシントン的ブロッブ(森の中に存在するネバネバとした単細胞組織、周囲のバクテリアやキノコを摂取しながら繁殖するが脳は持っていない)が外交を担う。アトム化されたアノミー集団、世界一の大国の指導者集団を構成する個人たちが自ら超越するような思想体系には従わなくなり所属しているローカルネットワークに由来する衝動で動いている。
まさに今連日世界を騒がせているトランプ大統領の脈絡のない思いつき政策がそのことを象徴している。
「西洋の敗北」を結論とするエマニュエル・ドットの慧眼が世界の趨勢を見抜いた傑作である。
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれて購入したが、内容が濃く読みづらいが、噛み砕いて読めばかなりの情報が得れると思う。私は情報量が多くて途中で諦めてしまった。
一般的に広く言われている情報とは違った視点で語られ、正誤はわからないがリソースもかかれている。
ロシア、ウクライナ戦争についても違った視点で解説されており、参考になる部分も多かった。
Posted by ブクログ
筆者の西洋の定義は二つある。一つが日独を含む経済的近代の西洋、もう一つが政治的近代の西洋で三大自由民主主義国を、米英仏のみを含む。ここで敗北した西洋がどちらとしているのか、不明。ドイツはもう敗北の中に入れている。ドイツどころかEU全体が敗北している。日本については言及ほとんどなし。米に追随しているところからの類推という簡単な話ではない。
ところで、アメリカの敗北は、「プロテスタンティズム・ゼロ状態」に起因する道徳的、社会的崩壊という。分かる気がする。
Posted by ブクログ
諸国家は同じではない。
ウクライナは戦争以前から、人口流出と出生率の低下で1100万人の減少だった。汚職は桁外れで、代理出産の国だった。
アメリカの軍事産業は弱体化している。=西洋の敗北。
ロシアが困難な状況になると、もっと戦争に力を入れることになる。ロシアには生存がかかっている。
国民国家であるためには、領土が最低限自立できなければならない。
2014年のミンクス合意は、ウクライナに軍備化の猶予を与えるためだった。ロシアにも同じ猶予があって、Swiftからの追放の準備を整えることができた。
制裁により、ロシアは輸入代替え品のために国内の再編成が必要だったが、その結果、経済は強くなった。
エンジニアはロシアの方が多い。アメリカのGDPは役に立たないGDPが多い。アメリカのエンジニアは、中国やインドの出身者が多い。
共産主義を崩壊させた中流階級が、プーチン政権も崩壊させることはない。
ウクライナ侵攻でロシアは2万人の兵力しか送っていないため、ウクライナの善戦が目立ったが、最終的にはロシアが勝つだろう。西洋側の軍事的物質の不足が目立つ。
ウクライナは出国移民が多い。ウクライナの代理出産は、新自由主義とソビエト主義の統合の産物。
ウクライナの独立は、1991年。国家の成立には都市部に住む中流階級の存在が必要。
西洋とはNATOと同盟国の西洋を意味する。講義の西洋。
エリート主義とポピュリズムの衝突が見られる。
西洋のリベラル寡頭制と、ロシアの権威主義的民主主義との戦い。
「マクロンする」という動詞の意味は、意味のないおしゃべりをする、懸念を表明しつつ何もしない、という意味。
ノルドストリームの攻撃は、アメリカによって決定され、ノルウェー人の協力を得て行われた。
イギリスの脆弱化は新自由主義思想による不条理な民営化が理由。
アメリカのエンジニアは、不足している。金融が儲かる社会にしてしまったことが原因。弁護士、銀行化、見せかけの第三次産業に流れた。
フィンランドとスェーデンは中立国だったが、NATOに加盟した。
メリトクラシーの時代に、ユダヤ人がたくさん有名大学に進学し、上流階級支配=寡頭制のもとをつくった。
ウクライナが必要としている兵器をアメリカは製造できない。
アメリカのGDPは、水ぶくれしている。実質的生産量は西ヨーロッパを下回る。この順位は乳幼児死亡率と同じ。
ドルの存在がアメリカを麻痺させた。=スーパーオランダ病。天然資源の呪い。
財よりも貨幣を生産するほうが簡単。
WASPエリートはアメリカ政府に存在しない。
