【感想・ネタバレ】うたかたの日々のレビュー

あらすじ

青年コランは美しいクロエと恋に落ち、結婚する。しかしクロエは肺の中に睡蓮が生長する奇妙な病気にかかってしまう……。愉快な青春の季節の果てに訪れる、荒廃と喪失の光景を前にして立ち尽くす者の姿を、このうえなく悲痛に、美しく描き切ったラブストーリー。ヴィアンの代表作であり、20世紀フランス文学の「伝説の作品」が、鮮烈な新訳で甦る! 映画『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』原作。

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Posted by ブクログ

SF、コメディ、恋愛、悲劇、全ての要素が合わさった新感覚の小説でした。SF要素が強くぶっ飛んだ世界観です。前半は恋愛コメディで、中盤から後半にかけては雰囲気が大きく変わって悲劇的で重たい雰囲気に。その作品内での大きな振れ幅も魅力的で、特に終盤はどうなっていくんだろうという展開で引き込まれていきました。始めのうちはあまりにも突拍子もない非現実的な出来事の連続で戸惑ったものの、慣れてくると他の小説では味わえない何とも言えない心地良さに変わっていきます。
言葉遊びも非常にユーモアです。例えばカクテルピアノという言葉はバーなどで会話の邪魔にならないピアノ音楽のことですが、この作品では音によって混ざるお酒の種類が変わって実際にお酒が作れるカクテルピアノとして登場します。そういった不思議な世界観の中でも人生の浮き沈みが人間ドラマとしてしっかりも表現されていて、単なる色物作品として終わっていないところがさすが名作ですね。
好き嫌いはハッキリしそうですが、私は非常に好きな作品でした。翻訳によっても雰囲気が大きく変わりそうな作品なので違う出版社でも再読してみようと思いました。

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2025年11月09日

Posted by ブクログ

かつて曾根元吉訳(『日々の泡』)で読んだ。今回、野崎歓訳で再読。
原著は1947年刊。現代の文脈ではなく、どうしても当時のアクチュアルな文脈で読んでみたかった。大戦終結後、実存主義が抬頭し、アメリカナイズされるパリ、青年たちの熱気の充満するパリ、この作品はそうした状況のなかで生まれたのだから。野崎歓訳は、当時はだれでもわかったような固有名詞に訳注を添えてくれていて、助けになる。
シュールさ&ことば遊び、なんとなくレイモン・クノーに近い。ジャン゠ソール・パルトルを登場させるところも洒落がきいている。ハツカネズミもいい役回りをしている。肺の中の睡蓮の蕾も、肺結核のメタファーとして絶妙。
原題はL'Écume des Jours。ずっと『日々の泡』に慣れ親しんできたが、やはり『うたかたの日々』のほうが適訳。(p.s. もうひとつの訳、伊東守男訳も読んでみたが、曾根訳と同様、誤訳が散見された。野崎歓訳は、文章が少し硬いものの、一番いいように思う。)

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2025年07月31日

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ネタバレ

ずっと夢日記を読んでいる感覚だった。

「コランは道を走っていた。 「きっとすばらしい結婚式になるぞ……。明日、明日の朝だ。友だちはみんなきてくれる……」  クロエに通じる道だった。 「クロエ、あなたの唇はやわらかい。あなたの顔は果物のようにつやつやだ。あなたの目はしっかりとものを見ている。そしてあなたの体はぼくを熱くしてくれる……」  ビー玉が道を転がり、子どもたちがそのあとを追いかけてきた。 「あなたに十分キスしたという気持ちになるまでには、何カ月も、何カ月もかかるだろう。あなたに、あなたの手に、あなたの髪に、あなたの目に、あなたの首にキスしたいというぼくの想いが尽きるまでには、何カ月も、何年もかかるだろう……」  小さな女の子が三人いた。まん丸の輪舞曲を歌いながら三角を作って踊っていた。」

こんなふうに人を想えたら素敵だなーと思う

「明日は一緒に森に行こう、またあのベンチを訪れるんだ、彼女の手はぼくの手の中に、彼女の髪はぼくの髪のそばにあって、枕には彼女の匂いがして。ぼくはいつでも彼女の枕を取り上げる、夜は決まって枕の取り合いになるんだ、ぼくの枕は詰め物をしすぎだと彼女はいう、頭を載せてもまん丸なままだって。そこでぼくは自分の枕を取り戻す、そこには彼女の髪の匂いが移っている。ぼくが彼女の髪の甘い匂いをかぐことはもう二度とないだろう。」

