大沢在昌のレビュー一覧
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ネタバレ読書感想|暗約領域 新宿鮫11
大沢在昌の人気シリーズである新宿鮫シリーズの11作目にあたる本作は、前作での人間関係のリセットを受けて、鮫島が新たな一歩を生み出す作品となる。
前作の絆回廊では私生活と刑事生活の両方で、彼が支えとなっていた人間関係を一気に失うことになってしまったのだが、本作でより焦点が当たるのは刑事の生活の方だ。このシリーズではキャリア組でありながらも、所轄に配属された鮫島を生活安全課の課長として桃井が陰に日向に守ってきた。
しかし彼の後を継いで生活安全課の課長となったのは、「ルールを守る」ことを自身のポリシーとするノンキャリアの叩き上げである阿坂という女性警視だった。通常であれば二人一組で捜査に当たるところを、鮫島がこれまで一人で捜査を行ってきたのは、桃井の理解と庇護のおかげだった。その桃井から阿坂に上司が変わることで、鮫島は自身の操作方法を変えるか、阿坂と対立するかの二択を迫られることになる。
その葛藤と浅香との激突が警察内部での本作での見どころだとすると、その警察の外側で鮫島が追う事件は、これまでになくスケールの大きいものとなっている。発端となったのは生活安全課の事件らしく、新宿で運営されていた闇民泊の摘発だったが、その一室で宿泊者らしき男が射殺されるところから事件は始まる。
闇民泊はシノギが減って苦しくなっているヤクザの新たな資金源との位置付けなのだが、本作は当然そこで物語がとどまるわけではなく、やがて殺された男は北朝鮮籍であり、北朝鮮や中国との密輸に関わっている人間であることが明らかになる。
そして鮫島の捜査が進むにつれて関わってくる人間は警察内の公安だけではなく、前作に登場した金石や東亜通商研究会、さらに北朝鮮やタイ、中国といった国際的なマフィアたちにも広がっていく。また捜査が進むにつれて「ルールを守る」ことで警察を信じてきた阿坂は、鮫島たちキャリアを取り巻く警察内部の闇にも少しずつ触れることになっていくのだった。
おそらく過去最長の作品と言って良い本作は、とにかく脇役を含めた登場人物の数が多く、話の筋を追うだけでも簡単ではない。鮫島が所々説明口調で事件の振り返りをしてくれるのだが、それでも誰が敵で誰が味方かわからないまま物語は進んでいく。
もちろん、そうした混沌とした世界観を描くことこそ作者の大沢在昌の狙ったところなのだろうが、「何かすごいことが起こっている」ということはわかりつつも、読んでいる(聞いている)方としては、頭がこんがらがってきてしまうところがある。
最終的には、最近の新宿鮫らしくしっかりとアクションで物語は幕を閉じるのだが、やや伏線が消化不良なところもあり、続編があることは、この作品用のだけでも確信できるような終わり方だった。 -
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新宿鮫が新宿ではないところで⁉︎
今回、新宿はおろか東京近辺での話でもなかった。
管轄外の地域では、捜査をする権限はないらしい。
それでも一個人として、たまたま出会った友人の友人のために、鮫島は動いた。
相変わらず命がけで。
結局まるでいつものように、行動を起こしていた。
結末は、誰も納得がいかないものだったけど、被疑者死亡で証言も証拠もないから仕方ない。
真相は闇の中だ。
それを上は、綺麗に収める。
鮫島も、上に守られたような形になってしまった。
組織を嫌っていても、結局は組織に守られることもある。
鮫島のとった行動に対して、何のお咎めもなかったのがいい例だ。
世の中、全てを白黒はっきりさせず、覆い隠してしまうことも時には必要なんだろう。
ただ、その塩梅が難しい。 -
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香田も悪いやつじゃなかったな。
自分なりの信念を貫いて、今までのイメージが払拭された気分だ。
これから、いい意味での付き合いが増えていったりするんだろうか。
今後が楽しみだ。
今回は、今までで一番終わり方が良かったように思う。
逃げられて終わり、うやむやにされて終わり、というのではなかった。
それなりにいい感じに収まって終わった感じ。
大きな組織の上層部が関わってくると、下っ端はどうしても身動きが取りづらくなる。
さすが、失うものがない鮫島だ。
色々と立場を考えて動けなくなるわけがない。
簡単に丸め込まれたりもせず、自分の信じる警察官像を貫いていた。
周りに何を言われようと、どんなことをされようと、貫けるものがあるってカッコいい。
新宿鮫シリーズで、今のところ一番好きな回かもしれない。 -
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あー!あの時のあの人か!その兄弟分がメインで出てる!
