野崎歓のレビュー一覧

  • 滅ぼす 下

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    物語後半で展開されるのは人生の不条理劇。解明しようとしてたサイバーテロ攻撃も父が残した謎も大統領選もこれ以上進展がのぞめない。なぜならポールは口腔癌によって「滅ぼされる」から。
    自分はまだ重い病気に罹ったことがないから、癌の告知、治療の選択、家族へ知らせる過程等をポールと共に追体験した。嘘つくまではいかないが言うべきことを妻に言わなかったりセカンドオピニオン受けて治療法を天秤にかけたりと、細部にリアリティがあってこんな感じなのかーとしみじみ思った。
    やっぱり、妻であるプリュダンスとパートナー関係が修復できてるのが今までのウエルベック作品と異質だと思う。
    知人とも話したけど、ウエルベック年々作風

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    2025年03月19日
  • 滅ぼす 上

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    いつものウエルベック節を求めている人にとって期待以上に楽しめる本だと思う。
    序盤から断頭台の図解が出てきて笑ってしまう。まだ上巻しか読んでないけど、ポールとプリュダンス夫妻の歩み寄り・関係の修復が見られそうなのがこれまでのウエルベック作品とは違う点かな。
    ポールが人間嫌悪とテロリストへのシンパシィを独白するシーンは正直ドキッとさせられた。
    一番印象的だったのはポールの妹セシルが得意の料理を武器に働きに出て、ブルジョワの家で作業をする中で社会的階層の違いを痛感するところ。「こんなの知りたくなかった」けど夫と合流する頃には「楽しかったわ」と表面上取り繕う。うーんしんどいな

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    2025年01月21日
  • 滅ぼす 下

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    少しだけ未来、フランス大統領選と同時並行して起こる、不思議な出来事。
    それは主人公ポールの公私に広がる。

    ポールの見る夢、時には白日夢に近い空想……暗示なのか深層心理なのか。

    ネットという怪物
    拡散というパワー
    妄信という暗黒
    これまでの経験からくる未来への安心感が、ガタガタと音を立てて崩れていく、「滅ぼす」という行為。

    恐らく、現代フランス社会の歪みをもう少しだけ理解していて読んだなら、この本の出来事がもう少し現実的に感じたであろう。

    最後は「愛」……
    「私たちには素敵な嘘が必要だったの」
    ……

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    2024年11月19日
  • 滅ぼす 下

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    初ウェルベック。
    多彩なテーマも、ラスト近くになり俄然、性と死、そして看取りの話に収斂していく
    では大統領選やテロは何だったのか、ってことにはなるが、人間の社会や人の一生なんてそんなもの。
    大枠の理解などできないまま死んでいく。

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    2024年11月04日
  • 滅ぼす 下

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    ウェルベックの新作。上下巻それぞれ300ページを超える長編だが、ほとんど一気読み。少なからず消化不良のストーリーではあるのだが、高度テクノロジー時代のテロに始まり、生と死、人工受精が普通になった近未来における原始的なセックスの意味などを描いて読ませる。『素粒子』『プラットフォーム』の上、『服従』『地図と領土』の下くらいか。

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    2024年11月02日
  • 滅ぼす 上

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    初めてのミシェル・ウェルベック
    惹き込まれる。
    大統領選を補佐する情報解析員。親子、兄弟、夫婦の問題が非常にリアルで違和感なく読める。そこに時折絡んでくるテロの話題。上巻の最後に父親とテロの話題が交錯してきた、、、

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    2024年10月27日
  • マノン・レスコー

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    ネタバレ

    悪女の話だというくらいの知識しかない状態で読み始めました。

    もっと高尚な感じなのかなと思いきや、語り手のデ・グリュが正しく恋に狂っていてまったく落ち着いていないので(笑)そりゃ恋に堕ちたら冷静ではいられないよね……と勝手に納得。

    マノンはもっと計算高い感じなのかと思っていましたが奔放で天真爛漫で自由でなんだか憎めない魅力があります。
    弄んでやろうと思ってやっているのではなくてその時の自分の気持ちに正直なだけというか。
    若さもあるんでしょうね。

