あらすじ
米国と欧州は自滅した。 日本が強いられる「選択」は?
ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ政権とともに崩壊する。
戦争は“世界のリアル”を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも五年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」……
「いま何が起きているのか」、この一冊でわかる!
・ウクライナの敗北はすでに明らかだ
・戦争を命の安い国に肩代わりさせた米国
・ウクライナは「代理母出産」の楽園
・米国は戦争継続でウクライナを犠牲に
・米情報機関は敵国より同盟国を監視
・NATO目的は同盟国の「保護」より「支配」
・北欧ではフェミニズムが好戦主義に
・独ロと日ロの接近こそ米国の悪夢
・ロシアは米国に対して軍事的優位に立っている
・モノではなくドルだけを生産する米国
・対ロ制裁でドル覇権が揺いでいる
・米国に真のエリートはもういない
・米国に保護を頼る国は領土の20%を失う
・日独の直系社会のリーダーは不幸だ
・日米同盟のためにLGBT法を制定した日本
・NATOは崩壊に向かう 日米同盟は?
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Posted by ブクログ
トッドが本書で冷徹に描き出すのは、西側諸国(アメリカ、ヨーロッパ)が不可逆的な衰退期に入ったという衝撃的な診断である。特にウクライナ戦争を、「集団的西側」の優位性が崩壊に向かうプロセスとして分析する。
トッドの論点の核心は、西側の敗北が軍事や経済の表面的な問題ではなく、精神的・人口学的な深層構造に起因するということだ。西側の精神的基盤であったカトリックの終焉(出生率の低下と識字率の向上による)が、普遍的なイデオロギーとしての求心力を失わせた。そして、低い出生率は、長期的な国力の衰退を不可避にする最大の要因であると指摘する。
西側が経済制裁によって崩壊すると踏んでいたロシアは、予想外の強靭さを示し、非西洋圏の多くの国は西側の価値観に同調しない。これは、アメリカが掲げる民主主義や普遍的価値観の終焉を意味する。トッドは、アメリカ国内の深刻な階級格差や社会の分断が、その普遍的モデルとしての信頼性を決定的に損なったと断ずる。
本書は、ウクライナ戦争という局地的な出来事を、「西側 vs 非西側」の価値観が衝突する世界秩序の転換期として捉える。歴史人口学者としてのマクロな視点から、宗教、家族構造といった根本的な要素が、いかに国際政治や地政学に影響を与えているかを理解できる、必読の書である。
Posted by ブクログ
この本は、自分がこれまで持っていた価値観をかなり大きくゆさぶってくれる本でした。自分は、この本を読むような人の多くとおそらく共通して、日本でエリート層に属しているとおそらく言えることと思います。一方で世界情勢についてはこのような本を読んだことはなく、新聞に書いてある物の見方を受け入れてきました。すなわち、次のような考え方です。ウクライナはその全土に対して権利があり、その全土をロシアに対して守り切るのが望ましい決着である。米国を中心とした「グローバル化」の進行は受け入れるべき望ましいことであり、また必然として世界を覆っていくだろう。彼らの文化の一つである同性愛やトランスジェンダーの容認についても遅かれ早かれ世界に広まる必然である。その一方で、トランプ政権の行動や世界で起きているポピュリズムの流れには困惑し、なぜそのようなことが起きているのか、彼らが選挙で勝つのか不思議に思っていました。そのような考え方が、非常に偏った(アメリカのエリートを中心とした)ものの見方である、というのが、本書の主張を信じるならば、明らかになりました。著者の考え方もおそらく偏っていることとは思われますので、そのまま全てを信じるのがよいこととも限らないでしょうが、そういったものの見方もあるという目を開いてくれたので、これからは相対化して考えていきたいと思います。
ところで本書は私にはだいぶ読みにくいものでした。まずレトリックが効きすぎていて、言い方がまわりくどいです。また、歴史的な事件や投票結果・アンケート結果などの根拠は示しているとはいえ、国民感情を、一人の人間の感情のように語って世界情勢を説明するというアプローチはどのくらい妥当なのかよくわかりませんでした。ニヒリズムという本書のひとつの鍵になる概念は「世界の現実を否定し、戦争へと向かうような精神状態」と定義されていますが、現実を否定しているか・戦争へと向かっているかどうかは観測者の主観であるので、西洋のエリートがニヒリズムを持っている、という言説は著者の決めつけにすぎないように感じました。もうちょっと丁寧に説明してくれたらいいのにな、というのが正直なところです。