ロシアは天然資源と労働で生活し、価値観を押し付けようとしていない。第三国には好ましく思える。
経済制裁は効力がない以上に、その国を鍛える。イラク、ベネゼエラへの経済制裁は死者は出したが、国は滅びなかった。
アメリカはウクライナ戦争という罠に落ちた。ウクライナの初期の軍事的抵抗が、幻想させた。
今やロシアの目的は、ウクライナを国会から切り離すこと。ウクライナ西部をどうするつもりか、はまだわからない。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争は「狂人プーチンの暴挙」ではなく、「リベラル社会の西側諸国(西欧と米)の自家中毒」により起こり、悪化した。あるいはその象徴的現れだ、という研究書。
自家中毒とは、
リベラリズムの勢いが制御不能の速さで強くなった結果、非自由主義国にアレルギーを起こさせ、悪化させていった。相手(他国)に理解を示したり、猶予を与えないまま強いリベラルな要求を突きつけ続けた。結果、非自由主義国にとってアレルギーは深刻な致死病と理解され、大掛かりな大手術を決意させた。つまりロシアに自分の命(国家の存亡)をかけた決断をさせた。これが「ウクライナ侵攻」である。一方、この反応に西側諸国は理解を示すどころか、国内政治を牛耳るエリートが強いリベラリズムに染まって(あるいは抗えずに)いるので、より強硬な態度を示した。それは自由主義社会の敗北を招く、というのが「自家中毒」。
また、危機感からウに侵攻したプーチンロシアと、それに同情あるいは大きな批判を示さない国々(中国、インド、トルコ等)は西側諸国を理想的で理知的な国家とは見ていない。特にアメリカに対しては「帝国」「偽の帝国」と思っている。この帝国とは「一人の皇帝が支配する国」という意味ではなく、何かがその国の人々を狂乱させ、支配し、その悪徳を他国にも強要して思想的侵略を行う怪物、という意味。そこは「国民」は不在で「国民国家」の体を成していない。そんな国が「国民国家」「民主主義」と自称するので「偽の」という修飾語が付く。
アメリカはもはや国民国家ではないとは?「国民」という定義で考えれば、アメリカ市民権を持つ人々がもはやそれを形成していない。思想も主張も理想も価値観ももはや「共有する」といえるほどまとまっていない。これこそがウクライナ戦争をはじめ世界の混乱の震源地、ひいては「ロシアの勝利」とその後のネガティブな世界を生み出す。という内容。
とはいえ、本書は「人口学者・家族人類学者」が執筆しているため、その根本的理由をロ・独や米・英・仏の家族性・宗教性の違いから生じていると説いている。この辺に説得力があるかは疑問。それもこのウクライナ戦争が著者の予測「ウクライナの敗北」になるかどうかで判る。
第1章『ロシアの安定』
「ソ連が崩壊し、プーチンが政権を担ってからロシアは崩壊へと進んでいる」という分析の間違いと、それに気づかなかった西側のインテリジェンス。
2000年以降のロシアは、輸出率の上昇(小麦・食肉加工・兵器・原発)、失業率・自殺率・殺人率・乳児死亡率の低下などのデータから、経済も生活環境も発展し続けていることが判る。この恩恵はロシアのあらゆる階層が感じていて、プーチン政権への信頼に繋がっている。
これらの発展は「権威主義的且つ民主主義的な政治」という伝統的なロシアの歴史と文化に根差している。この不思議な政治体制を西側インテリジェンスは理解していない。だから「プーチンに対するロシア国民の反乱」をいくら期待しても訪れない。
第2章『ウクライナの謎』
戦争当初「崩壊しつつある」とされたウクライナがなぜロシアの攻撃に耐え抜いているのか。
ウクライナ南東部はロシア語とロシア文化の圏域だが、学歴も経済的にも高水準。ウクライナのオリガルヒもこの地域出身者が多い。2014年のマイダン危機からは排除され敵視された。西部は過去反ユダヤ主義が起こった地域。現在は反ユダヤの勢力は弱いが、そるが「反ロシア人」に変わった。プーチンが言う「ネオナチ」はこのこと。本来はロシア文化圏である南東部を切り離せばウクライナは統一的な場所になるが、ウクライナ人は「ロシア」に固執する。「多くがロシア寄りな地域をキーウが管理する」をしたいのだ。このモチベーションが「戦況維持」をもたらしている。戦争そのものがウクライナの目的になっている。
