小川哲のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小川哲のデビュー作。
巨大情報企業による実験都市アガスティアリゾート。
その都市で暮らす為には自らの視覚や聴覚、
位置情報などプライバシーの全てを提供しなければならない。
ただし、その代わりに得られる報酬で平均以上の豊かな生活が保証される。
そんなアガスティアリゾートに纏わる人々の6つの物語。
デビュー作で日本ではなくアメリカ、しかもディストピアを描く、
まさに挑戦的とも言えるし、トチ狂ってるとも言える。
そんな規格外な発想を実現させた小川哲に賛辞を贈りたい。
ビックブラザーのいないオセアニアの様な世界。
すごく乱暴に言えばそういったところか。
不都合な真実は見向きもされない。
人間は次第に無識状態に回帰していき、そしてユートロニカが訪れる。
永遠の静寂。これほど恐ろしいことはないんではないだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本書は、小川哲がパーソナリティを務める(務めた?)ラジオ番組でのゲストとの対話をまとめたもの。作家、映画監督など表現者との対話が主であり、なかなか錚々たる顔ぶれだ。1年半ほどの番組の中からセレクトした12人、12章が並ぶ。
ざっと見て、万城目学、逢坂冬馬、九段理江、加藤シゲアキとその著作を読んだことのある作家が目立つ。芸能人作家でもある小泉今日子に太田光も、どちらの著書にも触れたことがある。映画監督濱口竜介は、ちょうど『悪は存在しない』が上映されていたころの対談か。映画も観ているので話が分かりやすい。
そう、登場人物たちの作品にある程度触れていないと、その会話の深みが味わえない部分もあるが、本書をきっかけに、それぞれの作家の作品へ目を向ける一助にもなる。
それに作家たちは、小川哲も含めて、いろいろ古今東西の作品を読み込んでいるな、とういうこともよく分かる。小川哲は、このラジオ番組の仕事のためということもあろうかと思うが、対談者の作品は実にしっかり読みこんでいて感心させられた。
しかも、その読みが、半端なく深い!!
万城目の文章について、「」の後に“と言った”を付けないと指摘して、そこに気づいたことに万城目から驚かれるシーンは圧巻だ。
逢坂冬馬、九段理江との創作談義が深みもあって面白かったかな。九段理江は、声もいい。
そうそう、この対談は、元になったラジオ番組もネットで聞ける。本書の冒頭にQRコードがあり、番組サイトへ導いてくれる。
聴いてみると、しゃべっていることの3分の1から半分ちかくはカット、本書には収録されていない。ギュッとエッセンスを要約したものが一冊に収まっていて、読んだ方が時間は早い。
でも、読んでから音声を聴きながら、改めて読み返してもみた。
万城目学は、そのまま大阪弁全面押しで文章化してもよかったんじゃなかろうか(笑) そのほうが味わいが出る。 -
Posted by ブクログ
大雑把に言えばタイムトラベルと歴史に関しての短編集といったところか。
各短編の良し悪しにはかなりの差を感じた。
だが概ねどれも興味深く読めたのは確か。
名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる『ひとすじの光』は
競馬好きにはたまらない内容。
自分が一番競馬に熱を上げていた時期の名馬に関する物語が読めるとは。
そしてこれほどまでに熱い血の浪漫が読めるとは、そういった感動があった。
そして表題にもなっている『嘘と正典』
これは長編で読んでみたいと思うぐらいの出来だった。
マルクスとエンゲルスの出会いを阻止することで共産主義の消滅を企む。
構成とオチは完璧。勿論、その結末には驚かされたに決まっている。 -
Posted by ブクログ
「旅」をテーマに、気鋭の作家陣が短編を寄稿したアンソロジー。とはいえ旅の解釈はそれぞれであり、SFだったりミステリーだったり、各人の特徴が出ている内容となっている。
個人的な好みは藤井太洋さんの「月の高さ」。ご本人の経験を踏まえた舞台芸術の置かれた現状、地方巡業のドタバタ感、枯れたおじさんと若い女性の緩い連帯といった内容が小気味よくロードムービー的に展開されていて面白かった。
一方で石川宗生さんの「シャカシャカ」については正直よく理解できなかった。地表がシャッフルされるという話のメタ構造として、各章の順番もシャッフルされていく流れなのだけど、いきなり話と場所が飛んでしまうためについていけない印象を持ってしまった。まぁその辺の実験的な取り組みができるのも短編集の良いところなのだろう。 -
Posted by ブクログ
何を言うてるの?という話が半分くらいだったけれど、陰謀論だったり、宗教だったり、神だったり題材が自分の関心というか不思議だと思うことと重なっていて、自分はそっち側になることもあるし、その逆側になることもあるんだけど、それを俯瞰して読めることが面白かった。
小川哲さん、「君が手にするはずだった黄金について」で初めて読んで好きになって、「君のクイズ」も面白くて、期待に胸を膨らませてこの本を手に取った。でも最初から読みづらすぎて全然入ってこなくて、無理だと思って諦めちゃっていたんだけど、「地図と拳」ではまって読書熱が上がり、もう一回読んでみてよかった。特に最後の話がとても好きだった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレSF短編集。この短編集ひとつであらゆる時代のあらゆる物語が楽しめる。作者の着眼点・想像力が凄まじい。ただし、ものすごく分かりやすい文章にしてある所為か、文学的な要素は薄いと感じた。
○魔術師
父親の世紀のマジックを、姉が再演しようとする話。結局タイムトラベルを実際にしたのかどうか分からないままで、余韻の残るラスト。そこまで好みではなかった。
○ひとすじの光
作者の競馬愛がひしひしと伝わってくる作品。誰にも注目されず、ひっそりと現役生活を終える競走馬の一頭ずつにドラマが込められていることがわかった。
○時の扉
個人的には今作で一番微妙だった作品。あまり記憶に残ってない。
○ムジカ・ムンダーナ
個人的には今作の中でベスト。音楽を通貨とする部族の設定が面白かったし、それに魅了された父と子の物語もとても素敵だった。
○最後の不良
流行が消滅し、個性を出すことがダサくなった近未来を舞台に、懐古厨たちが暴れ回る話。と見せかけて、全て仕込みだったというオチ。これだけで長編一作できそうなくらい面白い設定だった。
○嘘と正典
一番ボリュームがある表題作。冷戦期のモスクワを舞台にしたがっつりSF。エンゲルスとマルクスの出会いを阻止することで、共産主義を世界から抹消しようとするCIA職員の物語。冷戦期のスパイ活動の緊張感がしっかりと伝わってきて、とても楽しめた。