伊藤比呂美のレビュー一覧

  • 石垣りん詩集

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    銀行員として働きつつ、詩を紡ぎ続けた石垣りんの精選詩集。茨木のり子さんの詩にも大きな衝撃を受けましたが、石垣りんさんの詩は、また、全く違った意味での衝撃でした。
    現代詩にはまってしまいそうです。

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    2022年09月21日
  • 死を想う

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    今回読んだのは、赤い平凡社新書(2007)。以下、目次。
    ■まえがき 石牟礼道子
    ■第一章 飢えと空襲の中で見たもの
    パーキンソン症候群──読めなくなる、書けなくなる/声が出なくなるかもしれない/食べ物をつくれないのが不自由/石牟礼さんの印象に残っている死についてうかがいたい/飢えの経験/水俣の空襲人間ってこんなものか/物資不足と竹槍訓練/そのころ、お年寄りはどうしてましたか/お年寄りも「この世に用があって生きている」
    ■第二章 印象に残っている死とは
    祖母の死/あの世は「良か所」/祖父・松太郎/父の死──猫のミーを懐に入れて、ぽとんと/いい死に方をした父/父は殺されたぽんたの解剖に立ち会った/『苦海浄土』を書く前に解剖に立ち会う/ぽんたの事件に死の実相を見た/行き倒れの人の死/一人で死ぬのは寂しかけん/お名残惜しゅうございます/父の葬儀/お母様のこと/「勉強しておけば道子に加勢できたのに」
    ■第三章 それぞれの「願い」
    『あやとりの記』──流々草花(るーるーそーげ)/お経はどこで習いましたか/『正信偈』を唱える/『梁塵秘抄』につながっていく/後白河院と白拍子/お能の魅力/いじめられっ子の味方をしてきた/父と母の老いと病気に向き合うと『梁塵秘抄』が現われる/後白河院が『梁塵秘抄』に込めた願い/景戒が『日本霊異記』に込めた願い/石牟礼さんの願いとは/宗教とは/「そらのみじんにちらばれ」──宮沢賢治との共通点/石牟礼さんの愛唱歌/自分が死ぬということ/寝たきりの母が「生きたい」と言う/自殺を考えたこと/弟の死/自分は半端な人間で
    ■第四章 いつかは浄土へ参るべき
    『梁塵秘抄』を飛び飛びに読む/「我等も終には仏なり」/「よろづの仏に疎まれて」/仏様と乞食さん/「勧進どん」への施し/「いつかは浄土へ参るべき」/自分は浄土へ参るのか/良か夢なりとも、くださりませ──七夕の願い/「遊ぶ子供の声聞けば」/「囃せば舞い出づる蟷螂、蝸牛」/伊藤さんの好きな法文歌/「人の音せぬ暁に」/『あやとりの記』のお経を唱える
    ■あとがき 伊藤比呂美

    その後、石牟礼道子が亡くなった年に、青い平凡社新書から〈新版〉が出る(2018)が、
    ・
    増補 詩的代理母のような人ほか一編
    満ち潮――解説がわりの献詩
    詩的代理母のような人
    ・
    が増補されているらしい。

    よくある対談のような持ち上げ合戦ではない、結構話の方向がズレたりして、お互いに隔靴搔痒感が残ったのではないか。
    でもそれが生々しい。
    特に周囲の死や自身の自殺念慮について語る石牟礼道子の声が印象的で、それを引き出せた伊藤比呂美すごい。
    亡くなった祖母や、連れ合いを喪って寂しくしている祖父を思い、といって母や自分や家族も全然他人事ではない、もはや死を想う必要のなかった幼年期から遠く追放されて久しいからこそ、身近な本になった。
    といって重いわけではない、飄々とした会話の在り方が、読者を励ましてくれる。
    石牟礼道子が言及している鶴見和子の最期の言葉
    「死ぬというのは面白い体験ね。こんなの初めてだワ。こんな経験するとは思わなかった。人生って面白いことが一杯あるのね」
    ほどの高み? は目指せないことは判っていても、
    本書を読んだことで少しは何か精神のありようが変わりそうな気がする。
    そんな予感を抱かせてくれるという意味で大事な一冊になりそう。

    伊藤比呂美絶賛の「流々草花(るーるーそーげ)」が気になるので、『あやとりの記』を読もうかな。
    あとは「梁塵秘抄」。
    まっっったく文脈の違う、単に思い出したことを書いてみるだけだが、押井守が宮崎駿「崖の上のポニョ」と自作「スカイ・クロラ」を指して、
    「映画監督ってある年齢になったら死生観を描くようになるんですよ」
    と言っていたが、作り手だけでなく受け手(消費者)も、他人の創作に乗っかる形ではあっても、死を想うようになるのかも。
    十代で「元気いっぱい」という言葉を嫌悪していた側だが、例えば徹夜しても大丈夫という若さのマジックがあったころには「抹香臭いな」と思っていた事柄が、切々と迫ってくる。
    老いというんだか成長というんだか。

