野崎歓のレビュー一覧

  • 地図と領土

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    著者本人が登場して惨殺されるという突拍子もない設定だが物語は破綻することなく粛々と進んでいく。ユーモアと批評を散りばめた文体がクセになる。現代におけるアートのあり方をテーマに選んだこの作品がフランスで非常に高い評価を得たのは、そもそもアートに対する関心や批評性が高いからとも言えるだろう。肖像画を描く画家の心情は想像するしかないのだが、村上春樹による「騎士団長殺し」にも描かれていたように対象の姿からなにかを掘り起こすような内面的な闘争がそこにあるのだろうか。興味深い。

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    2020年05月04日
  • 素粒子

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    高校教師の兄と科学者の弟、異父兄弟がその身を滅ぼしていく過程が描かれています
    20世紀にかけて欧米で起こった社会制度、家族制度の変化、性の自由化の流れがわかり易く描写されています。
    下ネタだらけなので苦手な人は読まない方がいいです

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    2020年04月12日
  • 地図と領土

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    ネタバレ

    ミシェル・ウェルベック「地図と領土」

    今何かと話題のミシェル・ウェルベック、ついに手に取ってみた。結論、猛烈に面白い。以下、微妙にネタバレを含む。

    母親を自殺で亡くした内向的な青年が写真、さらには絵に打ち込む。その才能を見出すのは手練れの「芸術のプロフェッショナル」たち。ミシュランの広報という絵にかいたような業界エリートである美女との恋をきっかけに作品にはいつのまにかすさまじい高額がオファーされ、主人公は目もくらむような高みに導かれていく。

    テーマはずばり「芸術に値段をつけられるか」。著者のビジネス視点がいかにも正確で、通俗的な「金儲け悪徳論」とは一線を画す。そしてそれ故になおさら個人の

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    2019年01月02日
  • 赤と黒(下)

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    つわり中に読んだ。後半のお嬢ちゃんとの押し問答が若干メンドクセーって感じだったけど、最後さー主人公ないわ〜おじょうちゃんかわいそすぎるでしょ…お嬢ちゃんってあれね、お世話になった貴族の家のお嬢ちゃんね…名前忘れちゃった。さて今イギリスにおりますけど階級による差別の描写や会話内容の一部はかなり今に通じるものがある。この話フランスのではあるけど。

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    2018年11月24日
  • ちいさな王子

    ネタバレ

    深い

    ちいさな王子
    星の王子さま をファンタジーになりすぎず親しみやすく愛情をこめてあえて違う訳し方をした題名の本。とにかく深い…。最初は意味がわからなかったけど考えてみると一つ一つに意味がある。まず登場人物がみんな一人きりで過ごしていること。一人でいると自分だけのことを考えてしまいがちだけど誰かのために行動できることが巡り巡って自分のためになるんじゃないかなって思った。
    だって王様やビジネスマンより王子様や点灯を繰り返している人の方が楽しそうだもの。
    これが一期一会みたいなものの大切さをあらわしてるような気もした。
    出会ってなつかせること、これによって人は目には見えない絆を築くことができる

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    2018年06月13日
  • 素粒子

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    作者の掌の上できれいに転がされた感じがする。一本の小説の中で何回、不幸と一瞬届きそうになる幸福の間を行ったり来たりしただろうか。これでもかというくらい振り回され、同情を誘い、もはや「素粒子」というタイトルが匂わすSF的結末への期待をも忘れて、途方もなく哀愁漂うなけなしの性愛物語として十分満足だ、と観念しかけた頃、ついに結末がやってくる。そのカタルシスたるや、圧巻である。一切の苦悩から解放されたときのような浄福を自分は味わった。自由と進歩主義に対するにべもない唾棄には思わず笑ってしまったが、このとき、登場人物たちに対する自分の数々の共感と同情も一緒に笑い飛ばされてしまった。それがまた爽快。ウェル

