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Posted by ブクログ
「表札」の石垣りんである。表紙の自筆原稿の達筆に驚く。
強い人だと思っていたが、父と義母、無職のふたりの弟、5人の暮らしをひとりの月給で支える日々で、
長い間漕ぎつづけましたが
文化的な暮しは
そんなやすらかな港は
どこにもありませんでした
と書いた。さらに、
最低限度の生活を維持したいのが
私の願いでした
国はそれを保障してくれたことがありません
国とは何でありましょう
と告発する。やっぱり強い人だ。
※
日本国憲法第25条
(第1項) すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(第2項) 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
もっとも心にひっかかった詩をひとつ、
雪崩のとき
人は
その時が来たのだ、という
雪崩のおこるのは
雪崩の季節がきたため と。
武装を捨てた頃の
あの永世の誓いや心の平静
世界の国々の権力や争いをそとにした
つつましい民族の冬ごもり
色々な不自由があっても
また良いものであった。
平和
永遠の平和
平和一色の銀世界
そうだ、平和という言葉が
この狭くなった日本の国土に
粉雪のように舞い
どっさり降り積っていた。
私は破れた靴下を繕い
編物などしながら時々手を休め
外を眺めたものだ
そして ほっ、とする
ここにはもう爆弾の炸裂も火の色もない
世界に覇を競う国に住むより
このほうが私の生きかたに合っている
と考えたりした。
それも過ぎてみれば束の間で
まだととのえた焚木もきれぬまに
人はざわめき出し
その時が来た、という
季節にはさからえないのだ、と。
雪はとうに降りやんでしまった、
降り積った雪の下には
もうちいさく 野心や、いつわりや
欲望の芽がかくされていて
"すべてがそうなってきたのだから
仕方がない”というひとつの言葉が
遠い嶺のあたりでころげ出すと
もう他の雪をさそって
しかたがない、しかたがない
しかたがない
と、落ちてくる。
ああ あの雪崩、
あの言葉の
だんだん勢いづき
次第に拡がってくるのが
それが近づいてくるのが
私にはきこえる
私にはきこえる。
(1951.1)
Posted by ブクログ
石垣りんさんの詩集ですね。
編集は、伊藤比呂美さん。
大好きな石垣りんさんのアンソロジーです。
「顔」
机の前にたくさんの顔が並んでいる。
血のかよっている
笑ったり怒ったり話したりする顔
いつかみんないなくなる顔
とじられる目
つめたくなる唇
からっぽのがいこつ、
けれど永久になくならない
次々と生まれてくる顔
やがては全部交替する顔
それをじっとみまもってる
その交替をあざやかにみている顔
それがある、きっと。
それが誰だかわからない
ひとり、たしかにひとりいるのだが。
「夜毎」
深いネムリとは
どのくらいの深さをいうのか。
仮に
心だとか、
ネムリだとか、
たましい、といった、
未発見の
おぼろの物質が
夜をこめて沁みとおってゆく、
または落ちてゆく、
岩盤のスキマのような所。
砂地のような層、
それとも
空に似た器の中か、
とにかくまるみを帯びた
地球のような
雫のような
物の間をくぐりぬけて
隣の人に語ろうにも声がとどかぬ
もどかしい場所まで
一個の物質となって落ちてゆく。
おちてゆく
その
そこの
そこのところへ。
「声」
釘に
帽子がひとつ
かかっています。
衣紋かけにぶらさがっているのは
ひと揃いのスーツ。
本棚に本
玄関に靴。
石垣りんさんの物です。
石垣りんさんは
どこにいますか?
はい
ここにいます。
はい
このザブトンの温味が私です。
では
いなくなったら片付けましょう。
(無題)
ここにきて
やっと羽化した小さな言葉が
飛び立ち
ぬけがらになった石垣りんが八十二歳の
今日という日にしがみついている。
私をはなれた詩
せめて七日
蝉のように
いのちの限りうたい終えてよ
森のはずれで。
石垣りんさんほど、自分の思いを豊かな感情で、素直に難しい表現や言葉を使わずに、詩にされる詩人を私は知らない。
石垣りんさんは、ここにいます(=^・^=)
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