エマニュエル・トッドのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレいろいろな人達のトッド氏の評判が高いので、著書を読みたいと以前から思っていました。
本書ではコロナ、トランプ氏、中国、フランス、ロシア、ドイツ、欧州、グローバル経済・自由貿易と保護主義、日本の人口動態問題に関してのことが語られています。
「ロシアは騙された。NATOが約束を破って勢力を拡大し、ロシアが追い込まれた」と。
グローバル経済・自由主義は宗教に近い。自由貿易の「自由」とは奴隷制と関係がある。言葉遊び。世界の富裕層が、貧しい人々を安い労働力として使うということ。「自由」ということばそのものが嘘。
自由主義者はいつもいかに支払いを抑えるかと考えます。しかし保護主義は国家がとる自然に備わった能力。社会のなかの力のバランスを変える、格差を解消し、エンジニア、科学者、モノを想像する人にアドバンテージがあるような社会へと移行する。保護主義とは何かを創造することで、生産やテクノロジーを考え、まず労働に何かしらの重要性を与えている。
日本人向けのインタビューの内容でもあり、ほとんどは日本の人口動態の話です。
聞き手の大野博人氏が:解決があまりにむずかしい問題を前にすると、問題自体をないことにしてしまいたくなる。
選択肢は、今のままでいるか、変わるかではない。悪い方に変わるか、よい方に変わるか、でしかありません。
日本の人口動態の問題は深刻。すべての政治を超えた、国の存続の問題。
人口は減り、その人口も老いている、それはもう今までとは同じ社会ではあり続けられないという恐ろしいことが起こっているのに、日本人は議論はしても行動には移さない。
他の問題ばかり語って人口問題を絶対的な優先課題にしないで後回しにできると考えているのであれば、それは日本の幻想。
幻想として、問題の解決策が経済の中にあるように思っていること。少子高齢化の原因は家族関係、男女関係。
明治維新の時は国民全体が大変な努力をした。
明治時代の経済の方向の努力の方が物理的にはずっと大変だったと思う。 けれども当時は人々の間に非常に強い帰属意識があった。
「”人口問題に取り組むには、とても強い帰属意識が必要。ただみんなで快適に一緒に暮らす、自分は日本人だとかいうだけで満足する、受動的な帰属意識とは違う、社会で物事を前進させる力。日本人同士で何かを一緒に成し遂げようと望む意志、国民の結束する力。
人口動態問題で気づいたことは、日本は確かに文化的にはちゃんと存在する。しかしそれは能動的な私たちではない。それがあるなら人口動態にすでに取り組んでいたはず。
これだけの日本の存続の危機に、手をこまねいて見ている日本人の社会に能動的な私たちがあるとは考えにくい。ナショナリズムでさえもありません。”」
取り組まなければならない課題は、子供を持てるかどうか。社会は家族がいて、子供を作り家庭教育する。子供は色々なことを学び、働くようになる。でもそれは経済活動ではない。
出生率が理にかなっている国では、人々の姿勢ではなく、制度的な仕組みが整備されている。
プーチン氏・ロシア人は日本人と違って、ただ語っているだけではなかった。
経済をあまりに重視しすぎると長期的な視点を見失います。
人は労働力になる前に、生まれ教育を受けなければならないという事実を忘れてい待っている。長い歴史という時間軸で物事を考えていない。
日本と韓国を比較すれば、一見日本よりも深刻化しそうな人口動態問題を抱えていても、中国国内に朝鮮人はたくさんいるし、北朝鮮ともやがて統一することを考えれば、日本とはまったく異なります。
日本は島国で、自分たち自身であり続けたいと望むことを許されているように感じている。
日本文化の基本的な特徴として、極端な礼節があります。他人に迷惑をかけないなどの日本人同士の中で暮らす技術。
