作品一覧 2021/02/12更新 世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本主義 試し読み フォロー パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 試し読み フォロー 1~2件目 / 2件<<<1・・・・・・・・・>>> 大野博人の作品をすべて見る
ユーザーレビュー パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 エマニュエル・トッド / 大野博人 / 笠井哲也 / 高久潤 人口動態の専門家でそれに関しては納得できる内容だった。 経済的な観点のみで政策を進めると長期的な視点を失いやすい、という記述にも同意。 ただ、各国の経済政策については他の専門家の著書も読んで考えたいなと思った。 概ねの主張としては 今後新自由主義的なグローバルな政策から各国とも保護主義的な政策へ舵...続きを読むを取るべき。そういう局面に来ている。 ナショナリズムと保護主義は=ではなく、差別をしなくても保護主義は達成できると著者は考えている。 各国それぞれに課題がある。 日本は何より人口動態の問題が深刻だが、能動的帰属意識がない。 日本の制度や意識改革、既存の組織方針を刷新をするのは容易ではないので正直悲観的になりそうな気持ち。 Posted by ブクログ パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 エマニュエル・トッド / 大野博人 / 笠井哲也 / 高久潤 いろいろな人達のトッド氏の評判が高いので、著書を読みたいと以前から思っていました。 本書ではコロナ、トランプ氏、中国、フランス、ロシア、ドイツ、欧州、グローバル経済・自由貿易と保護主義、日本の人口動態問題に関してのことが語られています。 「ロシアは騙された。NATOが約束を破って勢力を拡大し、ロ...続きを読むシアが追い込まれた」と。 グローバル経済・自由主義は宗教に近い。自由貿易の「自由」とは奴隷制と関係がある。言葉遊び。世界の富裕層が、貧しい人々を安い労働力として使うということ。「自由」ということばそのものが嘘。 自由主義者はいつもいかに支払いを抑えるかと考えます。しかし保護主義は国家がとる自然に備わった能力。社会のなかの力のバランスを変える、格差を解消し、エンジニア、科学者、モノを想像する人にアドバンテージがあるような社会へと移行する。保護主義とは何かを創造することで、生産やテクノロジーを考え、まず労働に何かしらの重要性を与えている。 日本人向けのインタビューの内容でもあり、ほとんどは日本の人口動態の話です。 聞き手の大野博人氏が:解決があまりにむずかしい問題を前にすると、問題自体をないことにしてしまいたくなる。 選択肢は、今のままでいるか、変わるかではない。悪い方に変わるか、よい方に変わるか、でしかありません。 日本の人口動態の問題は深刻。すべての政治を超えた、国の存続の問題。 人口は減り、その人口も老いている、それはもう今までとは同じ社会ではあり続けられないという恐ろしいことが起こっているのに、日本人は議論はしても行動には移さない。 他の問題ばかり語って人口問題を絶対的な優先課題にしないで後回しにできると考えているのであれば、それは日本の幻想。 幻想として、問題の解決策が経済の中にあるように思っていること。少子高齢化の原因は家族関係、男女関係。 明治維新の時は国民全体が大変な努力をした。 明治時代の経済の方向の努力の方が物理的にはずっと大変だったと思う。 けれども当時は人々の間に非常に強い帰属意識があった。 「”人口問題に取り組むには、とても強い帰属意識が必要。ただみんなで快適に一緒に暮らす、自分は日本人だとかいうだけで満足する、受動的な帰属意識とは違う、社会で物事を前進させる力。日本人同士で何かを一緒に成し遂げようと望む意志、国民の結束する力。 人口動態問題で気づいたことは、日本は確かに文化的にはちゃんと存在する。しかしそれは能動的な私たちではない。それがあるなら人口動態にすでに取り組んでいたはず。 これだけの日本の存続の危機に、手をこまねいて見ている日本人の社会に能動的な私たちがあるとは考えにくい。ナショナリズムでさえもありません。”」 