【感想・ネタバレ】エマニュエル・トッドの思考地図のレビュー

あらすじ

時代の趨勢を見極め、その先を見通す知性をいかにして獲得するか。現代を代表する論客が、自身の思考の極意を世界で初めて語りつくす。完全日本語オリジナル。

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エマニュエル・トッドという社会学者の名前は聞いたことがあったが、著作を読んだことがなかったので、興味があって読んでみた。頭が良すぎて、世の中を未来まで見通せる人というぼんやりとした印象しか持ち合わせておらず、この本もそういう未来を見通す本なのかなと思ったら、まさに彼の頭の中の思考地図であった。大学院生として研究お作法本を最近多く読んでいるが、研究お作法本といってもよいと思う。とても参考になった。

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2021年05月03日

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単純に面白かった。難しいかと思っていたが、思っていたほどではなく、ある程度理解できたと思う。他にもトッド氏の著作を読みたいと思った。

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2021年05月02日

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エマニュエル・トッドの思考地図

個人的には、思考という部分では、かなり共感した。
トッドは思考するということは、じっくり椅子に座って考えるということではなく、本やデータを読みながら考えるというスタイルである。これは一般的な思考論とはやや異なるが、個人的にも納得できる。
確かに、基本的に自分も読みながら常に考えている。内田樹が何かを分析したりする前に、マルクスを数ページ読むという具合に、誰かが思考している形跡に触れることで、自分自身の脳もドライブされる感覚というものがある。本を読んでいるうちに、心の中にあったもやもやや、課題認識していたことがクリアになり、読み終わったころには、その本の内容のインプットはもちろんのこと、その他の心配事が解決し、アイデアが浮かんでメモするということはよくあることである。

さらに、思考することの本質は、現象と現象の間にある偶然の一致や関連性を見出すことと言っている。
トッドの仕事で言えば、変数間の一致を読み解くというのである。最近ではアナロジー思考という言葉で紹介されているが、この部分も非常に納得できた。大学時代、様々な分野の授業に潜って、経営学におけるケイパビリティ派とポジショニング派の対立の構造と、実存主義と構造主義の対立構造が似ていることなど、さまざまな分野における偶然の一致や変数間の一致を愉しみにしていたことを思い出した。
「これってこれと似ているよね」という偶然の一致を見つけた時には、その知的快感というものは最高潮になるのである。私はバレーボール部に所属していたが、スポーツや身体運動と人類学や哲学とのつながりや、映画のある種の深読み的な考察なども、この類の楽しみの一つだろう。

トッドの場合、膨大なデータを読み解き、家族構造と政治形態の一致を導きだすなど、純粋なデータオリエンテッドな思考力の叡智であるが、こうした愉しみは、多くの人も体感できるものだろう。

また、何か新しい味方をするうえで、外在性というものを意識しているとも記述があった。トクヴィルもそうであるが、自国の社会を考える上では、必ずや外の世界を見ることは重要である。共時的な部分もそうであるが、時間軸で考えても、古典を読むことはある種の外在性の獲得にもつながるのである。
両利きの経営でも紹介されていた知の探索とは、古典を読むことや自分の世界から脱出することも一つとしてカウントできるであろう。

社会には複数の教会が必要であるという記述もおもしろい。個人を束縛する枠組みがいくつもあると、強制を強いる複数の枠組みと個人が折衝して、逆説的ながらエアポケット的に個人の居場所ができるというものである。一つの思考の枠組みの虜囚となると、そこに完全に染まるか、まったく染まらないかしかないが、複数に枠組みがまたがることにより、逆に自分のスタンスが際立つという発想は面白い。

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2021年03月14日

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ネタバレ

3. 創造
p.114 本を出版したときも、どこの国の誰かもわからない人たちからポジティブな批評が届き、それに励まされたりしました。このように誰かによる温かい励ましというのが常にあったからこそ進んでこられたのだと思います。

