大沢在昌のレビュー一覧
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ネタバレ新宿鮫シリーズの第7弾は、鮫島が新宿署に固定されることになった理由である同期の宮本の自殺をきっかけとした事件が描かれる。
作品の紹介からは、宮本の事件についてより詳しい紹介がされるのかと期待したのだが、本作における宮本の存在は事件が起こるきっかけと触媒でしかなく、事件そのものは彼とは遠いところで進んでいく。
本作で描かれるその事件は、鮫島が監禁されるといった衝撃的なシーンから始まる。舞台となるのは宮本の故郷である九州のどこか(描写から長崎ではないかと思う)で起こるのだが、今回も複雑にプロットが絡まり合っているため、なかなか一言では説明が難しい。しかも地方では鮫島には警察権がないために、彼は一人の男として、街を駆けずり回ることになる。
権力に対してたった一人孤高の男が立ち向かうというのは、ハードボイルドの原点のような作品だが、本作はその上で悪徳警察官や地元の暴力団、果ては北朝鮮の工作員まで出て、これまでよりも物語のスケールが大きくなっていく。
通常は新宿に閉じている本シリーズの中では、かなり異色な展開を描く本作だが、このシリーズの愛読者がこれまでも心においていた宮本の事件についてより詳しい情報が得られるという意味においては、待ち望んだ一冊でもあるように思う。 -
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ネタバレ読書感想文|炎蛹
無間人形で、シリーズのテンションとしては一旦クライマックスを迎えた感がある新宿鮫シリーズの第5弾が本作『炎蛹』だ。直木賞を取った後ということもあるのか、全体的にコミカルなシーンが増えており、大沢在昌もいい意味で肩の力が抜けたのだなと感じさせてくれる。
そのような読後感を感じさせてくれる最も大きな理由は、今回は主人公の鮫島が新たな登場人物とバディ関係を結ぶことにあるだろう。その相手となるのは警察官ではなく、植物防疫官という役割を担っている公務員の甲屋だ。 その甲屋は日本国内に新たな害虫が入ってくるのを防ぐ役割を公務人としてになっているわけだが、本作では南米からフラメウス・クーパと呼ばれる新たな米の害虫が入ってきた可能性を危惧して、鮫島と共同で調査を行うことになる。
その鮫島が追う本作での事件はやや小粒であるが、3つの事件が同時並行的に発生するために小説としては一本道のストーリーとはなっておらず決して筋書きも簡単ではない。
その3本の中で最も大きな流れを持っており、本作の主軸となるのはイラン人による窃盗物販売事件だ。イラン人が単に物を盗んで売るだけであれば、それほど大きな事件にはならないだろうが、本作ではそこに対して攻撃を仕掛けてくる中国人窃盗団が存在することで、事件はいきなり暴力的な装いを追ってくる。鮫島もこのシリーズの中では最も大きな怪我を負うことになるほどの戦いがあり、しかも本作だけでは物語は終わらず、続編以降へと繋がっていく伏線が張られている。
残りの2つは、この窃盗事件に比べればごつぶであるが、どちらかというと本作を特徴づける事件で、一つは東京都内で発生する連続放火事件。もう一つは新宿の外国人娼婦の殺人事件だ。先に書いたように、この3つの事件は関係者が異なっているにもかかわらず、発生する場所が新宿という場所であったがゆえに、緩やかに重なり合って、やがてクライマックスでは一つの解決へと修練していく。
これまではひたすらハードボイルドの世界を描き続けてきた新宿鮫も、著者の環境の変化とともに、シリーズ作品としての描かれ方が少しずつ変わっていくといった、そんな予感を感じさせる一作になっている。 -
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ネタバレこれまでの二作が剥き出しの暴力を描いた作品だとすると、本作で描かれる犯罪は違法胎児堕胎と輸出という、よりジメジメとしていて、それであるが故により陰惨さを感じさせる。自分が子供を持つようになってから、子供が巻き込まれる犯罪作品というのは、あんまり楽しめなくなってしまったのだが、それが強制的な違法堕胎のように、母体にもダメージを与えるようなものだとより厳しい。