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    2022年07月25日
  • 女の一生

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    とても面白い本である。人生相談に回答する形式で書かれている。また本人の経歴についても懇切丁寧に書いてある。うつ、拒食症、結婚、出産、離婚、親の介護、娘との葛藤など様々な経験を書いているので、幅広く参考になる。卒論としては使えないが、読んで面白い。

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    2022年05月17日
  • 人生おろおろ~比呂美の万事OK~

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    伊藤比呂美さん、愛してます!と告白したくなるくらい、 大好きです。
    優しさ、というものはこのくらいでなくては、と思います。出し惜しみして、中途半端なやさしさで、愛する人に接するなかれ、と思いました。
    ゴシックの太字のとこらが、またセンス抜群。ニンマリしながら読めるところも、とてもいい。

    付箋をしながら地下鉄でよんでいたら、隣の人に、じーっと見られました。そこまでする?なんだか人生相談みたいな本だけど…。ってきっと思ってたと思う(笑)


    付箋したところ

    親なんてものはね、しょせん子どももかわいがり、甘やかし、スネをかじらせてナンボのものです。かじらせるスネがあるのなら、大いにかじらせてあげましょう。

    でも、ちょっと考えてみてください。いい子で何が悪いんですかね。

    (心の病の友人にどう対処していいかに対して)
    あなたは、逃げていいと思います。
    人ひとりがここで、病んでいます。大ごとです。遠くの友達なんか手に負えるしろものじゃない。
    あなた自身を守る、という方向に動いて何が悪いでしょうか。

    (価値観が違ってしまった友人と離れたい)
    でもあたしはこう思うんです。ケンカ別れはもったいない。

    あたしはね、職場で周囲とぶつかるときには、背中を向けてとっとと逃げちゃた方がいいと思ってます。他人の頑固や敵意に立ち向かっていくだけのエネルギーが惜しくてたまらない。




    伊藤比呂美は苦しくてしんどい女の人たちに、全身全霊でやさしい。全身全霊で味方だよと言ってくれる。
    この人は嘘をついてないし、カッコつけてるわけでない。
    相談者は、この人はただしっかりと自分を見てくれてる、と思うのではないだろうか。
    その姿勢に、感動する。こんな人が存在することが、うれしくて楽しい。私もそうありたいと思う。

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    2022年04月23日
  • たそがれてゆく子さん

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    おそらくシニア世代に対して語りかける言葉であるのに、30歳の自分にも共感できるところが存分にある。語り口はざっくばらん、という感じだが、太極拳に似た力の抜き加減の妙があると思った。

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    2022年01月19日
  • 犬心

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    老親、老犬と暮らす、見送る。親、こども、犬。自分よりずっとタフでエネルギッシュな日々を描いているのだけれど、解像度も立体感も透明度も違うような、なんというか、なんかすごく良かったです。

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    2022年01月07日
  • 先生、ちょっと人生相談いいですか?

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    すっごく面白い本です。

    女性として、思うがままに生きてきたお2人。
    自由奔放という言葉が、お似合いです。
    自由奔放…憧れます。
    瀬戸内寂聴さんは、先日99歳で亡くなられましたが、こんなにみずみずしい90代を生きていらしたのですね。羨ましい!

    でも、これ、男性が読んでも全く面白くないですね。
    熟女のエロスについて語られているから…
    女性としては、面白いかな。
    人によっては、イヤダ~と思うかな。


    すみません。
    瀬戸内寂聴さんも伊藤比呂美さんも著書を読んだこととがありませんが、読みたくなりました。

    伊藤比呂美さんがおすすめする瀬戸内寂聴さんの本
    ・美は乱調にあり(1966年)
    ・祇園女御(1968年)
    ・女人源氏物語(1988-1989)
    ・比叡(1979)
    ・死に支度(2014)
    ・場所(2007)
    ・いのち(2017)

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    2021年12月19日
  • たそがれてゆく子さん

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    27歳年上の夫をアメリカで看取る。

    アメリカの高い医療費 いちいち車椅子に乗せたり車で運んだりして病院にかよう。

    犬を連れて 1日5回も散歩する。

    そりゃ同じような服 片付かない家になるのは仕方がない

    合間に書く仕事をする。

    最後は 家庭内ホスピスみたいに 家で看取る。

    すごいエネルギーがいる。

    その夫が死ぬ

    寂しいのだそうだ。

    どうしようもなく 寂しいのだそうだ。

    仕事があり 娘がいて犬がいる。

    友だちもいる。

    それでも 寂しい。

    経験してみないと この寂しさはわからない。

    27歳上の外人の夫 一緒のベットで寝なくて良くなってほっとする。

    セックスもしなくてよくなってホッとする。

    それでも 家の中の夫がいた場所が空いていて

    その寂しさが胸にくる。

    ふうーん そんなもんか!そんなもんか!