日本人は特殊な問題を抱えています。日本人なりの暮らし方があるせいだと思います。ただそれはそれでもっと深刻な問題でもあります。
日本の安全保障問題に関しては、憲法改正問題を議論すること自体が、問題の本質から目を逸らさせ、むしろ中国の政治指導者のゲームの中に入っていくことにもなる。
日本の歴史の基本的な部分はほとんど他国と戦争をしていないことは簡単に証明できる。
帝国主義、植民地主義的な国だったのは極めて短い期間。
人口の半分が50歳以上になるほどの老いた国の年齢構成の国にどんな防衛策が可能なのかの視点抜きで法律や装備を議論しても仕方がない。
長期にわたって可能な防衛手段は核武装。
安全保障という点でもまずは優先するべきは人口問題。
東京は見た目は問題がない。でも地方に行けば、東京からそう遠くないところで、たとえば下田では、空き家、さびたシャッター、古ぼけた家財などを目にします。地方では、老化,老朽化、荒廃しているものを目にすることになります。
複雑なことは理解しようとするともっと複雑になる。
日本人には普遍的なものを追求する能力があります。日本人自分自身への信頼の問題。
社会が出産と子供の教育に投資することこそが長期的に見返りのなる投資なのです。
根本的に人づくりが大切なことで、確かに日本人全体が、根本的に日本の存続にもかかわる、大変深刻な少子高齢化の人口動態の問題から目を逸らしていると思わされました。 -
Posted by ブクログ
1.表紙をみて何となくの気持ちで購入しました。
2.歴史学者として名を馳せている著者が自身の思考についてどのように考えているかについて書かれた本です。著者は学者として数々の論文を執筆してきたり、メディアに出演してきましたがあくまでも自分の成果について述べたものです。しかし、今回は自身の思考についてです。普段はどのように思考をしているのか、習慣化しているものは何なのかなど、今までとは違った視点が書かれた本です。
3.一般的な学者世界からは敬遠されがちの著者がどのような思考をしているのかが気になりましたが、根本的には過去のデータを検証すること、日ごろからストックを増やしておくこと等を習慣化していることに変わりはありませんでした。ただ、一点違うところは過去の先輩たちに負けないところです。自身の論理をしっかりと自信をもって言語化していることでここまでのことが出来るのだと思います。 -
Posted by ブクログ
エマニュエル・トッドの日本限定の本で、彼の思考プロセスについての本。
エマニュエル・トッドは、日本では有名(?)だけど、どうもフランスではあまり評価されていない、あるいは批判の対象になってしまうような存在のようです。
日本では、ソ連の崩壊を始め、さまざまな予言のヒット率で評価されているようだけど、フランスでなにかと騒ぎを起こしてしまうのは、彼の思考のプロセスによるものが多いようだ。
この本によると彼の思考は、イギリス経験主義的な方法で具体的な事実、数字を丹念にもていくことを通じて浮かび上がる直感的な仮説をまた丁寧に実証していくというもの。ある意味、当たり前といえば、当たり前の方法論。
が、これがフランスの演繹的な思考法とはなかなか合わないらしい。
さらには、トッドの世界を見る目のベースは家族構造と人口統計。そうしたことから、国や地方ごとの文化や宗教的な傾向、イデオロギーを解釈していく。
人間の活動の「深い」ところをそういう構造で説明されると、なんだかちょっとバカにされた気がしなくもない。
そういう説明に対して、「個人主義」の強いフランスは気分を害するだろうし、そこまで個の主張の強くなく、なんとなくまわりとの関係で自分の考えを調整する日本では、そんなに違和感がないのかもしれない。
というエマニュエル・トッドの受容度の差も、家族構造で説明可能ということなのかな?