過去作と繋がっているのが楽しい。
今回は、今までで一番そう思えた。
どんな世界でも賢い人が上に上がっていく。
頭を使えない人は、一生下っ端だ。
ヤクザの人たちも、すごいと思う。
しっかりした組織であり、上の人のために命を投げうる覚悟があり、巧みな話術とテクニックで人を操る。
きっと、どんな組織もクリーンではない。
特に昔からある大きな組織。
そういうしがらみを無視して突っ込んでいく鮫島はかっこいい。
そんな鮫島を自由にし、Goサインを出せる桃井さんもかっこいい。
覚悟を持って動ける人たちはかっこいい。
ヤバい。
どんどん鮫の沼にハマっていってしまう。
次を読むのが楽しみだ。 -
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ネタバレ読書感想|絆回廊 新宿鮫10
大沢在昌の人気シリーズである新宿鮫シリーズも本作で2桁の大台に乗る10作目となった。
とはいえ、作品のテイストとしては、二桁に乗ったことを祝うような作品ではなく、これまでの中でも最も辛い試練が鮫島に襲いかかることになる。
このシリーズは新宿鮫というメインタイトルの前に、その作品を表すサブタイトルが主要タイトルとしてつく。本作の場合は「絆回廊」にあたるのがそれで、まさに鮫島の対面することになる敵側と、鮫島の側の両方に絆が重要なキーワードになって物語を進めていく。
まず本作で鮫島が向かい合うことになるのは、中国人犯罪組織である金石という組織だ。最近数作のシリーズで暴力団対策法の影響に日本の暴力団というのはすでに勢いを失ってしまっており、代わりに外国人組織が新宿で跋扈している。本作における金石は、そのような外国人暴力組織という顔を持ちつつも、構成員が日系人残留孤児2世や3世ということで、日本人としての顔も持っている。彼らは日本と中国の間で、いわばアイデンティティがない存在として描かれており、これまでにない暴力性を特性としている。日本の警官である鮫島に対しても、躊躇はなく、作中においても2回にわたって襲撃を仕掛けてくる。
一方で、本作はその金石に対する日本人側の敵役として、樫原茂という人間を配置する。この樫原は、かつて新宿で対立する団体の構成員を殺したことにより、20年にわたって刑務所に入っていた人間である。その彼はその事件で生まれた因縁を清算するために、鮫島の上司である桃井を付け狙い新宿に舞い戻ってくる。
さらにその樫原を支える人間として、トシミという名の人物も物語に関わってくる。一人称で書かれているために読者はしばらく気がつくことはないのだが、オカマである彼は二十二年間という年月をひたすら、かつて一瞬だけ知り合った橿原を支えるために使い続ける。そしてその絆は本作の中で凄惨な事故を引き起こすことになってしまう。
一方鮫島の方も、これまでシリーズの中で彼を支え続けてくれた晶と桃井という二人の人間を同時に失うことになる。
晶とは彼女がボーカルを務めるバンドの薬物事件による影響、桃井は殉職という差があるものの、彼が人間であり警察官であるために重要だった二つの絆を同時に失ってしまうのだ。
物語の最終版、全てを失った鮫島はそれでも警察官であることを続けること誓い、樫原とトシミを逮捕することに成功する。しかし、既に宿願を達成した橿原にとっては、逮捕は受け入れられる最後の結末でしかなく、また彼を思い続けるトシミにとっても、逮捕は絆の確認でしかなかったことが語られて、物語は終わる。
この後もシリーズが続いていくことことが既にわかっている今では危惧はないのだが、当時はこの間でシリーズが完結すると思った人が多かったらしい。とはいえ、金石との因縁はまだ始まったばかりであり、次に繋がる伏線も本作ではしっくりと張られている。
大切なものを失ってしまった鮫島は、さらに純度の高い警察官として新宿を歩き続けることになるのだろうか。 -