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    2018年03月18日
  • 地図と領土

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    ネタバレ

    アーティストのジェドの一生の話。世界そのものを表現するために「工業製品の写真」→「ミシュランの地図の拡大写真」→「職業人の肖像画」と表現が変遷していくが、ジェドその人は、単なる鏡としての人なのか、空虚で、情熱のようなものがあまり伺えないように見えた。晩年の圧倒的な諦念・孤独の中で制作された作品群にようやくエモーション、想いのようなものが感じられたような気がする。とかいって、すべて芸術作品を文章で読まされているわけですが。エビローグの、寂寞さがすごいのと、ウェルベックのテーマがてんこ盛りなのが、なんだか微笑ましい気持ちにさせられた。でも、自分の人生における交友関係も先細りだし、最後はこんな状態に

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    2017年11月01日
  • 赤と黒(下)

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    ネタバレ

    まさかの最後だった。
    レナール夫人はあの手紙に書いたことを、真実として書いたのか、それとも・・・
    主人公が穏やかな気分になれたことが、救いだと思った。
    ナポレオン戦争に関する書物を読んで再読したい一冊。

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    2017年10月12日
  • 素粒子

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    ネタバレ

    人間存在の孤独についての物語が、どこまでも個人的なエピソードを通じて、しかし普遍的な確信をもって語られる。

    小説の主軸になるのはふたりの異父兄弟。兄は女にもてず、不惑を超えても性的な彷徨を続けている文学教師。弟は、相手が男であれ女であれ、他者と人間関係を築き難い天才科学者。
    西欧文明の終焉を背景に、兄弟と彼らを取り巻く人間たちを透かして、孤独の絶対性が描かれる。

    ラストで明かされる物語構造と人間存在への視点は超越的で、冷徹でありながら甘美だ。それはニーチェの超人思想を思い出させる。人間は生まれながらに重荷を背負ったものであり、人間の先に続いて現れるもの(があるとして)への架け橋でしかない、

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    2017年04月20日
  • フランス文学と愛

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    フランス文学を「アムール」を切り口として、男女、親子の間の「愛」、現代の「愛」という視点で読み解いていくもの。大変面白い本でした。

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    2014年11月17日
  • 赤と黒(上)

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    スタンダールは、大学時代に読んだ「パルムの僧院」以来で、初読というのが恥かしくなるほどのド古典だが、初読。

    訳者の野崎歓が言う通り、1830年代当時よりも、自らを偽って生きることの多い(そして恋愛のゲーム化がますます進む)現代において、なお共感されるところの大きな小説と言えるだろう。現代的なエンターテイメント小説と比較すると、構成に荒削りなところは多いが、それでも「近代小説の嚆矢」と言われるスタンダールの面目躍如といった作品で、ほとんど一気読みだった。

    野崎訳に対する批判は、すでにあちこちで論じられている通り、違和感のある文章がなかったと言えば嘘になる。しかし、そもそもこの問題は、翻訳自体

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    2014年06月27日
  • うたかたの日々

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    美しく楽しい日々が結婚式を境にどんどん転落していく。誰にもどうにもできない虚しさ。ラストのキリストとの対話、ハツカネズミがとてもとても悲しい。全てを読み終えて、まえがきに「大切なことは二つだけ。どんな流儀であれ、きれいな女の子相手の恋愛。そしてニューオーリンズの音楽、つまりデューク・エリントンの音楽。ほかのものは消えていい。なぜなら醜いから。」とあってさらに悲しくなった。それはコランに美しい日々の思い出が残ったからなのか…コランが消えていい存在に落ちぶれてしまったからなのか…若さの美しさ楽しさ痛み苦しみがいつまでも尾を引く。

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    2014年06月02日
  • ちいさな王子

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    表紙と挿絵が可愛いから読み始めた。
    挿絵はどこかで見たことがある可愛らしい絵。
    平仮名が多いからかスッと読めた。
    すぐ読める中にもどこか深い。
    小さな王子が自分の星で1輪の花に出会うが、嫌気が差し地球に来る。
    地球が来るまでに様々な個性がある星の人に会うが、その人たちも何処か孤独。
    見えない物の大切さが分かる本。

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    2013年12月16日
  • 赤と黒(下)