    計算高いという点ではデ・グリュの方が悪に染まっているような……
    あなたが悪いんですよとか言いながら門番を撃ち殺したり。それに良心の呵責を感じるどこ

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    2024年10月12日
  • うたかたの日々

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    おとななので、長い夏休みもないけど、夏に何かしっかりした物語を読みたいと思って選んだ1冊。けっこう読み終わるまで時間がかかった。なんとか夏が終わる前に読み終われてよかった。
    はじめ現実離れした表現が目立ち、ヴィアンの本がはじめましてだから、そういうものかとなんとか受け入れることができた。そして、読み進めるほど、ファンタジー感は薄れて、気づけばけっこう暗い結末に向かっていくという。。
    でも不思議なことに、読後に重さや悲しみのような負の感情はそこまで残らないさっぱり感?。ある意味、物語として最後まで楽しめたので、傑作なんだと思う。

    本編終了後に丁寧に、解説と作者の年表と訳者のあとがき付きでありが

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    2024年08月24日
  • ちいさな王子

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    自分の中でフランスブームが来たため、久しぶりに読む。結末が悲しい。子どもの頃読んだときよりはわかった気がする。大人はこうだけど子どもはこう、というところは子どもの頃には理解しきれていなかったはず。

    例によって解説も興味深く、著者の生き方もドラマティック。

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    2024年08月04日
  • 人類の深奥に秘められた記憶

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    ネタバレ

    "第一の書"と銘打たれた冒頭ブロックのみ取り出しても既に一つの物語として充分に完成しており、もしかしてオムニバス様の構成なのか? と勘違いしかけたほど。
    以降、構築されてゆく世界は非常に重厚かつダイナミックであり、その舞台がアフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカに渡っていることを含め、生半可な読者の覚悟では抱えきるのが困難と思われるぐらいのスケールを感じさせる。
    地の語りの他に、ロードムーヴィー然とした描写や作中作に回想録、重要人物へのインタヴューに加え、そのインタヴュアーに対するインタヴュー等々、様々な形態のパーツが見事に組み上げられている全体はまるで大伽藍のようであり、作

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    2024年07月19日
  • 滅ぼす 上

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    ネタバレ

    家族のキャラクター設定がものすごく良いと思った。
    シニカルで真面目な官僚の長男、慈悲深く家族を繋ぐ役割をしている妹、うだつが上がらず、災難ばかり降りかかる弟。父やマドレーヌ、そして彼らの結婚相手しかり。みんながキャラクターとしての役割を見事に演じていて、物語の情景が自然と頭に浮かんだ。

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    2024年06月09日
  • 滅ぼす 下

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    ネタバレ

    滅ぼすとはそういうことだったのかと、読み進めるにつれて、悲しい気持ちになった。オーレリアンは自殺し、ポールが末期の癌になるとは。喉頭や口腔癌になると、舌を切除しなければならないこともあるとは、知らなかった。

    プリュダンスと仲良しに戻っていて、本当に良かったと思った。死期を悟った後も冷静で、手術を拒み、点滴の際は読書をして過ごしたポール。自分だったらどうしていただろうか。

    所々に散りばめられたウエルベックのユーモアにはクスッとさせられた。デュボンとデュポンは特にお気に入りだ(笑)。

    政治や歴史、文学に恋愛、扱う内容をフランスらしいと言って良いかは定かではないけれどそのように感じ、読み応えの

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    2024年06月09日
  • 滅ぼす 下

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    テロや政治の大きな物語を背景としつつ、フォーカスされるのは、一人の人間がどのように己の死に向き合うかということ。
    文明の滅びのイメージと人間の滅び、自然の巡りなどを相互に響かせながら物語は進んでいく。

    伏線では?と勘ぐりたくなるような匂わせが頻発するが、それらの記述は解決されず、物語の背景で滞留し続ける。
    その解決されない問題に取り巻かれながら、もやっと曖昧に、でも確実に死に向かって歩んでいく流れが、私達の現実の肌触りに似ているような気がして震える。