「あの人、岸辺にいるのよ」ハツカネズミはいった。「じっと待っているの。そして時間になると、板を渡っていって真ん中で立ち止まる。水の中をのぞきこむの。何か見えるんだわ」
「たいしたものは見えないだろう」猫はいった。「睡蓮の花くらいかな」
「そうよ」ハツカネズミはいった。「あの人は睡蓮が水面まできて自分を殺してくれるのを待っているの」

由希さんのオススメは全部良いな

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2023年09月13日

Posted by ブクログ

詩的な表現を多く含んだ小説なのか、と思ったがこれは違う。
うたかたの日々は、一文一文を真に受け、作中世界の在り方に没入していかなければならないタイプの小説で、伏線や隠喩を解き明かすといった読書をする人にはこの作品の良さが分からないだろう。

我々が生きている世界では、肺に睡蓮は生えない。ハツカネズミは踊らない。わりとちゃんと働く。
だからこの小説はレアリスムではない。が、その反面、圧倒的にレアリスムだ。
世界が綿密に描かれ、作品固有の運動していく。
それを真に受けて読んだ我々がこの本を閉じる時、今読んだものがファンタジックな世界だとは微塵も感じることはないだろう。
そこには圧倒的なリアリティがある。
リアリティとは現実に即していることではない、我々がさも現実であるかのように感じてしまうということだ、作品が世界に向かって開かれているということだ。
うたかたの日々はだから、レアリスムだと言っても良い、かもしれない。


それから、パルトルとボヴァール公爵夫人だけではなく、実存主義的なシーンはかなり沢山出てくる。

他者の死はゲームで倒された雑魚キャラのような扱いを受ける。それが社会のルールであって、主人公の一人であるクロエでさえもあり得ないほど適当に葬られる。
「醜いものは要らん」ということがまえがきに書いてあるが、この作品は生を美しく描き、死んだものには興味が無いという立場を貫いている。

俯瞰的な読み方をするなら、まず一番に浮かぶのは、生きていることの美しさと死んだ者の醜さやそれに対する社会の無情さのコントラストだと思う。

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2016年03月04日

Posted by ブクログ

不思議な話だった。儚く美しいまさしく泡沫の日々、泡沫の恋だった。二人の恋が始まった時は幸せに満ちていたのに、こんなに切なく哀しい結末になるなんて。睡蓮に肺を蝕まれていく愛するクロエを救うため、下等なものとしていた働きに出るコランや、夫を破滅に導いた小説のために人を殺してしまうアリーズ。どこかで歯車が違う風にかみ合っていれば彼らは幸せになれたのかな。あまりにも幻想的すぎて現実味がないのになんでこんなに切ないんだろう。2012/174

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2013年11月15日

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面白かった・・・。

以前に別訳で「日々の泡」のタイトルの文庫本を買ったことがありました。もう10年以上前だったか。そのときは申し訳ありませんが、何が何だか訳のせいかのめりこめず、早々に脱落。
今回は、ほぼ盲目的に信じている光文社の新訳であることと、野崎歓氏の訳ということで再購入。読破。
いやあ、これはすごい小説ですね。

以下、ネタバレ。ただこの本は、ネタバレがどうこうという本じゃないですけど。
よほどの好みを持った人以外は、むしろ情報を色々仕入れてから読んだ方が良いと思います。

主人公はまあ、コランという青年ですね。この人はお金持ちで働く必要がない。ニコラという料理人を雇っています。友人でもある。
他に、シックという友人がいます。この三人は男性です。
シックの恋人が、アリーズ。ニコラの姪がイジス。そして、コランが出会い結婚するのがクロエ。この三人が女性です。みんな若くて美女です。どうやら。
コランがクロエと出会う。恋をする。ふたりは愛し合う。結婚する。
コランは労働者であるシックにお金をボンとあげる。コランはクロエと幸せに過ごす。
だんだんお金がなくなってくる。困った困った。
その上、クロエが病気になる。肺に睡蓮が生えてきてしまうのです。花が必要なんです。お金がかかります。
コランにお金を貰ったシックは、パルトルという思想家/文化人に夢中になっていて、その人の希少本を買ったりなんだりで、やっぱり無一文になります。
シックはお金がなくて、アリーズと別れます。もうアリーズを愛するより、パルトルが大事なんです。
コランはクロエのために労働してぼろぼろになります。
シックは税金未納で破滅していきます。
クロエは病気で死にます。