第3章『東欧におけるポストモダンのロシア嫌い』
東欧ではソ連崩壊以前に民主主義国になった国はチェコスロバキア以外なかった。
共産圏時代東欧はソ連のメリトクラシー政策によりかなり教育水準が上がった。ソ連崩壊後この高水準世代は中産階級を形成。彼らは教育水準が高い故、西側文化に賛同しロシアや過去のソ連を嫌悪し始めた。これが現在ウクライナを支援する動きになっている。例えばポーランド。また東欧は第2次対戦前、封建主義・権威主義・民族主義・反ユダヤ主義の国々だったが、ソ連崩壊の1990年には「普通の国」として現れた。この事実は「実はソ連の政策の一部は東欧を近代化に導いたのかもしれない」の可能性が高い。それなのに反ロシア感情を持っている東欧は「不誠実」と言えるかもしれない。
例外はハンガリー。プロテスタントが多く、ソ連崩壊後も反ユダヤ主義が起こらなかったこの国は東欧で唯一反ロシア感情を持たない。現在はEUから「ウクライナ支援に消極的」と批判されている。
第4章『「西洋」とは何か?』
現在西洋は「病」に陥っている。西洋民主主義の破局的危機だ。その原因は「宗教」、プロテスタンティズムだ。実はウクライナ戦争の原因はロシアではなく西洋。「西洋の敗北」の核心がそこにある。ここでの西洋は英・米・仏・独・伊・日。
プロテスタントは人々に聖書を読ませるため識字率を上げた。識字率が工業発展につながり大きな経済発展に繋がった。また予定説を重要視するので「選ばれし者と地獄に落ちる者がいる」という考え。これが強い人種差別を醸成した。独のナチズムや米の黒人差別など。そして「選ばれし者」は最初の「国民国家」誕生の原動力になった。
ロシアは「権威主義的専制体制」で、西洋は「リベラルな民主主義」と云われる。しかし実際ロシアでは選挙は行われている。ただ強い権威主義体制である。西洋は強いリベラリズムが蔓延してるが政治はごく一部の超富裕層が社会を独占している。したがってロシアは「権威主義的民主主義」で、西洋は「リベラル寡頭制」だ。
宗教の信仰がなくなるが習慣と価値の本質が残る状態を「宗教のゾンビ状態」という(90年代くらいまで)。代替物(イデオロギー)が力を持つ。その習慣と価値すらなくなるのが「宗教ゼロ状態」(現在がここ)。ゼロ状態がいつから始まったか?同性婚が合法化された時だ。
第5章『自殺幇助による欧州の死』
EUがウクライナ戦争にコミットするのはバラバラになったEU加盟国を一致団結させるため。もうひとつはリベラルエリートたちがEUというシステムを作ってはみたものの「複雑で管理不能で修復不可」だった。このシステムを破壊してほしいから。つまり自殺したいのだ。
ただ独は異質。他のEU諸国が混乱と凋落する中東独や東欧諸国の住民を使って経済を発展させた。経済に執着する慣習と、直系家族型慣習(ヒエラルキーを是認する)が理由。これは「活動的国民」に対し「無気力国民」と言える。それは日本も同様。
米の経済はどんどん衰退している。そのため「世界のリーダー」をもはや出来ない。だからこそ周辺国をより利用している。欧州や日本を属国状態にしたいのだ。スノーデンが暴露したようにNSAの監視対象はEUや日本だ。
第6章『「国家ゼロ」に突き進む英国』
英は他の欧州諸国と違いプロテスタントが二つに別れていた。それは階級社会のエスタブリッシュメントと労働階級とシンクロする。英の崩壊はこの2つの階級が宗教ゼロに陥ることで生まれた。労働階級は移民やリベラルを嫌がりブレグジットに賛成。エスタブリは元々労働階級を同等・平等と考えておらず、力を増す彼らを憎み、それなら移民優遇やリベラルを増大させようとブレグジットに反対した。こうしてイギリスの「国民国家」は崩壊した。
第7章『北欧-フェミニズムから好戦主義へ』
北欧諸国は総じて米の「衛星国」である。NSAが欧州同盟国を監視する拠点も多くが北欧にある。そして北欧は世界でも有数のフェミニズムの国々でもある。最近は宰相に女性が選ばれているが、彼女らがNATO加盟を決断した。「戦争は男性性が生み出すもの」という認識で考えるとかなり不思議。これは「女性は男性以上に男性的になれる能力がある」を実現化したものでは?
