Posted by ブクログ
2014年08月29日
冒頭───
街灯に明かりが入った。降りはじめた雨がルーフを叩き、フロントガラスにはじける。エンジンをかけてワイパーを作動させ、デフロスターのスイッチを入れる。
「見えんな------」稲垣が助手席のウインドーを下ろして、油膜とりのスプレーを吹きつける。白い泡が散り散りになって流れ落ちた。
「そろそ...続きを読むろ一時間やで。いったい、いつになったら出てきよるんや」
じりじりする。友永はステアリングを強く握りしめた。
黒川博行、1995年の作品。
スピード感あふれたクライムサスペンス。
堅気の男たちがヤクザの組長を誘拐し身代金をせしめようという物語。
誘拐を企てた主要人物ははどうしようもないハグレ三人。
といっても、一人はほとんど喋らない展開なので、いつものように二人組での関西弁の掛け合いが続く。
組長を誘拐してからの何回かの身代金受け渡しの攻防がスリリング。
いつもながら、黒川さんのストーリー展開の上手さには惚れ惚れする。
この作品を読んで、二十年前にはすでに携帯電話は当たり前の持ち物だったのだ、とあらためて思った。
ポケベル、PHSが幅を利かせていたのは80年代後半~90年代前半だったか。
ポケベルでは、数字で合言葉を決めるっていうのもあったな。
初めてPHSを秋葉原の電気店で買った時は、子供が新しいオモチャを与えられた時のように、うれしくて友達に掛けまくったものだ。
約二十年前に書かれた作品ながら、古さは全く感じられない。
古くても読ませる黒川作品のエンタメ度の高さが存分に発揮されている作品だった。
特に最後の2ページ、三人組の一人の主人公友永が、突然思い立って行先を変えるところに、仲間への愛情が感じられた。