というお話ですね。

で、この本は、普通で言うところのリアリズムじゃないんですね。
なんていうか、サージャント・ペッパーの世界なんです(笑)。

お金の単位から人体の構造から建物まで、全部とにかくラリっちゃってるんです。
ぶっこわれてアッパラパーなんですね。
なんだけど、それは無茶苦茶なだけではなくて、物語になっている。
というのは、コランを筆頭にヒトの感情は、ものすごくわかる。切ない。
そしてとにかく、社会的じゃないんですね。一見。その奥は社会に背を向けているけれど社会に飲み込まれていってしまうので、コレホド社会的な小説もないんですけど。
ワケワカンナイことが、その内に読書的快感になっちゃいました。
後半は止まりませんでした。

解説に詳しいですが、これが書かれた時代背景とか作者のボリス・ヴィアンの生涯とか、
パルトルがサルトルとか、その辺を知ってから読むというのもありですね。
なんていうか、理解して解釈して読むとすると。
ただ、そういうのじゃないのかもしれませんね。解読してもねえ。味わうなら先入観なしで読むのも、楽しいですね。

色彩が豊かで音楽があふれて、機知と愛と憎悪と暴力と虚無と享楽が怒涛に押し寄せる快感ですね。
村上春樹さんのシュールな小説とかありますが、あれが突き抜けるとこういう風景があるんですね。

小説という地平線でとにかくラディカルであるということと、
作家そのものにポップ・スター性があったということ。
それが、ポップ・カルチャー、規制価値破壊流行とでも言うべき風俗や経済が降臨しはじめた60年代にこの本の流行を生んだことは、
僕の生前の話ですが現代史の気分的解釈では納得がいくことです。
言ってみれば小説界のセルジュ・ゲンズブールですね。
たった一冊の本で、それも60年前に外国で書かれた本の翻訳で、こんなに陶酔できるというのは素敵なことですね。

ま、それに、その非社会的というか反社会的というか刹那的というか美しい虚無というか、
そのあたりの感じがカッコイイんですよね。
ゴダールの映画に出てきそうな女の子がカフェで読んでるなら、「うたかたの日々」が似合うんだろうなあ、という発想が陳腐ですが(笑)。

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2013年10月30日

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キッチュ!これに尽きる。読みやすくてサクサク読みすすめられる。
ガジェット満載の楽しいB級文学といったところ。
そんなジャンル存在するのかどうか分からないけど、大好きだ。

例えば映画『唇からナイフ』を観たときの感覚。ワクワクする。
いや待て、そういやこれの映画版観にいったわ。いまはなきシネセゾン渋谷かどっかでやってたような……?
映画もとことんキッチュだった、それだけ憶えている(笑)。
1968年製作だから30年近く経っての日本公開。そしてさらに20年が経過しようとしている今、新訳で原作を楽しむ——なかなか感慨深い。

この物語を完全視覚化するのは難しい。チャレンジングだったろうなー。
アニメと実写混ぜて現代風にアレンジしたら、面白い映像作品になるかもしれない。60年代風ファッションと相まって、これぞまさしくフランス流“kawaii”だ。

もちろんkawaiiだけじゃない。どころか、カラフルなイメージに突如ジャックインするグロテスクなシーン、言葉遊び、青春の儚さ、皮肉、喪失感、執着の成れの果て、斜陽、すべてが灰に帰す絶望などなど、よくよく考えたら全然明るくない。
この混沌とした物語世界に、シュルレアリスムの影響がないっぽいのも興味深い。

優れた作家かどうかはさておき、唯一無二な作品世界を構築した人だとは思う。

他の作品も新訳してくれないかなぁ。

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2013年06月15日

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僕たちの生きる世界とはちょっと違い、まるで夢の中での出来事のような非現実的な世界設定に最初はちょっと戸惑うが、物語全体に漂う、青春とその喪失感を描くのにはこれしかないという世界が素晴らしくも悲しい。物語は(お金とか仕事とか)どんどん現実の重みに潰されていくのだが、それでも非現実感は最後の最後まで強調される。そしてそれはあまりにリアルな現実の僕たちみたいだ。

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2012年08月10日

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「さあ行こう、猫ちゃん」
「これ、猫の毛皮じゃないわよ、オオヤマネコよ」
「オオヤマネコちゃんっていいにくいな」

ひたすらにハッピーで太陽の真下にいるような前半から物語が終わりに近づくにつれて状況がどんどん悪くなっていくのは読んでいて辛かった。儚い。ところどころに散りばめられているファンタジーも魅力的。