4. 視点
p.120 社会をよりよく理解するための条件として挙げれるのは、個人的な経歴や出身地などにおいて、その社会の外側に属している部分があると言うことです。いわゆる、「外在性」です。文化的な意味で社会との間に不一致を抱えていたり、外国出身だったり、あるいは宗教などにおいてマイノリティに所属していたり、とにかく一部が社会の外側にいると言うことが重要です。

p.131 過去の書物を読むことで、現在に囚われない一歩ひいた視点を持つことが可能になるわけです。

5. 分析
p.165 アメリカの社会学者C・ライト・ミルズの著作に「社会学的想像力」というものがありますね。ごく単純に言えば、社会学的想像力とは、個人が日常生活で直面するようにな様々な困難を、社会の構造変化といったマクロな文脈で捉えるような視点を持つことです。

6. 出力
p.177 友達に書くことを目的として、どんどん書いていった結果文章を書けるようになった。
p.178 書きながら考えることはない。

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2024年09月23日

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作者をこの本で初めて知ったのだけれど、現実をデータで見るという人の思考について書かれている本。データありきで見ていくことで俯瞰して読み取れる能力があるのだと思う。日本を「まどろんでいる」と表現していたことに衝撃を受けたよ。

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2023年06月18日

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筆者の経歴からしても歴史贔屓が強い面はあるとは思うが、他の学問やビジネスにも適応できるような思考法を、噛み砕いて記述している本だと思う。ただ、本の執筆テーマに沿って筆者の過去のエピソードの挿入が多く、主題がとっ散らかってかえって読みにくいところも。
筆者の主観的な要素が強い本という点は注意しつつ、総じて四章あたりまでの内容は、これから論文やレポートを初めて書くという大学一年生におすすめしたい本(ファクトファースト、思考から予測への三つのフェーズ等)。作成方法のヒントだけでなく、大学で論文やレポートを執筆する意味や価値を見い出すことができるかも。
p.197に登場した「Hours de moi」(理性を失うこと。直訳すると「自分の外にいる」)は、初めて知ったが、面白いフランス語のフレーズ。この本のここまでにいたる主張に基づくなら、理性を失う状況はむしろ、「自分の内に籠もり、外が見えていない状態」であるという気がするが、対比的にも見える表現をあえてここで登場させているのかな?

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2023年06月04日

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良くも悪くも、ビジネス現場や自分が用いている思考と、工程としては変わらないことが分かったのは、良い収穫だった。

自分と違う点を挙げるなら、著者も本文で触れているが「批判を恐れず、知性に基づき発信する」覚悟の有無と、一連の思考プロセスをやり切る力の差だろうか。考えさせられた。

具体の話でも、「核家族か直系家族かで、人生への捉え方が変わる傾向がある」など、納得感のある仮説も得られて、氏の入門書として満足のいく1冊だった。

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2023年01月21日

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1.表紙をみて何となくの気持ちで購入しました。

2.歴史学者として名を馳せている著者が自身の思考についてどのように考えているかについて書かれた本です。著者は学者として数々の論文を執筆してきたり、メディアに出演してきましたがあくまでも自分の成果について述べたものです。しかし、今回は自身の思考についてです。普段はどのように思考をしているのか、習慣化しているものは何なのかなど、今までとは違った視点が書かれた本です。

3.一般的な学者世界からは敬遠されがちの著者がどのような思考をしているのかが気になりましたが、根本的には過去のデータを検証すること、日ごろからストックを増やしておくこと等を習慣化していることに変わりはありませんでした。ただ、一点違うところは過去の先輩たちに負けないところです。自身の論理をしっかりと自信をもって言語化していることでここまでのことが出来るのだと思います。

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2022年09月16日

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エマニュエル・トッドの日本限定の本で、彼の思考プロセスについての本。

エマニュエル・トッドは、日本では有名(?)だけど、どうもフランスではあまり評価されていない、あるいは批判の対象になってしまうような存在のようです。

日本では、ソ連の崩壊を始め、さまざまな予言のヒット率で評価されているようだけど、フランスでなにかと騒ぎを起こしてしまうのは、彼の思考のプロセスによるものが多いようだ。