第8章『米国の本質-寡頭制とニヒリズム』
米の「病」。それはとりわけ世界で最も深刻で影響力があり、ナチスと共通するものがある。その原因を探る。
1つ目は「ニヒリズム」。プロテスタントがゾンビになり、ゼロになって生まれたニヒリズム。ニヒリズム社会の証拠のひとつはトランスジェンダーだ。手術やホルモンわさらには自認によって性が変えられるというのは科学的に虚為てある。虚為を「できる」と肯定することは典型的なニヒリズムだ。
2つ目は「不平等の正当化」。60年代高等教育人口の25%達成が世界最初に起こる(著者は25%で「自分は本質的に優れている」が芽生え「不平等の正当化」が起こると考える)。25%は宗教的連帯と集団的帰属を薄め、個人のアトム化・希薄化を起こす。教育に付いて行けない残りの75%は逆にIQが低下。それは時代が進むほど低下した。これは教育による好ましい価値観の創設を消滅させた。ここに好ましい価値観を持つ「選ばれし者」と、能力の無い「地獄に落ちる者」が予定説の約束として生まれた(米は能力主義の国)。しかし60年代以前は違った。それまでは「地獄に落ちる者」の役割をインディアンと黒人が担ってくれていたので、白人同士の間では格差は起こらず連帯・帰属の崩壊も起こらなかった。
第9章『ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す』
2023年、米はウに供給する兵器の生産が追い付かないと報道された。米は本当に経済大国か?米GDPにはかなり虚飾がある。非生産的な職業や非合理な高所得が原因。これらを思考実験的に差し引いたRDP(リアル国内生産)で見る。米1人あたりGDP7万6千ドル、RDP3万9520ドル。先進国で最下位。乳幼児死亡率ともシンクロする。この現象はメリトクラシー(能力主義)と関係する。高等教育に進む米学生の科学・工学の専攻者が50年で大幅に流出した。科学・工学専攻はわずか7.2%、流出先は法学・金融・ビジネス。実際の工学残業分野で不足する人員は外国人資格保持者に依存している。実際米への留学生は工学専攻が多い。特に比率で多いのはいイラン。ウクライナ戦争でロシアがイラン制ドローンを多く利用している理由が見える。
第10章『ワシントンのギャングたち』
ワシントンは「村社会」である。「宗教ゼロ」のアノミー体質者の政府閣僚は、信仰や超越的正義感を持たないため向上心や倫理の追及を考えない。村内での自らの地位しか考えず、他分野への考察・配慮や全体的思考が出来ない。また出身村(専攻分野)の利益最大化をひたすら謀るため過大な危機を煽動する。この支配者たちは流行の「ディープステート」などではなく「浅いステート」と言える。
第11章『「その他の世界」がロシアを選んだ理由』
ウクライナ戦争で露に制裁付き非難をしたのは結局アメリカ同盟国だけだった。BRICsなどは非難すらしなかった。これはアメリカ主導の西洋への失望と疑念の現れだが、驚くのは西洋側のあきれた考察だ。「中国は露を非難してくれる」という予想をする者が何人も現れたのだ。これは「病」による、地政学的なことを何も考えられない思考力低下と、人種差別的とも言える「我々は正義の味方で優れてる」という自惚れの現れだ。
西洋は同性婚やトランスジェンダー保護の政策をますます押し進めている。これによってホモフォビア・反トランスの姿勢を崩さない露は「世界からますます孤立する」と西洋は考えるが逆だ。この露の姿勢はますます西洋以外の国々から賛同されている。これがプーチンの戦略だ。
終章『米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか』
米とウというニヒリズム連合が敗北することが私たちの慰めになるかもしれない。
ウクライナ戦争の元はドイツの進展。21世紀どんどん世界への影響力を弱める米、その中で経済的に力を増した独。東欧の労働人口を頼った独にウ西部民が近づいた。また独はノルドストリーム等で露と独自の友好関係を築き始めた。米はコントロールできない独に危機感を持ち始めた。