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    19世紀フランス、主に復古王政期から七月王政期に活躍した作家スタンダール(1783-1842)の代表的長編小説、七月革命を挟んだ1830年に執筆・刊行。副題は当初は「一九世紀年代記」だったが、執筆中に七月革命が熾きたことから、作品とフランス社会史との同時代性をより強調するために「一八三〇年代記」と付け加えられたとされる。作家自身は、政治的である以上にロマン的であるが故に、共和主義者であったようだ。

    フランス革命によって近代ブルジョア社会というものが本格的に立ち現れてしまった。如何な反動的な復古王政を以てしても、もはや旧体制へと時計の針を巻き戻すことはできない。人生は、個人のものとなった。そ

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    2013年12月24日
  • うたかたの日々

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    映画を見てやるせなくなったので、救いを求めて原作を読みました。結末が変わるわけではないので救われたかどうかは微妙ですが、読んだ後と前では印象がだいぶ変わりました。原作も映画もファンタジックな世界観は同じですが、映画の方が実写として現実味が強調される分、悲惨さが増しています。
    その点文字だとシュールさや幻想の方が引き立つので、むしろシニカルな印象さえ受けました。

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    2013年10月23日
  • 赤と黒(上)

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    貧しく家族にも虐げられてきた青年が、その抜群の記憶力と美貌で、貴族社会に入り込み、社交界を足場に出世していく。その飛躍の鍵は、それぞれタイプの異なる2人の女性。下巻で登場するマチルドと主人公の青年ジュリアンの、プライドと激情が数行置きに交錯するあたりは、その内容にも長さにも正直うんざりするが、物語の結末のためには、そのうんざりした気分が必要なのかもしれない。主人公も2人の女も、自分や相手の激情に感動しつつ、それをいかに打算的にコントロールするかに、常に心を砕いている。それがうまくいけば、社会的には成功するがうんざりした日々が続き、失敗すれば一瞬の生の充実はあるが滅びるしかない。マチルドは、いい

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    2013年07月17日
  • 赤と黒(下)

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    登場人物が極端な人が多すぎるけど、人間の社会と感情をえぐり出した小説としてとても面白く読んだ。ジュリアンの中身のない暗さ、マチルドの狂気、レナール夫人の優しさ、それぞれがしかるべき道を通って破滅に導かれる。ジュリアンの恋愛の駆け引きは陰険だけどそれなりに今でも通用するだろう。
    To the happy few

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    2013年04月28日
  • 赤と黒(下)

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    上巻であれだけ読むのに苦労したので、下巻はその分厚さに、読む前から尻込みしていた。

    ところがである。面白い。下巻に入った途端、私のこの本への評価が一変してしまった。
    舞台は、地方都市から大都会・パリの社交界へ。すると、それまでまどろっこしかったスタンダールの筆が、人が変わったように生き生きと感じられた。躍動感に溢れ、個性的で、したたか。フランスの歴史や当時の時代背景は全くわからないけれど、人間模様の面白さで惹きつけられる。

    そして、侯爵令嬢マチルドとの、あまりに熾烈で、同時に凍りつくような恋。
    主人公・ジュリヤンのあまりにも「感じやすい」激情と、マチルドの「高慢すぎる」退屈が、とんとん拍子

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    2013年04月09日
  • 赤と黒(上)

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    当時のフランスの状況を理解したうえで読んだらもっと楽しめたと思う。でも十分面白かった。ジュリヤンは幸せだったのかな?所々ジュリヤンが私と被っててなんかぞっとした。下巻も期待。

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    2012年11月18日
  • 赤と黒(上)

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    ずっと手を出したいと思っていた名著にやっと手を出せた。
    当時のフランスの状況のことはよくわからないが、それでも内容的に楽しめるだけの作品だと思う。

    当時の時代背景のメモ
    この作品が書かれた時代はナポレオンの時勢が終焉後の王政復古期である。
    当時の勢力抗争として考えられるのは、「王党派」(貴族、上層階級)と「自由主義勢力」(それ以外の庶民)である。「王党派」は復古した王政の権力維持を唱える保守勢力。「自由主義勢力」は革命的な勢力である。
    主人公は「自由主義勢力」の立場である一方、彼が仕えたレノール町長、恋仲になったレノール夫人は「王党派」である。

    上巻では、主人公の貴族的な「王党派」に対する

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    2012年10月17日