この本によると彼の思考は、イギリス経験主義的な方法で具体的な事実、数字を丹念にもていくことを通じて浮かび上がる直感的な仮説をまた丁寧に実証していくというもの。ある意味、当たり前といえば、当たり前の方法論。

が、これがフランスの演繹的な思考法とはなかなか合わないらしい。

さらには、トッドの世界を見る目のベースは家族構造と人口統計。そうしたことから、国や地方ごとの文化や宗教的な傾向、イデオロギーを解釈していく。

人間の活動の「深い」ところをそういう構造で説明されると、なんだかちょっとバカにされた気がしなくもない。

そういう説明に対して、「個人主義」の強いフランスは気分を害するだろうし、そこまで個の主張の強くなく、なんとなくまわりとの関係で自分の考えを調整する日本では、そんなに違和感がないのかもしれない。

というエマニュエル・トッドの受容度の差も、家族構造で説明可能ということなのかな?

そんなエマニュエル・トッドは、同時代的に進行している事柄に対してコメントをするのだが、とくにそういう発言は今生きている人たちに関わることなるので、非難の対象になりやすいのだと思う。さらに、それは、個人の心情を超えて、集団としての目に見えない、無意識的な反応を含むものなので、個々人は、「自分はそうでない」と思ったりするし、無意識的なことは因果が証明できない、ということで、眉唾に思われるのだろう。

エマニュエル・トッドのコロナやウクライナに関するコメントについては、わたしも読んで、ちょっと苛立ちを感じた。

なんか、道徳的、倫理的に、なんだか違うんじゃないかと感覚。

この本を読んでわかったのは、エマニュエル・トッドの良い / 悪いの判断は、なんらかの倫理的な基準にもとづくものではないということ。現実を分析して、それがどういう方向に動きそうなのか、という分析にもとづいてのものである。

わたしは、現実の分析はそれはそれであって、それとは別に倫理的にどうあるのが望ましいのかという理念のようなものはまた別にあって、この2つを組み合わせたときに、どういうことが機能しそうなのか、というふうに考えるわけだが、トッドは、もっと現実派なのかな?

トッドは、ある意味、古典的・科学主義的な方法論ともいえて、その後のポスト・モダーン思想からすると、なんだかプリミティヴな感じもうけつつ、この本を読んで、彼の思考を理解すれば、トッドの言っていることから、自分にとって大事なものをすくい上げることが容易になるかもしれない。

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2022年07月31日

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著者の本は、いくつか読んできて、視点の鋭さと深さに感銘を受けてきました。
昨年は大分断を読み、次に読もうと思っていた本。

読者が本書を読んで、再現するのは難しいが、著者の考え方がよく分かる内容。
一般のビジネスパーソンにも必要な考え方が盛り込まれており、大局観や長期視点を得るために必要な要素が散りばめられている。

参考になった内容は下記の通り。
・直感やアイデアが浮かばない理由
①自分の中に無意識でランダムな考え方がない
②ある考えが許されない・出来ない社会となっている可能性がある
・グループシンク
 小さなアトム化した信条を、拠り所にする人々が溢れている
・現実を直視する条件として「外在性」が必要
・マイケル・ヤング「メリトクラシーの法則」
・未来を見たいなら、歴史的な観察から考察するのは必要不可欠(長期的な傾向を捉える)
・相関係数が0.9となったら、重大な間違いを犯しているかもしれないと気づくべき
(社会科学では不完全な数値が含まれるため、相関関係を弱める)
・価値観ではなく、知性の戦いが重要(アウトプットでの戦い)
・大学では思考することを学ぶが、同時に、自由に思考することを阻止する
・人間というのは不穏な事態に目をそらす能力を備えている
・思考から予測のフェーズ
 経験主義→対比→芸術
・知識人に必要なのは、プロフェッショナリズムである
・芸術的な学者の条件は、リスクを負う、思い切る勇気がある

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2022年01月28日

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フランスの歴史人類学者のエマニュエル・トッド氏による学術書というかエッセイというか、カテゴライズが難しい本だった。