取り組まなければならない課題は、子供を持てるかどうか。社会は家族がいて、子供を作り家庭教育する。子供は色々なことを学び、働くようになる。でもそれは経済活動ではない。 出生率が理にかなっている国では、人々の姿勢ではなく、制度的な仕組みが整備されている。 プーチン氏・ロシア人は日本人と違って、ただ語っているだけではなかった。 経済をあまりに重視しすぎると長期的な視点を見失います。 人は労働力になる前に、生まれ教育を受けなければならないという事実を忘れてい待っている。長い歴史という時間軸で物事を考えていない。 日本と韓国を比較すれば、一見日本よりも深刻化しそうな人口動態問題を抱えていても、中国国内に朝鮮人はたくさんいるし、北朝鮮ともやがて統一することを考えれば、日本とはまったく異なります。 日本は島国で、自分たち自身であり続けたいと望むことを許されているように感じている。 日本文化の基本的な特徴として、極端な礼節があります。他人に迷惑をかけないなどの日本人同士の中で暮らす技術。 日本人は特殊な問題を抱えています。日本人なりの暮らし方があるせいだと思います。ただそれはそれでもっと深刻な問題でもあります。 日本の安全保障問題に関しては、憲法改正問題を議論すること自体が、問題の本質から目を逸らさせ、むしろ中国の政治指導者のゲームの中に入っていくことにもなる。 日本の歴史の基本的な部分はほとんど他国と戦争をしていないことは簡単に証明できる。 帝国主義、植民地主義的な国だったのは極めて短い期間。 人口の半分が50歳以上になるほどの老いた国の年齢構成の国にどんな防衛策が可能なのかの視点抜きで法律や装備を議論しても仕方がない。 長期にわたって可能な防衛手段は核武装。 安全保障という点でもまずは優先するべきは人口問題。 東京は見た目は問題がない。でも地方に行けば、東京からそう遠くないところで、たとえば下田では、空き家、さびたシャッター、古ぼけた家財などを目にします。地方では、老化,老朽化、荒廃しているものを目にすることになります。 複雑なことは理解しようとするともっと複雑になる。 日本人には普遍的なものを追求する能力があります。日本人自分自身への信頼の問題。 社会が出産と子供の教育に投資することこそが長期的に見返りのなる投資なのです。 根本的に人づくりが大切なことで、確かに日本人全体が、根本的に日本の存続にもかかわる、大変深刻な少子高齢化の人口動態の問題から目を逸らしていると思わされました。 Posted by ブクログ パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 エマニュエル・トッド / 大野博人 / 笠井哲也 / 高久潤 「大分断」が2020年7月に発行されているので2021年2月に発行された「以後」は新型コロナウィルスについての世界の知見が多少とも整い始めたころとなる。前著では民主主義の失速と後退の原因としての教育格差が語られ、日本の問題にも触れるという構成だったが、「以後」」は聞き書きであり、日本人が質問し、それ...続きを読むに答える形で構成されており、より「日本について」語る内容となっている。 トランプ大統領の業績についての評価から始まり、EUの問題や中国の行動原理など、トッド氏の家族制度による人類学的考察をもとにした、世界の見方についての視点は変わらず切れ味が鋭く示唆に富む。自由貿易と保護主義への転換については著書「自由貿易は民主主義を滅ぼす」からさらに考察を進めており、中国とロシアへの視点は現在起こっている「ロシアによるウクライナ侵攻」につながる歴史的視点が語られている。日本の問題についても丁寧に語られており、「日本は新自由主義にとらわれていて、一番大切な人口問題をなおざりにしている」は真摯な指摘であると感じた。人口動態という、一番大切な問題をなおざりにしては日本の本当の発展はありえないこと、出生率の低下の問題は制度の問題であり、女性の社会進出を促しながら女性や子供への支援をなおざりにすることは、最終的に国の存続を揺るがすことがはっきりと語られ、曇りがちな目を覚まされた思いを持った。巨大な知の一部分に触れることのできる一冊。 