帚木蓬生のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
1998年に発生した和歌山毒物カレー事件を覚えておられる方も多いのではないでしょうか。本書はその事件を題材にした小説で、登場人物は架空(例えば容疑者の林眞須美は小林真由美の名前で登場)のフィクションの体裁をとっていますが、基本的には警察から調査協力を依頼された毒物中毒の専門医が調査を進める過程を忠実に描いています。
著者が九州大学医学部卒の医師ということもあって、被害者の毒物中毒の描写、カルテや調書から混入された毒物が砒素であることを確定していくプロセスはかなりリアルです。私自身は毒物や医学に特別詳しくないので、本書で述べられている症状などがどの程度正確なのかの判断はできませんが、すべての描写が事実に即したものであるという前提で読んでいると、相当細かい症状まで描写されています。
私自身もこの事件の全容についてはだいぶ記憶が薄れていましたが、夏祭りで砒素が混入されたカレーを食べて中毒となった60数名の被害者以外にも、その10年以上前から容疑者宅に出入りしていた人たちや、容疑者の夫までもが砒素を食事に混入され、容疑者が多額の保険金を手にしていた事実が描かれています。
本書上巻では夏祭りでの砒素中毒の10年以上前から砒素を食事に混入されていた被害者のカルテや調書の分析がメインですが、砒素による毒殺は本書でも述べられている通り、「初めからヒ素中毒を疑ってかからないと、なかなかたどり着けない」とのことで、被害者が入院した病院ではギランバレー症候群や、他の神経障害などの所見にとどまり、真実にたどり着けない様子なども描かれています。
事件性を煽ることも劇的な展開もなく(例えば、容疑者が食事に砒素を入れるシーンの描写などは皆無)、淡々と資料と向き合う主人公の医師の分析の様子を描くノンフィクションのような読後感でした。 -
Posted by ブクログ
長い間、敗戦後の占領政策で洗脳され、国内が経済的に発展すればそれでよいというようにのんびり暮らしてきた日本。「国防」というキーワードが意識されだしたのは、拉致事件が明るみに出た頃から強くなったのではと、わたしは思います。
鎌倉時代の世も昔のこととはいえ、やはり狭い国内でだけで覇権争いをしていた。そんな時代に日蓮というお坊さんが現れ「外敵が攻めてくるかもしれない」と予言、その諜報員のような働きをした若者の物語を通して、やんわりと国を守るということを解き明かされているような作品です。
主人公は千葉の先端で育った孤児の「見助」。「日蓮」に出会い、関わっていくうちにはるばる九州の沖の対馬まで旅をして行ってしまうというのが上巻。
時は鎌倉時代の後期、政府(幕府)は権力闘争に明け暮れ、そして疫病と天変地異、庶民は疲弊しておりました。そんな時には宗教が絡んでくる。世は念仏宗の「南無阿弥陀仏」と唱えてさえいれば幸せになれると、上つ方にも下じもも念仏宗一辺倒、そこに日蓮が警告的な説で異を唱え挑むのです。
蒙古襲来、歴史教科書での記憶ありますが、帚木さんの想像力と創造の物語は臨場感あります。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ題名から元寇の戦記物と思って購入したが、下人の成長譚・ロードムービー的なストーリーで、これはこれで面白さがあった。が、
主人公は日蓮の耳目・手足として人生の大半を過ごす。想い人とも結ばれず、日蓮とも再会できずに亡くなるが、自分の一生は日蓮の依頼を全うし幸せだったと感じて亡くなる。
信仰を持った者は幸せなのかもしれないが、自分には残酷な話にしか思えない。なんか、やるせない。
主人公は無色透明というか、ロボット的。最初に受けた命令を実直にこなすだけ。かつての想いびとが蒙古に連れ去られても、日蓮の命令を優先して何もせず傍観するだけ。宗教の怖さを感じた。
元寇は神風により撃退できた印象が一般的であるが、実際には御家人達の奮闘による事がよく分かる。また当時の庶民の暮らしや交易が盛んであった事もきちんと描かれている。 -
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痴呆病棟を舞台にした終末期医療について考えさせられる作品。