トッド氏の考えが数々の本から得られたアイディアや知識によりそれらが混合、発酵し、自らの考えになっていくという過程が描かれている。

このコロナ禍にある世界情勢の中で、「日本に向けた本」ということだけでも本書は読む価値がある一冊。

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2021年08月24日

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齢69にしてこの尖り。
マクロンをこけにするあたりが最高。
異常に強い相関関係は、実は同じ事実から派生している2つの事象だった。とは。
最終章の未来の畳みかけと放り投げが素敵。20年後トッド氏なきあとを見届けたい。

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2021年06月19日

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先入観や偏見を避けるために、事実やデータから入ることが大切である。「データを十分に時間をかけて痛めつければ、希望する情報が得られる」と言うけれど、使う人が善良であれば、善良な人には届くと思う。
どれだけデータと情報が正しくても、先入観や偏見の強い人には届かない。そこをどう対処しているのかが気になった。読み取れていないだけかもしれない。

さらに、論理だけでなく熱い心も持っている。それゆえに軋轢を生み、大勢の敵を作ることもあるが、心がしっかりしているので揺るがない。本当に強いなあと思う。挙げられていた著作も読もうと思う。

著者はとにかくよく読む。まずはそこから真似したい。
若い頃はつぶすほどの時間があったが本を読んでいればよかったなあと思う。子供には「本を読め」というのではなく、自然に読みたくなるように働きかけているが、それを続けてかつ改善していきたい。

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2021年06月04日

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著名な歴史人口学者の思考の仕方を整理した本。
本国では、(本人いわく)敵が多いせいか、日本人向けオリジナルというのがよい。
下記の項目を一つひとつ自分や他者の作品にふれながら語る。

入力
対象
創造
視点
分析
出力
倫理
未来

入力から出力までのところは、大量のデータを仕入れて、創造的知性によってモデルをつくって、検証する、という流れが、自分にはしっくりくる。

以下、重要と思ったところ。
・歴史とデータが重要という見解は共感する
・彼の分析の仕方では、数字の裏に人がいることを読み取る。「統計的想像力」というのは面白い
・著者にとって書くことのイメージが変化してきたこと。肉付けしながら書く。か、頭の中でモデルを構築してディクテーションする。どちらが良いというのではないが、頭の使い方のバリエーションという点では参考になる。自分はそもそも後者の方が馴染むかもしれない。
・倫理を研究者としてつらぬくというのはおかれた大学のようなコミュニテイに環境適応することではない。研究の良否に忠実になること。価値判断は不要
・ポストコロナで思想は変わらない。深刻化するのみ。エイズの時との比較が芸術家になる前に必要
・予測が得意というのはなかなか言いづらいもだが、最後や勇気をもつということだといっている。なお。予測は創造的知性とは異なる

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2021年05月24日

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文中で色々な学者、政治家に対する批判や、自身に対する批判も出てくる。学者の考え方、学説の違いは、そこに至る基本的な考え方、社会に対するスタンスの差による事が分かる。作者の「思想ではなく事実から始めよ」「思想やイデオロギーが出発点にあると…それに合致した事実ばかりに注目し、前提にそぐわない事実を排除してしまい…結果として自分の考えに合わせて現実を歪めてしまう…まともな研究と言えない」「ひたすらにデータを収集し事実の積み重ねの中からやがてモデルを生み出していく」というスタンスから、ソ連崩壊、リーマンショック、英国EU離脱が予見出来たと。学者はかくあって欲しい。

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2021年05月01日

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新しい発想は、何もないところから生まれてくるわけではない。たくさんの知識やデータが蓄積された上で、互いの関連性が見出され、新しい事実が表出してくる。著者自身の社会科学についての方法論。

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2021年04月18日

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話題の歴史学者である著者の研究過程を紐解く本作。
ソ連の崩壊、リーマンショック、EUの破綻(イギリスの離脱)を予見できたのは、どのような思考回路から出てきたものなのか。
とにかく沢山の書物に触れること。広い視野から湧き出るインスピレーション。そして検証には嘘の無い数値データを用いる。家族制度、識字率、出生率、死亡率等を組み合わせると見えてくるという。
すごいなあ。の一言。正直、凡人には解りません。

