エマニュエル・トッドのレビュー一覧
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エマニュエル・トッド氏の本は何冊か読んで、家族構造から人間の価値観や行動を説明するアプローチに感心した。その著者が日本について論じた本ということで興味を持ち手に取った。
日本は伝統的に直系家族であり、日本人は継承が得意な反面、創造的破壊が苦手という性質を持つ。特に、直系家族システムが完成してしまうと女性差別や権威構造が硬直化してしまい、システムの維持が目的となり自己変革が更に難しくなるという。ここに日本の危機がある。
面白いのは鹿児島のとある地域では、創造的な破壊が自然に受け入れられるような家族を持つところがあるらしい。明治維新での薩摩藩の中心的役割もその文脈で語られていた。規律正しい反面、奔放な一面もあるという両面性が、今後の日本をより強くしなやかな国にするヒントがあるのかもしれない。
単純に、同じ国なのにかなり多様な家族構造が存在していることに驚いた。著者は『家族システムの起源』という本で、その部分をさらに深掘りしているらしい。家族構造が人間の認知や思考に及ぼす影響にパターンがあるとしたら、非常に面白そうである。 -
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ロシアvsウクライナの戦争は、権威的民主主義陣営vsリベラル寡頭制陣営の対立が背後にある。後者の先鋭がアメリカ・イギリスであり、彼らはウクライナ人に軍事支援を行うことで、自らの手を汚さずにロシアと戦争をしているのである。よってヨーロッパを舞台にした世界戦争はすでに火蓋を切ったというのが、著者の見解である。
著者は家族構造や宗教・教育のシステムから政治や経済を論じるスタイルを得意としており、本書においてもその手腕が如何なく発揮されている。種々の媒体での発言や記事の寄せ集めのため、体系的ではないが、一貫性は有る内容になっているように感じた。
アメリカ・イギリスなど、いわゆる『自由民主主義』的な国々は、もはやリベラル寡頭制(高等教育の普及に伴う格差拡大によりもたらされた)と呼ぶに相応しく、その格差の広がりは民衆から希望を奪っており、国内には不安・混乱が広がっている。ロシア・ウクライナ戦争は、そのような不安・混乱を収束させる『悪しき解決策』として利用されているのである。この辺りの議論は目から鱗であった。西洋寄りの言説に私の眼が曇っていたということであろうか。
アメリカやイギリスは核家族システムを採用しているが、これはホモ・サピエンスにとって原始的な家族構造である。父権的な秩序の不在は、周囲への好戦的な態度に繋がる可能性を孕んでおり、破壊的なイノベーションが得意な反面、本質的に不安定な家族構造なのだと感じた。日本は穏健な直系家族構造であるが、何とかいいとこ取りはできないものか。 -
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ロシアとウクライナの関係について書かれている本。著者の思想強めなので注意。端的で分かりやすい内容ではあるので、現状を少しでも知りたい人がたくさんの情報に触れるために選ぶ中の1冊という感じ。
最近、第一次世界大戦について少し学んだ後だったので手に取りました。1番印象的だったのは、第一次のときも今も結局戦争をしたかった国は1つもなかったのではないかということです。そりゃあ、莫大にお金も人も失うわけですから当たり前ですよね。
第一次のときは、今みたいに国家同士のコミュニケーションはスムーズではなかっただろうし(技術的な意味で)、名の通り一次なので学べる過去もなかった(もちろん戦争はたくさんありましたが規模的な意味で)、と自分なりに腑に落ちていた部分もあったのですが、とんだ間違いだったのかもしれません。
圧倒的な1人が戦争を引き起こしているなんてことはきっとなくて、いやもうこうするしかない、の積み重ねで起きるものなのだと今は思っています。
感想が思想になりそうな気がするのでこのへんで。 -
