あらすじ
「警官を殺す」と息巻く大男の消息を鮫島が追うと、ある犯罪集団の存在が浮かび上がる。中国残留孤児2世らで組織される「金石」は、日本人と中国人、2つの顔を使い分け、その正体を明かすことなく社会に紛れ込んでいた。謎に覆われた「金石」に迫る鮫島に危機が! 20年以上の服役から帰還した大男が、新宿に「因縁」を呼び寄せ、血と硝煙の波紋を引き起こす!
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
別れはいつも唐突に、そして儚い。晶との別れがついにやってきた。氷舞から徐々に匂わせてきた晶との別れ。気づいていたとはいえこの別れは悲しい。どちらも悪くないのに。どちらも好きあってたのに。それでも別れなくてはいけない。別れ方も電話とメール。それでもお互い思い合ってのこと。やりきれない。でも2人の関係はとても綺麗だと思う。
そして桃井。事前に知ってたからまだ受け入れられたが、そうでなかったら最後まで読めなかったかも。最も心強い味方を失ってしまった。あっけなく。でも最後の署長の言葉で僕は救われた。表だって味方する人は桃井だけだったけど、鮫島をわかってくれる人はちゃんといたのだ。絞り出す勇気は誰かが見ている。
永昌、樫原、マツカサの関係も良い。切ないけど。待ち続けるし愛し続けるマツカサ、妄念に囚われながらもマツカサや永昌への思いだけは残っている樫原、会ったこともない2人に曖昧な印象を最初は抱くも最後はきちんと愛を確信する永昌。どれだけ離れていても3人には絆があった。
絆と言えば香田と鮫島も。2人はコインの表と裏。でも心の奥底にある思いは同じ。何のために警察であるのか。絶対に相入れることはないけど2人にしかない信頼があるというのがかっこいい。正義は1つじゃないってことがよくわかる。
Posted by ブクログ
「酷く目立つ分厚い文庫本…」に変に惹かれて紐解いた『暗躍領域』の前に出ている<新宿鮫>シリーズの作品が本作だ。『暗躍領域』の中で、鮫島刑事が「少し前の出来事を想い起して…」という風に触れられる出来事が、“進行形”で起こっているのが本作の物語である。
何やら、発表された順番を度外視して、シリーズ作品をランダムに読み漁るような体裁になってしまっている。が、頭の中で、何年か前のこと、数日前のこと、当日のことと時間軸が乱れ飛びながら色々と思い出すというように、記憶している事柄の時間軸が何時も整っているのでもない面は在ると思う。それ故に、シリーズ作品をランダムに読み漁るような体裁も悪くないと思う。他作家による別シリーズだが、そういうことは過去にも色々とやって来た経過が在る…
<新宿鮫>シリーズは「訳アリ」な新宿署の鮫島刑事が活躍する。キャリアとして警察官になった鮫島だが、色々な経緯で警部の階級に留め置かれたままで、新宿署の現場に在るという人物で、部内的には「近付かない方が…」という扱いで敬遠されているので、刑事の定石を外れて単独で活動する場合が多い。逮捕することを「噛む」と隠語で表現する場合が在り、その「噛む」ことに関して遠慮が無く、執念深く被疑者を追うことから、姓に引っ掛けて<新宿鮫>と綽名される鮫島刑事である。こういう彼だが、理解者で協力も支援も惜しまない上司の桃井課長、「アイツは銃のオタク」と言っている好き仲間の鑑識係の藪という警察部内の数少ない人達、そして交際を続けているロックバンドのボーカリストである晶(しょう)という、近しく大切な人達も在る。そういう中、鮫島刑事はシリーズ各作品で様々な事案に臨んで行くことになる。敵役ということになる犯罪事件関係者等に関しても、シリーズの複数作品に跨って登場している例が存外に在るかもしれない。
<新宿鮫>シリーズは、本稿を綴っている2023年5月時点で12作の長篇が発表されている。それらの中の11冊が文庫本化されている。既読の『暗躍領域』は11番目で、本作『絆回廊』が10番目ということになる。
シリーズ各作品に共通すると思うが、大半の部分で、視点人物は鮫島刑事である他方、適宜他の人物が視点人物に切り替わる部分も在る。<新宿鮫>シリーズの作品を原案にした映像作品(映画やテレビドラマ)も在るのだが、本作を読んでいても、何となく「映像作品に触れるような感覚」も在る。テンポが好く、映像作品のように巧みに素早く場面が切り替わるような感じがした。こういう感じも好きだが、本作もそこは変わらない。