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2013年02月25日

Posted by ブクログ

おとななので、長い夏休みもないけど、夏に何かしっかりした物語を読みたいと思って選んだ1冊。けっこう読み終わるまで時間がかかった。なんとか夏が終わる前に読み終われてよかった。
はじめ現実離れした表現が目立ち、ヴィアンの本がはじめましてだから、そういうものかとなんとか受け入れることができた。そして、読み進めるほど、ファンタジー感は薄れて、気づけばけっこう暗い結末に向かっていくという。。
でも不思議なことに、読後に重さや悲しみのような負の感情はそこまで残らないさっぱり感?。ある意味、物語として最後まで楽しめたので、傑作なんだと思う。

本編終了後に丁寧に、解説と作者の年表と訳者のあとがき付きでありがたかったです。

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2024年08月24日

Posted by ブクログ

幻想的な表現も助長し、
前半は兎にも角にも甘ったるい場面や描写が多く、カロリー高めであったが、
後半の落ち方に容赦がなく、ひたすら悲しい気持ちに。

とはいえ、思い返せば前半から容赦なく人が死んでゆく世界だった。
その世界に入り込むことへの準備さえできれば、
マジックリアリズムの面白さは跳ね上がる。

ハツカネズミの自殺で締めるのが印象的。

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大切なことは二つだけ。きれいな女の子相手の恋愛。そしてデュ-ク・エリントンの音楽。他のものは消えていい。なぜなら醜いから。

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あらかじめ失われた恋人たち

コランの日々には魔法がかけられます。
それは同時に、甘い罠でもあります。
夢見心地のうちに過ごすひとときはすでにして、何もかも根こそぎ奪っていく破壊的な力の到来をはらんでいます。

うたかたの幸福を追い求めるぼくらの日々は、いつだって危うい。
愉快な青春の季節の果てに訪れる、荒廃と喪失の光景を前にして立ち尽くす者の姿を、ヴィアンはこのうえなく悲痛に、美しく描き切りました。

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2022年12月21日

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美しく楽しい日々が結婚式を境にどんどん転落していく。誰にもどうにもできない虚しさ。ラストのキリストとの対話、ハツカネズミがとてもとても悲しい。全てを読み終えて、まえがきに「大切なことは二つだけ。どんな流儀であれ、きれいな女の子相手の恋愛。そしてニューオーリンズの音楽、つまりデューク・エリントンの音楽。ほかのものは消えていい。なぜなら醜いから。」とあってさらに悲しくなった。それはコランに美しい日々の思い出が残ったからなのか…コランが消えていい存在に落ちぶれてしまったからなのか…若さの美しさ楽しさ痛み苦しみがいつまでも尾を引く。

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2014年06月02日

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映画を見てやるせなくなったので、救いを求めて原作を読みました。結末が変わるわけではないので救われたかどうかは微妙ですが、読んだ後と前では印象がだいぶ変わりました。原作も映画もファンタジックな世界観は同じですが、映画の方が実写として現実味が強調される分、悲惨さが増しています。
その点文字だとシュールさや幻想の方が引き立つので、むしろシニカルな印象さえ受けました。

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2013年10月23日

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ヴィアンはルイス・キャロルを読んでいたのだろうか。
ふつうのラブストーリーを想像すると出鼻をくじかれる。
原語も流行ったころのフランスの世相もわからないから理解できない。という考え方もあるけど。夢のように突拍子なく展開する物語を楽しんでしまえばいいとも思う。子どもの時に不思議の国のアリスを読んでいるような心持ちで。

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2012年06月17日

Posted by ブクログ

幻想的でありながらも淡々の物語が進んでいく。
お伽話のような感覚でありながら、音楽描写も表現豊かに描かれており、
すごく切ない大人の童話。

肺の中に睡蓮が育つ病気に侵されてしまうヒロイン。
それを献身的に見守る主人公。

にしても、悲しい物語であり、純愛。

そして、最初のまえがきから、印象的。

「大切なことは2つだけ。どんな流儀であれ、きれいな女の子相手の恋愛。そしてニューオーリンズの音楽、つまり、デューク・エリントンの音楽。ほかのものは消えていい。なぜなら醜いから。」

