黒川博行のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
全貌が簡単には掴めないように、過ぎる程までに巧妙に組織された特殊詐欺の犯行グループの様子や、被害者を必死に護りながら犯行グループを追い、僅かな手掛かりを執念深く掘り起こす捜査陣の様子が、あの「黒川博行の筆致」で活写されている。一部に立寄ったこと、通り過ぎたことも在る「雰囲気が判る地域」の描写が在って、そんな中で作者が「上方落語の感じを意識」としている、大阪辺りの話し口調でやり取りをする作中人物達が各々の思惑で蠢く。
「勁草」という題名に採られた語の意味は、「風雪に耐え続ける」というようなことであるらしい。本作の“主人公”は犯行グループ側の橋岡であろうが、橋岡は矢坂との行動が好くない方向に転がり続けて色々とややこしくなり、その始末に奔走する他方、本人の知らない所で捜査陣の手が伸びようとしている中、何とか逃げ延びて生き残ろうと「奮戦」する訳である。そういう様が「勁草」ということか?
この顛末…是非とも紐解いて頂きたい!かなり夢中になってしまう… -
Posted by ブクログ
頁を繰る手が停まらなくなった。大阪を主な舞台とした事件モノである。
物語は主にブンこと文田刑事の視点で綴られる…「飯を食い損なった…」とブツブツ言う場面も多いのだが、地道に捜査活動に勤しむブン…得られた情報を整理して繋げようとし、対外的な押し出しも好い50代のベテラン刑事の総長…研修中のキャリアとして、特段に何かに励むという程のことが求められるのでもないらしい中、独自の推理で大胆に事件の謎を追う萩原…事件現場や関係者が動き回っている大阪を踏み越えて、近県や四国方面にまで捜査の手は拡がる…不思議な事件の裏に、複雑な不正が在って、犯罪の連鎖を起こしてしまっていたのだった…
ブンと萩原とのやり取りに関しては、東西の人の気質の違いや、文化のぶつかり合いというようなモノを取り込もうという意図で綴られたというようなことだが、私はそういうようにも思わなかった。これは出身や学歴や職務上の経験が様々な捜査員達が集まって活動しているという「群像ドラマ」として、何やら何時もつまらないことで言い争いをしている者達が見受けられ、居合わせる年長者が少しばかり呆れているという、多少笑える場合も在る場面として出て来るに過ぎないと思っていた。
この作者に独特な感も在る、作中人物達の軽妙なやり取りに乗って事態が疾走するというスタイル…1980年代後半、作者の「初期作品」ということだが、その頃からそういうスタイルだ…例えば、電車の駅のホームで煙草を蒸かすというような、イマドキは禁止になっている仕草の描写に“時代”は感じるのだが、相当な年月を経ても古臭くない… -
Posted by ブクログ
とにかく、「天性のイケイケヤクザ」の桑原の魅力が圧倒的。底なしの口の悪さと悪知恵のための頭の回転と、化け物じみた喧嘩の強さ、そしてなにより、筋の一本と追った任侠(なんだかんだ言って金を使うべきときには出し惜しみしない)に、爽快感を覚えない人はいないのじゃないか。
特に本作では、桑原たちに協力する中国人、朝鮮人の男たちの侠気に思わず目頭が熱くなるシーンがあり、文字通り「任侠に国境なし!」と快哉を送りたくなった。また、ラストシーンにもぐっと来る。もちろん、想像を絶する過酷な現実の中で生きる北朝鮮の人々(特に浮浪児たち)の描写には胸が痛む。桑原でさえ絶句する社会状況、小説では金正日体制時代でまで日本との経済交流があった時代だが、金正恩体制となった今、悪くなりこそすれ良くなっているとは到底考えられず、果たしてここで描かれているよりひどい状況とはいかなるものかと考えるだけで、言葉を失う。
おそらく、黒川さんご自身で北朝鮮に取材されたと思われるが、巻末の参考資料の量にも圧倒される。これだけ手間隙書いたのに「あと一息」とか「北朝鮮の描写が書き割り」とか評されて直木賞獲れなかったなんて、ちょっと悔しいくらいじゃ済みませんよね。
あれだけ長いのに、無駄なシーンがひとつもないうえに、おびただしい情報量にも関わらずすこんすこんと頭の中に入ってくるので、あっという間に読めてしまう。もちろん、桑原と二宮の丁々発止の遣り取りには時々吹き出してしまうこと請け合い。
暴力シーンもあるけど、桑原は女性には意外にもジェントルマンなので、女性にもお勧めですよ! -
Posted by ブクログ
冒頭───
滋賀県警捜査一課班長、根尾研一郎警部が余呉湖西岸の現場に着いたのは午前八時、警備の警官に目礼し、やじ馬の包囲網を抜けた。死体は引き揚げられ、湖岸の砂地に横たえられていた。白衣の検視官と数人の鑑識課員がそのまわりを囲んでいる。検視の最中らしい。
根尾は咥えていたパイプをポケットに収め、
「死因は」
先に来ていた部下の川村を呼び寄せて訊いた。根尾は男の他殺死体が揚がったとしか報告を受けていない。電話で叩き起こされ、食事もとらずに家を飛び出して来た。
1980年代の初め、ぼくはまだ学生だった。
当時、学生の間ではインド旅行がちょっとしたブームになっていた。
インドへ行けば、人生観が根底から引っくり返されるのだと。
鉄道を下りて駅から外に出ると、道端に大勢の人間がやる気もなく朝から晩まで寝ころんでいる。
何の職業も持たない路上生活者、今の日本で言えばホームレスだ。
インドのどこに行っても、それらの人間の多さに圧倒されたと。
人間の尊厳とは何か? 生きるとはどういうことか?
それをあらためて考えさせられる。
バブル萌芽の時期、インドに行った旅行者たちはみなそう思ったと言う。
時は経ち、あれから30年。
今やインドはBRICSの一国として、今後の世界経済の一端を担う先進国になりつつある。
30年の時の流れは全てを変える。
この作品は、1980年代に大賞賞金が1000万円ということで注目を浴びたサントリーミステリー大賞の第四回受賞作だ。
最初の被害者の腹部から発見された2カラットもの高価な宝石キャッツアイ。
続いて起こった殺人事件でも、被害者の口からキャッツアイが転がり落ちる。
被害者の一人である学生のサークル仲間である女子学生が、事件のカギは、学生が訪れ、キャッツアイの生産地でもあるインドにあると見て、インド旅行を企てる。
そこであらたな事実が発覚する。
スリリングな展開と洒脱な関西弁、女子学生の魅力的なキャラ。
文章も達者でテンポも良く、とても新人の作品とは思えない。
それもそのはず、著者の黒川博行氏は、第一回、第二回と連続で佳作に入選している。
よほど才能があったに違いない
そして、ようやく四回目での大賞受賞。
感慨深かったに違いない。
その黒川氏が、つい先月、満を持しての直木賞受賞。
遅きに失したというべきか。
受賞作「破門」がなかなか面白かったので、他の作品に取り掛かったのだが、この、ほぼデビュー作ともいえる作品もかなりの秀作だった。
三十年前から、優れたエンタメ作品を書いていた黒川氏の足跡を知ることができる貴重な作品だ。
今読んでも、特に古臭い部分などなく、お薦めのミステリーです。