次のようなポイントは非常によく理解できました。米国は、エリート層が金を稼ぎ続けることができる金融の仕組みを作ってしまったために、他国の労働力を使えばよくて、エンジニアリングや製品の生産を自国でする必要がなくなって、国が空洞化している。それでエリート層は大衆と乖離し、大衆を代表することを拒んですらいる。その結果なのか、世界認識が大きくずれていて、西欧が世界の中心であり、多くの国が彼らを中心としてついてくるものと誤解している(彼らを中心とした「グローバル化」のビジョン)。それに対して、不利益を被っている西欧の大衆がついてこなくなっているのが今のポピュリズムの台頭である。西欧の民主主義で政治家は選挙に勝たなければならないので、そういったポピュリズムに迎合する必要があり、そこに労力を割かれる。そのため中露に比べて政治家の外交的な能力が劣ることになる。西欧はもはや、彼らを結びつける中心的な価値観が失われている。アトム化した個人の寄せ集めにすぎない。政治家も一貫した行動をとることができず外交政策も支離滅裂になっている。先のような西欧のグローバル化のビジョンに対して、実際にはその陣営に与する国は少ないということが、このウクライナ戦争とその経済制裁で明らかになった。今や米国はごく親しい日韓のような同盟国への依存性を高めていて、そのグループは世界で見れば小さい。今後、ウクライナ戦争はロシアが勝つことになると本書は予想するが、そうしてもロシアにはそれ以上の侵略を進める意図も余裕もない。そうした場合、NATOが無意味であるということが露呈し、結果として解体され、ドイツとロシアが接近するというのが本書の予言である。その時には西欧を中心とするのではなくて、本当に多様な国がそれぞれの文化をそのままに持ちながら、力を伸ばすという、別の形でのグローバル化が実現するのかもしれない。
Posted by ブクログ
実家に帰ると、よく「お兄ちゃん」と飯を食いに行きます。
血はつながっていないけれど、小さい頃からいろいろとお世話いただいた人です。
ちょっとアウトローなところがありますが、気のよい人です。
少し前の話になりますが、お兄ちゃんはウクライナ戦争に触れて・・・
「プーチンの○○○○が・・・」
「あいつはほんとに××だな」
と、まぁプーチンのことを口を極めて罵ります。
テレビのニュースを観てればそうなるのも無理はありません。
わたしもどっちかというとそっち側です。
このトッドさんの本には、ざっくり言うとこんなことが書かれています。
・おかしいのはロシアではなく、西側のほうだ
・西側はすでに内部崩壊を始めている(宗教ゼロ状態、ニヒリズムに陥っている)
・ロシアのような考えを持つ国が世界の多数派であり、西側はむしろ異端だ
乱暴なまとめ方で怒られそうですが、おおよそこういうことであってこれまでの「常識」とは真逆です。
著者のエマニュエル・トッドは、各国に固有の家族システムが社会の深層を形づくっているという仮説のもと、統計データを使って世界の動きを読み解きます。
その分析があまりに的確なことから、預言者のように呼ばれることもあります。
彼の分析は「ロシア寄り」と見られることもあるようです。
でも、そもそも私たちが普段見ている報道が本当に中立なのか、それもわかりません。
私たちは自分たちが信じる側とは逆側の人の分析にも目を向ける必要があると思います。
お兄ちゃんには「こういう考え方もあるみたいだよ」と話してみましたが、なかなかうまくゆきません。
Posted by ブクログ
このような、「現実をちゃんと見ろ」系でちゃんとした本は参考になる。
アメリカは国として行き詰っており、モノを作ることができない。(ウクライナ戦に武器を十分に供与できない)アメリカはまさに今(2025年7月)、貿易不均衡の是正を求めて関税をかけようとしているが、不均衡の解消といってもそもそもアメリカで製造されているモノはどんどん少なくなっている。著者は、「アメリカの最大の輸出商品はドルそのもの」とする。
アメリカやヨーロッパ諸国では乳幼児死亡率や男性の平均寿命などに悪化の兆しがしっかりと現れている。いろいろな指標をアメリカとロシアで比べると国家としての底力はロシアの方が、ある。
なのでウクライナ戦では、ロシアが不利、と言われながらなかなか負けないのはそれが理由。それをわれわれは正しく見ようとしない。
プロテスタンティズムが実質的に消滅しつつある西洋。世界は西洋の敗北を目にしている、とする。
西洋のノンフィクションや分析書にありがちな冗長な表現が各所にあるが、それに目をつぶってもよいくらいの水準の高い一書。