Posted by ブクログ 世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本主義 エマニュエル・トッド / ピエール・ロザンヴァロン / ヴォルフガング・シュトレーク / ジェームズ・ホリフィールド / 大野博人 / 原真人 / 国末憲人 グローバリゼーションとポピュリズムの中で、揺れ動く、民主主義と資本主義 四名の知性が語る現代と未来 1 世界の未来 エマニュアエル・トッド 私たちはどこへ行くのか ・核家族こそが人類の最初の家族システムだった ・今見られる政治的な代表制という仕組みは、それが民主的なものであれ、寡頭制的なものであ...続きを読むれ、むしろ古い過去から残り続けたものであるとわかったのです。 ・民主主義は、人間の小さなグループが自分たちの間で組織したものでした。そしてそれはいくらか排外的だったのです。 ・この排外性は民主主義と反対のことではなくて、民主主義の始まり、あるいは再登場の始まりなのです。 ・高等教育というのは、体制順応のための制度として優れているのです。 ・民主主義がないところというのは、EUレベルのように、人々が投票するに、それが考慮されないところのことです。 ・日本は大国であることをあきらめてしまった。それは、日本が人口減少を受け入れているのは明らかです。日本はあきらかに自分であることを選択したようです。 2 民主主義の希望 ピエール・ロザンヴァロン ・選挙が民主主義に次第に成果をもたらせなくなった。 ・人々は選挙が民主主義にとって本質的な三つの機能を果たすことを期待してきたから。 ①代表という機能 ②政治的な各種制度や統治する者たちを正当化する機能 ③議員たちをコントロールする機能 ・選挙は今日、代表する能力を減じてしまっている。それは、社会学的な理由と制度的な理由があります。 ・民主主義の中心にきているのは行政権力の選出です。 ・一人ひとりがそれぞれ特異な存在になっていて、個人主義の発展とつながった社会的アイデンティティの時代に突入している。 ・今や社会とは、たくさんの少数派の被っている境遇の集まりになっている。「人民」とは、たくさんの小数者のことになっている。 ・行政権力が強くなるという流れの中で、議会の機能は縮んでいる。 ・民主主義の進歩が意味するのは、今やそれを複雑化し、主権について複数の形を設けることなのです。一般意思を表現するチャネルを多元化し、人々を代表する仕方を広げなければなりません。 3 資本主義の限界 ヴォルフガング・シュトレーク ・国家が市場に組み込まれるようになると、国家は市民よりも「市場の力」によって、支配されるようになる。 ・最も重要な要求は、自由貿易の制限と移民規制だ。それは、住民の経済的地位をこれ以上に低下させず、社会生活を崩壊させないようにするためだ。 ・軍事的敗北と、国内の経済的・社会的後退は、保護主義と孤立主義を約束したドナルド・J・トランブの大統領選出にもつながった。 ・資本主義は常に安定した国際秩序 特に信頼できる資金と、帝国主義的な平和を周辺に提供できる海運国を必要としてきた。 ・重要な転換点は、EU離脱を決めた英国の国民投票(2016年)だった。 ・政治的主体が、グローバル経済の中で生き残り繁栄するには、どの程度大きければ十分か、もしくは大きすぎるのかという問題だ。 ・ドイツはユーロ圏の成長と繁栄の極みであり、この文脈でのみ、経済状況と政治状況を説明できる。 ・ドイツは工業生産が集中しており、完全雇用、財政黒字につながる高い税収、最近では安定した収入分配がある。 ・財政的な余裕があったため、メルケルの政府は、ドイツの福祉国家に手をつけなくてすんだ。 4 分断の克服 ジェームズ・ホリフィールド ・現代の移民政策は、治安・人権・文化・市場(経済)の四つの側面が入り混じっていると理解するのが重要です。 ・米国、ドイツ、スイスなど多くの欧米諸国は、労働力確保の必要性から、移民を受け入れる決定をしている。 ・移民をめぐる議論は時に、大きく変更します。多くの人々にとって、移民が「脅威」と映るときです。移民は物質的な脅威、安全保障上の脅威ともなりえます。 ・日本は英国と違って、「単一文化の閉ざされた国だ」といった神話を信じています。 ・自由貿易協定は、米国、カナダ、メキシコに経済成長をもたらしました。地域統合は欧州統合と同様に極めて重要です。人の移動と進歩との好ましいサイクルを築くことができれば誰もが利益を得るシナリオとなるでしょう。 