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アメリカ大統領選挙が決着し、予想通りというのか、予想に反してというのか、トランプ氏が前回2016年の勝利から通算2期目の大統領に選出された。私の周囲でも同氏が大統領になれば、また世界が混乱(混迷)するとか、親イスラエルだから同国による攻撃が盛んになるのでは、ウクライナはロシアに奪われた国土を取り戻せないまま、泣く泣く戦争が終結(ロシアの勝利)するといった様々な予想が飛び交った。一方、ハリス氏が勝てば、基本路線はバイデンと変わらないだろうから、逆にロシアやイスラエル、台湾を狙う中国の不穏な動きについても、大きく変わる事なく、それ自体が混迷を更に長続きさせるだけだとの悲観的意見も多い。果たして今現在を肯定的に見るか否定的に見るかで、トランプ氏再選の結果評価も大きく変わる。未だ就任していないのだから当面(2025年1月20日まで)は不安定な心情から容易に抜け出す事は無いだろう。ただでさえ先日の衆院選で歴史的大敗を経験したばかりの石破首相が不安な心持ちのまま、国内情勢ですら先の読み辛い状況で、一体どんな話を電話で話したのか気になるところだ。勿論具体的な話はなく、単なるお祝いのメッセージに止まったであろうが。アメリカはそもそも現政権バイデン大統領の民主党とトランプ氏の共和党の二大政党政治だから、現政権に対する世の中の不安や不満が結果に現れたのは間違いない。前述したような世界情勢の混迷だけでなく、国内の経済、社会的な問題を背景に「何かを変えなければならない」という国民の気持ちがトランプ氏を選んだ。前回オバマ大統領時代にオバマ氏自身が「change」を叫びながら、トランプ氏にchangeさせられた皮肉さが思い起こされる。いずれにしても「変化」を求めたアメリカ国民。再び世界が大きく変わるのは間違いないだろうが、良い方向に変わることを祈るばかりである。そんな最中、私の予想も外れた外れないは置いておいて、前回トランプ氏が勝利した大統領選の後に書かれた本書を読み、今回と比較することで、何らか当面の世界情勢の予測に役に立つのではないかと思い、改めて開いてみた。
結果としては、いつも通りのアメリカ政治の踏襲と、意外にも(?)まともな方向に転ぶのではないかという安心感、更にはトランプ氏の人となりについて、政治家というよりは根っからの商売人としてある意味読みやすいのではないかとの結論に至る。彼は商売の世界で大成功を収めた人間であるし、成功に導いたのは単に、時勢に乗ったからというよりは、交渉相手の心を見透かすことの出来る「本当の」交渉力なのではないかと思う。それは勿論、アメリカファーストが主体となりつつも、相手(この場合世界の国々)の出方を十分に察知し見極め、先手必勝で次々と手を出してくる、といった動きになるだろう。外交はそもそも将棋に似ていると思うが、先の先、何十手先まで見越して策を講じる事に非常に長けた人物である事に間違いない。対する諸外国も必死に手を繰り出す事にはなるが、常套手段では読まれてしまう。だからこそ時には奇抜な手を用いて、相手の予測を超える事も考えなければ、簡単に交渉から撤退せざるを得ない状況になる。国を動かす一大事であるから、余りに奇抜な手は用いようがないだろうが、相手が政治家であると考えていては勝てないだろう。
そして何より相手を熟知することの重要性が一層増してくる。今回の選挙戦においても、アメリカ国民が心の内に抱える想いや、それが闇に近いような部分でさえも、真意として汲み取り誇張しつつ解りやすい言葉で伝えてきた。前回の選挙と手法は大きく変わらない。本書の中で神学者ニーバーが聖書から引いた言葉「光の子と闇の子」を用いて説明されるが、アメリカが世界の警察として光の存在であり続けるよりも、国内問題解決を優先するというトランプ氏の主張は普段の生活に困窮する国民に伝わりやすい。それだけでなく、人間が本来抱えている原罪を理解し、その欲望や繁栄心を満たしたい気持ちに近づく手法には容易に太刀打ちできない事も解った。トランプ氏の前では皆、心の中をガラス越しに見られている様なものなのだと改めて理解した。
トランプ氏勝利により翌日のアメリカニューヨーク市場の株価は大幅に上がった。トランプ氏の存在を利用しようとする世の中と、トランプ次期政権との戦い、それを取り巻く世界の国々との新しい戦いが始まる。いずれにしても、相手を理解し、本心に向き合わなければ戦えない。奥ゆかしさを善しとする日本人が相手にするには、非常に難解な相手である。寧ろこの際、自民党政権なら小泉進次郎氏の方が読まれ辛い気さえする。政治においてはアメリカ大統領を2回目経験するトランプ氏にも気に入られそうだ。
また政治が面白くなる。どの様についていくか、中々目が離せないし、気が休まらない楽しい日々が始まった様だ。 -
