黒川博行のレビュー一覧
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大阪府警の暴力団担当刑事、堀内。彼とその相棒、伊達は正義感あふれ、悪を許さないありがちなイメージの刑事像とはほど遠い。出世のためには裏社会の情報は欠かせない。情報のためには金と汚い付き合いも欠かせない。というのが彼らの理論。
そんな2人が賭博場開催の情報を掴み、大勢の現行犯逮捕。事件は一件落着、署内での2人の評価は大幅アップ。となるはずだが、堀内は新たなカネのなる木を見つけ出す。
凄まじくカネに執着する悪徳刑事2人。チームワークも正義もあったもんじゃない。彼らの行動原理は犯人逮捕ではなく、安い給料以外のシノギを得ること。そこに同情すべきところはない。が、それでも彼らを憎めないのは大阪弁のトークのおかげか。やっぱり大阪弁は最高や。
落ちるところまで落ちていく2人には爽快感すら覚える。そして、正義ではメシを食えないことにも納得。 -
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1983年の第一回サントリーミステリー大賞佳作にして黒川さんのデビュー作。
その手口が「グリコ・森永事件」に似ていたために当時警察から事情聴取されたという曰く付きの作品でもある。
久しぶりに再読した。
銀行で強盗事件が発生。犯人は現金約四百万円を奪った上、勇敢に飛びかかってきた男性客に発砲し怪我を負わせ、男性客を人質に取って逃亡した。その後、男性客の自宅へ身代金一億円を要求する脅迫状が届く。
一番の山場は一億円の身代金を巡る犯人と警察との攻防。逆探知を避けるため、事前の指示は基本的に手紙や伝言。長くなりそうな電話については男性客宅ではなくその隣家や銀行を通じて行う。
身代金の運搬もまるで警察を弄ぶかのように振り回す。行く先々に伝言メモが置いてあったり中継先の店に電話が掛かってきたり、実に入念な計画がされていたことが分かる。
同時に人質の指や耳を切り落として送り付ける残忍さも見せつけ、人質の家族や警察へ犯人の指示通りにしないと最悪の事態になる恐怖心を植え付ける。
大阪府警黒豆コンビシリーズでもあり、会話の軽妙さはデビュー作から光っている。特にマメちゃんこと亀田の舌の止まらなさは後の様々なシリーズに通じるところを感じてニヤニヤしてしまう。しかもマメちゃんは単におしゃべりなだけでなく頭が回るのが良い。
一方先輩の黒さんこと黒田は年齢もあってか疲れ切っている感じ。五歳の娘の声を聞けば元気を取り戻したり娘となかなか遊べないと心の中で零しているあたり、子煩悩な父親ということか。
改めて読み返してみれば最初から怪しさがあちこち見えている。しかし現代の振り込め詐欺のように冷静に考える隙を与えなかった犯人の方が上手だったと言えるだろうか。
最後がバタバタしていたのが残念。しかしこれは解説にも書いてあるように、応募作品ということで締め切りも迫っていたらしいし原稿枚数の制限もあっただろう。取材も十分に行えなかっただろうから色々粗も見えるがそれもあって今の黒川さんがある。
アナログ感満載なのも今読み返せば楽しいし、犯人の動機も後の黒川作品に繋がるところがあって興味深い。『二度のお別れ』というタイトルの意味と共にラストの虚無感を置いていくところも良い。 -
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1989年初版の大阪府警ブンと総長シリーズ。久しぶりの再読。
工事現場で見つかったバラバラ死体は、首が腐敗、脚はミイラ化という奇妙なものだった。その数日後に起きた男女の無理心中事件の現場の部屋から、バラバラ事件の記事の切り取りが多数発見される。バラバラ事件の被害者と無理心中した男女はどう繋がっているのか。
以前読んだのが10年近く前なのですっかり詳細を忘れていて、新たな気持で楽しめた。
<疫病神>シリーズや悪徳警官シリーズと違って、こちらは真正面に事件にぶつかる刑事たちの話なので読みやすい。
しかし後のこうしたアクの強いシリーズに繋がりそうな部分もちらほら見えて思わずニヤついてしまう。
例えばブンこと文田。京都出身の同僚・五十嵐にやたらと突っ掛かり、その度に大阪京都対決が始まる。あまりのしつこさに総長こと総田から諌められる始末。
家では母と二人暮らしで母親ベッタリ、捜査の話をしては(捜査情報を漏らして良いのか?)母親が素人探偵推理を展開したり、二人で花札勝負をすることもある。
文章全体から漂う小者感といい、母親との距離感の近さといい、なのに何故か総長の娘で魅力的な伶子と婚約していたりと、後の<疫病神>シリーズの二宮を彷彿とさせるキャラクターだ。
一方の総長こと総田。ブンの婚約者伶子の父だけにかなり年上であることもあり、落ち着いているし事件も冷静に俯瞰している。
事件の絵解きをするのもトリックを解き明かすのも総長で、いわば総長が探偵役、ブンがワトソン役といったところか。
ブンと五十嵐の掛け合いは時に読むに耐えないほどしょうもないこともあるが、これもまた後の<疫病神>シリーズに通じていそうなところがある。
肝心の事件の方は、犯人は中盤で見当が付くものの、なぜその犯人がバラバラ死体の被害者と無理心中の男女の計三人を殺さなければならなかったのか、その繋がりを見つけるところが面白い。この辺も後のアクの強い方の黒川作品に繋がる部分が見える。
もう一つ、意外なところでは密室トリックにも力が入っている。
創元推理文庫版に収録されたあとがきにて『改めて読み返してみると、なんとガチガチの本格派パスラーではおまへんか』とご自身でも驚くような、ちょっと毛色の違った作品と言えるのかも。
個人的には大阪府警シリーズはこうしたミステリー寄りの作品が多いイメージだが、どうだっただろう。改めて読み直していこう。
読み終えてみれば、犯人が策を弄しすぎて自滅してしまった感もあるし、最初の時点で素直な方法を取っていればこんなにたくさんの人が亡くなることも破滅することもなかったのでは?と皮肉に思ったりもする。
そんな犯人に対する警察官とも思えない無慈悲な言葉など、総長もなかなか腹の座ったキャラクターだ。
事件現場だろうが食堂だろうが、張り込み中だろうがどこでもタバコを吸ってポイ捨てしたり、携帯電話もなくて公衆電話や家の固定電話が活躍したりと、たった三十年で色々変わったなと感慨深くなったりもする。 -
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古美術品に絡めて、ひと儲けを企む海千山千の山師達が繰り広げる古美術ミステリの連作短編集。
舞台は関西。美術系出版社社員、古道具屋、表具屋、ブローカーと言った金の匂いに敏感な登場人物たちは悪徳業者ばっかりかといえばそうでもなく、読んでるうちに読者は彼らに味方してしまうのが不思議。活き活きとした関西弁の台詞は、ガツガツとした雰囲気もありながら人間味を感じる。そしてオチには思わずニヤリ。
黒川博行というとハードボイルドよりのミステリ作家という印象が強いのだが、美大を卒業して高校の美術教師というと経歴の持主だという。その経験を存分に活かした傑作だと思う。