そのジメジメとした犯罪にさらに恐ろしさを加えるのは、違法堕胎の黒幕である藤崎彩香の障害となる人間を次々と殺していく、島崎ふみ枝という存在だ。ちょっとしたひっかき傷をつけるだけで数分後には血栓を生じさせてしまい、ターゲットを殺すことができるという毒薬を持つ彼女は、どこにでもいるような40代後半の看護師という職業を持ちながらも、裏では藤崎早香のために淡々と人を殺し続けていく。
そして、その不気味さにより一層の輝きを与えるのが、本作を最後まで読んだとしても、決して彼女の動機というか、あやかに献身的に尽くす理由がわからないということだ。物語の構造としては、引き取られた家族の娘であるいとこのために、腎臓を提供するために入院した病院で、彼女とあやかが出会ったということになっているのだが、あやかの絶望を見たときに、ふみ枝がそこまで思い入れを持つことになった理由は最後までわからない。
振り返ってみると、この新宿ザメという作品は、1作目も2作目も、主人公の鮫島が追う犯罪者は、どこか化け物じみたキャラクターで、深い人間的な設定がなされていたわけではなかった。おそらく、得体の知れない人間像を生み出そうとして、あえて作者はそのような設定にしたのだと思うのだが、その極致に至ったというのが、本作のふみ枝というキャラクターである。
40代後半の殺人者、しかも音もなく近寄って相手に軽くひっかき傷を負わせるだけで殺すことができるというと、まるで必殺仕事人を思わせるようなキャラクターだが、最後まで読み通したとしても、その素顔は何かのっぺりとした何かに塗りつぶされているような、そんな印象を持つ。
そこに何か情のようなものがあるとしたら、あるいは業のようなものがあるとしたら、それはあやかが自らのいとこに蘭を送り続けるのと同じ感情なのかもしれない。
そういった意味においては、今回の鮫島は主役として犯罪者を追う役目を追わされたとはいえ、結局のところその業を解き明かすところまでいかなかったという意味において、犯罪という浮かび上がってきた表象を削り取っただけの存在であったのかもしれない。 -
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ネタバレ『黒石』は、まさに新宿鮫シリーズ屈指の緊張感を味わえる一冊だった。物語が動き出した瞬間から不穏な空気が途切れることなく続き、鮫島が一歩踏み込むたびに危険が迫ってくる展開に、ページをめくる手が止まらなかった。敵の存在感も圧倒的で、終始張り詰めた空気の中で読み進めることができた。
そして何より心に残ったのは、鮫島の変化である。長いシリーズを追いかけてきたからこそ、これまで多くのものを失いながらも前を向き、新たな人間関係を築こうとする姿に深い感慨を覚えた。孤高の刑事としての鋭さはそのままに、どこか柔らかな表情を見せる瞬間があり、鮫島という人物の歩んできた時間の重みを感じられた。
圧倒的な緊張感と、主人公の確かな成長を同時に味わえる『黒石』は、シリーズの魅力が凝縮された極上のハードボイルド作品だった。読み終えたあと、これから先の鮫島の物語をますます追いかけたくなる一冊である。 -
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去年から1作目を読み始めて11作目。とうとう、読んでいない作品は、最近文庫化されたばかりの黒石のみになりました。だいぶゆっくりと新宿鮫を堪能してきましたが、どんどん読んでいきたいのを我慢して、このペースで進めてきました。それは、刊行された作品がまだ何冊もある状態なら、読んでいくスピードは、自分でコントロールできますが、最新刊まで読んでしまうと、作品が出来上がるまで待たなきゃならないからなのです。この作品を読み終わった瞬間に、黒石をいつ読むのか、少しワクワクする悩みを抱えて、全く違う積読してある作品の山を崩していきたいと思います。
今回の作品は、過去の作品に登場した人物の思惑や因縁が絡み合って、かなり厚みを増した作品になっています。これは、長いシリーズがないとなかなか成立しないことで、まさに作家と読者が作り上げた世界観だと思います。
この新宿鮫を読み続けている理由は、生死をかけた銃撃戦が、死ぬかもしれないという恐怖を主軸にリアルさを追求しているところです。
国際情勢が刻々と変化していく中、鮫島はどんな事件に巻き込まれ、そしてどんな選択をしていくのか、是非読んで楽しんでみてください。