プーチンは西洋がゼロ状態社会と経済的理由から兵器を生産出来ないと踏んでウに戦争を仕掛けた。これか結構成功した。ただウが予想外に抵抗したのは意外だった。そしてこの抵抗が米ネオコンに「変な希望」を持たせ、うなへの軍事支援を行わせた。これが米介入の泥沼になる。
追記『米国のニヒリズム-ガザという証拠』
米のニヒリズム・ゼロ状態は、泥沼のイスラエル指示にも底通する。勝てないウクライナ戦争から目もそらせられる。
『日本語版へのあとがき』
戦争が停滞しているが、ロの現状の目的は領土奪還ではなく、ウの物質的・人的破壊だから。
ゼロ状態が長年続く米はもはや兵器生産が出来ない。そんなエンジニアは居なくなった。
EUの支援増強によりロはドンバス地方だけじゃなくオデーサも取りに来るかもしれない。黒海に面するウ領土を消滅したいから。
ロの納得する和平を取り決めた時、米の世界的権威は失墜する。これは歴史的なこと。そうなると「ドルの生産」で喰ってきた米は崩壊する。これにより米支配の西洋は米を見捨てる。NATOは解散、独露の協定が起きる。米国の生活物資の最大拠点は中ではなく、これらの属国なので米の社会は崩壊する。だから米はウ戦争を負けたくない。
独仏伊では戦争不況により、大衆階級の「ウへの指示」への反対が現れてくる。
Posted by ブクログ
読み応えあるが、考えることも多かった。普段なかなかここまで世界について考えることがないし、そのなかで今何が起きているのか?を見つめ直すいい機会になったと思う。
にしても、翻訳で読むにはちょっと重すぎた印象。。
Posted by ブクログ
「第三次世界大戦はすでに始まっている」は、面白くはあるものの、やや決めつけが強い感じがして、どうかと思った。この本は、その延長線上の議論で、もう少し丁寧な議論を進めているので、説得力はました感じかな?少なくとも彼が言っていることのロジックは理解できた気がする。
彼の主張のベースには、家族関係や宗教が国の文化・社会・政治に大きな影響を与えていること、そして各国で宗教のゾンビ化が進みニヒリズム化しているという考えがある。
ある意味、これは伝統的な社会学的な視点、例えばマックス・ウェーバーの考えを現在まで引っ張ってきた議論と言える。そして、その論証もなかなか説得力があるように思える。脱宗教化、脱魔術化というのウェーバー的な議論で、私はむしろ再宗教化として考えるのだが、それはかつての宗教とはやはり違うものであり、それをトッドはゾンビ化と言っているのかもしれない。(私は世界宗教のアニミズム化、つまりは再魔術化と捉えているが)
トッドの議論は一定の説得力はあるし、最近の各国の現実の動きの解釈も概ね同意するのだが、各国の分析を組み合わせて全体像として整理したときになんだか変な結論になっている気がしてならない。
おそらく、それはロシアの分析が弱いからだと思う、トッドは、ロシアのことはみなさんご存知でしょう、ということで分析が薄くなっているのだと思うが、トッドのロシアの分析はあまりにロシア寄りな感じがする。トッドは、ロシアの拡張主義的な意図を否定して、ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの間のアイデンティティ、文化的なフリクションであり、ロシアは、ウクライナ以上の拡張意図はないというゆな前提が楽観的に思える。
本当のところはわからないが、ヨーロッパの国々がそれを脅威に感じているというのは事実で、その恐怖が彼らの妄想だと断言できるほどの論拠はトッドにはないように思う。
この種の議論は、面白くはあるのだが、何でもかんでも文化の概念だけで解釈するのは無理があるところある。現実的な行動だけではわからない、そして意識的には当事者としても分かっていない文化の深層構造的なところで物事を理解するのは、面白いかもしれないが、やはり危険だと思う。