大沢在昌のレビュー一覧
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『雪人』再読。深読みし放題のホモ臭さ…かと言って泥臭くないさじ加減の、もんでんさんの描き方が好きだー!!母親から放置され、死んだ妹の遺体を食べていた少年・新田アキラの描き方も好き。人間性を学べなかった彼が、最後雪人に手を引かれて行く様とか、東京喰種読み込んでいる今だから心震える。極道の宮本と、宮本を心酔するあまりに独占欲の塊になる近松。極道の宮本と、人間を見る目が同質な事で一種の共感力を抱いている刑事の佐江。形ばかりの妻を持つと言いきった呉林と、息子同然に思っている新田アキラと梶雪人。雪人の「父の死の真相が知りたい」と言う思いが呼び寄せた因縁の物語。
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ネタバレ目次より
・区立花園公園
・夜風
・似た者どうし
・亡霊
・雷鳴
・幼な馴染み
・再会
・水仙
・五十階で待つ
・霊園の男
長編と違って短編は、切り取られた一場面から浮かび上がってくる素材勝負のところがある。
詳細な描写や分析に費やす言葉に限りがあるから。
そしてこの短編集で際立っていたのが、鮫島の優しさだった。
長編で暴力団や外国人犯罪者グループと対峙する鮫島は、下っ端の犯罪者ならばビビってしまうくらいの厳しさを常に見せている。
そして、足下をすくわれないためにも、自分に一番厳しく清廉であることを律している。
しかしこの作品集で鮫島は、組に見捨てられた組員、犯罪者予備軍の少年、犯罪を犯してしまったのではないかと怯える少年などを救う。
そのまなざしはあくまでも優しい。
解説の北上次郎は、シリーズのとっかかりとしてこの短編集を読むのもよいと言っているが、私はやはり最初から読むのがいいと思う。
でないと「霊園の男」の余韻が味わえない。
彼が最期に口にした言葉「あ」
シリーズを通して描かれた二人の交流を、絆を読まないでこの「あ」に含まれた深い思いは伝わらない。
そして解説を読めば、シリーズはこの先も続いて行きそうな気がしてくる。
はっきりとは書いていないが、大切な人を二人失ってしまった後の鮫島の姿が、この先見られそうだ。
楽しみなような、寂しいような…。 -
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このミスベスト10、2012年版4位。本読むの最初のとっかかりで作品のルールを理解するまでがしんどいけど、しリーズものはそのあたりが楽に入れる。逆にまんねり化するおそれもあるけど、このシリーズは毎回、事件をめぐる人間や組織の関係がしっかり設計されており、新しいキャラもしっかり書き込まれていて良くできてる。特に本作はストーリーが秀逸で、単独の作品としても十分通用する、シリーズで1、2を争う傑作と思う。晶の扱いも最近は難しくなってきて、登場すると話が薄っぺらくなってしまうような感じがしてたけど本作ではうまく処理したなって感じ。ただし、本当にこの作品で初めてめてこのシリーズを読む人に晶と鮫島の決断の重さとかがどんだけ感じれるかわからんし、香田が何しに登場してるのかよくわからんのではと思ったりする。お勧め度という意味で評価をつけると、シリーズものはどうして勧めにくくって1点減点されてます。この間、佐々木謙の本読んだときは加賀谷の方がかっこいいかなと思ったけど、やっぱり鮫島もかっこよかったです。
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ネタバレ鮫島と同期でありながら、決して同じ道を歩むことのない香田。
しかし互いに嫌いあっているとはいえ、それぞれの正義と警察官としての矜持は認め合っていた。
警察官と犯罪者という、立場は違うがよき好敵手としていくつかの事件に関わってきた仙田。
人を見る目、先を読む力、躊躇しない行動力など、実に魅力的な人物であった。
このふたりがこのような形で鮫島のまえから去っていくことになるとは…。
シリーズも終盤になり、今作は別れの気配が濃厚だった。
外国人の犯罪者を日本から締め出すことによって、安全な都市づくりを強行しようとする香田。
法律の自在解釈を許せば、一時は平和になっても、いずれ矛盾が噴出するという鮫島。
“「理想を頭にもたない警察官など、ただの権力者だ。俺たちが何のためにこれだけの権限を与えられているか、一日も忘れてはいけないんだ」”