そんなエマニュエル・トッドは、同時代的に進行している事柄に対してコメントをするのだが、とくにそういう発言は今生きている人たちに関わることなるので、非難の対象になりやすいのだと思う。さらに、それは、個人の心情を超えて、集団としての目に見えない、無意識的な反応を含むものなので、個々人は、「自分はそうでない」と思ったりするし、無意識的なことは因果が証明できない、ということで、眉唾に思われるのだろう。
エマニュエル・トッドのコロナやウクライナに関するコメントについては、わたしも読んで、ちょっと苛立ちを感じた。
なんか、道徳的、倫理的に、なんだか違うんじゃないかと感覚。
この本を読んでわかったのは、エマニュエル・トッドの良い / 悪いの判断は、なんらかの倫理的な基準にもとづくものではないということ。現実を分析して、それがどういう方向に動きそうなのか、という分析にもとづいてのものである。
わたしは、現実の分析はそれはそれであって、それとは別に倫理的にどうあるのが望ましいのかという理念のようなものはまた別にあって、この2つを組み合わせたときに、どういうことが機能しそうなのか、というふうに考えるわけだが、トッドは、もっと現実派なのかな?
トッドは、ある意味、古典的・科学主義的な方法論ともいえて、その後のポスト・モダーン思想からすると、なんだかプリミティヴな感じもうけつつ、この本を読んで、彼の思考を理解すれば、トッドの言っていることから、自分にとって大事なものをすくい上げることが容易になるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ウクライナ問題に関する著者の見解がユニークなものだったので、こちらも読んでみた。
これは2015年1月におきた『シャルリー・エブド』事件にともない起きたデモなどフランスの反応についての分析。
原著の出版は、その数ヶ月後であることから、エッセイとか、インタビューを集めたものかと思って、読み始めたら、一冊を通してなんか堂々した論考となっている。
まさに社会学的、人類学的な論考で、フランスの地域ごとの価値観の分布とデモへの参加率から、どういう人がデモに参加したのかという推計から始まるところが圧倒的。
脱宗教の度合い、平等主義、権威主義の度合い、社会階層、年齢による差など、定量分析を踏まえながら、大胆な仮説を提案。
著者は、『シャルリー・エブド』事件への抗議デモに参加した人は、「言論の自由」という名のもとに、本当は(集団的な無意識レベルでは)、反イスラム的な動機で参加している。この動きは、反ユダヤ、人種主義、全体主義に向かう危険性をもっていると主張。
そして、それはフランスに限ったことではないというか、ヨーロッパ全体で起きていることの一つの断面でしかないとする。
この本がフランスででると、非難があつまったようだが、11月には、ISによる同時多発テロがパリでおき、そしてそれへのフランス人の反応をみるかぎり、著者の主張が残念ながら、裏付けられたとする。
ヨーロッパにおけるポピュリズム的な動きがなかなか理解できずにいたのだが、そこにアプローチするための一つの大きな視点が得られたように思う。
著者は、フランスより、日本のほうが、自分の言っていることを理解してくれる、とお世辞かどうかわからないが言っている。そこはどうかわからないのだが、私は、著者の意見をそのままに受け止めるわけではないが、一つ一つ、なるほどな議論だと思った。
それは別に日本的な価値観が著者と近いというより、問題との距離感が違うだけではないかとも思うが、もともとの文化の宗教との関係がヨーロッパとは違うという視点はなるほどと思った。 -
Posted by ブクログ
人口学者であり家族人類学者によるウクライナ戦争論 ウクライナはすでにNATOに加盟していたようなものだった。それに危機感を覚えたロシアがウクライナに侵攻したというのが筆者の言いたいことだ。アメリカのミアシャイマーと同じ主張だ。
母国フランスでは、集団ヒステリー状態になっていて、冷静な議論ができない状況らしい。だから日本の文藝春秋でインタビューを受けたというのだ。
