あらすじ
【ゴンクール賞受賞作】
なぜ人間は、作家は、“書く”のか。根源ともいえる欲望の迷宮を恐ろしいほどの気迫で綴る、衝撃の傑作小説!
セネガル出身、パリに暮らす駆け出しの作家ジェガーヌには、気になる同郷の作家がいた。
1938年、デビュー作『人でなしの迷宮』でセンセーションを巻き起こし、「黒いランボー」とまで呼ばれた作家T・C・エリマン。しかしその直後、作品は回収騒ぎとなり、版元の出版社も廃業、ほぼ忘れ去られた存在となっていた。
そんなある日『人でなしの迷宮』を奇跡的に手に入れ、内容に感銘を受けたジェガーヌは、エリマン自身について調べはじめる。
様々な人の口から導き出されるエリマンの姿とは。時代の潮流に翻弄される黒人作家の懊悩、そして作家にとって “書く”という宿命は一体何なのか。
フランスで60万部を突破、40か国で版権が取得された、2021年ゴンクール賞受賞の傑作。
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Posted by ブクログ
2021年ゴングール受賞作で野崎歓さんの訳なので間違いないと思って読みましたが、期待以上の名作でした。
黒人による小説ですが、作品中でもアフリカ出身の黒人作家が受ける運命について書かれていて、その入れ子構造を通して、文学を、書くこと、文学を読むこと、そして社会を生きることなどについて著者と一緒に旅するような作品です。
内容は幻の黒人作家エリマンの幻の作品「ろくでなしの迷宮」に若い黒人作家が出会い、その作品に惹かれ、またその作品がなぜまぼろしとならざるえなかったのかを探究しながら、自身も文学について深く探究していくというもの。
色々と舞台や人物が用意され、読者も主人公と共にシークアンドファイドの旅に出るような仕掛けとなっています。
また、アフリカ的な呪術的な要素もあり、著者のサービス精神も発揮されていましした。
Posted by ブクログ
若い作家が、昔夢中になった本がある。その本は賛否両論にさらされて、盗作疑惑の中で作家は消息不明、本は回収の上絶版となって読むことができない。
が、ある晩、自分の母くらいの年齢の才能ある女性作家に遭遇し、その女性作家から問題の本を受け取る。
本とその作者には何があったのか。
アフリカをルーツとする作家がヨーロッパでさらされる偏見。エキゾチックな何かばかり期待される。それが苦痛だと書きながらも、本にまつわるエピソードはマジックリアリズムのようになる。矛盾していると思いつつ、主人公と共に作者の所在を追いかけ続けるが、行き着いたは答えは、当たり前の終わりだった。
主人公と共に幻惑されて目が覚めるまでの感じが、すごく面白い。ウンベルトエーコの、昨日島を思い出した。
Posted by ブクログ
これはすごい本。5つ星でも足りない。
人類の奥底にある物語を紡ぐ心を抉り出す小説。
文学として小説を、物語を書くことをベースにしたヨーロッパ風の教養主義的な小説という基盤を持ちながらもエンターテイメントのような側面も保ち読み出したら止まらない。
現代から第一次世界大戦までの広い時間軸を跨いで、地理的にもセネガルだけにとどまらないアフリカ、アムステルダム、パリをはじめとするヨーロッパの各地、さらにはブエノス・アイレスを中心としたラテンアメリカ世界に物語の場面は広がる。手紙や日記、記事の引用、過去の思い出の語り、曖昧になる語り手と聞き手の境界線。小説的テクニックをこれでもかと使いながら無駄に流れない。特に女性たちの語りは緊張感をはらんでまるでその場で自分がそのモノローグを聴いているような没入感を生み出す。そしてアフリカをルーツとしていながらアフリカの地域性に限定されることは全くない世界文学性。2021年ゴンクール賞は伊達じゃない。野崎歓さんの翻訳も解説も良い。
ミステリアスな著者を追うところ(とヨーロッパ風の教養重視的なところ)はサフォンの風の影にも通じるところを感じ、メタファーではない井戸に籠るところは「なぜ小説を書き始めたのか」という会話の中で現れる村上春樹との繋がりもあるのかもしれない。
Posted by ブクログ
こてんぱるぱあに、なにくそ?へ?っていいぬれる、かげかるちよ?ぱるてもんもし?!、ははらちくそと、ぱぱらちぶさどろんと、ひじゆうへんじんやけいや?かながわのさけくさいひとのなやみじすいがへたくそなありと、いはらぴるしよおこんや、こんぱすや、こんだてにはとけなくしなんとほっすればかわざんよう、すとれっちへああさついかまいだあとかまいどくむしどぎもをぬぎんしぎんやはれつぎんなんをつかえばぼろぼろ、ほっちほたつくかなあかがいよりほてつくいまをかわごおがんはんざいけいじいがわらがんをけいおうくれぱすあたまはんざい
Posted by ブクログ
鴻巣由紀子さんが絶賛していたのとタイトルに惹かれ、さらに(覚えたばかりの)ゴンクール賞受賞作だというので読んでみることに。本書の面白さは語り手が変わる度に視点を覆される驚きとともに充分伝わってくるのだが、私にフランスとセネガルの関係や南米文学の基礎知識がもう少し有ればもっといろいろな仕掛けが楽しめたはず‥。不勉強だった自分が情けない!解説を読んで、著者の他作品にも興味が湧いた。
Posted by ブクログ
セネガルの作家、モアメド・ムブガル・サールの小説。
