あらすじ
「警官を殺す」と息巻く大男の消息を鮫島が追うと、ある犯罪集団の存在が浮かび上がる。中国残留孤児2世らで組織される「金石」は、日本人と中国人、2つの顔を使い分け、その正体を明かすことなく社会に紛れ込んでいた。謎に覆われた「金石」に迫る鮫島に危機が! 20年以上の服役から帰還した大男が、新宿に「因縁」を呼び寄せ、血と硝煙の波紋を引き起こす!
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Posted by ブクログ
読書感想|絆回廊 新宿鮫10
大沢在昌の人気シリーズである新宿鮫シリーズも本作で2桁の大台に乗る10作目となった。
とはいえ、作品のテイストとしては、二桁に乗ったことを祝うような作品ではなく、これまでの中でも最も辛い試練が鮫島に襲いかかることになる。
このシリーズは新宿鮫というメインタイトルの前に、その作品を表すサブタイトルが主要タイトルとしてつく。本作の場合は「絆回廊」にあたるのがそれで、まさに鮫島の対面することになる敵側と、鮫島の側の両方に絆が重要なキーワードになって物語を進めていく。
まず本作で鮫島が向かい合うことになるのは、中国人犯罪組織である金石という組織だ。最近数作のシリーズで暴力団対策法の影響に日本の暴力団というのはすでに勢いを失ってしまっており、代わりに外国人組織が新宿で跋扈している。本作における金石は、そのような外国人暴力組織という顔を持ちつつも、構成員が日系人残留孤児2世や3世ということで、日本人としての顔も持っている。彼らは日本と中国の間で、いわばアイデンティティがない存在として描かれており、これまでにない暴力性を特性としている。日本の警官である鮫島に対しても、躊躇はなく、作中においても2回にわたって襲撃を仕掛けてくる。
一方で、本作はその金石に対する日本人側の敵役として、樫原茂という人間を配置する。この樫原は、かつて新宿で対立する団体の構成員を殺したことにより、20年にわたって刑務所に入っていた人間である。その彼はその事件で生まれた因縁を清算するために、鮫島の上司である桃井を付け狙い新宿に舞い戻ってくる。
さらにその樫原を支える人間として、トシミという名の人物も物語に関わってくる。一人称で書かれているために読者はしばらく気がつくことはないのだが、オカマである彼は二十二年間という年月をひたすら、かつて一瞬だけ知り合った橿原を支えるために使い続ける。そしてその絆は本作の中で凄惨な事故を引き起こすことになってしまう。
一方鮫島の方も、これまでシリーズの中で彼を支え続けてくれた晶と桃井という二人の人間を同時に失うことになる。
晶とは彼女がボーカルを務めるバンドの薬物事件による影響、桃井は殉職という差があるものの、彼が人間であり警察官であるために重要だった二つの絆を同時に失ってしまうのだ。
物語の最終版、全てを失った鮫島はそれでも警察官であることを続けること誓い、樫原とトシミを逮捕することに成功する。しかし、既に宿願を達成した橿原にとっては、逮捕は受け入れられる最後の結末でしかなく、また彼を思い続けるトシミにとっても、逮捕は絆の確認でしかなかったことが語られて、物語は終わる。
この後もシリーズが続いていくことことが既にわかっている今では危惧はないのだが、当時はこの間でシリーズが完結すると思った人が多かったらしい。とはいえ、金石との因縁はまだ始まったばかりであり、次に繋がる伏線も本作ではしっくりと張られている。
大切なものを失ってしまった鮫島は、さらに純度の高い警察官として新宿を歩き続けることになるのだろうか。
Posted by ブクログ
このシリーズはこれで最後なんだろうか?
自分の生き方を変えることはできない。
それは鮫島だけではなく、鮫島の週の人間だって同じこと。
結果、鮫島は大切な人を二人までも失うことになってしまった。
他の道はなかったのかと読みながら何度も考えてみた。
この喪失の大きさに鮫島は耐えられるのだろうかと心配になった。
耐えられなければこのシリーズはこれで終わりだ。
耐えられるのなら、永昌が仙田のような存在になるのだろうか。
胸にぽかっと大きな穴が開いたようで、実は私自身が喪失の大きさに打ちのめされている。
今作は確かに絆の回で、永昌も樫原もとしみも、それぞれに魅力的であったけど、それを上回る衝撃でちょっと感想が書けません。