エマニュエル・トッドのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
人類学者であるエマニュエル・トッド氏が欧州の力関係を明らかにし、ドイツの支配構造を浮き彫りにしたインタビュー集。第一章『ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る』では14年のクリミア危機を背景として、ロシア脅威論の裏に潜むドイツ帝国の覇権や欧州におけるアメリカの凋落、ドイツに隷属する周辺国家の思惑などが指摘されている。冷戦対立に起因する《西側諸国VSロシア》という固定観念を脱却し「各国間の諸システムの間の純然たる力関係を見る」ことで、《アメリカVSドイツ》の新たな対立構造が現れる。諸国の家族制度比較を通じて経済性質の差異を解説するなど、人口学者的な視点からの分析も印象的だ。第二章以降では、自由主義に追従せず国力安定化を図るロシアや、ウクライナ危機の本質、オランド政権下のフランス社会(寡頭支配層と銀行)について語られる。本書に収録されたインタビューから五年が経ち、その間に欧州情勢も大きく変化した。ドイツ主導の難民問題でEUの平和理念は瓦解、経済的にも公的債務や英国脱退などの影響から金融安定リスクが増加している。ドイツ一強時代は早くも危機に瀕している状態だ。フランスではエマニュエル・マクロンが大統領となり、税制改革への反発から起こった《黄色いベスト運動》の余波でENAが閉校されるに至った。様々な憶測が飛び交う中、人類学的な民族性の差異を前提とする視点、政治的価値を考慮せずに各国の力関係のみに注目する視点は国際情勢を読み解く上で有効だと感じた。
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Posted by ブクログ
「ヨーロッパとは何か? ヨーロッパとはドイツを怖がる全ての国民の連合。そして、この定義はドイツ人を含む」という冗談がかつてEU本部のあるブリュッセルで流行った、とトッド氏は言います。EU内一強となったドイツを抑制する力が働かず、暴走する危険について氏は警鐘をならしています。
トッド氏は、家族形態の分類から国家や地域の文化的背景を特定し、出生率、高齢化率、識字率などの統計データの動向により国家の発展や衰退を予測する手法で、ソ連の崩壊を予測したことで知られています。
本書では、日本について言及した部分も多く興味深く読みました。日独の直系家族制度の類似性と相違点。日本の家族の重視とその功罪、など。
また日本の移民の受け入れの必要性について、同質性を重んずる日本人がパーフェクトな調和を前提とするあまり、移民による異質な文化の流入を受け入れづらいと指摘しています。逆にそうしたパーフェクトな状態がそもそも国内に無いフランスやアメリカが異質なものを内包するタフさを持っている、と氏がのたまう点に考えさせられるものが多くありました。
英国の分断性とフランスの連続性、中東イスラム宗派の家族形態の違いなど、氏の縦横無尽な分析力がそこかしこに感ぜられました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ著者の主な主張は以下の通り。
・今後30年間の地球を予測する際には、中東などの途上国の問題に集中してはならない。先進国にこそ本物の危機が存在する。
・先進国が直面している危機として共通する要素は、信仰システムの崩壊(集団が共有する展望の欠落、経済は何が良い生き方なのかを定義しないため限界がある)、歴史上存在しなかった高齢化、教育革命(高等教育を受けた人の割合増加、自由競争が生活水準を押し下げ、文化的に不平等な世界に)、女性の地位向上(女性が男性よりも高い教育を受ける社会)であり、途上国で起きていることは(かつての先進国でも経験された)移行期に伴う混乱。発展段階が違う社会が共存している。
・移民問題に代表されるように、(適応限界を超えた)急激なグローバル化に対する揺り戻しが起きているのではないか。自己偏愛的な社会になりつつある。 -
Posted by ブクログ
ヨーロッパの真の敵はロシアではなく、ドイツだという話。
また、EUというのは、一握りの金持ちとドイツを独り勝ちさせるためのシステムで、すでにその従僕となっているフランスは、一刻も早く立ち上がるべきだという内容。
世の常識からすると、びっくりするような話で、著者がフランス人だと聞けば、ああなるほど、ドイツ・アレルギーが嵩じたあげくの世迷言かと思ってしまうが、書いたのがあのエマニュエル・トッドということならば、話は違う。
ベルリンの壁の崩壊や、アラブの春など、この人類学者の将来予測は、けっこう的中するのである。
インタビューをまとめたものなので、中身はそう濃くはないが、その分読みやすい。
刺激的な本である。 -
Posted by ブクログ
フランスの風刺週刊誌「シャルリ・エブド」が武装した犯人に襲撃され
たのは2015年1月7日。そして1月11日、フランス各地では犠牲者を
追悼する為のデモ行進が行われた。参加者は300万人とも400万人
とも言われる。
言論機関への襲撃はショックだったし、各国首脳が参加したパリの
デモの様子は壮観でさえあった。だが、最初の衝撃の波がおさまり
はじめると「何かが違う」と感じるようになった。
それはインターネット上に溢れる「Je Suis Charlie(私はシャルリ)」の
スローガンと、フランスが掲げている「自由・平等・博愛」の間に矛盾が
あるのではないかと思ったからだ。
「私はシャルリ」と表明することが、犠牲者への共鳴となり、言論・表現
の自由は暴力には屈しないというシンボルとなったのだろうが、「シャル
リ・エブド」がムハマンドを風刺することで、自分の信じる宗教や文化を
侮辱されたと感じた人もいたのではないか。
なので、タイトルに惹かれて本書を手の取ったのだが私には難解で
あった。だって、フランスの政治と言えばフランス革命くらいしか
分からないのだもの。それも漫画『ベルサイユのばら』が参考書だ
ものな。
租借できないままに理解したところでは、実は表現の自由を擁護する
為のデモではなく、世界各国が少なからず陥っている不平等社会を
容認する為のデモであったのだ。
著者はデモ参加者の社会階級の統計を利用し、参加者には中産階級
以上が多くを占め、労働者階級の少なさを指摘している。不平等主義
がフランスのみならずEUを席巻し、イスラム教徒に対する差別的な行動
がイスラム恐怖症を引き起こしている。
だからか。「シャルリ・エブド」襲撃事件は大きく取り上げられるのに、
ユダヤ人商店襲撃事件はまるで「なかった」ことになってしまっている。
「シャルリ・エブド」襲撃事件があった同じ年の11月。パリ同時多発テロ
が起きた。「私はシャルリ」のスローガンのように、この事件の後には
SNSのプロフィール画像にフランス国旗を重ねている人を多く見かけた。
そして、2016年3月にベルギーの首都ブリュッセルでの連続テロの際に
はベルギー国旗が同じようにSNSに溢れた。
フランス国旗やベルギー国旗を掲げる人は多いのに、シリアやイラク、
アフガニスタンの国旗を掲げる人は何故、いないのだろう。テロが起き
ているはヨーロッパだけではないのに。
ここにも無意識的な差別が表れていないだろうか。イスラム世界で
イスラム教徒がテロの犠牲になっても、私たちには関係ない…と。
尚、「シャルリ・エブド」襲撃事件ではイスラム教徒の警察官も犠牲に
なっていることを付け加えておく。だから、私は「私はシャルリ」とは
言えないし、フランス国旗も掲げられない。勿論、ベルギー国旗もだ。
もう少し私の頭が良ければ、本書から読み取れることがもっと多く
あったと思うんだ。自分の頭の出来が残念。
翻訳の仕方もあるのかもしれないが、フランス人の書く文章は饒舌
だね。