萩尾望都のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレケイトリンについて『春の夢』で語られていたのを、とあるブログに指摘されるまで忘れていた。ダメな読者だと痛感する。
連載中も衝撃を受けたセリフ、「生まれた娘たちは夫の子か息子の子かわかりません」
人間をやめたくなるのも無理はない。上流と下流の女性の格差がしっかり描かれている。
しっかりといえば、一族に迎え入れられるまでの過程がここまで丁寧に描かれたキャラクターはアーサーが初めてだろう。
『小鳥の巣』のマチアスがバンパネラ化していれば、不自由な足が治ったのでは、とよく囁かれ、自分も半ば信じていた。連載が再開される以前のある日、閃いた。『エディス』ではクエントン卿の頬の傷が治っていない。と -
Posted by ブクログ
「ポーの一族」復活四作目にして初めて、以前のように何も考えず心から楽しんで読めたように思う。「春の夢」は40年ぶりの感激でアップアップしてただけ、「ユニコーン」は、「エドガーが現在に!」「ポーの村の秘密が!」と二大衝撃で撃沈、「秘密の花園1」は、「あれ?アランの話じゃないの?」という戸惑いが邪魔をし、とまあ、余計なことを考えすぎていたのだった。
今回はさすがに落ち着いて、アーサー卿の物語をゆっくりと堪能した。あらためて言うのもナンだけど、ちょい役に至るまですべての人物に厚みと説得力があって、本当にすばらしい。ドラマティックだったりそうでなかったり、人生はそれぞれだけれど、登場人物の誰もがその -
Posted by ブクログ
ネタバレ2011年以来の再読だから十年ぶり。
初読の際はこう書いた。
(以下引用)
・義父からの性的暴力的虐待。
・無垢なるものは犯され続けるしかないのだよ。
・救いも癒しもなく延々続くセラピー的会話。
・彼らはセックスや肌でわかりあうなどというイージーな終着点には収まらない。
・とことん会話によって愛と支配について考える。
・周囲に変奏曲的な人物たちも配置される。
・果たして母は……という懊悩が一番のポイントに。
・サクリファイスという概念。
・「漂流」という発想の勝利。
・母との対峙のシーンの凄まじさ。
(引用以上)
今回、私的萩尾望都月間を行っているのは、この作品を再読する勢いをつけるためでも -
Posted by ブクログ
ネタバレ備忘録に書名が残っていなかったので未読? いや読んだ憶えがあるのにな、と訝しみながら読んだら、結果再読だった。
というか読んでいる最中に、視覚だからプルースト効果とは言わないんだろうが、前回ぐっときた要素が次々と波のように押し寄せてきた。
たぶん「ゴールデンライラック」の内容とその読み方が合致して、幸せな再読になった。
■ゴールデンライラック 150p
少年ビリーと少女ヴィーが青年から大人になるまで。
第一次世界大戦前後のイギリスを舞台にしているだけあって、つるべ撃ちのように話は展開し、時は流れ、いつの間にか取り返しがつかないと悲嘆にくれ、しかし生活は続き……皆川博子級の重厚と絶望と希望。
-
-
Posted by ブクログ
こんなに痛々しく、こんなに強靭な想いに満ち溢れた本には出合ったことないかもしれません。それもメディアに対して大泉時代の話は今後一切受け付けない、という意思表明のメッセージを発信するための、作者が現在必要としている機能を果たすべく生まれた本です。そういう意味では、一度きりの「大泉の話」であると同時に、「一度きりの大泉」の話でもあるのです。手塚治虫がマンガに持ち込んだドラマツルギーを萩尾望都や竹宮恵子の団塊の世代の女性作家たちが少女マンガに持ち込んだ…的なフレームワーク的な分析がいかに平面的で定型的か、ということを思い知らされました。創作はいつだってひとりひとり個人的な熱情の発露なのですね。もちろ
-
Posted by ブクログ
ネタバレ■11人いる! 121p
この作品は読み返さなくてもいいくらい一コマ一コマ憶えていた。
が、なぜこの本だけ見当たらないのか悔しくて再購入して読み返してみた。
思い出すに、おそらく初・萩尾望都作品。
たぶん同じ小学館の「ドラえもん」に入っていたチラシでこの文庫版の表紙イラストを見て、タイトルや絵柄に惹かれたんじゃなかったか。
おじさんになって読み返してみると、「エイリアン」「遊星からの物体X」「イベント・ホライゾン」など思い出すものもある。
そしてこれは続編で感想を強めるのだが……
■続11人いる!!東の地平・西の永遠 160p
かなりはっきり異文化交流の話なのだ。
発展と「未開」、信仰と文化 -
-
購入済み
一度きりの大泉の話
萩尾先生から見た大泉の話が語られています。
口語らしい文章だなと思ったらインタビューから文字を書き起こしたようです。
ご本人が仰るように萩尾先生は人間関係の苦しい部分(嫉妬など)について少し鈍感なんだと思いました。素直で器用ではないけれど天才肌で、周りからしたら脅威に思われたのかもしれません。萩尾先生が傷つく結果(互いに傷つけあう結果)になったのは心が痛いです。
萩尾先生も竹宮先生も偉大な漫画家ですが、どこか対極にいるような性質で、面白かったです。おそらく竹宮先生はこの本を読むのだろうと思うと、今後の動向が気になります。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ1974
何度も読んだはずだが今回ようやく気付いたのが、キリスト教でいうユダとイエスの関係が重ねられているのだということ。
今までは少年愛、ギムナジウム、という意匠に、あっけなく惑わされ、いわば気軽に耽溺していたのだ。
なぜトーマは死んだのか。
ユーリが暴力に屈して信仰を捨て(かけ)たからこそ。
→八角形眼鏡のサイフリートは終盤突然差し挟まれた人物では決してなく、創世記でいう蛇的存在だった。
トーマはいわば身を徹してユーリを「正しい道」に引き戻したのだ。
いってみればユーリおまえ全員から愛されているんだぞ、と、作品の外から言ってやりたい。何度でも。
プレ作品である「11月のギムナジウム」と比べ -
購入済み
生きることの肯定
夢中で読んじゃった!
感情の揺れ動く様を本当に繊細に描いています。
動揺しているときに手を掴まれ、肉体的な触れ合いによって気持ちが落ち着くところや、家族や仲間たちに対して怒ったり、また別な時には肯定的な感情を持ったりするところなど。
そういう揺れ動く心を持つ自分への許し、それから自分と同じように心を持つ他者への許しがこの作品のテーマだと感じました。
あとやっぱり、母。イグアナの娘しかり、母の心のしこりが子どもに影を落としているんですよね。母親も一人の人間なのに、母であることを強いられる悲哀。大人が子どもっぽくてもいいんです。役割をなぞるキャラクターではなく、かつて子どもだった一人の人間