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著名な人口学者であるエマニュエル・トッドによる著作。
「日本のシルバー・デモクラシーへの言及と提言」
「英米の急速なアンチ・グローバリゼーション的動向」
「ドイツ帝国と化したEU」
「日本の家族形態の系譜」
大きくこの4つのテーマが本書では解説される。
終始軽快な語り口で、内容がよく理解できた。
知らない知識も多くあり、特に第二部の論は新鮮で面白かった。
これは、現在の世界で最も支配的なイデオロギーである「資本主義」「民主主義」はともに英米(アングロサクソン)から出現しており、これらのイデオロギーがもし終焉を迎えるとしたら、それはやはりアングロサクソンからもたらされるだろう、という主張である。
一方、国家間の相違をすべて「家族形態の違い」だけで説明しようとするのは、些か暴論かと思った。
著者曰く、日本人がスクラップ&ビルドを苦手としているのは、日本の伝統的な家族形態が「直系家族」(男子長子が跡取りとなり、結婚した後も父の家に住んで、すべてを相続する。親子関係は権威主義的で、兄弟は不平等)であるからだとする。
対して、英米は「絶対核家族」(子供は早くから親元を離れ、結婚すると独立した世帯を持つ。遺産相続は親の意思による遺言で決定されるため、比較的親子関係は自由)なので、イノベーションの発想に優れるとする。
しかし、ここまで厳密な直系家族は現在の日本では残っておらず、英米のスタイルに近付いている。にも関わらず、この違いだけで国家間のパフォーマンスの差異を説明しようとするのは無理があるだろう。
日本がこの30年間停滞に甘んじているのは、「財政出動が不足しているためにデフレマインドから抜け出せていないこと」と「労働生産性が上がらないこと」の二つが要因である。
本書の論とは外れるので、仔細についてはここでは書かないが、前者は完全なる政治上のミスであり、後者は日本人の怠慢がもたらした結果に過ぎない。
無能で無知であるにも関わらず、勉強しようとも努力しようともしない、有能な者の足を引っ張ることしかできない人間が日本には多過ぎる。
この脱却を試みるにも既得権益と保守権力、老人が阻害するため、改革も遅れるという構造が日本には定着してしまっている。
総括。
本書は原因の考察と解決策の提示に関しては疑問がもたれるものの、「人口動態」を切り口とした各国の分析に優れる。一般論とは異なるが、面白い観点である。
今後の日本の在り方を考える上で参考にしたい一冊。 -
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日本では昨年(2023)のGW明けにコロナが5類(普通のインフルエンザと同じ扱い)となり、それを契機に報道によるコロナは終息し、今に至っています。最近(2024.7)では、コロナが流行っていているようですが、それほど騒がれてはいないように思います。マスクはするしないは別にして、袋入りのマスクをカバンに何個か携帯するようにはなりましたね。
この本は今年の2月に読破したものですが、本の内容が書かれたのは、2018-2021年なのでコロナ騒動の中で書かれました。私自身も、コロナによって働き方・生き方に大きな影響を受けたと思います、良かった点も変わってしまった点も含めて。レビューを書きながら、この本の内容をもう一度振り返りたく思います。
以下は気になったポイントです。
・トランプ大統領は米国史の中で重要な大統領であった、米国政治にもたらした保護主義と反中国という方向は、歴史的な転換点になるはずである(p13)19世紀には国家は後方にいたほうがいいというリベラリズムが広がり、1914年の第一次世界大戦、29年の世界恐慌へと繋がった。それに続いて、第二次世界大戦からその後にかけては、国家中心の考え方への転換があった、それがまた変わったのは、米国レーガン大統領、英国サッチャー首相によるネオリベラリズム、経済的な新自由主義が登場したときである(p17)
・残念なことだが、思想的な行き詰まりを突破するには逸脱が必要である、家系的な毛並みの良かったルーズベルトのような人は日本では受け入れられやすい、安倍首相も毛並みが良い。でも逸脱できる人はそんな感じの良い人ばかりでなくて、危ない冒険主義者もいる、米国にはトランプ氏がいたというわけである(p21)