ある意味理想主義者である鮫島。
しかし彼は現場の人なのである。
理想を唱えることで自分の行動が不自由になり、相手に付けいれられることが多々起こる。
それでも理想を手放さない鮫島が好きだ。
解説によると、作者はこのような思いで作品を書いているそうだ。
“厳しい状況の中で、自分のルールを持って、たった独り意志を貫き、傷つけられる恐怖、何かを失う恐怖と戦いながらまい進していく―私の描く小説の主人公たちは「妥協して一生後悔するのは嫌だ」と思う人間たちです。心の弱さも恐怖感も持っている。しかし妥協せず戦いを選ぶ。それがハードボイルド小説だと私は思っています”
だとしたら、私はハードボイルド小説が好きだ。 -
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ネタバレ直属の課長桃井と鑑識の藪しか警察内部に味方がいない鮫島。
だから台湾の警察だったり、消防庁だったりなど、外部の人間とだけ協力者がいなかったのだが、今回の相手は警察内部。
鮫島が元々所属していた公安の過去の事件が、現在の事件の捜査を妨害する。
第一作の時に鮫島と対立する公安のエリート香田が、今回は鮫島と同じように自分の思う理想の警察官像と対峙することになる。
エリート意識の塊で鼻持ちならないやつだった香田が、今回鮫島とカラオケで待ち合わせ。
「俺はカラオケに行ったことなんかない!」と言っていた香田が、鮫島を待つ間演歌を歌うなんて。(笑)
最終的にはゲイバーにまで行っちゃったし。
物語の中で、きちんと時間が過ぎている。関係性が変わっていく。
鮫島と晶の関係すらも…。
出会ったときの晶は、人気のインディーズバンドのメンバーだったが、今はテレビでもよく見かける人気者となってしまった。
彼女自身は変わっていなくても彼女の環境はすっかり変わってしまい、彼女のためなら別れることになってもしょうがないと鮫島が思い始めた頃、ある女性が鮫島の前に現れる。
晶は勘のいい娘なのね。
だから鮫島に何があったかうすうすわかっている。
自分の置かれた状況も、自分の気持ちもわかっている。
だから彼女の行動はとても健気だと思える。
けれど運命の女性の方は、鮫島がどこに惹かれたのか実は私にはよくわからない。
だからこその運命の人なのかもしれないけれども。
そしてメインの事件のほうだけど、これもまた、23年前の事件と11年前の事件がそんなに現在の日本にとって大きな影響を与えると、私には思えなかった。
日本の政治状況も世界情勢も変わってるでしょ。
だから動機がわかってからはちょっと失速した感があるけれど、途中までは前作で逃亡したロベルト村上が再び鮫島の前に姿を現して、クレジットカード詐欺とコカイン密輸がどう係わっているのかとか、CIAや公安や日本の政治家や暴力団や凄腕の殺し屋がどんどん鮫島を追い詰めていくのがすごく面白くて、読むのを止められないわけ。
今回は作品の中ごろに、絶対鮫島が助からないであろう状況に追い詰められちゃってさ。
それで鮫島が死んだら残りの半分がないのはわかるんだけど、どうやって助かるのかが本当に想像できなくて、ドキドキものでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ構成がだんだん巧みになっていく。
今回はラブホテル連続放火事件と、コロンビア人娼婦連続殺人事件と、稲を壊滅させるほどの繁殖力を持つ害虫の蛹の確保という3つの事件が同時に進行していく。
鮫島は基本的にひとりで行動するのだけど、放火事件は消防庁と、殺人事件は機捜と、そして蛹捜索は植物防疫官と連携しながら捜査をする。
消防庁予防部調査課の吾妻もいいキャラクターなんだけど、植物防疫官の甲屋が本当に面白いキャラクターで、鮫島よりも押しが強いのには笑ってしまう。
研究者肌で公務員としてはかなり異質、けれど子どものような好奇心で鮫島の仕事に興味津々で付いてくる厄介なおじさん。
3つの事件はそれぞれに全く別なのに、少しずつ重なりながら終焉に向かう。
ともするととっ散らかってしまいそうなストーリーが、失速することなく最後まで。
殺人犯も放火犯も途中でわかるんだけど、このシリーズは犯人当てが目的ではないので。
どういう人間がそんな犯罪を犯すのか、そこにどれだけの説得力を持たせられるかが、このシリーズの肝。
そいう言った意味では、放火犯がどういう人間か途中で想像はついたけど、その心のうちの悲しみは静かに染みてくるものだった。