Posted by ブクログ
2019年09月11日
黒川博行の珍しい短編集。ほとんど詐欺のような美術雑誌の副編集長佐保を中心に、その周辺でのホンモノ・ニセモノの騙し騙されあい。
敦賀市に残る蔵に眠る芦屋の茶釜。そこに「初だし屋」と呼ばれるハイエナがごとき2人組が現れ、不用品の回収と称して、時価500万円とも言われる茶釜をだまし取っていく。その家族か...続きを読むらの依頼で、二人組に復讐を計画する…。
短編ということもあり、特に最初の2本で「あ、本物やと思ってたら偽物やったという話か」と納得してしまいがちだが、3本目からは流石にそうはいかんのが黒川流。偽物とわかってからの二転三転を短い中に折り込む超ハイスピードな展開で、飽きさせないというよりは、ついていくのが精一杯な作品が続く。
あとがきに本人が大学時に美術を専攻していたということから、なかなかに背景などをよく調べてあるもんだという点は感心する。そういう調べたものが血肉になっている作品だからこその、文章の深みというものが感じられる辺りは大変よろしい。
ただ、ちょっとハイスピードすぎるんよね。図録の話はもう少しベースの知識を共有してほしかったし、同じような名前の登場人物(末永と末武など)が多すぎるのもちょっとしんどい。
また、黒川作品の魅力でもある、関西弁での会話文がかなり少なく短く、誰が喋ったかという点も省略されがち。物足りない。1冊2篇くらいの中編で良かったのではないかと思う。震災時の石膏像の話は、ちょっと中途半端。
ストーリーは一級だし、テーマやコンゲームのような展開も面白いので、おすすめの作品では有るが、短編で読みやすかろうと手にとって、黒川博行はこんなもんかいと判断されるのなら、他の作品から入られることをおすすめする。