何か前置きめいた話題が長くなってしまった…
冒頭部に、20年を超えるような長期間に亘って不在をしていた人物が戻って来るということに関する、或る人物の独白のような短い節が在る。本作の鍵になる人物達のことが示唆されている。
そういう辺りから鮫島刑事の新宿での日々というような展開に入って行く。違法薬物の密売を、長い間に亘って巧みに続けている、他方で証拠が無いので逮捕に至らないという、顔馴染の「街の売人」に出くわして言葉を交わした鮫島刑事は、「ネタが在る」と言う男の話しに耳を傾けた。
男は、出くわした男に拳銃を売ってくれというような話しをされて当惑したのだという。出くわしたのは少し目立つ程度に大柄な男で、やや年配と見受けられた。その大男は、拳銃を入手して恨みが在る警官を撃つというように息巻いたという。その時の話しの中で、一昔も前に解散した暴力団の組の名を口にしていたことから、「長い間、刑務所に在って、出所して日が浅い?」と推定されるということになった。
警官を撃ち殺すと息巻き、拳銃の入手を図ろうとしていて、本気であるように見える者が在るというのも物騒な話しである。鮫島刑事は男と話し合い、情報を集めながら警戒するということにしたのだった。
他方、鮫島刑事の個人的な事柄でも動きが生じた。交際を続けている晶がリーダー格であるバンドのメンバーがその交際相手の事案を契機に薬物事案で逮捕され、晶自身を含むメンバーが捜査対象になってしまった。晶は悩んで鮫島刑事に相談する。
問題の「警官を撃ち殺すと息巻き、拳銃の入手を図ろうとしている」という“大男”の影を追う中、鮫島刑事は“大男”が口にしたという、一昔も前に解散した暴力団の組に関係が在った者等を探るのだが、何やら死人が発生する事件が相次ぐ。そして正体が判り悪い、犯罪や暴力を厭わない集団の影に行き当たる。
“大男”の正体、犯罪や暴力を厭わない集団の実体と、鮫島刑事は桃井課長のバックアップを受けながら奔走して探り出す。その事案の行方、そして晶の問題の行方と、最終盤まで目が離せない。
長くシリーズを読み継いで来たファンが衝撃を受けるような結末かもしれない。他方、いきなり本作に触れたにしても、ハミダシ者な主人公にとっての、年長の好き仲間であると同時に上司の桃井との共闘振りは熱く、意外に過ぎる組合せである互いの立場を超えて、人対人として絆を保ち続けた晶との情愛の行方も心揺さぶられる。
シリーズ各作品を愉しんだ後に愉しむべき作品かもしれないが、最初からこの作品でも酷く熱い…御薦め!!
Posted by ブクログ
今回は今まで以上に、疾走感がある。とはいえ、プロットは丁寧に練りこまれており、まるで万華鏡のように登場人物が交差し、最後には運命に導かれ対峙する。
鮫島、桃井、香田、晶のお馴染みのメンバーは元より、敵も味方も陰影があり重い過去を背負っているがゆえに破局への道に進む展開は切ない。
前回もそうであったが、今回は鮫島と晶の関係がはっきりと大人の関係に変わっており初期の作品と比べて雲泥の差。
そして鮫島の孤独が際立つ。
全てが解決しても、次の事件への萌芽も含んでいるようなので次作も期待大。
Posted by ブクログ
500ページを越えるのにその重さを一切感じさせない表現力は秀逸。
22年間も獄中にいながら桃井刑事を殺すことだけ考えていた樫原。樫原に借りを返そうとする吉田。樫原を想い待ち続けた笠置。自分を信念を貫き捜査にあたる鮫島刑事。鮫嶋の身を案じる桃井。
それぞれ立場の違う人間の思いが交差し、信念を貫き通す描写は流石。
面白い作品は時間を忘れてつい没頭してしまう。最新作の暗約領域も速く読まなければ!と読む人を魅了する作品。
Posted by ブクログ
鮫島と晶に会えないかと思うと淋しい。次回作が、いつか……いつか……あるなら、再会した二人がまた、くっついてくれる事を願います。新宿鮫シリーズを読むと、これ以上のハードボイルドには、なかなか出会えません。鮫島、カッコ良すぎます!
