野崎歓のレビュー一覧
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ネタバレずっと夢日記を読んでいる感覚だった。
「コランは道を走っていた。 「きっとすばらしい結婚式になるぞ……。明日、明日の朝だ。友だちはみんなきてくれる……」 クロエに通じる道だった。 「クロエ、あなたの唇はやわらかい。あなたの顔は果物のようにつやつやだ。あなたの目はしっかりとものを見ている。そしてあなたの体はぼくを熱くしてくれる……」 ビー玉が道を転がり、子どもたちがそのあとを追いかけてきた。 「あなたに十分キスしたという気持ちになるまでには、何カ月も、何カ月もかかるだろう。あなたに、あなたの手に、あなたの髪に、あなたの目に、あなたの首にキスしたいというぼくの想いが尽きるまでには、何カ月も、 -
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謎の組織によるテロ行為はエスカレートし遂に犠牲者が出る。
その煽りを受けながら大統領選は終結する。
家族内での不幸。もっとも若い息子が死に、体の不自由な父親は生き延びる。
主人公は妻との関係を修復するも過酷な運命が待ち受けていた。
上巻から物語の重要な要素と思われていたテロとの戦いや大統領選は尻すぼみに終わり、家族の話、そして主人公個人の生死をめぐる話へと収束していく。スケールの縮小。
弟オーレリアンはともかく、妹セシルや義妹インディーは最後まで活躍するかと思ったが。イラストまで用いたテロ組織の正体は投げっぱなし。
大統領選もあれだけ騒いでおいていざ終わればあっけない。その終わり方も味気な -
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「1731年の小説なんて絶対面白くないだろうけど、まあここらで古典でも一冊読んどかんとなあ」程度で手に取ったのだが……衝撃をうけるほど面白い。それも圧倒的に。いやいやまんまとこのハチャメチャな物語に魅了されてしまった。訳者あとがきで「従来の常識では考えられないようなパッションのありさまは、読者をいまだに驚かせ、魅了し、あるいは呆れさせるだろう」とあるが、まさにこの通り。シュバリエ・デ・グリュとマノン・レスコーという300年前を生きた2人の若い愚か者のまあ魅力的なことといったらない。
ヤッバイ恋愛楽しすぎる‼これ運命だわ。でも金に困ったので友達とか親戚にたかりまーす。それでも足りないので詐欺し -
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作家ミシェル・ウエルベックの最新刊。時は2027年、大統領選挙を間近に控えるフランスを舞台に、経済財務大臣補佐官のポールを通して同国および世界の抱える病理と苦悩を見つめた大作。
相次ぐ国際テロ事件、選挙に向けた候補者応援活動、そしてパラレルに進行するポールと彼を取り巻く親族の家庭問題が、筆者の皮肉やジョーク、近現代の哲学思想をふんだんに交えて展開される。
ポピュリズムに支配される政治ゲーム、晩婚化と少子高齢化、過酷な介護の現場、メディアによる暴露など日本とも無関係ではないトピックに彩られながら、救われたいと願いつつ運命に翻弄される現代人を浮き彫りにする。滅び行く世界の中で、ポールと妻プリュ -
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「マノン・レスコー」アベ・プレヴォー。初出は1731年、フランス文学です。光文社古典新訳文庫、野崎歓訳、2017年。
1731年というのは、古いですね。ディケンズだってヴェルヌだって19世紀です。スタンダールも作品は19世紀。19世紀ともなると、他にも「現代にそのまま通じるエンタメ小説」はいくつもありますが、18世紀はなかなか。
…なんで、ひょっとして辛い読書かなとも微かに思ったのですが、見事に裏切られました。圧倒的に面白かった。
#お話は、はじめ18歳くらいのどうやら貴族的身分の若者デ・グリューさんが、マノン・レスコーという名前の出自不明の美少女とばったり出会うことからはじまって。
一気に -
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1731年刊。ファム・ファタール像を示したフランス文学の古典。駆け落ちから破滅に至る悲劇的恋愛を描く。
もともとは真面目っぽい性格で、才能もあり将来に期待のもてる貴族の青少年だったのに、ひとたび恋の力に囚われると、駆け落ちから無心、犯罪、逃亡、と無茶をやらかしまくるデ・グリュ。どうしようもないなこの主人公……と呆れながらも、二転三転する展開の面白さと、恋のためにすべてを投げ出す情熱に引き込まれていく。終盤に至るころにはその純粋で激烈な愛情に感動すら覚えていた。しかし主人公の言動がわかりやすいのに対して、マノンの魅力には妖しさがつきまとう。彼女の本心に謎を感じさせるあたりも多くの読者を惹きつけ -
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(訳者解説から抜粋)
この本の表題、『赤と黒』の意味は様々な説がある。この2色に政治的、歴史的な意味があるという解釈が多くなされ、代表的なのは、「赤が軍服を、黒が僧服を表す」という説。そのほかにも、「共和主義・自由主義と宗教」の対比だとか、「情熱と死」の対比だとかいう説もあるが、いまだに真意は明確ではないのだそう。