あらすじを言えば、駆け出しセネガル人の作家が、幻の本の作者の足跡を辿るというありがちな展開だが、3つの柱がある。作家と文学についてと、アフリカについてと、アフリカ人の作家と文学についてである。
人はなんのために書くのかという問い、セネガル人としての根源的ルーツ、そしてフランス領であったセネガル出身者が西欧的文化圏において創作するとき何が起こるか、ということである。
特に三番目についてはアフリカ、というだけで我々は直ぐに色眼鏡でみてしまう。現に私自身、著者名で中東かアフリカ系であることに興味を持たなければこの書を手に取ったか。
それでも創作活動において、そしてそれを鑑賞する立場において、文化的バックボーンはどうしても消せないし、それがあってこその創作であることを強く感じる。
Posted by ブクログ
"第一の書"と銘打たれた冒頭ブロックのみ取り出しても既に一つの物語として充分に完成しており、もしかしてオムニバス様の構成なのか? と勘違いしかけたほど。
以降、構築されてゆく世界は非常に重厚かつダイナミックであり、その舞台がアフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカに渡っていることを含め、生半可な読者の覚悟では抱えきるのが困難と思われるぐらいのスケールを感じさせる。
地の語りの他に、ロードムーヴィー然とした描写や作中作に回想録、重要人物へのインタヴューに加え、そのインタヴュアーに対するインタヴュー等々、様々な形態のパーツが見事に組み上げられている全体はまるで大伽藍のようであり、作品の文学性と娯楽性を高いレヴェルで両立させているという点において、精緻さを極めたその複層的な構造が大きな役割を果たしているようにも思う。
個人的に、古川日出男氏を少し想起させられた。
一人の若き悩めるセネガル人作家が、かつてセンセーショナルな小説を著した謎多きセネガル人作家の足跡を追う…と言ってしまえばシンプルに過ぎるが、そこには確かにアフリカ文学の魂が全方位に向けて発する剥き出しの叫びが込められているのを、月並みな表現ながらしかと感じた。
主人公に宛てたメールの形を取って終盤に登場するムジンブワの手記が、すべてを象徴し物語っている。
作品の閉じ方もまた、完璧だ。
巻末の訳者解説がとても秀逸。
私自身、セネガルの内戦などを始めとする歴史やアフリカ及びフランス文学に造詣が深ければ、もっと作品の理解は進んだだろうと考えると、無知を悔やむばかり。
最後に、大手出版社ながら、"押しも押されぬ"という誤用がスルーされてしまっているのはちょっとお粗末。
「偉大な本は主題をもたず、何についても語りはしない。それはただ何かを言おう、発見しようとしているだけなんだが、でもそこには、すでにすべてがある。その何かが、すでにすべてでもあるんだ。」
「作品の中で自分を消滅させようとするのは、必ずしも謙虚さのしるしというわけじゃない。虚無への欲望にさえ、おそらくは虚栄心が含まれている……。」
「過去の人々に取りつき、決して安息を与えまいとするのはぼくらのほうなのだ。ぼくらこそがぼくらの物語の幽霊であり、幽霊のそのまた幽霊なのだ。」
Posted by ブクログ
1冊の小説というのが人生を変える、というのは極めてドラマティックなストーリーであるが、作品に魅せられるが如くその作品から逃れられないのだとしたら、それはドラマティックであるにしても一種の呪縛となる。本書は1冊の小説に魅入られた人間のストーリーである。
セネガル生まれの作家が書いた1冊の小説がパリで話題になるも、剽窃の疑いを受けて作品は絶版となり、当の作家自体も行方をくらます。数十年後にその作品と出会って魅せられてしまった同じセネガル生まれの若手作家は、当の作家の行方を追って世界各地を移動し、最後にはセネガルの村へと辿り着いていく。
その過程で小説を書くこと・小説を読むことについての思弁がそしてフランスとその旧植民地であるセネガルという2国の関係性を織り交ぜつつ描かれていくことで、次にどう展開するか予想がつかないストーリーと作家の思弁性のバランスが取れた作品として非常に面白く読み進めた。
Posted by ブクログ
セネガル出身の若い作家で、ゴンクール賞受賞ということで読んでみた。
とにかく饒舌。はじめはアフリカの作家がいかに白人世界で型に嵌め込まれて扱われているかという文学論もあり、物語は進むのかと不安になったが、シガ・Dの父の語りから面白くなった。
セネガルの伝統・文化・宗教、現在の政治運動、ヨーロッパに住むアフリカ人文学者は何を書くべきかといった思想的な要素だけでなく、場所もパリ、セネガル、アムステルダム、南米と移動するし、時代は第一次世界大戦前から現在までで、複雑で広範である。語りも、語り手(現代のセネガル人若手作家ジェガーヌ)、ジェガーヌが尊敬する女性作家シガ・D、シガ・Dの口を通した父ウセイヌ、フランス人の文学研究者、ハイチの詩人の語り、と二重三重の構造もある。それをよくまとめあげたなと、その力量に関心する。
物語としても面白かった。(映画になったら文章自体の饒舌さが押さえられて、構造が視覚化されてすっきりした話になりそう。)
饒舌な語り口は好き嫌いがあるかもしれないが、一読に値する作品だと思う。
ただ、南米のマジックリアリズムに出会った時ほどの衝撃はなかった。あれは本当に度肝を抜かれたし、その語り口に夢中になったが、これは、ある意味ヨーロッパ的な理性をもって語られていた印象。アフリカとヨーロッパのハイブリッドという感じ。