・実はトランプ的な政治という点では、それは前から存在していた、共和党はある意味で、文化的な同質性を体現していた、白人の党ということである(p26)トランプ氏の支持層は学歴が高くないと指摘されるが、その傾向はそれほど強くない、大卒レベルの学歴の半分くらいはトランプに投票している。違いがはっきりしているのは、教育レベルがさらに高い人達(質の高い大学、博士号)は殆どが民主党支持者である(p27)
・中国は14億の巨大な人口を擁しているが、人口動態という点では、ものすごい速度で変わりつつある。年齢構成が異常で、それが急速な高齢化へつながっている。これまでは、人口ボーナスのおかげで生産年齢人口に恵まれたが、その人たちが社会保障制度もないまま年老いていく(p50)
・米国においては、社会の分断や民主党の迷走よりも危ない兆しがある、肥満問題である、単なる健康問題ではない、肥満は自分を律する力の問題である。つまりうまく未来に向かう能力の欠如を表す(p60)
・マクロン大統領が覆い隠そうとしているのは、フランスで起きている30年にわたる政策の帰結である、今人工呼吸器やマスクの備蓄が足りなくなったのは新型コロナウィルスのせいではなく、備蓄にかけるコストを削ってきたから。さらに、感染者の多くを占める高齢者の介護施設にかけるコストも削ってきた、これらはコロナウィルスが引き起こしたものではない(p107)
・自由貿易とは、世界の富裕層が一つになって貧しい人々を安い労働力(かつては奴隷)として使うこと。考えてみれば、自由貿易の「自由」という言葉そのものが嘘である(p128)
・ある程度の自由貿易なら問題ないが、あるポイントに達すると経済的な格差が広がりすぎて民主主義と自由貿易を両立できなくなる、自由貿易をある程度やめるか、民主主義を救うかの選択を迫られる。民主主義の根底には、いくつかの平等が求められるから。市民権、法の下の平等、投票権、そこには経済的な要素も絡んでくる。政治的な民主主義が、経済的な格差の拡大を野放しにしたままでは成立しない。そして私たちはすでにその段階に到達してしまっている、ここでの問いは、完全な自由貿易を手放すか、民主主義を手放すかである(p151)トランプ政権の保護主義的な政策は、民主主義を取り戻すための理にかなった方法に見える、しかし欧州ではこれまで以上に自由貿易を推し進めている、中国と一緒に(p131)
・米国は冷戦終結から30年の間に、欧州をコントロールする力を失った、参加国が平等な共同体であるはずの欧州連合(EU)は、ドイツに支配されることになった(p149)
・移民対策は決して出生率対策の代わりにならない、最も優先すべきは、やはり女性が快適に働き、子供を産むことができる政策である(p188)
2024年4月26日読破
2024年7月22日作成 -
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一年前の本。
ウクライナ戦争の終結時期については、第一次・第二次世界大戦と同様戦期を4〜5年と予想しているので、2026〜27年。
著者のことは良識ある良質のフランス知識人と思っていたが、フランス国営放送からは出禁を喰らっているそう。
なので、日本の出版会から評価されていることは本人にとってはありがたいそう。
内容に関しては、人口統計学と家族制度を軸にした客観的な分析、という本人のオハコ。
ロシアへの経済制裁がいまいち効かない理由として、グローバル・サウス諸国が殆ど制裁に参加しておらず、西洋的価値観よりも、ロシア的・伝統的価値観の方が実は共感されやすい、という点をあげている。
この点は、第二次世界大戦敗戦国として、完全に価値観を上書きされてしまった日本人には意外なような、分かるような、という微妙なところか。
タイトルのインパクトが抜群。違うタイトルだったら、たぶん手に取っていないと思う。
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戦争やAI、資本主義と民主主義など現在のさまざまな論点についての識者の発言をまとめた一冊。
大国の覇権ではなく、各国・地域の利害に基づく多様なつながりが増えている現代、米中問題とか対ロシアという近視眼的な見方では追いつかないというのはよく分かる。
個人的に面白く読んだのはAIの話。人間を超えるか、という問いの立て方になんとなく違和感を持っていたけれど、素人にはそれがうまく説明できず、漠然とした危惧にあおられたままだった。その違和感を詳細に言葉で説明してくれた感じ。
たとえば人口「知能」というネーミングが導く恐怖感とか、AIの背後でデータを学習させるために単純作業をする労働者たちが抱える問題、データやツールを独占する国家や大企業の権力の問題の方が、AIそのものよりもはるかに深刻な危惧だ、と。