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私は東京の人間ではない。
新宿には、たぶん数回は行ったことがある。
新宿を目指した、というよりは、乗り換えとかのイメージだけど。
東京にも新宿にも詳しくない。
だからこそ思う。
「新宿って、実際にも怖いところなのかな」
ヤクザと警察、水商売と闇の取引。学校をサボって街中で犯罪を犯す子供たち。夜中も眠らない街。
この本の中では、新宿は腐っているように感じる。
よくないものが凝縮された街。
本の世界ではなく、今現在のリアルな新宿が、ここまでひどくないといいな、と思ってしまう。
途中から、鮫島が警察官でいられなくなるのかと、ドキドキしながら読んだ。
もちろん、最終的には大丈夫だろうと思いながらも、どこかでどうにもならなくなる可能性を捨てられなかった。
ハラハラドキドキ。
本を読む手が止まらなかった。 -
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プロローグ
月イチ“新宿鮫シリーズ”第5弾
『新宿鮫ⅴ 炎蛹』
いつものように安楽椅子にて本書を読み終えた
早くも5作目だが、通常シリーズ物の場合5作も読んでると、なんじゃこりゃ!?という作品もあるのだが、本シリーズに関しては常に前作を凌駕するとまではいかないものの全てが素晴らしいのである
本章
『新宿鮫ⅴ 炎蛹』文句なしの★5
“炎蛹”は物語に登場する架空の害虫だが、
“ほのおさなぎ”と読ませている
つくづく上手く纏めたなと思う次第である
作物を荒らす新たなる害虫を追う植物防疫官と女装の放火犯、そして娼婦を狙う通り魔殺人犯とか絡み合い、ラストに向かって全てが収束していく壮大な物語である
今回の鮫島は、単独行動ではなく、先に記した防疫官、甲屋とのコンビでの行動が新鮮でもあり、鮫島の新たな一面も見れたシリーズでとあった
エピローグ
明日からシルバーウィークである
シルバーウィーク明け後、直ぐに広島出張があるが、ようやっと落ち着きそうな雰囲気である
今月は、本書を含めてまだ4冊と低調だ
久しぶりに、本を片手にカフェか公園に繰り出そう
そう思った!!!
完
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読み終わってしまった。。
読みだしたら止まらない。
ヤクザと殺しがメインな話なのに、少し友情というか、同志な気持ちが芽生えたり、愛情らしきものが芽生えたり。
今回は、シンナーの話?と思っていたら、台湾のプロの殺し屋毒猿が、元主人に復讐をする話だった。
鮫島が偶然出会った台湾人の男、郭。この男は台湾の警察官で、毒猿を捕まえるために日本に来ていた。郭と毒猿は、元は軍人でとても仲が良かった。でも、1人は警察官となり、もう1人はヤクザにつく殺し屋となる。
台湾人たちのいざこざに巻き込まれる警察と日本のヤクザ。知らないだけで、実際にもこういうことはあるんだろうか。
これがフィクションであり、完全な第三者目線で読めるから楽しめるけど、現実でこんなところには絶対に関わりたくない。
郭と毒猿が再開を果たせていたとしたら、どんな結末になったんだろう。最後には会えたりするのかな、と思っていたから、そこだけは気になった。 -
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プロローグ
月イチ“新宿鮫シリーズ”第4弾
『新宿鮫Ⅳ 無間人形』
早くも月イチ“新宿鮫シリーズ”も第4弾!
本作は、なんと直木賞受賞作だ
シリーズ物のしかも4作目で直木賞とは
中々の稀有な作品でもあり、総頁数650頁超えの
超大作でもある
高鳴る胸を抑えつつ頁を捲った!
