野崎歓のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
上巻であれだけ読むのに苦労したので、下巻はその分厚さに、読む前から尻込みしていた。
ところがである。面白い。下巻に入った途端、私のこの本への評価が一変してしまった。
舞台は、地方都市から大都会・パリの社交界へ。すると、それまでまどろっこしかったスタンダールの筆が、人が変わったように生き生きと感じられた。躍動感に溢れ、個性的で、したたか。フランスの歴史や当時の時代背景は全くわからないけれど、人間模様の面白さで惹きつけられる。
そして、侯爵令嬢マチルドとの、あまりに熾烈で、同時に凍りつくような恋。
主人公・ジュリヤンのあまりにも「感じやすい」激情と、マチルドの「高慢すぎる」退屈が、とんとん拍子に進むわけがない。駆け引きと打算、プライドと欲求、読んでいるこちらの方がひやひやする危なっかしさだ。
二人はお互いの中に恋を求めながらも、その中に自分しか見ていないのだと思う。だから恐ろしく計算的でありながら、同時に主観的だ。その相反する感情に引き裂かれながらも、ただただ自らの身を焼き尽くそうとするかのような二人の恋に、私はひどく同情してしまった。彼らを哀れだと思ったのである。
・・・というわけで、私はこの本は下巻の前半三分の二くらいをとても面白く読み、その評価を☆5にしたいくらいなのだが・・・
最後の最後の終わり方が意外にもあっさりしたものであったこと、レナール夫人の魅力がどうにも最後までしっくり来ず、いまいちその部分が納得できないこと、などを考えると、やっぱり☆4かなぁ、と思う。
けれど、前半であれほどげんなりしたのに下巻でこんなにスリリングな読書ができたので、途中で放り投げないでよかったなあ、とも思った。 -
Posted by ブクログ
ずっと手を出したいと思っていた名著にやっと手を出せた。
当時のフランスの状況のことはよくわからないが、それでも内容的に楽しめるだけの作品だと思う。
当時の時代背景のメモ
この作品が書かれた時代はナポレオンの時勢が終焉後の王政復古期である。
当時の勢力抗争として考えられるのは、「王党派」(貴族、上層階級)と「自由主義勢力」(それ以外の庶民)である。「王党派」は復古した王政の権力維持を唱える保守勢力。「自由主義勢力」は革命的な勢力である。
主人公は「自由主義勢力」の立場である一方、彼が仕えたレノール町長、恋仲になったレノール夫人は「王党派」である。
上巻では、主人公の貴族的な「王党派」に対する憤り、革命的理想とともに、レノール夫人との階級差がある中での禁じられた恋を描いているように思う。 -
Posted by ブクログ
ジュリアンがついにパリへ。
ジュリアンはもはや、線の細い男の子ではなく、パリに出してもおかしくない、深い考えとか世渡り術とか恋愛経験を吸収した美青年になっている。
私は古典とか歴史とか、趣味とするほど好きなわけじゃないので、心理とか恋愛テクニック方面の視点から読んでました。フランスの革命期の政治の所とかはすっとばし気味笑
ラ・モール嬢の感じた、「私は本当はあの人に恋などしていなかったのかしら?」という当惑が本当によくわかってしまった、21の秋!
その過去形の文体も。
ラ・モール嬢はその美貌と高貴な身分のせいか、自尊心が高まりすぎて、感情やら、イベントやらをまるで義務のようにこなす。はい、これもした!みたいな。うれしいのに、気持ちと正反対の態度や表情になってしまう…まさにだれかさんそっくり。
そう考えると、古典といえど悩みは全くもって現代的で、てか本当に現在進行形で、タイムマシンのよう。
1830年に書店に並んだ本だからね!!