Posted by ブクログ
二十年以上の服役を終え、新宿に帰還した大男が果たすべき因縁。鮫島を支えてきた絆さえ清算されてしまうシリーズ第10作。
第一作が1990年。それから二十年の長期間に及ぶシリーズだが、新宿という街のように全く熱情が衰えることがない。本作では、中国残留孤児二世らの闇の組織が絡む事件だけではなく、鮫島の支えである晶や桃井との訣別が物語の柱となり、集大成的意味合いを持つ作品になっている。明確なシリーズ完結の情報はないが、新たな鮫島の姿に再び会えるのか心配だ。
Posted by ブクログ
香田さん、どうしてるかと思ったら警察に極近いところにいた。相変わらずだが。それにしても、ストーリーは今回も十分に裏切られることは無かった。おもしろい。だが、悲しいことがいくつかあった。桃井さんの死、これは今後の鮫嶋にどんな影響を与えるのか?そして、晶との別れ。これで終わりはないと勝手に思ってる。下里、うっとおしい奴だと思っていたが、結果的には鮫島を助けることになった。本人も助かって良かった。次の作品がいろいろと楽しみ。
Posted by ブクログ
このシリーズはこれで最後なんだろうか?
自分の生き方を変えることはできない。
それは鮫島だけではなく、鮫島の週の人間だって同じこと。
結果、鮫島は大切な人を二人までも失うことになってしまった。
他の道はなかったのかと読みながら何度も考えてみた。
この喪失の大きさに鮫島は耐えられるのだろうかと心配になった。
耐えられなければこのシリーズはこれで終わりだ。
耐えられるのなら、永昌が仙田のような存在になるのだろうか。
胸にぽかっと大きな穴が開いたようで、実は私自身が喪失の大きさに打ちのめされている。
今作は確かに絆の回で、永昌も樫原もとしみも、それぞれに魅力的であったけど、それを上回る衝撃でちょっと感想が書けません。
Posted by ブクログ
J様後追い第10弾
読み終わって、まだ涙がじわじわ止まらず。
ほんとにかけがえのない人を失ってしまった。
でもほんとはもっと味方?理解者がいてくれたようで嬉しくもなりました。
またまた後半は一気読み。
なんでしょう。このシリーズはほんとに犯人側のドラマを読ませるところがありますね。
冒頭も締めも鮫島関係ないし。
主役はどっち?だけど惹き込まれます。
このあとどうなるんだろうか?
一生、晶なしなんて無理だと思うけど、鮫島の言うとおり隠れて付き合うなんてもっと無理なんでしょうね。
ヒトシ(あえて)のその後も気になるけど、出てこないかなぁ。
てゆーか、10冊までしかないけど、このあとも続くんだよね?
自分で妄想するのも嫌いじゃないけど、いつも想像を越えてきてくれるので、切に次の話を希望します。
Posted by ブクログ
大好きな新宿鮫。
最新刊めちゃくちゃ分厚い(文庫)
読み終わるのに1か月ぐらいかかってしまった。
以前の新宿鮫と比較すると、Theハードボイルド!!みたいな感じが薄くなってるような??
そこまで無茶しなくなったような?