本章
『新宿鮫Ⅳ 無間人形』★Super5
これまでのシリーズ3作品も素晴らしかったが
本作も完璧だ
若者たちの間で流行っている薬“アイスキャンディ”の密売ルートを追う鮫島と麻薬捜査官との捜査妨害と攻防
そして、麻薬を取り仕切る地方財閥の香川家との闘い、恋人“晶”を巻き込んだ感動巨編に得も言われぬ興奮を覚え、あっという間に読み終えた次第である
1994年の作品だが、古さを感じさせぬ力筆にこのシリーズの奥深さと底知れぬ感動と悦びを感じた8であった
エピローグ
ということで、ショートトリップにて、横浜にある
インターコンチネンタルホテルPier8に宿泊し、
その一室で本書を読み終えた
Pier8は、第8埠頭を意味し、8繋がりで選出したホテルだ
正に“8”馬鹿である
部屋はクラブラウンジが使用できるものをセレクトし、ほぼホテルを出ることなく読書に明け暮れた、ある意味贅沢なトリップとなった
こういったショートトリップがあってもいい
そう思った8であった……(¯―¯٥)8v♪
これで、横浜高校は甲子園優勝間違い無しだな!
最後にそうも思った(-ω☆)キラリ
完
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ネタバレ長年下積みを積んできた大沢在昌に直木賞という栄誉を届けたのが、この新宿鮫シリーズの4作目にあたる無限人形だ。決して本作だけではないが直木賞の歴史を見てみると、シリーズものの中で獲得をしたのは極めて少数であり、本作はまさにその価値があると認められて受賞したことは間違いがない。
直木賞は、時にベテラン作家への功労賞的な意味合いがあったりもするのだが、本作を読んでみると、まさに一級のエンターテインメントに仕上がっていて、直木賞にふさわしい作品だとも思える。とはいえ、この作品で取れるのであれば、毒猿で取ってもよかったのではないかという気もしないではない。
本作は覚醒剤犯罪というこれまでとは少し色合いの違う作品テーマを取り上げているものの、実際には入れ子構造になった「見えない格差」をその主題としている
物語の舞台となる地方都市では、香川財閥と呼ばれる財閥があらゆる産業を実質的に牛耳っており、そこに生まれた者は特権的な扱いを受けることを当然として生まれ育つことができる。しかし、その香川財閥の中でも、本家と文家には明確な違いがあり、そこには格差が存在する。
さらに、そのように地方では絶大な力を持っている香川財閥の人間でも、東京に来ればただの一個人として生きる必要がある、あるいは生きることができる。ここには東京という巨大な都市と地方の格差が明確に存在している。著者がそのような構造を明確に意識していたことは、劇中で、「東京がお前に何をしてくれたって言うんだよ」といったセリフが登場することからも明らかだ。
その上で本作を傑作としているのは、この格差の中「下が上を倒す」という構図が繰り返されることだ。例えば、当初は「東京のヤクザ」である角を下に見ていた香川進は、ある瞬間からその角によって窮地に追い込まれることになる。
ところが、自分が圧倒的に優位に立ったと思っていた角は、覚醒剤によっておかしくなった進むにあっさりと殺されてしまう。暴力という自分の得意とする領域で圧倒的な強い立場にあると思った瞬間に、安物のカッターナイフ一つで命を落としてしまうのだ。
またその香川家の本拠では、自他ともに地域を抑えていると認めていた分家の長である昇が、あっさりとチンピラ上がりの平瀬によって命の危険に陥ってしまう。日常の生活であれば、彼らから見れば文字通りゴミのような存在である。チンピラによって正座をさせられ、命の危機に陥るといった状況にまで追い込まれる。この瞬間に何かしらのカタルシスを感じる読者も多いだろう。とはいえ、そのカタルシスを感じるにはあまりにも平瀬はゲスな人間なのだが。
そして、そのような格差や下克上といった現世の関係から最も遠いところにいるのが、このシリーズの主人公の鮫島という人間だ。キャリア警察官という肩書を持ちながらも、自らの信念に準じてその道を外れ、警察としては型破りのロック歌手と付き合っている。昇進を望むこともなく、見返りを求めるわけでもなく、ただ自らが信じる道、あるいは自らが好きであると公言する警察官としての仕事を続けるためだけに、彼は今回も犯罪を追い、やがて巨大な悪を追い詰めることとなる。