「この戦争は父権制システムと核家族の双系制システムの対立だ」という筆者。何と歴史的には、ロシアの「父権制システム」の方が、アメリカ、イギリスの「双系的な核家族」より新しいらしい。地図なども使用しわかりやすく説明してくれている。
単なる観念論ではなく、データを元に論じられていて説得力がある。乳幼児死亡率はアメリカの方が高い。自殺率はロシアの方が低い。つまり、ロシアは実は国力が高いというのだ。また、教育の質はアメリカよりも高いと。ジリ貧のロシアの狂った指導者プーチンが、訳もわからず戦争を仕掛けたというのとは違う。
ソ連ができる前まで、ウクライナは国家として成立していなかったというのは驚いた。3つの地域からなり、まとまりを欠いており、近代化は常に外からやってきた。ウクライナがロシアの軌道から抜け出すには、他の大国の軌道に飛び乗るしかない。それはどこか。アメリカは遠い。EUは本気で支援するつもりはない。その結果、ウクライナは崩壊するだろうと論じている。
この戦いは長期化する。
-
Posted by ブクログ
「大分断」が2020年7月に発行されているので2021年2月に発行された「以後」は新型コロナウィルスについての世界の知見が多少とも整い始めたころとなる。前著では民主主義の失速と後退の原因としての教育格差が語られ、日本の問題にも触れるという構成だったが、「以後」」は聞き書きであり、日本人が質問し、それに答える形で構成されており、より「日本について」語る内容となっている。
トランプ大統領の業績についての評価から始まり、EUの問題や中国の行動原理など、トッド氏の家族制度による人類学的考察をもとにした、世界の見方についての視点は変わらず切れ味が鋭く示唆に富む。自由貿易と保護主義への転換については著書「自由貿易は民主主義を滅ぼす」からさらに考察を進めており、中国とロシアへの視点は現在起こっている「ロシアによるウクライナ侵攻」につながる歴史的視点が語られている。日本の問題についても丁寧に語られており、「日本は新自由主義にとらわれていて、一番大切な人口問題をなおざりにしている」は真摯な指摘であると感じた。人口動態という、一番大切な問題をなおざりにしては日本の本当の発展はありえないこと、出生率の低下の問題は制度の問題であり、女性の社会進出を促しながら女性や子供への支援をなおざりにすることは、最終的に国の存続を揺るがすことがはっきりと語られ、曇りがちな目を覚まされた思いを持った。巨大な知の一部分に触れることのできる一冊。 -
Posted by ブクログ
グローバリゼーションとポピュリズムの中で、揺れ動く、民主主義と資本主義
四名の知性が語る現代と未来
1 世界の未来 エマニュアエル・トッド 私たちはどこへ行くのか
・核家族こそが人類の最初の家族システムだった
・今見られる政治的な代表制という仕組みは、それが民主的なものであれ、寡頭制的なものであれ、むしろ古い過去から残り続けたものであるとわかったのです。
・民主主義は、人間の小さなグループが自分たちの間で組織したものでした。そしてそれはいくらか排外的だったのです。
・この排外性は民主主義と反対のことではなくて、民主主義の始まり、あるいは再登場の始まりなのです。
・高等教育というのは、体制順応のための制度として優れているのです。
・民主主義がないところというのは、EUレベルのように、人々が投票するに、それが考慮されないところのことです。
・日本は大国であることをあきらめてしまった。それは、日本が人口減少を受け入れているのは明らかです。日本はあきらかに自分であることを選択したようです。
2 民主主義の希望 ピエール・ロザンヴァロン
・選挙が民主主義に次第に成果をもたらせなくなった。
・人々は選挙が民主主義にとって本質的な三つの機能を果たすことを期待してきたから。
①代表という機能
②政治的な各種制度や統治する者たちを正当化する機能
③議員たちをコントロールする機能
・選挙は今日、代表する能力を減じてしまっている。それは、社会学的な理由と制度的な理由があります。
・民主主義の中心にきているのは行政権力の選出です。
・一人ひとりがそれぞれ特異な存在になっていて、個人主義の発展とつながった社会的アイデンティティの時代に突入している。