本当にそんなストーリー。こんな物語も憎いほど好きです。僕は。

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2012年02月20日

Posted by ブクログ

日々の泡を高校生のときに読んで、いつかまた読み直したいと思っていた時にたまたま新訳を見つけて衝動買い。私の理解力が上がったこともあるかもしれないけど、日々の泡よりも読みやすかったし楽しかった。そしてやっぱりすごかった。ボリス・ヴィアンの才能を感じた。こんなに切なくて辛い話だったかと、読み直してみて驚きました。解説も訳者あとがきみたいなのも良かった。

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2011年10月26日

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ネタバレ

表題どおり、この小説はなによりも美しく、なによりも儚いもの、つまり「きれいな女の子との恋愛」と「デューク・エリントンの音楽」に捧げられている。

ひさしぶりに読み直して感じたのは、精緻に描かれたコントラストの妙。物語は、街から色彩の消える冬に始まり生命が躍動する新緑の季節に終わるのだが、登場人物たちの世界はそれとは反対に、徐々に色を、そして音楽を失ってゆく。彼らはいってみれば、彼らの住む世界との「同期」に失敗したのだ。その残酷さと不条理さ……。

破天荒なファンタジーのような顔をもつこの小説をはたして「読める」かどうかは、ボリス・ヴィアンの「感性」にどこまで肉薄できるかにかかっているような気もするが、そのいちばんの方策はまず、解説で訳者が言うように「奇天烈さをごくりと飲み込」んで、そこに繰り広げられる「いっさいを受け入れる素直さ」をもつことだろう。

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2011年10月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

愛に全てを注ぎ込む二人の男のその行く末。
一人は一人の女を愛した。女が元気な時には彼女を楽しませる為に、病気を得てからは治療の為に持てるものを全てを注ぎ込んだ。
もう一人は思想を愛した。そしてその思想を生み出す思想家を絶対視するあまり、彼に関するもの全てを蒐集せずにいられなくなり、自分を愛してくれる女も捨て、破滅へと向かって一直線に進んでいく。
淡々と進行していく物語。美しい黄昏のような小説。

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2012年03月16日

Posted by ブクログ

奇天烈。奇想天外。
そして やり切れない感情

イメージしながら読むも
イメージが追いつかない 笑
ハチャメチャな中にも 秩序らしきものはあって
生き物の生死に重きを置いていない世界にあって
愛は確かにあって。。。
何とも不思議な読みものだった

少々 読書欲が減退しつつも
後半は 彼らの行く末を苦しく思いつつ
一気に読み切った
ラストの猫とハツカネズミのやり取りは
胸につまる思い

リアルな あるべき現状を とっぱらって
素直に読むべき本
私は この世界の住人にはなりたくない
あまりにも…あんまりだ…

思っていたイメージと違った語りだったけど
何度か読むと 染みるのかもしれない
そういう気持ちに 2冊続けて
なってしまった 笑

この次は 少しハッピーなものを読みたい。。。

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2025年10月12日

Posted by ブクログ

初めてのデートでバラ色の雲が降りてきて、乗って空から風景を見るなど、夢の中を描いているような内容。珍しい読書体験をした。
最初はカロリーが高すぎる文章にもたれつつ読んでいたが、途中でヒロインが病気に伏せる場面あたりからは慣れてきてこの世界に浸ることができふ。
これを何も知らずに読んだらわけわからないので、発刊当時にあまり評価されなかったというのも理解できるし、数々のアーティストがこの本をモチーフにしているであろう作品を出しているのもまた理解できた。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最初はただただ不可思議な物語世界に混乱するばかりだったが、よく夢に見るような世界なんだと思うようにしたらだいぶ読みやすくなった。
夢の中ならちょっとくらいおかしなことも起こるから。

クロエが病気になって以降、ただの幸せな夢の中から、悪夢の中に入っていくようだった。私は悪夢パートの方が読みやすく感じた。そう考えると、現実は基本的に悪夢なのかもしれない。

数年後に読むとまた感想が変わりそうな1冊。

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2024年01月13日

Posted by ブクログ

視覚的・感覚的な面白さを追求しているように感じた。
最初は読みにくく感じたが、クロエが倒れたあたりから一気に読みやすくなった。
情景と感情が同化した世界なのだ。
作中には皮肉な視線もちりばめられていた。
ハツカネズミがの存在がずっと温かかった。
小さくて穏やかで優しく美しい存在だった。