鮫島も歳をとったのだな…
中国や北朝鮮やヤクザや色んな思惑が入り乱れていておもしろかった。
Posted by ブクログ
久し振り読んだ新宿鮫。
新宿の様子もヤクザの活動も外国人犯罪者も今は当時とはかなり変わったと実感した。
金石との攻防は完全に決着していない印象なので、次作にも引き継がれるのだろうか。
それにしても桃井課長が残念でならない。
Posted by ブクログ
久しぶりに新宿鮫を読みました。以前読んだのが、何年前で何巻目だったのかも思い出せないのですが、これを読み始めたら、鮫島さん、晶ちゃん、藪さん、香田さん、ママホースのママ、桃井さんなど次々に以前も登場した方々が出てきて、新宿鮫の世界へのめりこんでいきました。今回、としみさんと言う方が出てきたのですが、とても健気で一途なので、私は鮫島さんより、としみさんを応援したくなりました。
Posted by ブクログ
新宿鮫はハードボイルド警察小説である。
ハードボイルドのなんたるかをよく知らない自分にも、それと分かる。
特に、気取ったようなセリフはない。
が、すべての登場人物が、絶対に譲れない矜持を持ち寄り、ぶつかり合うのである。
その、ときに善悪をも超えた行動が、ハードボイルドなのだ。
惹き込まれる。
今回の第十弾は、一つの節目。
主人公、鮫島の周囲もいろいろと変わってしまう。
十一弾もすでに発売されているらしい。
楽しみだ。
一作目から読んできて本当に良かったと思える。
Posted by ブクログ
新宿鮫シリーズ第10作。
22年ぶりに出所してきたケンカ無双の大男と謎多き犯罪組織「金石」を追う鮫島。そして鮫島が直面する二つの辛い別れ…重過ぎる。
さすがの安定感で一気に読み切ってしまった。
Posted by ブクログ
『絆回廊』~新宿鮫10~/大沢在昌
著者の中で、最も有名なシリーズなのではないでしょうか?
本書は、『新宿鮫』シリーズ10巻目。
著者の作品を初めて読んだのが、このシリーズでした。長編物だからいつまでも作品を楽しんでいられると、その世界観の中にどっぷり浸かって、抜けられなくなりました(笑)
本書では、物語を通じても、大きな分水嶺、ターニングポイントになるような展開が描かれています。
普段はハードカバーは購入しないのですが、この次の巻が出ていて、購入してしまいました。
本書では、中国残留孤児二世らで構成される犯罪集団の「金石」を鮫島が追いますが、そこにはいくつもの危険と、幾重にも張られた線が織り交じり、血と硝煙の波紋を引き起こします。
Posted by ブクログ
久しぶりに疾走感溢れる新宿鮫が帰ってきた。
大変面白かった。孤立する鮫島の今後が気になるが、
永昌がこれからのライバルになるのではという予感を
感じる。
10までの面白さをランキング
1.新宿鮫
2.毒猿
3.無間人形
4.絆回廊
5.風化水脈
6.狼花
7.屍蘭
8.氷舞
9.灰夜
10.炎蛹
Posted by ブクログ
シリーズ10作目にして「御破算で願いましては」的作品。ここまで丁寧に順を追って読んできてよかった。新宿でマルB追って、の原点にこだわりつつ、桃井と晶というシリーズの顔との絡みも深く描かれる。まさに絆。ブツ切りの最終盤がとても印象深く、新章が今後どう展開していくか楽しみ。
Posted by ブクログ
10作目にして、このクオリティには参ったと言うしかない。
これは私にとっては傑作。
気に入らない点をあら探ししようと思ったがうまくいかなかった。
やり残しがたっぷりあるから、まだまだ鮫は続いていくのだろう。
うれしいことだ。
宮部みゆきの杉村もしかり、大沢オフィスは主人公をいじめすぎです。
Posted by ブクログ
まず、桃井さん…この喪失感はどうしたら?という感じで読みながら泣きました。
このシリーズ、これで終わり?だとしたら、いろいろスッキリしないことが多くて…
悪い奴は全員逮捕してください!(大沢在昌さん、お願いします!)
それから、香田さん!前巻で退場かと思っていたので、正直嬉しかったのですが、二人は何故いつもそうなってしまうの?残念でなりません。やっぱり、続編希望です!