・今や社会とは、たくさんの少数派の被っている境遇の集まりになっている。「人民」とは、たくさんの小数者のことになっている。
・行政権力が強くなるという流れの中で、議会の機能は縮んでいる。
・民主主義の進歩が意味するのは、今やそれを複雑化し、主権について複数の形を設けることなのです。一般意思を表現するチャネルを多元化し、人々を代表する仕方を広げなければなりません。
3 資本主義の限界 ヴォルフガング・シュトレーク
・国家が市場に組み込まれるようになると、国家は市民よりも「市場の力」によって、支配されるようになる。
・最も重要な要求は、自由貿易の制限と移民規制だ。それは、住民の経済的地位をこれ以上に低下させず、社会生活を崩壊させないようにするためだ。
・軍事的敗北と、国内の経済的・社会的後退は、保護主義と孤立主義を約束したドナルド・J・トランブの大統領選出にもつながった。
・資本主義は常に安定した国際秩序 特に信頼できる資金と、帝国主義的な平和を周辺に提供できる海運国を必要としてきた。
・重要な転換点は、EU離脱を決めた英国の国民投票(2016年)だった。
・政治的主体が、グローバル経済の中で生き残り繁栄するには、どの程度大きければ十分か、もしくは大きすぎるのかという問題だ。
・ドイツはユーロ圏の成長と繁栄の極みであり、この文脈でのみ、経済状況と政治状況を説明できる。
・ドイツは工業生産が集中しており、完全雇用、財政黒字につながる高い税収、最近では安定した収入分配がある。
・財政的な余裕があったため、メルケルの政府は、ドイツの福祉国家に手をつけなくてすんだ。
4 分断の克服 ジェームズ・ホリフィールド
・現代の移民政策は、治安・人権・文化・市場(経済)の四つの側面が入り混じっていると理解するのが重要です。
・米国、ドイツ、スイスなど多くの欧米諸国は、労働力確保の必要性から、移民を受け入れる決定をしている。
・移民をめぐる議論は時に、大きく変更します。多くの人々にとって、移民が「脅威」と映るときです。移民は物質的な脅威、安全保障上の脅威ともなりえます。
・日本は英国と違って、「単一文化の閉ざされた国だ」といった神話を信じています。
・自由貿易協定は、米国、カナダ、メキシコに経済成長をもたらしました。地域統合は欧州統合と同様に極めて重要です。人の移動と進歩との好ましいサイクルを築くことができれば誰もが利益を得るシナリオとなるでしょう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレトランプ政権が終わった後に、過去の本と比べてどうだったかを照らし合わせるために読みました。
トランプさんの演説内容があり、とても良い発言をしています。
多くの日本人はトランプさんを誤解していると言いたいです。メディアは偏った報道をしていると改めて思います。
まずひとつ思ったのは、ヒラリーは戦争をやりたがっていたので当選しなくて本当に良かったです。
この本でとても気になったのが、多くの大統領に影響を与えた哲学者のニーバーという人物の話でした。
なぜアメリカは、世界の警察と言って様々な国に軍事介入をしたのか、軍事介入を始めた多くの大統領はニーバーの光の子(正義)が闇の子(悪)を倒すという単純な脳筋話に影響を受けているように思います。
今のウクライナ危機も多くの問題から発生しましたが、最も大きな原因は、オバマ政権がウクライナに内政干渉したことだと思いますし、バイデン政権の裏にはオバマがいるとも言われてるので、本当に不安です。
トランプさん帰ってきてほしい...。 -
Posted by ブクログ
本書は2018年7月から2021年1月までにAERAや朝日新聞などに掲載された6回のインタビューを大幅に加筆修正を行ってまとめたものである。雑誌や新聞では紙幅に制限があり、落とさざるを得なかった内容を加えたものである。
著者のエマニュエル・トッド氏は親日家で、来日回数も10回を優に超え、速水融という人口学者とも深い交流があったという。