Posted by ブクログ パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 エマニュエル・トッド / 大野博人 / 笠井哲也 / 高久潤 本書は2018年7月から2021年1月までにAERAや朝日新聞などに掲載された6回のインタビューを大幅に加筆修正を行ってまとめたものである。雑誌や新聞では紙幅に制限があり、落とさざるを得なかった内容を加えたものである。 著者のエマニュエル・トッド氏は親日家で、来日回数も10回を優に超え、速水融とい...続きを読むう人口学者とも深い交流があったという。 雑誌向けのインタビューなので、紙面に乗せやすいように事前に答えがある程度想定される質問を投げかけて、それにトッド氏が答える形式のものが多い。その結果、著者が得意とする定量的なデータをもとに大胆に帰結を引き出すような論理的な記述は少なく、トッド氏のそれまでの主張をなぞるようなものが比較的多い。トランプ大統領の当選の可能性を示唆し、ドイツの強大化について危機を訴えてEUを批判、英国のブレグジットに理解を示し、自由貿易から保護貿易へのシフトを予想する。具体的には次のようなものだ。 【トランプ大統領】 ・トランプは個人的には不快感を持っているが、米国の歴史の中で重要な大統領だ。 ・トランプは民主党政権が触れない「真実」を語っていた。 ・トランプは外国人嫌いであって、人種差別主義者ではない。民主党の批判は不当だ。 ・トランプ支持者は経済問題を最重要課題と捉えていて、明晰である。トランプは経済問題ではとてもうまくやった。 ・黒人はトランプの保護主義の受益者であったが、投票行動と矛盾がある。 【民主主義と自由貿易】 ・民主主義はその始まりにおいて、他者排斥の要素を含む。 ・自由貿易の弊害として、グローバリズムの拡大が格差を生み、民主主義を傷つけた。 ・自由貿易から保護貿易に移行していかざるを得ない。ブレグジットやトランプ政権はそのあらわれ。どの程度の自由貿易なら社会が許容できるのかが課題である。 ・グローバル化はもはやうまくいかない。国や国民を中心に再び結集する。資本主義を救うためには逆説的に国家が必要になる。 ・フランスはEUによって製造業を失い、空洞化が進んでしまった。 ・今米国で起きているのは、自由貿易のイデオロギーが人々の中でグリップを失っているということ。 ・マクロン大統領は自由貿易の考えに囚われており、絶望的。 ・共産主義体制は、資本主義は不平等を拡げるがどうすればよいか、というよい質問に対する誤った答えだった。 【欧州問題】 ・ユーロによって地域間に大きな経済的な壁ができている。ドイツのシステムがフランスやイタリアの産業を壊している ・欧州の問題は1900年以来つねに、ドイツが大きすぎるということだった。 ・EUやNATOの拡大は米英の戦略であったが、結果としてドイツ支配権を拡大することにつながった。 ・南北欧州の不平等の高まりや、ルーマニア・ブルガリア・バルト三国・ウクライナの人口減少を考えると欧州第三の自壊が始まっているのかもしれない。 【ロシア・中国問題】 ・米国はロシアと敵対するのをやめて、中国から引き離す戦略に転じるべき。 ・中国は人口問題を抱え、対外的には世界の大国でありながら、対内的には脆弱である。 ・中国は危ない国になってきている。日本は核防衛にも取り組むべきではないか。 ・ロシアは暴力なしに、ある意味ではエレガントに共産主義体制から抜け出した。ソ連を解体し、ウクライナの独立さえ受け入れた。それに対して、ロシアは欧米に裏切られた。NATOの東進によりロシアを囲い込むことになった。 ・第二次大戦後の欧州や日本に対する米国のように、西側諸国もロシアに対して寛大に対応するべきだ。 【日本】 ・少子高齢化という人口動態上の危機にあるのに、出生率の向上と移民受け入れに関して。それに見合った取り組みが行われていない。 ・子供が生まれなくなっているから移民で埋め合わせるという話ではない。移民を統合するためにも子供が作られなければならない。 ・日本では人口動態の問題は議論のテーマであって、行動のテーマではない。 ・まずは、教育を受けた女性が仕事ができるし子供も持てる新しい社会を確立する取り組みを始めるべき。 ・出生率が理にかなったレベルになっている国(フランスや北欧)では、制度的な仕組みが整備されている。