Posted by ブクログ
このミスベスト10、2012年版4位。本読むの最初のとっかかりで作品のルールを理解するまでがしんどいけど、しリーズものはそのあたりが楽に入れる。逆にまんねり化するおそれもあるけど、このシリーズは毎回、事件をめぐる人間や組織の関係がしっかり設計されており、新しいキャラもしっかり書き込まれていて良くできてる。特に本作はストーリーが秀逸で、単独の作品としても十分通用する、シリーズで1、2を争う傑作と思う。晶の扱いも最近は難しくなってきて、登場すると話が薄っぺらくなってしまうような感じがしてたけど本作ではうまく処理したなって感じ。ただし、本当にこの作品で初めてめてこのシリーズを読む人に晶と鮫島の決断の重さとかがどんだけ感じれるかわからんし、香田が何しに登場してるのかよくわからんのではと思ったりする。お勧め度という意味で評価をつけると、シリーズものはどうして勧めにくくって1点減点されてます。この間、佐々木謙の本読んだときは加賀谷の方がかっこいいかなと思ったけど、やっぱり鮫島もかっこよかったです。
Posted by ブクログ
同性愛の男性が。
ノン気、というのでしょうか、全く同性愛の趣味の無い男性に、惚れちゃうわけです。
惚れらてしまった男は、相手が同性愛者だと知っていて、でも自分は全くその気がないよ、という前提でしか、接しません。
まあでも、それでも良い訳です。
別に隙を見てキスしたいとか触りたいとか、そういう次元じゃないんです。
純愛。
だからまあ、「私は実は同性愛者です」と言わなければ、傍目には、「熱い友情」とでも見えるような。
#
2011年の、大沢在昌さん「新宿鮫Ⅹ 絆回廊」。
前作の「狼花」が2006年だったので、足掛け5年。
ちなみに、2016年現在、長編としては未だ新作が出ていませんので、かれこれ、もう5年。
ちなみに、「新宿鮫シリーズ」の、発表のペースは。
①新宿鮫 1990
②毒猿 1991
③屍蘭 1993
④無間人形 1993連載開始
⑤炎蛹 1995
⑥氷舞 1997
⑦風化水脈 2000連載開始
⑧灰夜 2001
⑨狼花 2005連載開始
⑩絆回廊 2010連載開始
となっています(多分。間違ってるかもですが)。
やっぱり、書く方も疲れるし、飽きるんでしょうね。
完成度落としたくなかったら、発表ペースを落とさないと、キツいでしょうねえ。
#
「出所した犯罪者が、逮捕に関わった刑事を恨んで、殺そうとする」
という犯罪が、今回の物語の軸です。
それ自体に国際性もありませんし、激しい銃撃戦もない。
ある意味、とっても人情味あふれる小さな事件。
(その上、美女も美男子も出てきません(笑)。初老の犯罪者、初老の刑事、中年の刑事... そして、初老のオカマさん...)
ただそれだけ、の小さな事件にミステリーを謎かけて、人物の魅力をチラ見せしながら見せ過ぎず。
小さな出来事が、人物と人物の間を「セリフ」が行きかう会話の味で十分に堪能できる、というおおらかな自信。
なんというか...「緊密過ぎない緊張感」 「計算されていないから積み重なる説得力」 みたいなものがあります。
そして、いったい何の話なのか?
というのは、後半に進むに従って、輪郭がハッキリしてきます。
#
過去に関係しちゃった人間との結びつきとか。
嫌でも止められない人間関係、家族とか。
そういうものに縛られて、行くよねえ。歳を取るにつけ。
まあ、痛かったり残酷だったりもするんだけど、
止められないんだよねえ。それが無いと。
それでまあ、次の世代へ、次の世代へ、因果は巡る...だ、なんて、若い頃には思ってもみなかったけどねえ...