雑誌向けのインタビューなので、紙面に乗せやすいように事前に答えがある程度想定される質問を投げかけて、それにトッド氏が答える形式のものが多い。その結果、著者が得意とする定量的なデータをもとに大胆に帰結を引き出すような論理的な記述は少なく、トッド氏のそれまでの主張をなぞるようなものが比較的多い。トランプ大統領の当選の可能性を示唆し、ドイツの強大化について危機を訴えてEUを批判、英国のブレグジットに理解を示し、自由貿易から保護貿易へのシフトを予想する。具体的には次のようなものだ。
【トランプ大統領】
・トランプは個人的には不快感を持っているが、米国の歴史の中で重要な大統領だ。
・トランプは民主党政権が触れない「真実」を語っていた。
・トランプは外国人嫌いであって、人種差別主義者ではない。民主党の批判は不当だ。
・トランプ支持者は経済問題を最重要課題と捉えていて、明晰である。トランプは経済問題ではとてもうまくやった。
・黒人はトランプの保護主義の受益者であったが、投票行動と矛盾がある。
【民主主義と自由貿易】
・民主主義はその始まりにおいて、他者排斥の要素を含む。
・自由貿易の弊害として、グローバリズムの拡大が格差を生み、民主主義を傷つけた。
・自由貿易から保護貿易に移行していかざるを得ない。ブレグジットやトランプ政権はそのあらわれ。どの程度の自由貿易なら社会が許容できるのかが課題である。
・グローバル化はもはやうまくいかない。国や国民を中心に再び結集する。資本主義を救うためには逆説的に国家が必要になる。
・フランスはEUによって製造業を失い、空洞化が進んでしまった。
・今米国で起きているのは、自由貿易のイデオロギーが人々の中でグリップを失っているということ。
・マクロン大統領は自由貿易の考えに囚われており、絶望的。
・共産主義体制は、資本主義は不平等を拡げるがどうすればよいか、というよい質問に対する誤った答えだった。
【欧州問題】
・ユーロによって地域間に大きな経済的な壁ができている。ドイツのシステムがフランスやイタリアの産業を壊している
・欧州の問題は1900年以来つねに、ドイツが大きすぎるということだった。
・EUやNATOの拡大は米英の戦略であったが、結果としてドイツ支配権を拡大することにつながった。
・南北欧州の不平等の高まりや、ルーマニア・ブルガリア・バルト三国・ウクライナの人口減少を考えると欧州第三の自壊が始まっているのかもしれない。
【ロシア・中国問題】
・米国はロシアと敵対するのをやめて、中国から引き離す戦略に転じるべき。
・中国は人口問題を抱え、対外的には世界の大国でありながら、対内的には脆弱である。
・中国は危ない国になってきている。日本は核防衛にも取り組むべきではないか。
・ロシアは暴力なしに、ある意味ではエレガントに共産主義体制から抜け出した。ソ連を解体し、ウクライナの独立さえ受け入れた。それに対して、ロシアは欧米に裏切られた。NATOの東進によりロシアを囲い込むことになった。
・第二次大戦後の欧州や日本に対する米国のように、西側諸国もロシアに対して寛大に対応するべきだ。
【日本】
・少子高齢化という人口動態上の危機にあるのに、出生率の向上と移民受け入れに関して。それに見合った取り組みが行われていない。
・子供が生まれなくなっているから移民で埋め合わせるという話ではない。移民を統合するためにも子供が作られなければならない。
・日本では人口動態の問題は議論のテーマであって、行動のテーマではない。
・まずは、教育を受けた女性が仕事ができるし子供も持てる新しい社会を確立する取り組みを始めるべき。
・出生率が理にかなったレベルになっている国(フランスや北欧)では、制度的な仕組みが整備されている。例えばロシアは出生率を向上させることができた唯一の先進国で、調査団を派遣して参考にするべき。
・現在において豊かになるための経済政策を進める国は、将来に向けて貧しくなる。社会が出産と子供の教育に投資することこそ長期的に見返りのある投資になる。
【コロナ禍】
・コロナに対しては、女性の地位が高い自由な国があまりうまく対応できなかった。
・新型コロナウィルスが高齢者の命を奪ったとしても、社会にとって深刻な打撃にはならない。むしろ高齢者を守るために経済を完全に止めたことによる影響の方が将来に禍根を残した。