Posted by ブクログ
乳幼児の死亡率や殺人の数などで、社会の安定を図るのはわかるのだが、宗教に重きを置くのにそこには客観的な数値が示されていない。説明するには紙数が足りないせいかもしれないが、何らかの根拠がないと、キリスト教的な素養がない身には、理解しにくい。
また、中国に関する分析がほとんどない点も物足りない。ロシアが戦争を継続するための重要なキーだと思うのだが。
そうは言っても、今までにない切り口は斬新で、常識にもとらわれない。こんな見方があったのかと思える部分は多々あった。
Posted by ブクログ
作者は、ウクライナの敗北、プーチンの勝利を予想している。感情論を横に置けば、頷けなくもない。
敗北の起因は、西洋の「プロテスタンティズム・ゼロ」状態による道徳的、社会的に崩壊にあるとする。特に、アメリカの衰退は不可逆的性を確実なものになったとしている。
そのことは、トランプを大統領に選出したアメリカの不可解さを説明しているように感じた。
印象に強く残ったのは、パレスチナ問題に対する西洋の対応が、「その他の世界」を親ロシアにしたと述べている点だ。数年前には違和感を感じたであろうが、今のトランプを選択するか?ということから、あり得ることであろう。
グローバリズムを全面的に肯定はしないが、右翼化、ナショナリズムが強まる傾向にある世の中への懸念を裏付ける本書の内容は、興味深かった。
Posted by ブクログ
学ぶ必要を感じている地政学についての評価の高い本ということで購入
予想していたものより難解で、知識不足を感じた
ある程度歴史等についても理解を深めた上で読んだ方が学びが大きいと思う
Posted by ブクログ
諸国家は同じではない。
ウクライナは戦争以前から、人口流出と出生率の低下で1100万人の減少だった。汚職は桁外れで、代理出産の国だった。
アメリカの軍事産業は弱体化している。=西洋の敗北。
ロシアが困難な状況になると、もっと戦争に力を入れることになる。ロシアには生存がかかっている。
国民国家であるためには、領土が最低限自立できなければならない。
2014年のミンクス合意は、ウクライナに軍備化の猶予を与えるためだった。ロシアにも同じ猶予があって、Swiftからの追放の準備を整えることができた。
制裁により、ロシアは輸入代替え品のために国内の再編成が必要だったが、その結果、経済は強くなった。
エンジニアはロシアの方が多い。アメリカのGDPは役に立たないGDPが多い。アメリカのエンジニアは、中国やインドの出身者が多い。
共産主義を崩壊させた中流階級が、プーチン政権も崩壊させることはない。
ウクライナ侵攻でロシアは2万人の兵力しか送っていないため、ウクライナの善戦が目立ったが、最終的にはロシアが勝つだろう。西洋側の軍事的物質の不足が目立つ。
ウクライナは出国移民が多い。ウクライナの代理出産は、新自由主義とソビエト主義の統合の産物。
ウクライナの独立は、1991年。国家の成立には都市部に住む中流階級の存在が必要。
西洋とはNATOと同盟国の西洋を意味する。講義の西洋。
エリート主義とポピュリズムの衝突が見られる。
西洋のリベラル寡頭制と、ロシアの権威主義的民主主義との戦い。
「マクロンする」という動詞の意味は、意味のないおしゃべりをする、懸念を表明しつつ何もしない、という意味。
ノルドストリームの攻撃は、アメリカによって決定され、ノルウェー人の協力を得て行われた。
イギリスの脆弱化は新自由主義思想による不条理な民営化が理由。
アメリカのエンジニアは、不足している。金融が儲かる社会にしてしまったことが原因。弁護士、銀行化、見せかけの第三次産業に流れた。
フィンランドとスェーデンは中立国だったが、NATOに加盟した。
メリトクラシーの時代に、ユダヤ人がたくさん有名大学に進学し、上流階級支配=寡頭制のもとをつくった。
ウクライナが必要としている兵器をアメリカは製造できない。
アメリカのGDPは、水ぶくれしている。実質的生産量は西ヨーロッパを下回る。この順位は乳幼児死亡率と同じ。
ドルの存在がアメリカを麻痺させた。=スーパーオランダ病。天然資源の呪い。
財よりも貨幣を生産するほうが簡単。
WASPエリートはアメリカ政府に存在しない。
ロシアは天然資源と労働で生活し、価値観を押し付けようとしていない。第三国には好ましく思える。
経済制裁は効力がない以上に、その国を鍛える。イラク、ベネゼエラへの経済制裁は死者は出したが、国は滅びなかった。
アメリカはウクライナ戦争という罠に落ちた。ウクライナの初期の軍事的抵抗が、幻想させた。
今やロシアの目的は、ウクライナを国会から切り離すこと。ウクライナ西部をどうするつもりか、はまだわからない。