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    2024年05月26日
  • 滅ぼす 上

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    同年代の自分と重なる部分があり、導入の巧みさ、
    ウェルベックの過去作で一番面白かった ある島の可能性 より引き込まれてしまった

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    2024年04月03日
  • 赤と黒(下)

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    ミュージカルを見たので、原作を。
    ソレルの内面が複雑かつ、揺れ動く様は、原作が圧巻。
    どうしても単純な印象になってしまう舞台。
    これを原作の魅力を活かして舞台化するのは、かなり難しいと思った。

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    2024年02月29日
  • 素粒子

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    人に薦められて手に取る。恐らく自分では選ばない内容。
    最初は性的なものも含む衝撃的な描写と、物理学や哲学の難解な文章に頭が混乱しながら、また辟易しながら、何度も挫折し、少しずつ読み進めた。だが次第に登場人物たちの絶望的な哀しみに寄り添うようになり、最後にはページを捲る手がとまらなくなった。なんとも不思議な、ジェットコースターみたいな小説。面白かった。
    でもどうかな、やっぱり好き嫌いがはっきりとわかれる小説なんだろうな。

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    2024年02月14日
  • 人類の深奥に秘められた記憶

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    1冊の小説というのが人生を変える、というのは極めてドラマティックなストーリーであるが、作品に魅せられるが如くその作品から逃れられないのだとしたら、それはドラマティックであるにしても一種の呪縛となる。本書は1冊の小説に魅入られた人間のストーリーである。

    セネガル生まれの作家が書いた1冊の小説がパリで話題になるも、剽窃の疑いを受けて作品は絶版となり、当の作家自体も行方をくらます。数十年後にその作品と出会って魅せられてしまった同じセネガル生まれの若手作家は、当の作家の行方を追って世界各地を移動し、最後にはセネガルの村へと辿り着いていく。

    その過程で小説を書くこと・小説を読むことについての思弁がそ

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    2024年01月28日
  • 人類の深奥に秘められた記憶

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    セネガル出身の若い作家で、ゴンクール賞受賞ということで読んでみた。
    とにかく饒舌。はじめはアフリカの作家がいかに白人世界で型に嵌め込まれて扱われているかという文学論もあり、物語は進むのかと不安になったが、シガ・Dの父の語りから面白くなった。
    セネガルの伝統・文化・宗教、現在の政治運動、ヨーロッパに住むアフリカ人文学者は何を書くべきかといった思想的な要素だけでなく、場所もパリ、セネガル、アムステルダム、南米と移動するし、時代は第一次世界大戦前から現在までで、複雑で広範である。語りも、語り手(現代のセネガル人若手作家ジェガーヌ)、ジェガーヌが尊敬する女性作家シガ・D、シガ・Dの口を通した父ウセイヌ

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    2024年01月20日
  • 滅ぼす 下

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    上巻はのろのろ読みだったけど、下巻はあっという間に読めた。
    上巻始めの感じはハッキングなどの技術による社会崩壊の話かと思ったら全然違った。もちろん世の中の在り方の事も含まれているけど、もっと大きな生死についての話だった。
    意外な展開で、帯に書かれているように「読み出したら止まらない」
    フランスらしさがふんだんに出ていて良い。
    ベストセラーに納得。

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    2023年10月01日
  • 滅ぼす 下

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    もはや一種の黙示録とも呼べる文学作品を作り続けているフランスの鬼才、ミシェル・ウエルベックによる新著であり、過去の作品と比べても単行本上下巻という大著。

    個人的に新著が出たら、迷わずに買うことを決めている現代作家の一人がウエルベックなのだが、迷わずに買ったことを全く後悔しないほど完成度高く魅惑的な作品であった。

    ウエルベックの作品は登場するテーマや意匠に強い共通性がある。デビュー当初は、カルト宗教やセックス/性の問題に始まり、ここ10年ほどは極めてアクチュアルな移民問題やテロリズム、資本主義の限界など政治・経済学的な側面が強まっている。本書はまさにウエルベックを構成するであろう様々なテーマ

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    2023年09月09日