全てが日記・手紙調で書かれており、病棟での歳月を追っているため、文章はかなり長めになっている。文章自体は読みやすいのだが、登場人物も多いため「誰がどんな症状で、家族はどんな様子…」といったことを確認しながら読み進めるとかなりの時間を要する。
167ページまでは入院患者の紹介(患者本人や家族などから)のため、看護師の視点がなく本書を読み始めたときは「?」といった感じだったが、徐々に読み進めていくうちに内容が明らかになってきた。
ミステリーとされているが、謎解き要素は少ない。ただ、痴呆の現状と医療の問題点は浮き彫りにされているように思えるので、ミステリーとしてよりは医療ものとして読み進めていく作品に思える。 -
Posted by ブクログ
帚木蓬生の初期作品3作を収めた本書は、時代背景もあり、鬱屈した、しかしなにか正義の上に立ち続けたいという複雑な意思を表明しつつ環境に流されてしまうもどかしさあるいは諦めが表現されている作品である。つまり、文学的であるというよりも著者の意図が前面に立ち、言いたいことは何かあることはわかるが、分かりにくいといったある意味それが若々しさなのかもしれん、と感じたのだ。(「つまり」になっていなようだが。)
表題作『空の色紙』は精神鑑定に携わる精神科医の視点から、精神鑑定の意義を問いかけていることとは別に精神的に病むほど思い込んでしまう男女関係の疑いの恐ろしさと、精神科医といえでもその状況にはまり込んでしまう危うさを描いている。題材としても独特で、その後に続く各著作の片りんを感じさせる。
『墟の連続切片』は当時の大学医学部における諸問題と学生運動を絡めた意欲作にも思えるが、いろいろな「書きたいことが」詰め込まされているようで、結局最も言いたいことは何だったのか?よくわからなかった。(作品名も自分ではタイプできなかった)
『頭蓋に立つ旗』は医師を育てる教官が、何故そのようなスタンスをとるのか過去や自身の経験を振り返っていく物語。学生運動との関係を混ぜつつ、真の思いが別のところにあることを文学的表現にチャレンジした作品という印象。チャレンジャブルな感じが好感を持てたが、多少最後はあっさりとしている。
いずれの作品もいわゆる帚木作品とは異なるものの、そこに至る道程を垣間見ることができてそれはそれで楽しめた。 -
Posted by ブクログ
時は1700年前半、久留米の大庄屋の次男として生まれた主人公。各地の庄屋を取りまとめる大庄屋は兄が継ぐことは決まっているなかで、自分の道を決められずにいた。
ある日領主の理不尽な要求に反発した百姓たちが城下を火の海にしようと集まり手に鋤や鍬を持って続々と城下へ向かう場面に遭遇する。結果的には領主と百姓の間に入った家老が事を収めるのだが、その光景は主人公の心に焼きつき、さらにその家老の立派な処置に感銘を受ける。
そうこうしているうちに疱瘡にかかり生死をさまようが腕利きの医師に命を救われるが、彼がうつしてしまった母と女中が死んでしまう。それを機に兄との確執が生まれ、そして主人公は命を救ってくれた医師に弟子入りすることを決心する。
20年ほど師匠の元で修業した後、故郷近くで開業。平穏な日々が続くが、代替わりした領主によりまたもや理不尽な要求が課され、本格的な一揆になっていく。
百姓ではない立場で当時の百姓の暮らしぶりや苦労ぶり、領主の横暴さなどで領民が振り回される様をリアルに描いている。
当時はこんな感じだったんですよというのと、医師とは本来こうあるべきというのを主人公を通して伝えている感じ。全体的に淡々としていて、一揆などは起こるものの物語として盛り上がるわけでもないので、退屈と言えば退屈。ただ当時の様子がリアルでよく調べているなぁという感じ。 -
Posted by ブクログ
最愛の恋人を事故で亡くし、悲しみに包まれていた舞子。
かつて二人で訪れたことのある山を再度訪ねた際に偶然出会った老僧に、亡くなった恋人との子供を授かることが出来ると持ちかけられた。
それはブラジルにある病院で叶えられると聞き、迷わず向かう。
そこで、同じ境遇の韓国人の寛順と出会い、二人は固い絆で結ばれていく。
そして、そこでは亡くなった恋人に会え、彼の子供を身籠れるという幸せな日々を送れるはずだった。
しかし、そんな日々は長くは続かなかった。
ブラジル行きに隠された恐ろしい秘密と大切な友人との日々が少しずつ崩壊していく。
最初から何か胡散臭いと思っていたことが、明らかになっていく過程はハラハラの連続だった。
2019.9.11