例えばロシアは出生率を向上させることができた唯一の先進国で、調査団を派遣して参考にするべき。 ・現在において豊かになるための経済政策を進める国は、将来に向けて貧しくなる。社会が出産と子供の教育に投資することこそ長期的に見返りのある投資になる。 【コロナ禍】 ・コロナに対しては、女性の地位が高い自由な国があまりうまく対応できなかった。 ・新型コロナウィルスが高齢者の命を奪ったとしても、社会にとって深刻な打撃にはならない。むしろ高齢者を守るために経済を完全に止めたことによる影響の方が将来に禍根を残した。 ・個人主義的でリベラルな文化の国(米英やイタリア)と権威主義の歴史がある国(日本・韓国・台湾・ドイツ)とで人々の振舞いに違いが生まれた。 ・コロナにおいてフランス政府は無能だったが、フランス人は規律正しく振舞った。 ・地政学的な意味での国際秩序の力関係は「コロナ後」も変わらない。 インタビューものであることから論理的な深堀りが行われているわけではないが、トッド氏の考えを改めて整理することはできたかと思う。短くて、読みやすい。 しかし、不満は『パンデミック以後――米中激突と日本の最終選択』というタイトルである。なぜ、このタイトルが問題だと思ったのかを以下見ていきたい。 ①「パンデミック以後」 パンデミック発生後に行われたインタビューは半分の3件のみである。そのうちの最新のもの(本書で最初に置かれたもの)は、パンデミックよりもトランプ大統領の米国についてのコメントの方が多かった。二本目も含めてコロナに触れる場合は、それまでの各国や指導者の対応にまでへの言及がほとんどで、パンデミック後の世界について何かを示唆するようなものはほとんどない。 この本を、コロナ後の世界についてソ連崩壊やトランプ大統領就任を予測したエマニュエル・トッドが社会を分析してとがった予測をしているものだと思ったのであれば、それはタイトルのミスリードである。もし、パンデミック以後について語っているとすると、コロナによってはこれまでと大きくは変わらない、というものである。 ②「米中激突」 「米中激突」とタイトルは煽るが、米中対立関係はそこに触れられていないわけではないが、主題では全くない。どちらかというとドイツが帝国として欧州の覇権を握ることについての危機感や、EUの失敗を語ることが多い。何なら米中の激突ではなく、米国内の民主党支持層と共和党支持層や、上流階級と下層階級、異なる人種や移民との方がよほど激突を指摘されている。その米国については、著者がトランプの大統領選での勝利を予想していたことからも想像されるように、トランプ氏についての言及が多い。総じてトランプの保護主義的な経済政策は、結果としては論理的で有効な施策だったと語るところが刺激的だが、おそらくは何度か繰り返されてきた主張であり新味はあまりない。 ③「日本の最終選択」 「米中激突”と”日本の最終選択」とこの二つが関連するように書いているが、その二つはおよそ関係がない。日本についてトッドが問題と語るのは人口学者らしく、日本の高齢化問題についてだ。しかもその解決策は出生率の向上と移民施策とのみであり、何も具体的な政策などの選択肢を提示しているわけでも、この先に何が起きるかを予言しているわけでもない。そして、日本はそのことについて真剣に取り組んでいるように見えないと語るのみである。 さらに言うと、パンデミック以後の世界における日本の選択について書かれているかのように誤解してもおかしくはないが、高齢化社会の課題について指摘したインタビューはパンデミック前に実施されたもので、パンデミックと日本という文脈はほとんどないといっていい。 結論として、このタイトルは内容を示さない釣り文言の羅列であり、この短い新書をいかに売るのかだけを考えてつけられたものとしか感じられなかった。 また、掲載したインタビューの順番が新しいものから古いものの順に並んでいるのも気になった。発言の趣旨を追うのであれば、当然その順番は古いものから新しいものの順に並ぶべきだろう。逆順に並んでいても大きな問題にならないというのは、その内容が浅いものであるということを示していないだろうか。 トッド氏の主張は意味があるが、編集に真摯さを感じられなかったのが残念。 Posted by ブクログ 大野博人のレビューをもっと見る