また、上巻・下巻どちらの巻末にも英語で「To the happy few」というフレーズはスタンダールから読者へのメッセージであり、「最後まで付き合ってくださったあなたは幸福なる少数者なのですよ」という自負がみられる。
(感想)
我々の恋心、「こんな恋愛をしてみたい」とい -
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モームの選んだ「世界10大小説」の一つ。『赤と黒』の初版本には、副題として表紙に「19世紀年代記」、中扉に「1830年代記」と記されている。
「年代記(chronic)」という単語に「この作品を単なるフィクションとは受け取るなかれ」という著者の意図が見てとれる(訳者野崎さんの読書ガイドより引用)。
『赤と黒』で描かれるのはシャルル10世の治世(王政復古期)である。王党派や教会権力(保守的勢力)vs. 自由主義勢力(改革派)という対立構造があることを踏まえておくと良い。
また、この小説は「史上初の、サラリーマンを主人公とする小説だと述べる研究者もいるくらいで、ヴェリエールではレナール氏、パ -
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「フランス組曲」は構想として4部、または5部に渡る大長編になる予定だった。しかし書かれたのは第2部までである。著者がアウシュヴィッツで殺されてしまったためだ。
第一部「六月の嵐」はフランスに進攻してきたドイツ軍のあまりの進撃の早さに、パリの人々が逃げ惑う話だ。
前線の情報が入るのが遅く、遠く砲声は聞こえてくるがパリに住む人々はフランス軍がそんなにあっけなくやられるわけがないと信じていた。一刻も早く逃げなくてはいけない事態になっても、大丈夫かもしれない、とどこか信じている。正常性バイアスの典型例だ。
しかしフランス軍の敗走が明らかになり、事態がいよいよ深刻になってくるにつれて、みな慌 -
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ネタバレ語り手の私が観たマノンの様子は、上流の令嬢にも見え、慎み深い心の持ち主に見えたというので、その後に書かれているアメリカに送られることになるまでの行動からイメージする奔放な様子とはイメージが違い、頭の中で描く姿が定まりません。
シュヴァリエのことを愛してはいるように思えるときもあるのですが、いやいや、その行動は無いでしょう、何を考えているの?本当に愛しているの?と言いたくなる。シュヴァリエが気づいているように、単に「楽しみ」を「享楽」を求めているだけで、それは「愛」を超えているように思える。愛が根底にあれば裏切り、それも楽しみや享楽を求めた裏切りを許せるものなのか?裏切る人間に愛があるのか?本 -
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1942年アウシュビッツで亡くなったロシア系ユダヤ人作家が遺した作品。
生き残った娘に託されたトランクの中に入っていたもので、創作ノートも残っており、本になっている2つの章(?)で終わらず、もっと続く予定だったようだ。
最初の「六月の嵐」はドイツ軍が侵攻してくるというニュースを聞いてパリ市民が郊外へ逃げていく「大脱走(エクソダス)」の様が描かれる。複数の家族、夫婦、恋人たちが登場する。なんというか因果応報なところもあって、にやりとさせられる。
次の「ドルチェ」はドイツ軍が宿泊する田舎町の複数の家の様子が描かれる。
巻末には著者の創作ノートと書簡を所収。 -
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ネタバレ心の内を分かち合う相手のいない人びとが孤立したまま宇宙にちらばり、あるいは砂漠を彷徨っている。
可愛らしい王子さまの冒険だけど孤独なお話。
だからこそ、なついた薔薇やきつねは特別な存在。
だらかにとっての特別ってだれかにとってのなんでもない存在。
ボアが猛獣をのみこもうとしている絵。
ボアが象を消化している絵。
想像力って生きるうえで糧になるなぁ。
大切なことは目に見えない。
有名すぎる本の光文社古典新訳ちいさな王子。
知ってるようで知らない忘れてるおはなし。
人生に大切なことがつまってる。
わたしたち大人は、赤ら顔さんというおじさんだなぁ。いつもやってるのは足し算ばっかり。目の前 -
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ネタバレ芸術と資本主義とアーティストの描くきれいな世界の終わりの話。人間と機械と芸術。
自分を自分が描く小説の中に描き出して自分を殺して、自分の死を誰かの(自分の描き出した架空の人間を)世界の終わりの思想の礎に仕立て上げたたストーリーが素晴らしかった。現実の世界と、現実の著者、そして架空の人間の架空の芸術、架空の芸術が評価されていく中に現実の著者が存在し、そしてその著者により影響を受けた芸術がまた成長してひとつの形になっていく。現実の中に架空の美があって、ページをめくり読み進めていくうちに、架空の美が本当に存在するもののような気持ちになっていく。
文中にはものすごい量の固有名詞が登場する。この小説は「