帚木蓬生のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ三巻までの感想は一巻のところに書いたので、4、5巻の感想をこちらに書きます。
全体を通してですが、帚木先生はきっとこの全五巻で先生なりの源氏物語解釈を書かれたかったのかなと思います。紫式部物語と言うより、「源氏物語」という畢生の作品がいかにして編み出されたか、というところに焦点が当てられ、全巻の半分は源氏物語の帚木先生なりの解釈でした。式部の現実と唐突にクロスするので時々頭が混乱しました。四巻で宇治十帖に迷いなく突入した時にはどうしようかと思いました。
出てくる中宮付きの他の女房たちとの会話もほぼ源氏関係一色で、不自然です。中宮付き、あるいは皇太后付きの女房という重要職、上臈女房たちがそんなに暇とは思えません。もっと季節ごとの儀式や祝い、彰子中宮と道長の確執、皇子たちとの関わりなんかも書き込んで良かったのではないかと思います。
それに、百人一首にも収録されている式部の歌にも触れてほしかったし、娘と入れ替わりに生家に戻った彼女のことももっと書いて欲しかったです。 -
Posted by ブクログ
山本周五郎生受賞作品。感涙の名作ということで、手に取りましたが、残念ながら、自分の琴線には触れませんでした。
精神病棟でおこる殺人事件に関するミステリーかと思っていたのですが、そもそも想定が違っていました(笑)
冒頭で3つの話が語られます。
産婦人科で堕胎する少女由紀の物語。
傷痍軍人の父親をもつ秀丸の物語。
甥の子供の水難事故の責任を追及される聾唖の昭八の物語。
なんの関連性もなく、なんなのこれ?っと思わせる展開でしたが、チュウさんを中心に描かれる閉鎖病棟での物語に絡んでいきます。
悲しい過去、重い過去をもつ患者たち。
そして、その患者、看護婦、先生の日常が語られていきます。
本書から伝わるメッセージは、患者たちが一部を除いて純粋な心の持ち主ということ。
一方、その周りの人たちや親族の人がひどい人たち。
考えさせられます。
そして、起きた病院内の殺人事件。
殺害の理由やそれを知る者たちの気持ちがひしひしと感じられます。
全体を通して、暗い気持ちになる物語でしたが、最後はさわやかな終わり方でよかったです。 -
Posted by ブクログ
1979年第81回直木賞候補作
文庫化は1983年
コロナ禍で、ウィルス研究小説として再注目されたようです
「ウィルス」研究の成果を評価され、アメリカの研究施設へと乞われた一人の若き細菌学者
程なく、同じ細菌研究者の友人は、突然の彼の事故死の連絡を受けた
数十年後パリで死んだ男の元上司の訪問を受け、彼の墓がフランスの田舎にある事を知る
墓を訪れた友人は、死んだ男の元恋人と会い、彼の死の真相を知る事になる
ウィルス研究に没頭していた男の生い立ち、アメリカへ渡ってからの研究者としての葛藤が、徐々に明らかになっていく
研究が兵器として使われる事を拒んだ男の過酷な人生を友人がたどる
細菌研究について、詳細で さすがお医者様作家
フランスの山間の極秘研究所等魅力的な題材です -
Posted by ブクログ
2010年、平城京遷都1300年の記念すべき年に読んだ。
大仏建立の詔が聖武天皇によってなされたのは743年のことだ。
通常、大仏建立記は為政者の立場から、つまり聖武天皇•光明皇后•藤原仲麻呂•僧玄昉•行基の視点から語られる。
だが、本書は巨大大仏を実際に建立した一人の人夫の視点から描かれる。
市井の市民の視点を通すことで、時代背景がよりリアルに切実に感じられ、登場人物が生き生きと描かれることになるのだ。
主人公国人(くにと)に課せられた銅作りの苦役は悲惨極まりないが、その状況を易々と乗り越える主人公の心映えは純粋で美しい。
大仏建立に徴用され、長門国から奈良に向かうに当たっては、役人の庇護が有り安全に長旅をすることが出来る。
しかし、数年の苦役を辛うじて終えた後は、自助努力で故郷に帰りつかなくてはならないのだ、
使用価値のある間は大事にするが、使用価値が無くなった途端、国家権力は個人に無関心になる。
徴用された膨大な労働者によって大仏は建立されるが、労働が終わった後、労働者の殆どが、故郷に帰り着くことなく路傍に散っていったことを、歴史の教科書は教えない。
悲惨な物語にも関わらず、この小説が清々しいのは、主人公の無垢な心が色々なものを吸収して浄化し、周りの人々にも感化を与えていくからだ。
「大仏を作った者も仏」という悲田院の僧侶の言葉は、主人公の辿り着いた境地を語って感動的だ。
印象的に描かれるのは、行基上人の二人の弟子のコントラストだ。
ひとりは都から遠く離れた長門の国でたった一人巨大な磨崖仏を彫り上げる景信であり、今ひとりは豪華絢爛の中、物欲にまみえる大僧正だ。
ひとは、美しく生きることも、醜く生きることも出来る。
それを、市井の視点から、見事に描き切った大作だ。