黒川博行のレビュー一覧
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冒頭───
街灯に明かりが入った。降りはじめた雨がルーフを叩き、フロントガラスにはじける。エンジンをかけてワイパーを作動させ、デフロスターのスイッチを入れる。
「見えんな------」稲垣が助手席のウインドーを下ろして、油膜とりのスプレーを吹きつける。白い泡が散り散りになって流れ落ちた。
「そろそろ一時間やで。いったい、いつになったら出てきよるんや」
じりじりする。友永はステアリングを強く握りしめた。
黒川博行、1995年の作品。
スピード感あふれたクライムサスペンス。
堅気の男たちがヤクザの組長を誘拐し身代金をせしめようという物語。
誘拐を企てた主要人物ははどうしようもないハグレ三人。
といっても、一人はほとんど喋らない展開なので、いつものように二人組での関西弁の掛け合いが続く。
組長を誘拐してからの何回かの身代金受け渡しの攻防がスリリング。
いつもながら、黒川さんのストーリー展開の上手さには惚れ惚れする。
この作品を読んで、二十年前にはすでに携帯電話は当たり前の持ち物だったのだ、とあらためて思った。
ポケベル、PHSが幅を利かせていたのは80年代後半~90年代前半だったか。
ポケベルでは、数字で合言葉を決めるっていうのもあったな。
初めてPHSを秋葉原の電気店で買った時は、子供が新しいオモチャを与えられた時のように、うれしくて友達に掛けまくったものだ。
約二十年前に書かれた作品ながら、古さは全く感じられない。
古くても読ませる黒川作品のエンタメ度の高さが存分に発揮されている作品だった。
特に最後の2ページ、三人組の一人の主人公友永が、突然思い立って行先を変えるところに、仲間への愛情が感じられた。 -
Posted by ブクログ
冒頭───
大阪難波、淀屋デパートに着いたのは十時五分前だった。タクシーを降りて新館に向かう。玄関前には七、八人の女性客が並んでいた。待っているはずの美術部長の姿が見あたらない。
「どうしたんや、伊谷は。おらんやないか」
腕の時計に眼をやって、いらだたしげに室生がいう。
「おかしいですね。十分前には新館の前にいるというたんですけど」
大村は室生のそばを離れた。小走りで『虹の街』のほうへ行く。カフェテリアの向かいにもう一カ所、淀屋の入り口があったが、そこにも伊谷はいなかった。
黒川博行の作品は特徴がいくつかある。
一、常に関西が舞台である
二、主人公と連れ添う相方が存在し、二人を中心に話が展開する
三、相方との関西弁での会話が絶妙、或いは相方への秘めた心理描写が面白い
四、可愛い女性が良いキャラを演じている
私がこれまで読んだ作品は全てこれに当てはまった。
この四つが絡まり合って、とにかく読んでいて楽しい。
この作品は美術界の内幕、芸術院会員になるための派閥争いや贈収賄などの裏抗争を描いている。
といっても、これがそのまま現実のことではないだろうが。
でも、清廉潔白に見える芸術分野が、権威や権力を勝ち取るために、裏では金や生臭い争いにまみれているという、いかにもありそうな話になっている。
ここまで過激ではないかもしれないが、これに近い状況がないとは言えないのだろう。
私の知りあい(というにはおこがましいが、年齢がかなり上の方なので)が、天下の東京G大の学長に就任したとき、派閥の戦いがあったという噂を耳にした。
この話のように実弾までは飛び交ってないだろうが。
それでも、この作品内での魑魅魍魎が跋扈するどろどろした抗争は、政治家なども絡まって妙に現実感がある。
最後の落ちも、ある程度予想されたこととはいえ、見事だ。
黒川博行の筆の達者さと言うべきか。
ラストの大村の呟き、
「おれは絵描きやな」
「おれは絵描きやろ」
「絵描きは絵を描かんとあかん」
という台詞は、絵描きは名誉や権力を得るための政治屋ではなく、純粋に絵を描くことにのみ研鑽すべきだという警鐘なのだろう。 -
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疫病神シリーズの四作目。
五作目が先日直木賞受賞ということで、おめでとうございます。
そのニュースを見て久々にこのシリーズを読もうと思って購入。
相変わらず桑原と二宮の掛け合いが面白かったです。
『国境』を読んでからなので、そうすると少しインパクトとかスケールが小さく感じるかもしれませんが、登場人物がなんとか把握できる程度だったので読みやすかったです。いや、それでも多いほうだとは思うけど…。
あとは、東京が舞台のシーンが多くて、今まで大阪の描写はわからないとこが多かったけど東京は「あぁ」となれたのでその辺も読みやすさの一因だったのかも。
それにしてもなんだか二宮がほんとに意地汚いというか図太くなってってる気がする。
これでカタギ…と毎回思う。 -
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冒頭───
風呂あがり、やっとありついた晩飯。冷めたアサリの吸物をひとすすりして、さてこれからと箸をとりあげた時、電話が鳴った。反射的に壁の時計を見る。もう午後十時、こんな時間の電話にろくなものはない。
「おーい、電話やでー」
ちょっと振り向けば電話に届くものなぜかおっくうで、隣の部屋にいるはずの佐智子に声をかけた。返答がない。代わりに、ザーッと水の走る音のするところをみれば、残り湯で洗濯でもしているのであろう。
「えーい、しゃあないなあ」
受話器をとる。
「破門」で直木賞を受賞した黒木博行さんの、正真正銘のデビュー作。
第一回サントリーミステリー大賞佳作賞受賞作品である。
キレのある日本語。
関西弁特有のテンポの良い文章が続く。
実にうまい。
エンタメ読み物としては、すでにこの時点で一流である。
主人公の黒田とマメちゃんという、漫才風の会話のやり取りをする二人のキャラも面白い。
この面白さは、のちの「疫病神」シリーズでも存分に活かされているようだ。
これは銀行強盗から派生した誘拐ものだが、警察と犯人との身代金の受け渡し方法などは、今でこそ同様のものが多くあるが、当時としては画期的だったのではなかろうか。
最後のどんでん返しについては、動機的にはやや弱い気もするが、それでもあっと驚かされる。
いやあ、面白いミステリー作品でした。
これでも佳作なのだから、サントリーミステリー大賞はレベルが高かったんだよな。
そういえば、第一回で読者賞を受賞した「桜子は帰って来たか」というのも、遥か昔に読んだが、かなり面白かった覚えがある。
でも、受賞者のみなさんが、今でも作家として活躍しているかというと、そうでもないところに文筆業の難しさがあります。
一発屋で終わる受賞作家のなんと多いことか。
黒川博行、今後も読み続けます。
好きな作家がまた一人増えました。
直木賞のおかげです。
受賞しなかったら一生出会わなかったかもしれない作家だから。