・個人主義的でリベラルな文化の国(米英やイタリア)と権威主義の歴史がある国(日本・韓国・台湾・ドイツ)とで人々の振舞いに違いが生まれた。
・コロナにおいてフランス政府は無能だったが、フランス人は規律正しく振舞った。
・地政学的な意味での国際秩序の力関係は「コロナ後」も変わらない。
インタビューものであることから論理的な深堀りが行われているわけではないが、トッド氏の考えを改めて整理することはできたかと思う。短くて、読みやすい。
しかし、不満は『パンデミック以後――米中激突と日本の最終選択』というタイトルである。なぜ、このタイトルが問題だと思ったのかを以下見ていきたい。
①「パンデミック以後」
パンデミック発生後に行われたインタビューは半分の3件のみである。そのうちの最新のもの(本書で最初に置かれたもの)は、パンデミックよりもトランプ大統領の米国についてのコメントの方が多かった。二本目も含めてコロナに触れる場合は、それまでの各国や指導者の対応にまでへの言及がほとんどで、パンデミック後の世界について何かを示唆するようなものはほとんどない。
この本を、コロナ後の世界についてソ連崩壊やトランプ大統領就任を予測したエマニュエル・トッドが社会を分析してとがった予測をしているものだと思ったのであれば、それはタイトルのミスリードである。もし、パンデミック以後について語っているとすると、コロナによってはこれまでと大きくは変わらない、というものである。
②「米中激突」
「米中激突」とタイトルは煽るが、米中対立関係はそこに触れられていないわけではないが、主題では全くない。どちらかというとドイツが帝国として欧州の覇権を握ることについての危機感や、EUの失敗を語ることが多い。何なら米中の激突ではなく、米国内の民主党支持層と共和党支持層や、上流階級と下層階級、異なる人種や移民との方がよほど激突を指摘されている。その米国については、著者がトランプの大統領選での勝利を予想していたことからも想像されるように、トランプ氏についての言及が多い。総じてトランプの保護主義的な経済政策は、結果としては論理的で有効な施策だったと語るところが刺激的だが、おそらくは何度か繰り返されてきた主張であり新味はあまりない。
③「日本の最終選択」
「米中激突”と”日本の最終選択」とこの二つが関連するように書いているが、その二つはおよそ関係がない。日本についてトッドが問題と語るのは人口学者らしく、日本の高齢化問題についてだ。しかもその解決策は出生率の向上と移民施策とのみであり、何も具体的な政策などの選択肢を提示しているわけでも、この先に何が起きるかを予言しているわけでもない。そして、日本はそのことについて真剣に取り組んでいるように見えないと語るのみである。
さらに言うと、パンデミック以後の世界における日本の選択について書かれているかのように誤解してもおかしくはないが、高齢化社会の課題について指摘したインタビューはパンデミック前に実施されたもので、パンデミックと日本という文脈はほとんどないといっていい。
結論として、このタイトルは内容を示さない釣り文言の羅列であり、この短い新書をいかに売るのかだけを考えてつけられたものとしか感じられなかった。
また、掲載したインタビューの順番が新しいものから古いものの順に並んでいるのも気になった。発言の趣旨を追うのであれば、当然その順番は古いものから新しいものの順に並ぶべきだろう。逆順に並んでいても大きな問題にならないというのは、その内容が浅いものであるということを示していないだろうか。
トッド氏の主張は意味があるが、編集に真摯さを感じられなかったのが残念。 -
Posted by ブクログ
著者の本は、いくつか読んできて、視点の鋭さと深さに感銘を受けてきました。
昨年は大分断を読み、次に読もうと思っていた本。
読者が本書を読んで、再現するのは難しいが、著者の考え方がよく分かる内容。
一般のビジネスパーソンにも必要な考え方が盛り込まれており、大局観や長期視点を得るために必要な要素が散りばめられている。
参考になった内容は下記の通り。
・直感やアイデアが浮かばない理由
①自分の中に無意識でランダムな考え方がない
②ある考えが許されない・出来ない社会となっている可能性がある