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2023年04月02日

Posted by ブクログ

なんとも珍妙な逸品。物語の筋は若者たちの恋愛と友情、そして悲劇の物語だが、表現がほぼナンセンスな表現で読み手の許容力を試される。
うまく物語に入り込めることができれば恋愛、仕事、お金、趣味と価値観(シックの収集)などに共感出来る。
クロエが亡くなり葬式を頼む場面以降がぶっ飛んでいる。悲しい場面のはずがかなりの可笑しみが伴う。最早悲しみに暮れるコラン目線は放棄され、貧乏人の出す葬式のパロディと化している。
物語の冒頭から時折登場するハツカネズミと猫の会話で終わるシーンがひたすらシュール。
なぜデュークエリントンが持ち上げられるのかと思えば、あとがきによると作者と知り合いだったんですね。

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2020年07月23日

Posted by ブクログ

精神状態に呼応して周囲の世界までもが変わっていく面白い世界。1,2行で主人公が突然人を殺したりするし、その後はそのことには触れられもしない。
「普通」の感覚で読んでいくと混乱するが、「そういうものだ」と思って受け入れていくとこの不思議な世界を楽しむことができる。

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2020年01月11日

Posted by ブクログ

『きれいな女の子との恋愛、それとニューオーリンズかデューク・エリントンの音楽。その他のものはみんな消えちまえばいい。なぜって、その他のものはみんな醜いからだ。』そんな著者のパンクな言葉から始まる本作。
青年コランは音楽と料理を楽しむ裕福な暮らしを愛し、労働とは無縁の生活をしていた。コランは恋人クロエと結婚するが、ある日彼女の身に異変が起きる。

コランの他にも恋人を持つ青年たちの恋模様も織り交ぜ、時に美しく、時に非現実的で、そしてそこそこグロテスクでカオスな描写もあり、ちょっと理解に苦しむところも。労働を嫌い、娯楽と恋に生きるコランの顛末とは。幻想的で残酷で、癖の強い作品です。
個人的には“肺に睡蓮が生える”という美しい奇病、ピアノの音符と長さとペダルの踏み方などの具合によって作られるカクテル製造マシーン“カクテルピアノ”の登場で、すでに満足の域に達しました。
『日々の泡』という邦題も同作。

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2014年08月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マスターピースにはマスターピースとして語り継がれる理由があるとあると思うのですが、解説を読んで納得しました。きちんと時代背景とヴィアンの生涯を作品に昇華させていますね。

解説ではこのポップで独特な筆致を「言葉遊び」と「記号表現の遊び」と文学的な論理で詳しく解説していますが、要はファンタジックで絵本のような世界観を受け入れられるかどうかだと思います。僕も読み始めはどうかと思ったけど、意外と面白かった。

古典作品は難しい翻訳がつきものですが、これは訳者が頑張ったのか、結構サクサクと読めますね。一度目は予備知識なしで読んで、二度目は時代背景やヴィアンの生涯を理解した上で読みたくなります。

読むきっかけは映画化ですが、ポップでファンタジックな切り口監督のはミシェル・ゴンドリーと非常に相性が良かったと思います。コランとクロエの出会いのシーンなどは、原作と違って、映画的な別の味わいがありました。ただ一点不満点を言うとすると、コランとクロエの配役…ロマン・デュリスとオドレイ・トトゥはさすがにないかと。もうちょっと若くてカッコいい俳優いなかったんですかね?ってまぁ、この辺りは制作側のジャッジで色々あるんでしょうけど…。

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2013年11月03日

Posted by ブクログ

読む際、頭の切り替えに失敗したせいで幻惑と翻弄されてばかり。なかなか癖のある物語で私にはシュールな具合とアイロニカルな感じがややきつ過ぎた作品でした。イメージが弾ける世界にはドラッグでも軽くキメたか、とことん寝不足の頭で書いたのかな? という印象を持ち、奇妙な感触が残ります。結局、最初から最後までつかみきれないまま読み終えてしまったのですが、今はそれでよかったと思っています。だってこのお話、écume(泡ぶく)なのですから、つかめたところで消えるだけですもの。好き嫌いがはっきりと分かれる内容だと思います。

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2013年03月18日

Posted by ブクログ

絶妙なバランス。現実と虚構の渦が生み出す夢のような世界。

肺に睡蓮が咲く奇病に取り付かれたクロエとコランの儚く繊細な日々。

ピアノカクテル、小鳥のソーセージ、心臓抜き、、、、

愛をこめて現実を破壊するヴィアンの魅力が凝縮された一冊。


自分の選んだ職業のために、クロエの運命を知るコラン。そのシーンはとても印象的で好き。

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2013年01月05日

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