    と思って読みました。

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    2021年12月01日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    楽しかった♪
    町田康さんのラジオ出演から2年ぐらい経ってしまったけど、大変面白く読ませていただきました。
    次は何にしようかな?

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    2020年11月03日
  • 石垣りん詩集

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    歴史を通り抜けていく私たちが、お土産に渡す21世紀はどのようなものになっているだろうか

    「ことば」という一編を読んで、石垣さんでもことばを逃してしまうことがあるんだと、ちょっとホッとする。

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    2020年10月18日
  • 石垣りん詩集

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    ネタバレ

    今日は2020年8月15日、75回目の終戦の日です。
    終戦といって真っ先に浮かぶ詩です。

    「崖」
    戦争の終わり、
    サイパン島の崖の上から
    次々に身を投げた女たち。

    美徳やら義理やら体裁やら
    何やら。
    火だの男だのに追いつめられて。

    とばなければならないからとびこんだ。
    ゆき場のないゆき場所。
    (崖はいつも女をまっさかさまにする)

    それがねえ
    まだ一人も海にとどかないのだ。
    十五年たつというのに
    どうしたんだろう。
    あの、
    女。


    そしてもう一篇。
    1951年に書かれた詩だそうです。

    「雪崩のとき」
    人は
    その時が来たのだ、という

    雪崩のおこるのは
    雪崩の季節がきたため と。

    武装を捨てた頃の
    あの永世の誓いや心の平静

    世界の国々の権力や争いをそとにした
    つつましい民族の冬ごもりは
    色々な不自由があっても
    また良いものであった

    平和
    永遠の平和の銀世界
    そうだ、平和という言葉が
    この狭くなった日本の国土に
    粉雪のように舞い
    どっさり降り積もっていた。

    私は破れた靴下を繕い
    編物などしながら時々手を休め
    外を眺めたものだ

    そして ほっ、 とする
    ここはもう爆弾の炸裂も火の色もない
    世界に覇を競う国に住むより
    このほうが私の生きかたに合っている
    と考えたりした。

    それも過ぎてみれば束の間で
    まだととのえた焚木もきれぬまに
    人はざわめき出し
    その時が来た、という
    季節にはさからえないのだ、と。

    雪はとうに降りやんでしまった。

    降り積もった雪の下には
    もうちいさく 野心や、 いつわりや
    欲望の芽がかくされていて
    ”すべてがそうなってきたのだから
    仕方がない”というひとつの言葉が
    遠い嶺のあたりでころげ出すと
    もう他の雪をさそって
    しかたがない、しかたがない
    しかたがない
    と、落ちてくる。

    ああ あの雪崩
    あの言葉の
    だんだん勢いづき
    次第に拡がってくるのが
    それが近づいてくるのが

    私にはきこえる
    私にはきこえる


    「今からほんの半世紀前には、現代詩にがこんなに率直に平和や社会についてことばを発することができた時代だったということに私は詩人として驚いている」と解説の伊藤比呂美さんがおっしゃっています。
    非常に何か恐ろしいことが起こる前触れのような怖い詩のような気がしました。
    伊藤さんは「今、それができないのが情けないとも言いたいが、実はそんな表現をしないで済んでいるこの時代に詩を書くことができてほんとうによかったと思っている」ともおっしゃっています。


    「私の前にあるお鍋とお釜と燃える火と」「不出来な絵」「表札」「くらし」「兵士の世代」「すべては欲しいものばかり」「犬」も心に残りました。

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    2020年08月15日
  • 父の生きる

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    自分のときと照らし合わせて、辛かった。私はここまでできなかった。色んなことがあったけど、自分はこの人が可愛がってくれた娘なんだってことを思い出すことができてとても良かった

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    2020年05月01日
  • 石垣りん詩集

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    詩人になるほどの鋭い感性を持った人が生活のために銀行で働いたら、それはそれは思うところいっぱいあるだろうなあ。苦しいだろうなあ。と思う。
    それが見事に言葉になっている詩たち、素晴らしいし胸打たれる。

    もし私が谷川俊太郎や茨木のり子みたいな、生きるために何か必死こいて仕事しなくてもいい、いい身分の詩人だったなら、石垣りんの詩読んだら恥ずかしくなるだろうな。
    自分うすっぺらー、って思うと思う。
    何かに耐え忍びながら生きてる人の言葉って重みが違うし、それだけ鬼気迫る文言が出てくる。
    労働の凄さを思わされた。

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    2019年05月09日
  • 先生、ちょっと人生相談いいですか?