にしてもすべては妊娠させてしまったことから始まったと思うな。
ラストは、それまで2.5人称で語られていたのにちょっと不思議な展開だった。 -
Posted by ブクログ
たぶん初めて、乗り物の中で読むことができた本です。
今まで、乗り物で本読むと気持ち悪くなってたから。
それだけ集中して読めた面白い作品だったってこと
主人公のジュリアン、はじめはそこまで「美少年」じゃないんだと思ってた
作者もそうだったのかな。書いてたら付け足したくなっていったみたいな。
金がほしい、という強すぎる思いから、僧職につくため、乗り気じゃなかったのにかかわった貴族たち。
いつぞや自分は貴族的な生まれながら泣く泣く神学校に入る、みたいな感じになっていくジュリアン。
目的と手段と自分の心とを分けていたはずなのに
もういっかあ、って
古典新訳は、内容には親しみたいが文体が、っていう需要にみごと応えてると思う。
欲を言えば本当にもっと今の言葉遣いでもいいと思うけど。斬新で。
あとこの本のせいで、私の現にも変な感情が吹き込まれた気がします。
注文していた下巻が今日入荷したらしい!
早く読みたい!こんな気分ひさしぶりだわ -
Posted by ブクログ
ネタバレ『赤と黒』はナポレオン失脚後のフランスで片田舎の職人の息子ジュリアンが、立身出世を目論み上流階級の間隙を渡り歩くサクセス(?)ストーリーです。
この時代で出世をするに当たってなによりも必要なものはお金、高い身分、そして縁故でした。その中でジュリアンに備わっていたものは縁故のみ。それも司祭様の教え子であった程度。彼はその一本の蜘蛛の糸から己の才能と美貌で、新たな糸に繋いで登っていくのです。
上巻においてジュリアンを導いてくれた新たな糸はレナール夫人。
司祭様つてでジュリアンの優秀さを知った町長に子供たちの家庭教師にと雇われて、出向いた家の奥様です。金や身分のことしか頭にない夫と対称的に、人としての尊厳をなによりも重んじるジュリアンの純粋さに夫人は惹かれたのでした。
このレナール夫人は上巻におけるもう一人の主人公といっていい存在です。
夫人がジュリアンを導いた理由は恋心(もちろん不倫)にあり、その熱意は並々ならぬものがありました。
なにより私が感じ入ったのは国王様が町を訪問されるという大イベントに、ジュリアンを無理矢理に親衛隊の一人としてねじ込んだことです。親衛隊とは国王様の身辺を警護するもの。本来ならそれ相応の身分のある者しかなれません。かなりの難事だったはずです。
しかし、それを成し遂げた時の夫人の喜びは想像するに余りあります。普段のジュリアンは(夫人と比べれば)あまり良い服を着たりはしません。お金や身分に関係ない部分に惹かれたといっても、ふとした拍子に恋相手の頼りなさを感じてしまうのでした。もしジュリアンが自分に釣り合うくらいの身分だったなら……。そんな悩みを抱える夫人は一時でもジュリアンが国王様の親衛隊の一人として、立派な衣装を着て馬に跨がって颯爽と町の貴族や金持ち達に並び立つ姿に、どれほどの歓喜があったでしょうか。
その後も夫人はかなり賢く立ち回り、ジュリアンを様々な局面から救い導きます。そんな夫人はとても優秀な人物であるように見えますが、物語開始当初つまりジュリアンに恋をする前は全く違っていました。貞淑で従順ではあるものの、不器用で鈍重なただのお嬢様。
夫人の変化や成長が上巻の見所の一つです。
下巻でレナール夫人はどうなるのか、はたまた新たな女性が登場するのか楽しみです。 -
Posted by ブクログ
難解な内容。終始ストーリーの方向性が見えない。全体的に叙事的かつ客観的描写が多い。感情論に頼らない文体は孤独な、あるいはシニカルなニュアンスを強めると同時に人類の本来の姿・性質(動物性)を想起させる。観念論や唯物論、更にはヒューマニズムの歴史に関する言及が多く、「今後人類の思想はどう展開してゆくか」といった壮大なテーマを含んでいるよう感じた。
その答えは十人十色。
いろんな読み方があります。とにかく近代西洋史や思想史に興味がある方はきっとインスパイアされるだろう問題作だと思います。物語として読むより思想本として読むことをおすすめします。