と、まあそういう。
寒い街角で目を伏せてつくため息の、淋しさとアタタカサ、みたいな情景なんですね。
マア、その狙いが素晴らしいか、なんてことは実はどうでもよくて。
その狙いを、こんなに上手く(面白く)描かれると、脱帽ですねえ、と思いました。
#
これはもう。
エンターテイメント小説、ハードボイルド小説、大都会での犯罪物語、呼び名はともあれ、そのジャンルで長年小説を書き続けてきた作者ならではの。
大らかで真っ直ぐで、ざらざらした木彫り、鉈彫りみたいな肌触り。さすがですねえ。
「こういうような小説」は、星の数ほどあるでしょうが、
「こういう出来栄えの小説」は、滅多にあるものぢゃないです。本当に。
#
脇役の1人に過ぎない暴力団幹部がいて。
途中でチラチラ出てきて、ラストで主人公に自首するんです。
そこでその暴力団幹部が「ま、仕方ない」みたいなことを主人公と語り合うのですが。
こういう何気ない脇役の何気ない場面が、なんだかもう、男臭い映画の名場面のようにキラキラしてるんですよねえ。
#
ちなみに、前作で警察を辞めた「香田さん」が、公安関係の下請け機関で働いていて、重要な情報を主人公に持ち込む役回り。
もうこの「香田さん」をめぐる世界は、主人公とのバチバチ敵対感が、さながら「ブラック・ジャック vs ドクター・キリコ」のわくわく感です。
こういう、宿命的に「白すぎるツマラナサ」を背負っている正義の主人公に対して、「ブラック主人公」みたいなキャラクターをちゃんとぶつけてくる。
その人物がまた、たまに憎らしいけど、随分魅力溢れてたりする...。
大抵の面白いヒーローものには、「ドクター・キリコ」が必要なんですよね。
さすが、手塚治虫さん。
(...って、遡ると、手塚治虫さんも大好きで、漫画化までしている、「罪と罰」の中の、スメルジャコフさんに行きつくのか...
恐るべし、ドストエフスキーさん)
#####
以下、完全に個人的な備忘録。
#
新宿署の刑事・鮫島さんの死っている、プロの売人「露崎」。
この露崎さんというのが、そりゃ、売人で犯罪者なんですが、ある意味「プロ」。
軽い感じなんですけどわきまえていて、なかなか好ましい人物。
この露崎さんから、「初老の大男が、警官を殺すために拳銃を買いたい、と、新宿を歩き回っている」と情報が入ります。
今回の出鼻は、鮫島さんがこの謎を追います。
どうやら、長く刑務所に居た、元ヤクザなのではないか。
この謎を追ううちに、とある暴力団と、提携する中国人犯罪者集団の姿が。
そして幾つかの死体。露崎さんも。
結局、謎の大男は「樫原さん」と言って。
かつて、暴力団でもないのに、腕一本で幅を利かせ、子分も抱えていた「愚連隊」の親玉みたいな人でした。
この「樫原さん」は殺人で服役。
中国人の女性との間に息子が産まれていて。
なにかと大変だったので、鮫島さんの上司の「桃井さん」が、中国に帰国させてあげていた。
ところがその後、色々不幸な偶然で。
「樫原さん」は、「桃井さん」が自分の妻を乱暴して中国に送還したと勘違い。
激しい恨みを燃やして出所してきました。
そしてこの、「樫原さん」を慕ってサポートしているのが、
歌舞伎町でバーをやっている、同性愛の初老のオカマさん。
そして、その「樫原さん」の息子は、中国人として成人して、中国と日本とアジア各国を股にかける、犯罪者になっていました。
物語は当然のように。
主人公、樫原さん、その息子、オカマさん、桃井さん、全員が、川が海に流れ出るように、同じ場所に吸い寄せられていきます...。
そして。
逮捕のアクションのバタバタの中で、桃井さんが殉職。シリーズ第1作からの連続出演キャラクター。うーん。名残惜しい。
Posted by ブクログ
マンジュウがマンジュウに!
金石が悪役なんだろうけど、他の連中がみんな善人だし、その金石がめちゃめちゃ強いかと思ってるとやられちゃうし。
もう少しワルが強くないとと感じた。
Posted by ブクログ
相変わらずの新宿鮫の疾走。
不死身ですね。
しかし新宿鮫を守ってくれていた理解者の桃井課長が銃弾に倒れてしまったことがショックです。
これから続くシリーズに桃井さんが出てこないことが何よりも残念なのでした。
Posted by ブクログ
12月-8。3.5点。
続編が出たため、再読。
刑務所を出所した男が、鮫島の上司桃井への復讐を狙う。
前回読んだ際、新宿鮫も区切りかなと思ったが、続編が出た。期待。