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    去年『たそがれてゆく子さん』のイベントで伊藤比呂美さんから話をお聞きした時から読むのが楽しみだった。
    見た目の綺麗さや質感から軽い仕上がりと思いきや内容は想像以上にディープ!すごく面白かった。
    『美は乱調にあり』『女人源氏物語』『比叡』
    「比呂美が読む、おすすめ瀬戸内晴美・寂聴文学」の中からとりあえず読みたい三冊。

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    2019年01月26日
  • 父の生きる

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    なんとも辛くて切ない内容です。私は59歳、母は83歳、熊本で二人暮らしです。読んでいると現状の自分にリンクする部分が多々あります。思わず頷く部分、反省してしまう部分、涙する部分がありました。作者はカリフォルニアと熊本での生活、本当に頭が下がる思いです。でも、結局は、その二重生活を解消するのは、この結末しかないのだなあと感じます。その事実が人をひとつ成長させるのだと思います。辛いですね。

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    2018年11月11日
  • 犬心

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    タイトルに惹かれて購入。

    「これはいのちのものがたり」とあるとおり、最後は「死」に涙してしまうことを覚悟して、ページをめくった。

    ときに笑いも交えて語られるさっぱりとした文章が、余計に泣けた。

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    2018年09月24日
  • 木霊草霊

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    はじめにカラー写真がいくつか載っているのだが、出てくる植物があまりに多く、全く足りないので、検索しまくりながら読んだ。
    画像と見比べながら読むと、伊藤さんの表現がいかに的確であるか、知っている植物についてはなおのこと、感心する。
    多肉植物の名前は漢字表記がスタンダードで、妖怪みたいな名前が不思議だし、意外に可憐な花を咲かせるものもあれば、ぎょっとするような奇妙な花を咲かせるものもある。タイサンボクの花は「高潔きわまりない」のに、実は「えげつない」。「赤が濃すぎて黒に見える。いや、赤は赤なのだ。邪悪ささえ感じる赤である。それが実から剥き身ではじけたままくっついているので、肉々しい欲望が凝縮した感じである。(p70)」
    熊本に暮らしていたときはあの湿度の高さと日差しの強さがホントに厭で、葛があらゆるところにのたくっているのも植物の底知れぬ生命力を感じて嫌いだったのだが、伊藤さんの文章を読むと、その湿度も日差しもそのまま感じるし不気味な植物の力も如実に思い出すのだが、不思議に魅力を感じるのだ。ああ、熊本にいた頃、もっと自然を観察し、愛すこともできたのにと自分の感性の鈍さを残念に思う。
    『犬心』は動物を飼って、老いと死を見た者は共感せずにはいられないので、伊藤比呂美ファンでなくても心に沁みるが、『犬心』はこの本と対になってるんだなと思った。人間にはどうにもならない生と死(動物、植物)を描いたという点で。『父の生きる』もそうか。じゃあ三点セット。この三作品は本当に傑作。

     p23 犬や人は「老いて死ぬ」が、植物の「死ぬ」は「死なない」で、「死なない」は「生きる」なんだな、それがかれらなりの業なのだなと。
    p66 殺しても殺しても植物は生き返る。この株をここで殺しても、どこかで別の株になって生き返るような気さえするのだ。われわれみたいに、個は個で、死は死で、個が死んだらもうおしまいみたいな、そんな生き方では決してない。
    p110 植物の、名前も性格もわからない存在が不安なら、動物たちは?動物たちとは何もかもわかったつもりでいっしょに暮らしてきたが、ほんとうにそうか。夫なんて、セックスをしたら子ができたっていう一点しかわからなかった。子は育ったら離れていって別の人生を送る、というこの一点だけである。あとは、相手の感じることも考えることも、実はわからない。子犬のときから手の中で育ててべったりと依存され、何もかもわかったつもりの犬だって、痛み苦しみは共有できなかった。共有できないまま、老いて死んでいなくなった。

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    2018年09月22日
  • 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

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    なにがすごいって、町田康による宇治拾遺物語。身も蓋もないというか、人間ってこんなもんなんだなとげらげら笑える。

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    2018年08月06日
  • 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵

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    純粋に面白く読めました。
    説教節、曽根崎心中、女殺油地獄、菅原伝授手習鑑、
    義経千本桜、仮名手本忠臣蔵
    それぞれ有名な作品ですが、しっかり読んだことが
    今までなかったのですが
    現代語訳で非常に読みやすく一気に面白く読めました。

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    2018年07月30日
  • 禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄

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    曹洞宗の藤田一照師と詩人の伊藤比呂美さんによる仏教そして禅への入門書となる対論。
    一照師は米国で長く布教にあたってこられただけあって、詩人のナチュラルでストレートな問いかけにしっかりと応えていくので、これから門を叩こうとしている私には、絶好の後押しとなりました。

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    2018年04月05日