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2021年04月13日

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思考することは、事象と事象の間にある偶然の一致や共通性を見出すこと
そのベースとして、統計データと歴史のインプットが必要。それを踏まえての着想が大事だと繰り返し説かれていた。
電子書籍で読んだが、実物を見たらデザインも素敵だったので、紙の本で読みたかった本。

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2021年04月21日

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フランス人学者エマニエル・ドット氏が、自らの思考の仕方を述べたもの。普段は独特の視点から、鋭く現代や将来の情勢を分析、予測している著者であるが、この本は日本人に対して、自らがどのように状況をつかみ、分析し、発信しているのかの過程を詳しく述べている。正確なデータや事実を重視し情報を収集、蓄積していくことを何より大切にしていることが、よく理解できた。古典的哲学書や小説からも学んでいることも興味深い。勉強になった。

「私は社会から集団的な枠組み(思想や信仰など)が消滅すると、経済活動や社会活動といった集合的活動がより困難になると考えています。これまで集団的枠組みというのは一種の制約であって、それが崩壊すると個人はより自由になるということがさんざん言われてきました。私はこの一人の個人というのは賛美されるような存在ではなく、か弱い存在であると考えています。集団的な構造が崩壊することで個人は混迷し、模倣しているだけのような存在となり、自分が置かれた環境のプレッシャーに押しつぶされてしまっているのです」p5
「歴史に対して何一つビジョンを持っていない人が歴史を、そしてその延長線上にある現在や未来を思考するというのは非常に難しいのです。不可能だと言ってもいいでしょう」p6
「歴史的にみると、起業の自由や資本主義というものは、宗教あるいは家族から発生する社会的な道徳を基礎としていなければ機能しないものでした。家族あるいは宗教に根ざす道徳心がなければ、資本主義は効力をなくし、腐敗していくのです」p18
「(学ぶことの喜び)私にはこの学ぶ喜び、それに対する情熱があり、それこそが私の人生の本質といってもいいかと思います」p27
「私の仕事の95%は読書です。残りの5%は執筆です」p45
「研究を進めるためには、とにかく事実(ファクト)を蓄積しなければなりません。読書というのはこの事実の蓄積に不可欠なものです」p45
「私にとって人間を描くことは社会を描くことと同様です。人間は社会なしには存在できないのですから」p70
「「人間とは何か」というような抽象的な問いから出発すれば、どこかで間違えてしまうと私は考えています。「人間とは何か」と自問して、観念から出発すると、歴史を見誤ってしまったり、あるいはねじ曲げてしまう。そうではなく、まずは、先入観やイデオロギーを極力脇に置いて、歴史を見るべきなのです。人間の歴史を学ぶとそこからさまざまな社会における人間どおしの関係性が見えてきます。この歴史こそが「人間とは何か」を語りかけてくれるのです」p81
「人がお互いを殺しあったり拷問したりする生き物だということも歴史からわかります」p83
「とても残念に思うことの一つは、フランスの教育課程では、科学や数学に関して最新の情報しか生徒たちに伝授されないという点です。この点は日本も同様なのではないでしょうか。とにかく最新の研究成果や最先端のことばかりが教えられるのです。もちろんそれも必要なのですが、科学の歴史を学ぶことは、人間がどのようにして科学的な疑問を抱き、それに答えを見つけていったかというその過程を学ぶことであり、それも重要なことなのです。科学の歴史も、人間の知的な発展について大切なことを示してくれているのです」p85
「自分より前に多くの人々が発信したデータをひたすら取り入れるということは大切です。そして知識を蓄積していると、ある日突然アイデアが湧くという瞬間があるのです。それは、まったく偶然の出来事です」p88
「(思想ではなく事実から始めよ)何らかの思想やイデオロギーが出発点にあると、人は知らず識らずのうちに、それに合致した事実ばかりに注目し、前提にそぐわない事実を排除してしまいます。結果として、自分の考えに合わせて現実をゆがめてしまうわけです」p117
「出発点はつねに事実でなければなりません。ひたすらデータを収集し、事実の積み重ねの中からやがてモデルを生み出していく」p117
「うまく機能しすぎる知性ではダメなのです。これは私の根本にある信条なのですが、まともではない思考をしてみたり、とっぴな関連性を見いだしたりということができなければいけないのです。脳があまりにも効率よく働いてしまう人たち、つまり出る杭にはなれない人たちからは新しいアイデアは生まれません。軽い精神障害というのは、もしかすると研究にとってのアドバンテージになる可能性もありますね」p135
「ひとつはっきりと言えることは、アイデアが浮かぶのは鬱状態に陥っている時なのです。元気な時は絶対、何一つ浮かびませんから」p137
「私が何かについて考える際の軸となっているものは、一つはデータであり、もう一つは歴史です」p140
「長期的な傾向についての知識を持っているということは、今日の突然で極端な変化をしっかりと捉えることにつながるのです。長期スパンの分析が、急激な変化を理解し、それに対応する力をつけてくれるわけです」p149
「(大学で偉くなること)社会科学でキャリアを積むためには、その業界と調和して、また自分たちも属している中流階級のメインストリームの思想と合致した考え方を示すことが大切なのです。そうしていればどんどん出世することは可能なわけです(著者にはできなかった)」p192
「激しい批判というのは、むしろ特権的なことですらあるのです。たとえば私の長女は四年も私を無視していた期間があります。そしてあるとき、私がメッセージを送ると、ひどい罵倒が返ってきました。その時に私は思ったのです。反応があるということはいいことだと。そしてそれからしばらくして私は彼女と和解することができたのです」p207