本作を読むと、もともとはハードボイルドとして設定された本作の主人公の鮫島は、より羊飼いのようなキャラクターに近づいてきたと感じる。新宿という欲望を煮詰めたような街に住みながらも、彼は驚くほど欲望から遠いところにいる。いや、正確に言えば、彼は警察官になりたいというただ一つの欲望のためだけに、全てを犠牲にして新宿で生きているのだ。むしろ、そういった人間を受け入れることができるのが、カオスの塊である新宿という街であると言えるのかもしれない。 -
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ネタバレ第1作をAudibleで久しぶりに聴いたら、すっかりハマってしまって、すぐ続けて聴いたのが2作目にあたるこの『毒猿』だ。
大沢在昌も新宿鮫シリーズの中で最も自信がある作品の一つに挙げているこの『毒猿』は、主人公の警察側、日本のヤクザ、台湾マフィア、そしてそれを追いかける台湾の警察からただ一人日本に降り立った郭という四者が入り乱れて、新宿の街で壮絶な殺し合いを繰り広げる作品だ。
一作目は、『ハードボイルドとしての新宿鮫』という作品の方向性を決定付けた、鮫島というキャラクターを生んだが、本作では鮫島はむしろ脇役と言ってもよく、台湾から流れてきた凄腕の殺し屋「毒猿」と、かつて彼の軍隊時代の親友であり、今では彼を追うことになった刑事・郭が物語の大きな核となる。
この郭と毒猿は台湾の特殊部隊で格闘技を学んだという設定となっており、強烈なテコンドーの蹴りや殺人術、そして超人的な潜水能力を使って、次々と日本人のヤクザをなぎ倒していく。今ではすっかり「ネリチャギ」という技なども市民権を得たと思うが、この時代にテコンドーを使って相手を倒そうという構想を描いた作家はほとんどいないのではないだろうか。2020年代はすっかり大御所となってしまったが、当時はギラギラした野心を持った大沢在昌という作家が、いよいよ飛び立とうとした時代をよく表している気がする。
そして本作の魅力は、結局のところはこの郭と彼が追い続ける毒猿のキャラクターに尽きる。毒猿は殺し屋といえどもいわゆる「イカれた」人間ではなく、寡黙な性格とプロフェッショナルさを感じさせる。その上で人間離れした強さを持っており、物語の最終盤ではヤクザの一つの組を壊滅させるほどの暴力を見せつける。彼は本作の物語の中でも30人以上の人間を殺している。
一方で、彼を追い詰めることになる鮫島と郭は、毒猿と日本のヤクザの思惑に振り回されながらも一歩一歩と捜査を進め、やがて新宿で毒猿と相まみえることになる。しかし、鮫島をもってしても毒猿の凶行を止めることはできず、結局のところ、彼は虫垂炎を悪化させた腹膜炎によって死亡することで物語は幕を閉じる。
物語としては、この三人に加えて中国残留孤児二世の奈美が絡むことで、単なる暴力団の争いを超えて、中国や台湾の関係性、あるいは日本と大陸の関係性を包含した懐の深いものとなった。当時の社会的な背景や国際関係をスパイスに入れるといったところが、本作が愛され続ける一つの要因となっただろうし、当時の日本の文芸界の余裕を感じさせたりもする。とにかく最初から最後まで疾走感が素晴らしく、今であれば間違いなくNetflixでドラマ化が期待されるような作品である。
一点だけ文句をつけるとすると、毒猿の中国語の読み方として「ドゥイワン」とAudibleではずっと発音しているのだが、普通話の発音では「ドゥユエン」の方がより近く、そこだけ中国語話者の自分としては妙に気になってしまったのだった。 -
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ネタバレ今ではハードボイルド・ミステリーの大家となった大沢在昌が、まだ売れない作家と呼ばれていた頃に一発逆転を狙って執筆したのが、本作『新宿鮫』だ。結果として大ヒット作となり、その後も続いたシリーズは彼に直木賞をもたらし、映画化もされ、ヒットメーカーとしての地位を確立することになった記念碑的作品である。