・グループシンク
小さなアトム化した信条を、拠り所にする人々が溢れている
・現実を直視する条件として「外在性」が必要
・マイケル・ヤング「メリトクラシーの法則」
・未来を見たいなら、歴史的な観察から考察するのは必要不可欠(長期的な傾向を捉える)
・相関係数が0.9となったら、重大な間違いを犯しているかもしれないと気づくべき
(社会科学では不完全な数値が含まれるため、相関関係を弱める)
・価値観ではなく、知性の戦いが重要(アウトプットでの戦い)
・大学では思考することを学ぶが、同時に、自由に思考することを阻止する
・人間というのは不穏な事態に目をそらす能力を備えている
・思考から予測のフェーズ
経験主義→対比→芸術
・知識人に必要なのは、プロフェッショナリズムである
・芸術的な学者の条件は、リスクを負う、思い切る勇気がある
-
Posted by ブクログ
久しぶりの社会観や文明論といった大きな枠組みを論じた本。Globalization は不可逆な流れであり自由貿易は促進するべきである、保護主義は内向きな排斥主義であり移民の流入制限は排斥運動だ、という世の中の流れに対し、
過剰な自由化によりGlobalization fatigue(グローバリゼーション疲れ)が起きている、globalizationを抑制しても世界化(mondalisation)は消えないし、適切な保護主義は有用、移民の一定程度の抑制は国家という単位に帰属意識を持つ上で必要、等カウンターの意見を次々と提示する。
「フリードリヒ・リストの保護主義の定義によると、それは自由主義の一端でありながら、国家(ネーション)の存在を認めるもの」(p117)という保護主義の捉え方は、自由貿易を礼賛しトランプの関税戦争を馬鹿げていると一顧だにしない今日では偏見を打破する上で重要。
能力主義については階級化を招いているという主張はサンデルの本を最近読んだこともあり新鮮味はなかったが、国家という運営単位を維持する上で現在最有力になっている指針である、と考えると、国家の帰属意識の揺らぎを説明するピースになっている思う。
宗教論争に隠れて社会の本当の問題である階級格差の拡大に目が向かないのが問題、という点は、BLMなどの人種対立やPCによるキャンセルカルチャーに連日のニュースが支配されて社会の格差にいつまでも目を向けられないアメリカにも深く刺さる指摘。
トランプ後のアメリカ然りブレグジット然りどの国も新しい国家像や指針を見出せていない中、こうした既存の価値観に対する疑義はとても納得感がある。
保護主義や移民に対するネガティブな意見を民主主義の要素として肯定するなど、国家を基準とした見解が多く、殊更にグローバル化や既存の枠に囚われない企業個人を賞賛する今日では珍しい。民主主義を実現する社会単位として国家はまだまだ基盤となると改めて思わされる。
読んでいると歴史は繰り返す、という見方を改めて思い知る。国家という伝統的な単位を視点に置き、社会階層が流動化すると混乱が起き、また新しい階層が生まれ、、という波の繰り返しに現代も当てはまるように感じた。
新書で社会分析をするとどうしても論拠が書ききれず、アメリカや日本ついての見解には首を傾げる部分もあるが、広い視点を得る上で読んで良かった本。
-
Posted by ブクログ
先入観や偏見を避けるために、事実やデータから入ることが大切である。「データを十分に時間をかけて痛めつければ、希望する情報が得られる」と言うけれど、使う人が善良であれば、善良な人には届くと思う。
どれだけデータと情報が正しくても、先入観や偏見の強い人には届かない。そこをどう対処しているのかが気になった。読み取れていないだけかもしれない。
さらに、論理だけでなく熱い心も持っている。それゆえに軋轢を生み、大勢の敵を作ることもあるが、心がしっかりしているので揺るがない。本当に強いなあと思う。挙げられていた著作も読もうと思う。
著者はとにかくよく読む。まずはそこから真似したい。
若い頃はつぶすほどの時間があったが本を読んでいればよかったなあと思う。子供には「本を読め」というのではなく、自然に読みたくなるように働きかけているが、それを続けてかつ改善していきたい。