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2021年03月03日

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学者の人の頭の中は一方通行じゃないというのが具体例で理解することができた。ただ、興味関心の対象が自分自身のものとあまり合わなかった。

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2024年08月08日

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自分に(読者に)語りかけるように、今まで書いてきた本のこと、思考する事でのインプットやアウトプット方法、自分なりの世の中の未来予想など書かれていました。

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2024年01月17日

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トッド自身のこれまでを振り返りながら、その思考プロセスについて書かれた本。歴史的視点の大切さや読書法、データ・現実を重視する視点など、なるほどと思わせる内容。ただ当然と言えばそれまでだが、フランス人学者である著者のヨーロッパ的な考え方がベースにあるため、やや複雑&同意し難い記述も見られるように感じた。

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2023年10月15日

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ここにある思考地図はよくある分析アナリストの基本のようなものだ。トッド氏の重要視している点は、事実に基づく統計数値データを如何に先入観なくして分析・出力すること、さらに、史実に基づく歴史観比較が付加されることにある。歴史は繰り返すの如く事件事故、災害も過去の史実が参考になる場合も多く、特に政治家の政策などは「前例」を重視する人間が多いのはそこに理由がある。だが、悪い事に過去20〜30年の歴史でも政府の政策で最新技術を駆逐した対処にはなっていないのが残念だ。今回のコロナ対策で、多くの国々が「マスク・対処機器」がほとんど自国以外であったことの誤りが浮かび上がったことは今後の政策にも参考になったと思う。

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2023年05月20日

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社会を把握するための数字の見方が参考になる。

著者のエマニュエル・トッドは、歴史人口学者であるが、ソ連崩壊やトランプ当選などの予言で知られる。
多くの社会学が、人の主義や価値観について仮説・推論を展開するのに対し、著者のアプローチは各国の人口動態、家族構成などの統計から、人々の感情を思い浮かべる、経験主義的なものなのが特徴的である。

特に興味深かったのは、統計データの信頼性について、死亡率は嘘がつけないというものだ。著者に言わせれば、物価、GDPなどはサービス経済になってからは何を表すのか分からない。訴訟が増え弁護士の手数料が膨大になることが生産なのだろうか?と言われると確かにその通りと思ってしまう。社会科学においては実験経済学のような、できるだけ科学的にあろうとするアプローチもあるが、そもそもの測るものが間違えていたら結果は意味をなさないことになる…