一方で、そもそも「知性」を外から入った情報を処理して何らかのアウトプットをすること、と定義すると、人間の知性とAIは確かに似たような作業をしているようにも見えるし、「創造性」についても、人が過去の経験や学習を基に作品を創り、AIはデータを基に「創造的な」作品をアウトプットすると考えると、やはり類似性は見える。
それでもなお、本質的な問題は人間の側にある。バイアスがかかったり誤った情報が出てきた時に、それを見分ける能力を持ち得るか、拡散されるフェイクにどう対応するか。現在進行形の課題をしっかり考える足掛かりになる。 -
Posted by ブクログ
毎回トッド氏の分析には舌を巻く。過去にもソ連崩壊やアラブの春、そしてトランプ大統領の勝利など数々の未来予想を人口学から的中させてきた人物ではあるが、本書はさらにそれを高学歴教育の普及の観点から鋭く分析する一冊である。
高学歴と言えば戦後日本経済の爆発的な成長を支えてきた私の父の世代などは、大学進学者は未だ稀な時代であった。ほんの一握りの大学出身者が日本の経済と社会、政治を作り上げ敗戦日本のどん底の状態からGDPで世界の頂点に届くほどの「奇跡の復興」を作り上げた。因みに私の父は農家出身で兄弟も二桁いる。産めば産むほど生産力が増えていく世界を作り上げてきた様な大家族だった。あれから60年、70年そして戦後80年を間も無く迎える。今や多くの若者が大学へ進学し、大学院へ進む者も少なくない。私もそれなりの大学まで行かせてもらい、周りの友人たちを見回しても皆、大学出だ。こうした時代にいきなり到達したわけではなく、背景には少子化がじわじわ進行し、子供が少なくなる事で余計に手間と金をかけられる様な社会になっていった事が要因だろう。経済も政治も大学出が当たり前に作っており、会社を見渡せば学卒社員は毎年有名大学からずらりと肩を並べて入社してくる様になった。その様な中でプライム市場に上場する様な会社は今や慶應、早稲田、それに匹敵する様な偏差値の学生が大半を締めているが、果たして昔の日本の様にそうしたエリート学生が活躍しているかは疑問だ。みんな何処となく均質で際立って良い成果をあげるわけでもなく、考え方も比例して素晴らしいかと言うと殆ど他の大学生と変わらない。寧ろエリート意識かつまらない仕事にそっぽを向こうとしたり、考え方も一つに固執したりと使いづらいことさえある(使うと言う表現は好きではないが)。大学進学が当たり前になったと同時に質の均質化に至ってしまった様だ。とは言えそこそこの大企業なら先人達が作り上げたビジネススキームで安定した収入がある程度保障され、大学未就学の者と比べると収入差は歴然だ。きっと恐らくは大学に行った行かないかは関係なく如何に努力を継続しているかで価値や能力は決まるはずだ。だからこうした差が広がれば広がるほど、社会には不平等が蔓延り、時に爆発・分断を齎す。
こうした状況は日本独自ではなく、民主主義の優等生であるアメリカ、イギリス、フランスでも発生し、民衆の分断が発生している。トッド氏は日本とドイツがそれらと違うのは家族制の違いにあるという。トッド氏の著作を読んでいる者であればすぐに気付くが、日独は家父長制で不平等を受け容れる素地がある。現在分断がそれ程大きく社会問題にまでならないのはそうした家族制度の伝統があるからだ。
後者の国、特に日本は現在先進国でもトップを突っ走る高齢化が進展している。最近のニュースではGDPがドイツに抜かれて4位に後退するともあった。そんな日本が今後頼るべきは移民であると思うが、均質化されて劇的な変化を望まない現代世代に果たしてそうした社会を激変させる政策を取らせることは可能だろうか。
人は考えなければならない。考えてこそ未来を作り、今の問題を解決したりできる。考える事が人の価値だとつくづく感じるが、会社でも考えている人は少なくなった。指示を待つばかり、自分の考えも述べずに質問するばかり、ミスして素直に謝るのも良いが多少の言い訳もせず謝るばかり。そのくせ反省が無かったのか同じミスを繰り返す。考えなかった証拠を突き付けられているようだ。
トッド氏が長年の研究により確立された考え方をブラッシュアップして新しい考え方や過去の考え方の誤りを訂正していく様に、我々もそんな氏の姿勢に学び考える自分を取り戻していく必要がある。きっと物心つく前、生きて笑って泣いて精一杯一日中学んでいた幼な子の頃の様に。それが無ければ成長できない。