初版の刊行は1990年代ということで、今読むと随分と古い描写も多いが、それでも面白さは全く色あせていない。というのも、主人公である鮫島の設定が抜群で、ミステリーとしての事件の面白さはもちろんのこと、彼のキャラクターを描くだけでも十分に物語を引き込ませてくれるからだ。
もともとはキャリア組の警察官僚であった鮫島は、転属先の地方で地元の刑事とトラブルを起こし、本庁へ戻ってくることになる。そこでいわば「組織からのはみ出しもの」になった彼は、同期の親友から公安内部の派閥争いの顛末を克明に記した極秘文書を託されており、いわば警察組織の中の「爆弾」のような存在となっている。
普通なら警察を辞めてもおかしくない状況だが、彼は自分が警察官として活動をすることに強いアイデンティティを感じており、キャリアでありながら一現場の刑事として愚直に活動し続けている。
そんな彼が混沌とした新宿の街で様々な事件に挑むのがこの『新宿鮫』シリーズなのだが、彼は決して無敵のスーパーヒーローとしては描かれていない。自分が監禁された時には死の恐怖に怯えることもあれば、命の危険に晒されて涙を流すこともある。強がってはいても、人間らしさを決して失わないのだ。
警察内部との陰湿な摩擦と、アンダーグラウンドな敵との死闘に身も心もボロボロになりながら、最後は事件の真相を解き明かす――これこそが本作の魅力を形成する大きな要素となっている。
一回り以上も若い美人シンガーの恋人がいたり、不条理なまでの苦難に見舞われたりと、いかにもハードボイルドらしいお約束の設定や時代感はあるが、今読んでもその面白さは変わらない。むしろ「携帯電話がない時代はこうやって捜査していたんだな」「ハイテク技術がないからこそ、人間が足で稼ぐしかなかったんだな」といったノスタルジーを感じさせられる。もはや古典とも言えるこの名作シリーズを、現代でも存分に楽しめるのは実に幸運なことだと思う。 -
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プロローグ
月イチ“新宿鮫シリーズ”第三弾
『新宿鮫Ⅲ 屍蘭』
今度のお相手は貴女ならぬ鬼女!
新宿鮫こと鮫島がどう挑んでいくのか!?
期待に胸を膨らませ頁を捲った
本章
『新宿鮫Ⅲ 屍蘭』本作も文句なしの★5
今度の敵は偏向的な鬼女と王道な美人鬼女
2人の悪女との対決だ
前作の『毒猿』のアクション系とは打って変わっての、女2人による静かなる復讐劇
哀しき絶世の美女に翻弄された静かなる鬼女の殺しが凄まじい
改めて、“女”の恐ろしさを痛感するとともに
あまりのシリーズの面白さ奥深さに“新宿鮫X”までは読もう
そう思った!
エピローグ
さて、題名の『屍蘭』である
これは、正にいい得て妙である
実はこの物語には、もう一人の不幸な美女が
植物人間状態で病室に眠っているのである
植物人間が植物である蘭に埋もれた病室で横たわっているのである
こんな的確な表現は他にない
そして物言わぬ元凶は彼女にあった
3人の悪女が巻き起こす惨劇に新宿鮫はどう挑んでいくのか!?
ミステリー要素は少ないものの、鮫島の行動、言動
が、読者の心を掴んで離さない
いつものように一人掛け用の安楽椅子(登場30回目)で本書を読み終えると
“こんなワクワクさせる月1企画はそうないよな!”
最後にそう思った!!!
完
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根っからの正義に生きるアスカと、ただただ殺戮することに熱を上げるふたりめの脳移植者ヴォールクの対峙。
物語のスケールは読み進めるごとに広がるけど、
アスカならきっと死なない!なんて絶対的信頼があるから安心して読み進められたような気もする。
「河野明日香」を否定することになるから新しい自分を受け止めきれなかったアスカ。美貌も武器にするズルさが有ることは決して悪いことではないと割り切って一皮剥けた彼女はもう誰もが認める最強ヒロイン。
市井の平和も自分のために生きる人生も全部全部強く握って手放さない!そんな強い決意が本当にカッコイイ。
前作より読むのは大変だけど、アスカのその後をしっかり回収してくれているので本当にこのシリーズと出逢えて良かった。