本人は、数学が得意で哲学が嫌いという道を進んだ結果のように言っていて、随所に現れるフランス哲学の批判、科学的でない社会学の批判は相変わらず面白い。

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2023年02月27日

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エマニュエル・トッドの読書論という感じで、普段日本人の読書論にしか触れていないために新鮮。著者は、ソ連崩壊を予測したデータサイエンティストの一面も持ちながら、しかし、小説も含めてあらゆる本を読みながら、真理、仮説を導き出していくキュレーションのような作法も用いるという。この点は、読書の仕方が自分に似ていて単純に嬉しかった。尚、ソ連崩壊を予測するに役立ったデータの一つは、乳児死亡率との事。相関係数を分析しながらもデータの読み解きが出来なければ、意味が無い。そのため、論説の肉付けをどうするか、思考地図という表現で解説している。

話は本著から逸れるが、地獄とは、脳が苦しみを感受、持続する状態であり、近世以前は、病気や飢え、差別や暴力のような地獄を生きる人が多かった。その抜け道は、犯罪、自害、或いは革命。世界は次第に良くなっているのだとしても、地獄を生きる生活者に対して、何をすべきか。学者の論述を読んでいても、そこに辿りつけない気がした。

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2022年07月10日

Posted by ブクログ

歴史人口学者と言う肩書きのフランス人のお爺さんの本。

出生率から各国の動向を予想するのは、かなり雑な推論にも思えるけど、歴史学者として、彼の頭の中にある膨大な知識と紐付いての事なのかも。嫌いじゃないけど、好きでもないと言う薄っぺらい感想で終わりにしよう。

彼の出自や両親、子供たちやその配偶者が様々な国の出身で、宗教も途中で改宗したり、多様な視点を持ち得ているところが魅力ではあると思う。

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2021年10月02日

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筆者のエッセイ。
どう考えていくのか?という個人的な思考プロセスをテーマとしながら、
あとは随筆的なアプローチで、筆者が考えている事象についての考察が入る。

体系的にまとまっているものではないが、思考に人生を捧げた人の考えが知れるという観点では知的好奇心が刺激されて面白かったし、いわゆる学術書ではないので、1日で読めてしまうので、コスパもよかった。

思考とは、内的対話ではなく、調べること、書くこと、つまり手作業だということは面白い観点。
一方、書かなくても良くなったとも書かれている。

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2021年06月12日

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ある時代の社会ダイナミズムの全体をなんとか記述してやろう、というアナール学派の大胆不敵?なチャレンジには、あれやこれやと史料やファクトをとめどなく?渉猟しつつ、もやっと考えることを決して止めずに、鍵となる関係性についてのアイデアが閃くのを待つ、という感じ。
ここから一般人が得られるヒントとしては、乱読もまた良し、ということかな。

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2021年05月29日

Posted by ブクログ

学者さんが書いたこの種の本を読むのに慣れていないせいか、少し読みづらい気はしたが、思考の流れはよく理解でき、主義思想でなく歴史やデータを重要視する研究姿勢や、ルーティンから脱却して視点を変えてみる必要性は共感できた。

目次とは別に冒頭のページにあった「思考の見取り図」がわかりやすかった。

インプット→着想→検証→分析・洞察→予測

・歴史とデータによる経験主義
・膨大なデータ収集し事実(ファクト)を蓄積
・ルーティンから脱却してのアウトサイダーの視点

自分自身に置き換えると、インプット→着想を数多くやってもその先が不十分だから考えが深まらないことを、痛感した。




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2021年06月06日

Posted by ブクログ

ソ連崩壊やイギリスのEU離脱などの予測を的中させたという歴史人口学者のエマニュエル・トッドが自ら思考の極意をまとめた日本語オリジナルの一冊。読みずらいかなと思ったがそんなことはなく、トッドがどのように情報を得てどのように考えどんな形でアウトプットするかが詳細に語られる(冒頭で哲学は役に立たないといっているのが印象的)。最後の方で、ポストコロナ時代の日本についての予測が書かれている。

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2021年03月14日

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